※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

黄鬼異変 ストーリー(東風谷早苗ルート)



目次


ストーリー

 (出発点:守矢神社)
  • 東風谷早苗(祀られる風の少女)
 彼女は守矢神社の巫女(風祝)である。
 そして、巫女でありながら神と同じく祀られる「現人神」でもある。
 元々幻想郷の人間ではなく、外の現代世界から移住してきた元外来人である。
 彼女が妖怪退治の仕事を始めてから随分と月日が流れていた。
 そんなある日の事、彼女に妖怪退治の依頼が舞い込んでくる。
  • マタギの娘(山奥に在住)
 その少女の話では、最近自宅に首無しの幽霊がやって来るようになり、それが昼夜問わず、
 引っ切り無しに毎日続くので、父親がたまらず斧を片手に退治しに出て行ったっきり、戻らないのだそうだ。
 (こういう手掛かりの掴みにくい話は、勘の鋭い霊夢さんの得意分野だと思うのですが……
 私に助けを求めて来た以上、無碍にするのもアレですし、ここは信仰のためにも一肌脱ぐしか無いのでしょうね。)
 早苗は快諾した。
 自宅は人里から遠く離れた山奥にあるらしい。
 しかも、妖怪の山からもかなり離れており、そこまで辿り着くのに大分時間を掛けてしまった。
 何故なら、少女は飛べないからだ。
 (こうやって普通に歩き続けるのは何年ぶりでしょうか……
 というか、外の世界でもこんなに歩いた事はあまりないでしょうし、正直もうヘトヘトです……。)
 しかし、疲れたからといって少女の前で弱音を吐いたり空を飛んだりすれば、
 見苦しい格好になりかねず信仰を失いかねないので、我慢する。
 一方、少女のほうは一向に疲れを見せていない。
 (お父さんが山で暮らすマタギと言ってましたし、山育ちだから健脚なんですね……)
 早苗は現代っ子である自分がひ弱である事を再認識した。

 (中間地点1:マヨヒガ)
 山の麓にある一件の民家が目に入った瞬間、早苗の足は自然とそちらを向いていた。
 隣を歩いている少女が急にどこへ行くのかと問い掛けるも上の空。早苗の顔は……
 真夏のマラソン大会のゴール直前で意識朦朧となっている女子生徒のものだった。
  • 橙(凶兆の黒猫)
 「おーい……そこの巫女さん、生きてるー?」
 様子を見かねた橙が声を掛けてみるが……
 「はぁ……はぁ……ひぃ……ひぃ……ふぅ……へぇ……へぇ……へ?」
 現人神の威厳もへったくれも、最早そこには無かった。
 橙は、氷の入ったクーラーボックスから、透明のペットボトルを一本取り出し見せた。
 「……一本いっとく?」
 早苗はまるで老人のように背中を丸めつつ、よろよろと覚束無い足取りで、
 涙目になりながら、縋り付くような感じでゆっくりと橙に迫る。
 「か……かみさま……」
 (大丈夫かしら……あんたも神様でしょうに……)
 あまりにも喉が渇き過ぎると、水分を摂る力すらも残らなくなるそうだ。
 早苗は、無色透明のペットボトル飲料をチビチビと舐めるように味わう。
 (ああ……ガッ●……●分間で分かる……おぅ……波動●命水……ガッガッガッ●……ガッガッガッ●……)
 渇きが癒されるあまり、頭の中で不思議な歌を奏でていると、橙が何やら手を差し出して来た。
 「お代。1本2千円ね。外のお札でもいいよ。」
 「ゑっ!? そんなぼったく……ではないですね。ですがそんなお金ありませんよ。」
 「んじゃ、あんたんとこの神社にツケとくから。」
 「そんな、これって元々ウチの水じゃないですか……あんな【禁句】同然のをお金取るなんて……」
 「神徳は【禁句】じゃないでしょう? あんたんとこ、それで食べてるくせに。」
 「うう……」
 「これでもうちの儲けゼロなんだし、輸送代とか氷代とか諸々まけてるんだから、いいでしょ。」
 「わかりました……」
 早苗は自分の軟弱さと迂闊さを呪った。
 「ところで、そこにいるあなたも一本いっとく?」
 「……普通の御冷をお願いします。」

 早苗一行は一休みした後、水分補給用の井戸水を分けて貰い、再出発した。
 早苗は水代でぼられたためヤケを起こし、神社のツケでもう二三本、別の飲み物を買って行った。
 整備されていない山道を鬼門の方角に歩いて行くと、右手のほうに土砂溜が見える。
 そのすぐ近くに、石碑のようなものが建てられている。お墓のようにも見えるが。
 早苗が興味がある素振りを示すと、少女が説明する。
 「あれは、山崩れの事故現場跡です。あそこに住んでいた若い男の人が死んだって話です。」
 「そうですか……」
 早苗はその場を素通りするわけにもいかず、寄り道して、お墓に手を合わせ、飲み物を一本お供えした。

 (中間地点2:幻想郷北東部の山奥・マタギの家)
 ようやく、依頼人の自宅まで辿り着いた。
 ここは、首無し妖怪が出没した現場でもあるらしい。
 家の中には、子供が3人いた。いずれも女の子だ。少女と姉妹なのだろう。
 あまり顔は似ていないが。
 話によると、この家の近くにある大きな道の先から、首無し妖怪が歩いてくるそうだ。
 その道を一目見た早苗は、言葉を失った。
 「何……これ……。どうして……ここって幻想郷よね……? 何で『道路』が……」
 そこには、現代社会にあるものと全く同じ、アスファルトの道路が遠くまで続いていた。
 早苗の尋常ならぬ様子を見て取った少女は、不思議そうに尋ねる。
 「この道が、どうかしたんですか?
 ……ここは、しばらく前まで鉄籠のついた奇妙な車が夜な夜な行き来していたんです。
 何でも、食肉用の家畜を出荷してたとかで。
 うちのお父さんは気味悪がって、絶対に近づいてはいけないと言ってました。」
 「へぇ……そうなんですか……」
 早苗は、第六感のようなもので、この先に良からぬものの巣窟があると睨んでいた。
 (こんなに……不愉快な気分になったのは……ここに来て初めてです。
 何ですか……幻想郷にこんな汚らしいものを持ち込むなんて……許せませんね。)
 早苗の目は完全に怒っていた。それを見た少女は、それ以上声を掛けるのを躊躇う。
  • VS 洩矢諏訪子(土着神の頂点)
 「……そこまでだ。これ以上いけない。」
 早苗の目の前には、諏訪子が立ち塞がっていた。
 「諏訪子様。……もしかして、全てご存じなのですか?」
 早苗の質問に、諏訪子は答えない。
 二人が険悪なムードに包まれたその時、傍らにいた少女が音も無く後ずさり、逃げ出す。
 「……そこの、逃がさないよ。」
 諏訪子が手を合わせ、念じる。すると、少女の近くに巨大な岩石の掌が現れる。
 「させません!」
 早苗が少女に飛び掛かり、その場から突き飛ばすと、少女のいた場所が掌で挟まれた。
 「諏訪子様! 何ですか? これは。いくら何でも、許しませんよ!!」
 「早苗……今は、大人しく神社に帰るんだ。」
 「意味が分かりませんっ! 納得するまで帰るわけには行きませんし、あの子に手出しもさせません!
 こうなったら……本気で通して貰いますよ! 諏訪子様!!」
 早苗は、そばに置いてある袋の中から青と銀色に光る細長い缶を取り出し、開けて一気に飲み干した。
 「翼を授かりし現人神の力……神様であろうと舐めて掛からない事です!」
 (また、この子は無駄遣いをして……)
 「……けふっ」
 勝利条件:ドーピング早苗で諏訪子を撃破する。
+ 負けた場合
 勝った場合、ボロボロになった諏訪子を放置して、先を急ごうとするが、少女の姿が見当たらないので、
 怪訝に思い、一旦少女の自宅まで引き返す。
 すると、家の中は蛻の殻になっていた。少女だけではなく姉妹全員どこかに消えていた。
 早苗は訳も分からず呆然としていると、キナ臭い匂いと、何かが燃える音が聞こえてきた。
 窓の外を見ると、一面炎が広がっているのが見えた。
 「……どういう事? 何が起こってるの……」
 早苗は目の前の光景の意味が分からずに狼狽えていると、家の内壁に覆い被せるように岩石の掌が現れ、
 壁の一つを突き飛ばし、大穴を開ける。直後、早苗の傍らに諏訪子が現れ、逃げるよう促す。
 早苗は言われるがままに、無我夢中で逃げ出した。
 焼け落ちる家から逃げ出す早苗達を物陰から覗き見ていた少女と姉妹達は、早苗が無事逃げられたのを見て、
 歯痒そうに舌打ちする。
 「やっぱり守矢の神相手に私達だけじゃ足止めは無理か……」
 「でも、引っ掻き回すのには成功したし、これで黄鬼様のお役に立てた事に変わりないわ。」
 少女達は、黄鬼と呼ばれる何者かを崇めているようだった。おそらく、早苗の敵なのだろう。
 「次はどうする?」
 「どうするって……ただの人間の私達にできる事なんてもう無いわよ……。」
 「私達も黄鬼様みたく戦えれば、あいつらをあの場所におびき寄せる事もできるのに……」
 「今更言っても詮無いわよ。あわよくばあの女だけでもこちら側に引き込もうと思ったけど、
 後ろに神様が控えてるんじゃ無理だしね。」
 「様ですって? あんな人間の味方の振りした役立たずに様なんて要らないわよ。
 黄鬼様達があれだけ辛い目に遭われていた時に、何もしてくれなかった神なんかに。」
 「ごめん……つい……」
 どうやら、狂信者だった模様。

 (中間地点3:マヨヒガ)
 早苗は、さっきまでの出来事を思い返し、茫然自失状態となっていた。
 「どうして……」
 諏訪子は、そんな早苗に対し、ただ心配そうに見つめる事しかできないでいた。
 (早苗……心配だよ……早苗はこのおぞましい出来事を受け止めるには、まだまだ真っ直ぐ過ぎるんだ。
 だから、まだ真実を見せるわけにはいかない。この、不都合な真実をね。)
 その様子を見ていた橙は、徐にクーラーボックスから無色透明のペットボトルを取り出そうと……
 「要らないから。早苗も飲まないから。ドサクサ紛れに出さないでね? ……祟るよ?」
 橙が何か言う前に、諏訪子が笑顔で遮った。
 「……」
 橙はそそくさと奥へ引っ込む。
 そこに、スキマ妖怪が現れた。
  • 八雲紫(神隠しの主犯)
 「……いつまでそうしてるつもり?」
 諏訪子は不機嫌そうに睨み返す。
 「あんたか……元はと言えば……」
 「あら、私はこの幻想郷のためを思ってやったのよ。人妖全てのための最小限の犠牲ですわ。」
 「そこまで割り切れるほど、人間できてる奴はそんなにいないよ。だからこうなってる。」
 「それもそうね。……でも、残念ながら尻拭いはできそうにないわ。申し訳ないけど。」
 「うちの早苗には、汚すぎる仕事だ。他所を当たってくれないか。」
 「そうもいかないのよ。相手はあの子をも引き込もうとしてる。初心な女の子ほど、
 取り込まれ易いのかしらね。……だから、一刻も早く、成長して貰いたいのよ。
 血生臭いものを見ても平気でいられる大人の女にね。でないと困るわ。」
 諏訪子は、苛立ちを無くせなかった。
 スキマ妖怪の言う事は尤もだが、それに現実が追い付いていないからだ。
 そのための方法すら見当も付かない。
 (私は……どうすればいい? 早苗にあんなものを見せるわけには……)
 「相変わらず、親馬鹿な事ね。そんなに心配なら、見せたくないものは全部消しちゃえばいいのよ。
 外の世界でも、親御さんやら老人やらが、子供や青年のためを思ってやってるらしいわ。
 あなたの神徳を以てすれば、簡単な事でしょう?」
 「実は……そうもいかないんだ。」
 諏訪子の意外な返事に、スキマ妖怪は当惑したような顔になる。
 「あそこには、穢れと呼ぶにはあまりにも不可解な何かが集まっている。
 祟り神を支配するこの私でさえ、触れるのを躊躇うほどの、名状し難き何かが溜まっているんだ。
 迂闊に触るのは危険だ。消し去ろうなど以ての外だ。そんな事をすればどうなるか予想も付かない。」
 (そう……祟りの専門家であるあなたですら匙を投げるほどの……
 口に出すのも躊躇うほどの何かが、既に入り込んでしまったのね……)
 「……いいわ。なら、ヘドロ掃除は専門業者に頼むから。あなたは自分の子供を大人しくさせて、
 ぐっすりと寝かし付けて置きなさいな。悪い夢を見ないよう注意してね。」
 そう言うとスキマ妖怪は姿を消した。
 諏訪子が周りを見回すと、早苗の姿がいつの間にか消えていた。
 と思ったら、屋敷の奥から出て来た。本人曰く、気分転換にお花の水やりに行ってたとの事。
 スキマ妖怪との会話は小声だったが、全く聞かれていなかったようで、諏訪子は安堵する。
 (まったく……お水様様だね……)

 早苗達のいた山小屋に火を放ったと思われる少女達は、既に先回りして、霧の湖の畔にいた。
  • 黄鬼羅羅(真紅のイニシエーター)
 「ああっ! さなと・くまら様よ! くまら様がお見えになられたわ!」
 くまらと呼ばれた真紅の少女のお出ましに、4人の少女達が歓声を上げる。
 「きゃは! みんな元気ぃ~? 今日は~みんなの頑張りに対するご褒美としてぇ~、
 アセンションさせてあげろって、星の魔人ツィツィミトル様が仰せになられてるわ。やったね☆」
 「うそ……」
 「私たちが、くまら様のイニシエーションを受けられるなんて……夢みたい……」
 「ああ……黄鬼様……くまら様……ありがたき幸せに存じ上げます……」
 少女達の夢心地にも似た浮かれっぷりを見た紅の少女は、余韻に浸らせる間もなく、儀式の開始を告げた。

  • VS 狂信者の少女達4人(黄鬼羅羅の部下)
 マヨヒガに突如怪しげな少女達4人が現れた。
 「あなた達は……!」
 少女達の様子がどこかおかしい。それに、空を飛べないと言っていたはずなのに、空中に浮かんでいる。
 「こいつら……穢れてるよ……早苗、気を付けて。」
 「空を飛べるんですね……よくも騙してくれましたね! おかげで私はどれだけ大変な目に……」
 激昂する早苗に対し、マタギの娘を名乗っていた少女が鼻で笑う。
 「うふふ……そんなのひ弱なあんたが悪いんじゃないの……間抜けな青モヤシちゃん。」
 「言ってくれますね。」
 早苗の目が据わっている。先程までとは雰囲気が変わっていた。
 「ひっ……と、とにかく、あんたをここで足腰立たなくしてやるのが、主の御意思なのよ。覚悟なさい!」
 「あなた達程度に、霊薬の力は必要ありません。片手で蹴散らしてあげますから、掛かって来なさい。」
 勝利条件:少女達4人に、50%の力で勝利する。
 イベントバトル。無敵状態なので負ける事は無い。一定時間経過すると自動で技を発動し勝利。
 ボロボロになった少女達は、薄気味悪い笑い声を上げながら禍々しいオーラを発し、異形の姿へ変化し始めた。
 背中から黒い翼が生え、額に燃える炎のような目が現れる。
 「これは……一体何が起きてるんでしょうか。人間では無かったのですか?」
 「早苗……こいつら、マジでやばい。舐めて掛かるとやられるよ。」
 諏訪子も警戒している様子。そんな会話が聞こえてるのかいないのか、少女達は力自慢し始める。
 「私たちは……くまら様の御導きで、霊的次元を上昇させた高次元人よ……これであなたもおしまいね。」
 「きゃははははは! 最高に『ハイ!』ってヤツだわぁ~!!」
 勝利条件:異形の少女達4人に、本気の力で勝利する。
+ 負けた場合
 勝った場合、少女達は力尽き、異形の姿から元の人間の姿へ戻り、意識を失う。
 倒れた少女達の耳の穴から、赤黒い液体のような何かが流れ出て行ったのを、諏訪子は見逃さなかった。
 (あれが……穢れの正体か……いや……もっと、何か……)
 どうにかしようと考えているうちに、あっという間にどこかへ消えてしまったため、諏訪子は苦い顔をする。
 「どうかしましたか? 諏訪子様。」
 「いや……何でもない。」
 諏訪子は気を失っている少女達を一旦守矢神社に連れて行って匿うため、地面から巨大な両手を出現させ、
 それで少女達を包み込んだ後、地面の中に潜り込ませる。おそらく神社まで移動させたのだろう。
 「ところで、諏訪子様。」
 「……」
 「教えてはくれないのですね。」
 「すまない。いずれ話さなければならないのは分かってるんだ。今は……聞かないで欲しい。」
 「……分かりました。私と諏訪子様の仲ですものね。信じましょう。」
 早苗の顔が笑顔に変わった。先程までの刺々しさも消え、いつもの柔らかい雰囲気に戻る。
 その頃、妖怪の山では、謎の襲撃者により、とんでもない異常事態が起きていた。
  • 黄鬼一発(無慈悲な人間砲台)
 白と銀の縦縞模様の雨合羽に身を包み、銀髪と銀に光る瞳を持つ不気味な黒い目と、
 真っ白な顔を覗かせた大女が、まるでロボットのように無表情で、顔色一つ変えずに、
 次々と天狗達を血祭りに上げていく。
 その様子を、遠巻きに伺う報道担当の烏天狗が一人。
  • 射命丸文(伝統の幻想ブン屋)
 「なるほど……これは河童の光学迷彩が使われてるに違いないわ。後で裏を取るとしましょう。」
 仲間の天狗が次々とやられてるにも関わらず、この烏天狗はどこ吹く風と言った感じで、
 緊迫感がまるで感じられない。一人呑気に取材対象を論評している。
 「攻撃パターンは……自機狙いのレーザー中心……思ったほど大した事ないわね。
 私なら全てグレイズさせながらでも簡単に避けれるわ。それに、接近戦を仕掛けられた途端、
 迷彩で身を隠して刃物か何かに頼るのは、体術と打たれ強さに自信の無い現れね。
 そもそも風を感じる事のできる私にとって、視覚での誤魔化しなど児戯にも等しい。まさに笑止千万。
 もしあれで本気なら、一発かませば終わりだし、赤子の手をひねる程度の力で軽く倒せるでしょうね。」
 そして、とてもつまらなそうだった。
 「こんな程度のネタじゃ、あまり面白い記事にはなりそうにないけど……
 見た目のインパクトだけは及第点だから、ここは大きく盛っておきましょうか。
 誰かが『白虎』などと大袈裟に表現してたけど、キャッチフレーズはそれでいいわよね。」
 その頃、自宅で写真と睨めっこしながら記事を考えている烏天狗の新聞記者が一人。
  • 姫海棠はたて(今どきの念写記者)
 「う~ん……こいつはマジでやばそうね。天狗が誰一人敵わないなんて……今世紀最大のスクープかも。
 でも、詳しい事情を知るために近づくのは危なそうだし、どうしようかなぁ……」
 彼女の持つ携帯には、黄鬼一発の姿が写っていた。天狗仲間から写メでも送られてきたのだろうか。

 早苗達がマヨヒガを出発する直前、橙が慌てて追い掛けて来た。何かとても尋常ではない様子。
 先ほど早苗を襲撃した敵の仲間が妖怪の山を襲い、河童が狙われているらしい。
 白狼天狗や烏天狗の戦闘部隊は全滅らしく、敵の力は計り知れないとの事。
 現在、妖怪の山に戒厳令および緘口令が敷かれ、外部の者が立ち入りできない状態である。
 諏訪子が自宅に置いてきた自身の分霊を使い確認した所、守矢神社は大天狗直々に監視され、
 身動きが取れなくなっているらしい。
 「神社のほうは私が何とかするから、早苗は河童の所に直行しな。」
 「はい! 諏訪子様。」
 ここから早苗は諏訪子と別行動となり、河童のラボへ急いで向かう。
 早苗が霧の湖の畔を通り過ぎ、妖怪の山へ差し掛かった所で、茂みの中から様子を伺う者が一人。
  • 黄鬼淋(幼きネクロマンサー)
 キョンシーのような恰好をした幼い少女は、早苗が通り過ぎるのを待った後、地面に手を当てながら、
 何かを探っている様子。しかし、浮かない顔をしている。
 「やっぱり、駄目じゃな。ここから先は、山の神の力が強すぎて、大地の精に一切干渉できん。」
 黄鬼淋は来た道を一旦引き返し、茂みの中に隠れている仲間を呼び出した。
 そいつは、ボロボロの服を着て、全身傷だらけになっている、虚ろな顔をした少女の妖怪だった。
 「……どうだった?」
 「うむ。ダメじゃった。山の神の力はこれっぽっちも衰えておらんようじゃ。」
 「そうか……。リーダーに伝えておく。次の指示があるまでそこで待機だ。」
 そう告げると、妖怪少女は言うべき事が全て終わったとばかりに、そそくさと立ち去ろうとする。
 が、黄鬼淋が呼び止める。
 「ちょっといいかの?」
 「……何だ? まだ何かあるのか?」
 妖怪少女は苛立っている様子。虚ろな目のまま、青筋を立てて、怒った顔をする。
 「さっき、守矢の巫女が近くを通り過ぎて行ったんじゃが、足止めする戦力が無かったから、
 素通りさせたんじゃ。」
 「!! ……何でそれをもっと早く言わないんだ!? くそっ! ……今から追い付けるか?」
 「『その妖怪』の足なら、多分ギリギリで追い付けるじゃろ。儂も付いて行くか?」
 「いいよもう! あんたが来てもゾンビ召喚できないんじゃ、意味無いだろう。まったく!」
 「そんなに怒らんでもいいじゃろ……ゾンビ以外でも助ける方法はあるというのに……」
 「そんなの当てにしてられるか! 『俺の手駒』だけで十分だ。もう1体向かわせるしな。」
 「そうか……すまぬ……」
 落胆する黄鬼淋を尻目に、妖怪少女は素早い身のこなしで妖怪の山へ向かって走って行く。
 2人の会話から察するに、妖怪少女にはあと『2人』の連れがいるようだが……
  • VS ???(名も無き妖怪少女)
 妖怪の山を高速で飛んで行く早苗の遥か後方に、韋駄天のような早足で駆けて行く妖怪少女の姿があった。
 急な山道を物凄い勢いで駆け登り続けているというのに、息一つ切らさず顔色一つ変えずにいられるのは、
 妖怪ゆえか。それとも……
 早苗のほうも気付いた様子。立ち止まって、後方を確認する。
 「何ですか? あなたは。何か用事でも?」
 どう見ても参拝客と言った雰囲気ではないので、愛想を振り撒く余裕も無く、対応も粗くなる。
 妖怪少女も立ち止まり、虚ろな目のまま、ニヤケた顔をしながら、肩を竦め、おどけてみせる。
 「何ですか? ……って、あんた……無愛想だなぁ。参拝客だったら逃げてくよ?」
 「それはすみませんね。参拝客ではないのでしたら、何だと言うのでしょう。
 まさか、ストーカーさん? ……私にそのような奇特な趣味はございません。お断りします。」
 早苗は汚いものでも見下すかのような、冷めた視線を投げ掛ける。
 「へぇ~……俺は興味あるけどな。ストーカーじゃないほうのね。うへへへ……」
 妖怪少女のわざとらしい下卑た笑いと下品なジョークに対し、早苗の表情はより冷たくなる。
 「……汚らわしい。ここでは常識に囚われてはいけないという事を学びましたが、
 そこまで常識を弁えないのは如何なものかと思います。男子小学生ですか。恥を知りなさい!」
 勝利条件:非常識で恥知らずな妖怪少女を撃破する。
+ 負けた場合
 勝った場合、ボロボロになった妖怪少女の顔から徐々に表情が抜けて行き、
 まるで人形のような無表情になった後、力なく崩れ落ちる。
 早苗は相手が動かなくなったのを確認した後、生きているかどうかを確認するために近づいた。
 すると、妖怪少女は虚ろな顔のまま、苦しそうに体を痙攣させ、弱弱しく、小刻みに息をしていた。
 一瞬、彼女が泣いているように見えたので、先程までの嫌悪感はどこへやら、
 早苗は彼女に手翳しによる応急処置を施し、手持ちの飲み物を飲ませた後、背中におんぶして、
 一緒に連れて行く事にした。神社まで送って行ってもいいが、今はその時間すら惜しいからだ。
 無表情になってからの彼女は、自発的に話す事や動く事を全くしなくなったが、
 どういうわけか、すんなり言う事を聞くようになった。

 (中間地点4:妖怪の山・河童のラボ)
 河童の研究所はまだ襲撃を受けていないようだった。
 早苗はおぶってきた妖怪少女をベッドに寝かせてもらった後、河城にとりから話を聞く事にした。
  • 河城にとり(超妖怪弾頭)
 彼女は以前、ある妖怪からの依頼で、頭だけメカのサイボーグを製作した事があるらしい。
 今回、妖怪の山を襲ったのは、そいつで間違いないと言う。
 名前は「黄鬼一発」。首から下は「首無し人間」の体を持つ、殺戮兵器少女である。
 (首無し人間? ここでも出てきましたね。山小屋での一件は仕組まれた作り話でしたが……
 何か関係があるのでしょうか。)
 ここで、いつの間にか同行していた烏天狗の新聞記者の少女が続けて質問する。
 「ところで、その依頼者に心当たりはあるんですか?」
 「ああ……本来なら秘密厳守なんだけど、この期に及んで隠してる場合じゃないよね。
 もしかしたら異変の関係者かも知れないし……」
 依頼者の名前は「黄鬼喫姫」。抜け首の妖怪らしく、「首無し少女」を数十人従えているらしい。
 ちなみに、依頼の報酬は、口止めも兼ねて、キュウリ2年分タダで食べられる専属契約らしい。
 「キュウリ2年分ですか……太っ腹に見えますが、約束を破ったらいつでも踏み倒せる形にしたのは、
 抜け目ありませんね。よっぽど隠しておきたかったのでしょう。……知能犯ですね。」
 にとりが「ああっ! しまった!」という顔をしている横で、早苗は一人考える。
 (どうやら、首無し人間は実在するようですね。それも一集団を形成できるくらいの規模で。
 ……山小屋での少女達も、その抜け首の手下なのでしょうか。あの子達は首無しではありませんけど。
 それに……もしかして……)
 早苗はベッドに横たわる妖怪少女を一瞥する。
 ……ここで、早苗と妖怪少女の目があった。早苗は一瞬、寒気を感じ、身を竦める。
 「……秘密を漏らした以上、このまま無事で済むと思うなよ。」
 妖怪少女は横たわったまま、顔だけこちらに向け、恐ろしい言葉を発する。
 「もうすぐ、あいつがここに来る。そこの河童の身柄は我々が貰う。……お前もだ。巫女。」
 いつの間にか烏天狗は姿を消していた。狙われる前に逃げたのだろう。
 (やっぱり……! この子も一味でしたか。ただのストーカーさんじゃ無かったんですね。)
 「あなた……いえ、あなた達の目的は何ですか? どうして、こんな真似を……」
 「……恨みを……晴らすためだ……。」
 「恨み? 一体何の恨みが……」
 「妖怪への恨みだ。我々人間に対する妖怪どもの傲慢な仕打ちへのな。」
 どうも様子が変だ。早苗は妖怪少女の言動に奇妙な違和感を覚えていた。
 「よく分からないと言った顔だな。……そうだな。今、お前の目の前にいる『俺』は、
 ただの操り人形に過ぎない。俺本人は別の場所にいる。そして、俺達は全て『人間』だ。」
 早苗は、相手の言ってる内容の半分も理解できていないと言った顔だが、少なくとも、
 目の前にいる妖怪少女が敵のスパイであり、盗聴器および監視カメラである事だけは理解した。
 「何で……」
 「?」
 「過去に何があったのか、私には分かりません。ですが、過去の恨みを水に流す事で、
 仲良くする事もできたはず。恨みに恨みで返すような真似をすれば、延々と憎しみ合うだけです。
 誰も報われない。なのに、どうして……どうしてこんなことをするのですか?」
 「…………」
 早苗の言葉に、妖怪少女は黙り込む。
 「? 何か言ったらどうなんですか?」
 「……いいぜ。うちのリーダーが、あんたと話したいそうだ。命を取るのだけは後回しにしてやる。
 俺はあんたの事が、今すぐ消し去りたいほど気に入らねぇけどなっ!!」
 そう叫ぶ妖怪少女の虚ろな目の奥には、氷のように冷たい憎しみの炎がちらついて見えた。
 ちょうどそこに、何者かの影が……
 「! 誰ですか? こんな時に。」
 「いやぁ~どうも。こんにちは。失礼いたします。『花果子念報』の姫海棠はたてと申す者です。
 ……って、そんなピリピリして、どうされたんです? 皆さん。」
 どうやら別の烏天狗の新聞記者らしい。タイミングが悪かったのか、微妙な空気となる。
 先ほどまで早苗を睨みつけていた妖怪少女は虚ろな顔に戻り、仰向けになってボーっとしている。
 (河童さんは、どこかへ避難させたほうがいいのかしら……でも逃げてる途中に襲われたら……)
 早苗が黄鬼一発の襲撃に備え、一人で考え事をしている横で、はたては研究所内にある機器を
 写真に収めたり、にとりに質問を連発したりしている。
 ……そこに、襲撃者が現れた。
  • VS 黄鬼一発(無慈悲な人間砲台)
 「あなたが、河城にとり……ですね? 我々があなたの身柄を回収しに来ました。
 無駄な抵抗を止めて、大人しく、わたくしの指示に従ってください。
 さもなくば、抵抗する力を無くす程度に、身体的損傷を与える結果になります。」
 まるで銀行のATMか、電話の時報のように、機械的な声で話し掛けてくる、無表情な殺戮少女がいた。
 早苗は彼女を一目見るなり、「そこに誰もいなかった」という顔となり、会話を無意味と判断し、
 すぐに臨戦態勢に入った。
 勝利条件:河城にとりを守りながら、黄鬼一発を退ける。狭い場所なので、お互い本気を出せない。
+ 負けた場合
 勝った場合、黄鬼一発は、にとりの身柄確保が困難であると判断し、一旦退却しようとするが……
 いつの間にかベッドから起き上がっていた妖怪少女が、はたてを後ろから締め上げていた。
 「……こいつの命が惜しければ、大人しくそこの河童を渡すんだな。」
 「ちっくしょう……何なのこいつ……天狗の私がこんなにいともあっさり……」
 はたては携帯カメラで自分撮りしようとするが、腕を極められた拍子に手から携帯を落としてしまう。
 「こいつを舐めないほうがいいぜ……俺が鍛えてやったからな。膂力だけなら柔道家レベルだ。」
 その様子を見て取った黄鬼一発は、撤退を止め、にとりのほうに迫って行く。
 早苗もはたてを人質に取られている以上、下手に動けない。万事休すか。その時……
 妖怪少女の頭の周囲が横長の長方形のファインダーのような光を受け、爆音と共に弾き飛ばされる。
 「!!!???」
 妖怪少女は白目を剥いて気絶した。もう動く様子は無い。
 「いやぁ~……帰らずにここで待ってた甲斐がありました。いい絵もバッチリ取れましたし。」
 物陰から、最初に来て、途中から姿を消していた烏天狗の少女・射命丸文が出て来た。
 その様子を見ていた黄鬼一発は、無表情のまま一瞬固まった後、気を取り直すかのように、
 慌てて光学迷彩を発動し、その場からいなくなる。
 (あや? 何でしょうか……今の奇妙な一瞬の間は。)
 文はそのおかしな挙動を見逃さなかった。
 「……ちょっと~! 文~!! 助けてくれるのはありがたいけど、私の頭まで巻き添えじゃないの!
 どうしてくれるのよ~! これセットに時間掛かるのに……」
 はたては爆発の衝撃でボサボサに乱れたツインテールの片方を気にしている。
 「そんなのを一々気にしてたら、取材のための時間が勿体無いわよ。
 もっとお手入れしやすいシンプルな髪形にしたら?」
 「冗談言わないでよっ! これは私のポリシーなの!
 あ~あ……これじゃサイドテールになっちゃう……私のイメージが……カッコ悪ぅ……」
 「なら、バランス良くポニテにすればいいじゃない。結構似合うと思うわよ。」
 そんな烏天狗少女2人のやり取りを他所に、早苗は動かなくなった妖怪少女の様子を確認する。
 (気を失ってる……この子の向こう側にいる人も同じなのかしら。それとも……)
 早苗は白目を剥いたままの妖怪少女の瞼に掌を乗せ、そっと優しく目を閉じてあげる。
 すると、妖怪少女はそれまで溜まりに溜まった疲れを癒すかのように、安らかな寝息を立て始めた。
 「かわいそうに……こんなになるまで……ひどい……」
 早苗のその顔は、まるで聖母のようだった。その様子を写真に収めようと、カメラを構える
 烏天狗の少女2人だが、何となく、写真に収めるものではないと感じ、撮影を思い留まった。
 早苗が徐に立ち上がり、研究室から出ようとするのを見た文は、慌てて呼び止める。
 「あやや……ちょっとお待ちを。どこへ行かれるのですか?」
 「どこって……あのロボットさんを退治しに行くに決まってるじゃないですか。
 放っておいたらまた何をされるか分かったものじゃありませんし。」
 「……本気で勝てるとお思いで?」
 「……何かおかしいのですか? 先ほどの戦闘を見ていらしたのであれば、分かる事でしょう。」
 「あやややっ……これはチャンチャラおかしい。あなた一人でとても敵う相手ではありませんよ。
 さっきのだけではなく、その前の天狗部隊との戦闘も見ていた私が言うのですから間違いありません。」
 「そうですか……ですが、私は奇跡を起こす風祝です。何とかしてみせます。」
 「奇跡……ですか。それに期待するのもいいでしょう。ロマンがありますし、記事のネタにもなる。
 ですが……記事のネタのために、あなたのような方をみすみす死の危険に晒すのは、心が痛みます。」
 「では、私にこのまま指をくわえて黙って見ていろと?」
 「いえ、確実に最高の記事のネタにするため、協力して貰います。まあ聞いてください。」
 文には何か秘策がある模様。
 「黄鬼一発にはいくつかロボット特有の弱点があります。それを今から説明しますよ。」
 そこに河童が口を挟む。
 「ちょっと! あれは私が作った最高傑作だよ。弱点なんかあるわけないさ。いい加減な事言わないで!」
 「あやや……生みの親の贔屓目が入ってしまうのは仕方がありませんが、傍目八目と言いますし、
 観察者の視点でハッキリ言わせて貰います。批判や反論は全部聞いてからにして欲しいです。」
 「ぐっ……分かったよ。じゃあ続けてよ。聞くだけ聞いてあげるから。」
 文は河童にぐうの音も出させず、再び話し始める。
 「黄鬼一発には、予め学習したと思われる戦闘パターンがいくつかあります。
 一つは、アウトレンジからの遠距離攻撃と、アウトレンジへの対空迎撃です。
 これは、両目から発射されるレーザー光線によってのみ行われ、それ以外の攻撃はありません。
 目標の位置をレーダーか目視で正確に把握し、目線を合わせる事で正確に射抜きます。
 大半の烏天狗はこれにやられました。スピードへの反応速度、狙いの正確さは完璧です。」
 「ふんふん……そうだろうね。(ドヤ顔)」
 「二つ目は、ミドルレンジでの攻撃です。
 これは、レーザー光線と口から吐かれるプラズマ炎の2種類の攻撃を併用したものです。
 プラズマ炎はそれ自体の殺傷力もさる事ながら、敵に対する目晦ましとしての役割と、
 間合いを制限する『制圧射撃』の役割があると思われます。
 これのおかげで並の白狼天狗は近づくことすらままなりませんでした。
 かといって、距離を取ろうとすると目からのレーザー光線により撃ち抜かれたり、盾などで守りを固めても、
 レーザーとプラスマを合体させた強力な極大レーザーで一掃されてしまう結果となるため、
 このレンジでの戦闘で勝つ事はほぼ絶望的と言っていいでしょう。」
 「それじゃあ、どうしろと……」
 「そして最後は、クローズレンジでの近接戦闘です。
 これは、本人に体術の心得が無いのか、防御や打たれ強さに自信が無いのか定かではありませんが、
 もっぱら光学迷彩で身を隠し、一方的に刃物で攻撃するパターンのみとなります。
 対抗するにはコウモリの超音波探知やヘビのピット器官など、通常の視覚以外で敵を補足する必要があるため、
 天狗の精鋭部隊ですら全く歯が立ちませんでした。
 おそらく、外の世界にある最新鋭の装備があれば打ち勝つ事はできるでしょうが……」
 「赤外線カメラや暗視スコープの事ですね。ですが、あれは夜間戦闘用に作られてるらしく、
 強烈な光を浴びると目が眩んで何も見えなくなったり、故障してしまうと聞いた事があります。
 なので、レーザーやプラズマを使われたら……」
 ※早苗が言う強烈な光に対する脆弱性は、旧式に関するものであり、現在開発されているものは、
 保護回路の働きにより一定以上の強度の光を遮断するため、そのような心配は無いらしい。
 「……で、全てのレンジにおいて打つ手なしってわけね……どうすんのよ?」
 「やっぱり私のメカに欠点なんて無かったんだ。……河童の科学力は世界一ィィィィ!!!」
 「あやや……そうですね。言い忘れてましたが、全てのレンジにおいて、弱点は山ほどあるんです。
 それを今から説明したい所ですが、全部やると日が暮れてしまいますので、
 今回の作戦に必要な部分だけ、かいつまんで説明します。」
 「早くしてよ。」
 はたては文の長々とした説明にもう飽きて来たのか、痺れを切らしたように急かす。
 「今回の作戦は、ミドルレンジでの戦闘となります。私が黄鬼一発の周囲を楕円軌道で飛び回り、
 視界を攪乱している最中に、早苗さんがスペルカードを発動し、周囲を弾幕で包囲します。
 そこをすかさず、私のカメラがシャッターチャンスを捉え、激写するというものです。」
 「ちょっと……ミドルレンジって、本気なの!? さっき勝つのは絶望的って言ってたじゃん!」
 「それは並の天狗や白狼天狗の話です。幻想郷最速の私にとって、レーザーやプラズマごとき、
 避けるのは容易い事なのです。それに……」
 「それに?」
 「相手の視界を攪乱するにはアウトレンジよりもミドルレンジを飛び回るほうが効果的なんですよ。
 目標物の目視は、目で追う必要がありますが、黄鬼一発の目の動き、つまり眼球運動および、
 首関節の運動には限界があります。眼球は河童製の最新メカが使われているようですが、
 無制限に速く動かせるわけではありませんし、首や首の筋肉は人間の女の子のものがそのまま使われているため、
 いくら鍛えていたとしても、瞬発力や敏捷性には限界があります。
 その限界を超えるには、眼球や首関節の角速度を超える回転運動を要求する動きが必要となり、
 遠距離よりも中距離ないし近距離のほうが角速度が大きくなりやすいのです。」
 「なるほど……でも、姿を隠されたらどうするのよ。」
 「その心配が無いよう、ギリギリ目で追えるか追えないかの速さで攪乱する必要があります。
 明らかに無理と判断されてしまっては、他の方法に切り替えられてしまうからです。
 そのために、クローズレンジの間合いにギリギリ入らないようにする必要もあります。」
 「そんなに上手く行くかしら……」
 「機械というのは融通が利かないものなんですよ。最新鋭の機械を使いこなせるあなたなら、
 分かるでしょう?」
 「それはそうだけど……」
 ここで、機械オタクの河童が抗議する。
 「いや、そうでもないよ。機械にだって無限の可能性がある。
 自分で考え学習する脳みたいな機械だって作る事は可能さ。」
 「脳……ですか。そうですね……脳にだって、限界はありますよ。」
 「……なんだって?」
 「脳に限界が無かったら、人間ですら神のように万能になれてしまうではないですか。
 いくら限界は超えられると信じていても、超えられない限界だってあるのですよ。」
 「また……あっさりと言ってくれるわね。そんな身も蓋も無い事。」
 「じゃあ、私の作ったメカの最新鋭の人工知能にも人間みたいに限界があるってのかい?」
 「はい。さっき私が確認しました。」
 「へえ、どうやって?」
 「誰しも、不測の事態が起きれば、呆気に取られたりして、一瞬動きが止まったりするものです。
 ですが、あれはロボットであり、何者かではありません。
 付喪神でも生まれない限り、物が何かに驚いたりするはずはない。
 先程、私が妖怪の頭を激写した直後の事でした。
 あれは、一瞬不自然に動きを止めた後、思い出したかのように、慌てて逃げ出したんです。
 ……おかしいと思いませんか? 一瞬止まるのに、一体どういう意味があるのか。
 逃げるなら、即座に逃げればいいのに。あの一瞬の間は、何のためにあったのか。」
 「つまり……ああ……なるほどねぇ~。」
 はたてはいち早く合点がいった様子。天狗同士の付き合いのおかげか。
 「あれは、考えたんですよ。突然現れた私への対処法を。全身全霊をフルに使ってね。
 ……で、考え付かなかった。できなかったんですよ。それが、あれの限界だったんです。」
 「……よく分かりました。面白い作戦だと思います。あなたを信じてやらせてもらいますよ。」
 早苗も納得したようだ。そして、はたてもそれに続けて言いたい事があるようだ。
 「ちょっといい?」
 「何でしょう?」
 「その作戦、私も乗るわ。私にもシャッターチャンスちょうだい。」
 「あやや……本気ですか?」
 「何よ。私だって、伊達に烏天狗やってないわよ。速さにはそこそこ自信があるんだから。
 それに……」
 「?」
 ここで、はたては乱れかけたツインテールをまとめ、ポニーテールに変えた。
 「今回の私は速写モードよ。」

 早苗達が外に出る前に、にとりは用心のために、監視用カメラで念入りに外の様子を確認する。
 すると、出入り口の前に熱源反応があり、光学迷彩で姿を隠した黄鬼一発が待ち構えているのが分かったので、
 非常用の別の出口から行こうという話になる。しかし……
 「やっこさんのほうから大人しく待ち構えてくれるのなら、利用しない手は無いでしょう。
 この作戦は、もし相手が最初から姿を消していた場合、どうするかまでは決めておらず、
 掴みの部分が最初の難関でしたが、どうやら突破できそうです。」
 そして、出入り口のドアを自動から遠隔操作に切り替え、ドアを開いた瞬間、
 文が外に向けて突風を巻き起こしたため、黄鬼一発はプラズマを吐く暇すら与えられず、風に飛ばされる。
 「……あれはそこにいます! さあ、作戦開始ですよ!」
  • VS 黄鬼一発(無慈悲な人間砲台) 最終戦
 勝利条件:文とはたての動きに合わせ、黄鬼一発に向けて、秘術「グレイソーマタージ」を発動し、
 10回のシャッターチャンスのうち、2回以上撮影成功させる。2回成功した時点で勝利。
 ただし、相手は文とはたてだけでなく、早苗にも攻撃してくるので、被弾しないよう注意。
+ 負けた場合
 勝った場合、文とはたての2重激写を2回も喰らった黄鬼一発は満身創痍となり、体を捨て、
 頭部のみ緊急脱出し、空高く飛び上がったあと、切り札を発動する。
 ラストワード 頭部変形「サテライトキャノン」
 上空で静止衛星のようになった黄鬼一発の頭部から、無数のレーザーが地上へ向けて放たれ、
 さながら絨毯爆撃の様相を呈する。
 「あややや……まさか最後にこんな切り札が残ってたとは……」
 さすがの烏天狗もこれには打つ手なしか。
 「……ですが、最後っ屁にしては芸が無さすぎです。これでは記事のネタにはなりませんね。」
 「じゃあ、ゴミ箱行きってことね。」
 「ええ……合わせますよ。」
 「ラジャー!」
 文とはたての2重激写が炸裂し、サテライトキャノンは空の藻屑と化した。

 (中間地点X:どこか)
 そこは、一面白い霧に包まれており、視界が狭い場所にあった。
 禍々しい気配を放つ巨大な門の前に、一人の金髪の少女が立っており、彼女の周りには、
 首の無い少女達、首のある少女達、様々な人間が集まっており、皆一様に傅いている。
 「……黄鬼様、作戦の準備、整いました。いつでも出発可能です。」
 「そう……分かったわ。それじゃあ同志諸君! ……征くわよ。」
 「「「「きゃ~~~!! 黄鬼様~! 救世主様~!」」」」
 黄色い歓声を聞きながら、黄鬼と呼ばれた金髪少女は一人考える。
 (結局、あの早苗とかいう巫女とは会えなかったわね。
 できれば地底に行く前に一度会って話がしたかったけど……。
 しかし……この始末……どう付けたらいいものか……)
 黄鬼は、自分を救世主と崇める人間の少女達を一瞥し、心の中で溜息をつく。
 (ここまで信奉されてたら、身の安全のために解放するわけにもいかないし……
 可哀想だけど……最期はスキマ妖怪との戦いで散華してもらうしかないか……
 私は盲目的な信者なんかより腹を割って気兼ねなく話せる友達が欲しかったわ。)

 (中間地点5:守矢神社・本殿)
 諏訪子の目の前には、モノリス状の岩石がいくつも並んでそびえ立っている。
 その岩石の中心には穴が開いており、中から人間の少女のものと思われる顔が覗いていた。
 「ううっ……らへっ!! ほほはららへぇぇーー!!!
 (ううっ……出せっ!! ここから出せぇぇーー!!!)」
 「あらひらひあ……ほほえひうんあ……!(私たちは……ここで死ぬんだ……!)」
 「うあああああああーーーん!!!」
 「ひうっ……ひうっ……うえっ……おえんあはい……ひひはあ……
 (ひぐっ……ひぐっ……うえっ……ごめんなさい……黄鬼様……)」
 少女達は皆、口にさるぐつわのような何かを噛まされており、口の開け閉めすらできず、
 尋常じゃない様子で泣きわめいている。
 「狂信者ってのは……理屈でも、本能でも無いんだな……命よりも大事なものに全て持っていかれてる。
 正直、一番めんどくさいよ。」
 そこに、輪っか状の注連縄を背負った大仰な女性が、神仏そのものと言った感じの、
 眩いオーラを纏いながら現れる。
 「そいつらかい……キキとかいうのを信仰してる子らってのは。」
 「神奈ちゃん……ここはあんまり見られたくないんだ。ところで大天狗のほうはもういいの?」
 「用事は済んで、先方は既に帰った。」
 「そう……」
 神奈子は、モノリスに閉じ込められた少女達を一瞥した後、向かい合う。
 「お前達……キキとやらは、私より強いのか?」
 「!!!」
 「おあえあんはい……!! ひひはあのあお、おいふへいふうひはふあんああい!!
 (お前なんかに、黄鬼様の名を、呼び捨てにする資格なんか無い!!)」
 「はふへへおふえあはっはふへい……!(助けてもくれなかった癖に……!)」
 「ほう……」
 神奈子の威圧的なオーラが迸る。
 その圧倒的な力は少女達へではなく、少女達の心の背後にある精神的支柱へと向けられていた。
 あまりに真っ直ぐかつ清浄なる威圧感に、少女達はただ圧倒されそうになる。
 「うう……あんへほうおうひいお……(うう……何て神々しいの……)」
 「あ……あへあいんあはあ……!!(ま……負けないんだから……!!)」

 その時、山の裏側から、物凄い速さで入り込んでくる数人分の影があった。
 諏訪子は何かに気付いた様子。諏訪子が目配せすると、神奈子が頷く。
  • 黄鬼喫姫(抜け首)
 神奈子達の目の前に、数人の人形のような少女を連れた、燃えるような金髪と金眼の少女が現れる。
 だが、神奈子は身構えるでもなく、まるで客人を前にしたかのように、ゆったりと構える。
 「おや……神社の裏から本殿に直接来る参拝客なんて珍しいねえ。今日は何のお願いに来たんだい?」
 見下ろす神奈子の前に、頭を垂れ、敬虔な信者のように、金髪の少女と傍らの人形少女達は傅いた。
 「八坂様、洩矢様、お初にお目に掛かります。
 わたくしめは、妖怪の山の背にある黄人間飼育場裏の首塚の怨霊より生まれし、
 黄鬼喫姫(きき・きっき)という名の抜け首と呼ばれる妖怪でございます。以後、お見知り置きを。
 この度の、このようなお見苦しい形での御参詣、大変失礼かと存じ上げます。……ですが、
 当方のやむを得ぬ事情により内密を要しますが故に、どうかご容赦の程を、お願い申し上げます。」
 黄鬼と名乗る金髪の抜け首少女の畏まった挨拶に、彼女の前にいる少女達から、
 戸惑いにも似たどよめきが発せられる。
 (え……!?)
 (うそ……!?)
 (黄鬼様が……神なんかに敬語を……)
 (これは何かの作戦よ……そうに違いないわ……)
 そんな少女達の戸惑いを他所に、神奈子と黄鬼は、神と人との対話を続ける。
 「んで……用件は何だい? 堅苦しい言葉は抜きにして、単刀直入にお願いするよ。」
 「はい……この度、私率いる黄人間の集団が、幻想郷および、管理者の八雲氏に対し、
 戦を仕掛ける事と相成りました。しかしながら、八坂様ならびに洩矢様の統べられる妖怪の山において、
 地の利の関係上、我らにとって著しく分が悪く、制圧が思い通りに行かない状況が続いております。
 そこで、我らが戦いやすいように、取り計らっていただけると、大変ありがたいのです。
 何卒、よろしくお願いします。(意訳:お願いだから妖怪の山でゾンビ召喚させてね。)」
 黄鬼は一通り言い終えた後、顔を上げ、神奈子の目をじっと見つめる。
 神奈子のほうも、表情一つ変えず、黄鬼の目をじっと見据えた。諏訪子は浮かない顔をしている。
 「……いいよ。この件に関しては、実は私は中立なんだ。」
 神奈子の快諾に、黄鬼の周囲にいる人形少女達にどよめきが起きる。
 「……だが、断る。私は反対だね。絶対に認めない。」
 ここで、諏訪子が唐突に異を唱える。口を挟んだように見えるが、実はそうではない。
 「……というわけだ。残念だったね。」
 それに続く神奈子の掌返しのような返答に、黄鬼は戸惑いの表情を見せた。
 それを見て取った諏訪子は、さらに続ける。
 「私達の山で、穢れた土いじりは一切許さないよ。……できればあの建物ごとお引き取り願いたいくらいだしね。」
 諏訪子の強硬な物言いに、黄鬼は一瞬怒気を孕んだ目を諏訪子に向けるが、すぐに思い直し、怒気を潜める。
 (ここまでか……)
 黄鬼は傍らにいる人形少女に命じ、持参した包みを手渡して貰い、それをその場で開けた。
 すると、包みの中身は、黄金色に輝く金の延べ棒数本がピラミッド状に積まれたものだった。
 諏訪子は怪訝な表情で睨み付け、何か言おうとするが、神奈子からの制する視線を感じ言葉を飲み込む。
 そして黄鬼は、開いた包みを両手に持ち、神奈子の眼前まで歩み寄り、包みを差し出し頭を下げる。
 「本日は、わたくしめらの話を御清聴いただき、誠に感謝の極みでございます。
 ……これは、我々からのほんのささやかなお心付けでございます。
 何卒、御笑納くださいますよう、お願い申し上げます。」
 黄鬼の、一分の隙も無い神に対する恭順ぶりに、後ろから見ていた少女達の顔に失望と落胆と困惑が広がる。
 (そんな……黄鬼様が……神にひれ伏して、貢物まで差し出すなんて……)
 (うそよ……これは何かの間違いだわ……きっとそうよ……)
 その後、黄鬼は人形少女達を連れて、そのまま本殿を後にした。
 モノリスに閉じ込められた、彼女の信者であった少女達4人に一度も目を合わせる事すら無く。

 そして、本殿から出て神社の裏から山奥へ帰ろうとした矢先、そこに立ち塞がるように……早苗がいた。
 「逃がしませんよ。あなたが異変の首謀者ですね。」
 「あなたは……そう……そんな怖い目をする巫女は……東風谷早苗、貴女しかいないわね。
 ……あの子達が言ってたわ。」
 そう、黄鬼の言う通り、早苗の目は……怖かった。まるで家畜か何かを見るような目であった。
 「あの子達……ですか。助けなくていいんですか? あなたを信じてる仲間なんでしょう?」
 「仲間か……そうならよかったんだけどね……」
 「……違うのですか? 神である諏訪子様や神奈子様にすら反抗的な態度を取り続け、
 未だにあなたを信じ、助けを心待ちにしてるのでしょう?」
 早苗が率直に投げ掛けた、そんな疑問に対し、黄鬼は、一瞬キョトンとした顔になり、
 目を伏せて一考した後、目線を元に戻し、一拍置いてから、吐き捨てるように言った。
 「ばっかじゃねえの?」
 あまりにも明後日の方向にぶっ飛んだ予想外の返事に、早苗の動きが一瞬固まる。
 「あの子達は、私がまだ首だけの怨霊の集まりだった頃に、体を貸して貰っただけの関係よ。
 頭に取り憑いて体を乗っ取るのに都合よくするために、私の過去の恨みの記憶を追体験させたら、
 何だか同情されて、懐かれちゃったのよ……。ホント……鬱陶しくて嫌んなるわ~。」
 「え……? それだけ……ですか……」
 「そうよ。私の恨みは体験した私だけのもの。他の誰にも全てを理解できるわけではない。
 信者なんて、無理解の最たるものね。本当の理解とは、信じる事ではなく見定める事にあるのよ。
 第一、私を信じる時点で自分で何も考えられない頭無しの畜生人間に決定だわ。
 他人に心を委ねるほど愚かで自主性とかけ離れた事など無いと言うのに。」
 「……信じる事の、どこが愚かだと言うのですか?」
 「信仰を否定するつもりは無いわ。何を信じるかによるのよ。
 神を信じ、教義を信じ、法を信じ、戒律を信じ、正義を信じるのは、迷える仔羊にとって、
 真っ直ぐ前へ進むための道標となり、精神力の源となる、とても大切な事。それは分かってる。
 でも、ハーメルンの笛吹き男を信じて付いて行くのは、死に急ぐ鼠の群れか子供たちだけ。
 私はカルトの教祖などに祭り上げられるのは本望ではない。現人神になるつもりも無いし、
 ましてや御射軍神様を率いる王国の支配者みたいに成り上がるつもりも無い。
 ……ただの、妖怪の家畜として殺された人間の抜け首よ。それ以外の何物でもないわ。」
 (妖怪の家畜として殺された? どういう事なの……いえ、それよりも今は……)
 「そんな……じゃあ、あの子達は、一体何だと言うのです? あなたがそうさせたのでしょう……」
 「苦しければ止めたらいいのに。自分の事なのに、そんな判断も碌にできないのが悪いのよ。
 そんな頭の無い体は、頭の思い通りにしてあげるのが、一番有効な使い道なのよ。」
 「そんな言い方……それじゃあ、あんまりにも薄情過ぎるじゃないですか……」
 「情なんて、偏頗心(へんぱしん)の一種に過ぎないわ。ただの気まぐれな依怙贔屓(えこひいき)。
 可哀想だと思うのは、強者の暇つぶしなのよ。亡者蠢く地獄に蜘蛛の糸を垂らすようなもの。
 本当に救いを求める弱者を、救って欲しい時に救える情など……幻想よ。」
 そう言い切った黄鬼の目には、黄色く燃え上がる恨みの炎の奥に……虚無があった。
 (私は……この人とは……分かり合えないかも知れません。ですが……異変の首謀者である以上、
 ここを通すわけにはいかない。でも……戦う意味など、あるのでしょうか。)
  • VS 黄鬼喫姫(異変の首謀者)&人形少女達
 イベントバトル。早苗は完全に気力を喪失しており、全パラメータが5分の1程度に低下。
 周りの人形少女達は全て剣と盾を装備しており、弾は全て防がれ、ボムも一切通らない。
 ダメージが通るのは黄鬼本人のみ。(それでも、ほとんどノーダメージ。)
 一定時間経過後、ダメージを与えきれないまま逃げられてしまう。勝っても負けても次に進む。
 「!! ……待ちなさい! まだ勝負は終わってません!」
 早苗は黄鬼達の後を追うが、相手のスピードが速く、一向に追い付けそうにない。

 (中間地点6:妖怪の山の背)
  • VS 洩矢諏訪子(祟り神の支配者)
 早苗の目の前に、地中から突然、諏訪子が出て来た。
 「……」
 「……通してください。諏訪子様。」
 「早苗……これは敵の罠だ。これ以上いけない。」
 「関係ありません。私は知りたいのです。私の知らない所で何があったのかを。」
 「ダメだ。」
 「……この先にあるのですね。妖怪の家畜にされた……人間の飼育小屋が。」
 「!!!」
 「私も幻想郷暮らしが板に付いてきました。人間と妖怪との関係性を目の当たりにし、
 時には受け入れがたい非常識をも受け入れられる程度の器も必要であると学びました。
 ……そう……この楽園に持ち込まれた『不浄なるもの』の正体を見定める事もまた、私の役目です。
 今回の異変、解決するのは私です。諏訪子様であろうと、邪魔立ては許しません!!」
 早苗の目はいつになく据わっていた。だが、怒りは感じられず、真っ直ぐで清浄そのものだった。
 それは、自らを人生の主人公であると自覚した者の眼差しであった。
 勝利条件:自機『東風谷早苗』で、諏訪子を完全撃破する。
+ 負けた場合
 勝った場合、満身創痍の諏訪子を尻目に、早苗は急ぎ足で黄鬼達の向かった方へ飛んで行く。
 彼女は気付いてなかった。本気の諏訪子を撃破するほどの実力を発揮していた事に。
 そこに、神奈子が現れる。
 「大丈夫か? 諏訪子。」
 「いてて……ちっとも大丈夫じゃないよ。神奈ちゃんダメだよ……早苗に下駄履かせちゃ。」
 「……何の事だい? 私は何もしてないよ。」
 「またまたぁ……とぼけちゃってさ。まるで大昔、神奈ちゃんと戦り合った時みたいだったよ。」
 「おや……私はそんなにヤワだったのかい?」
 「気分の問題さ。」
 「へぇ~……早苗がねぇ……気付かないうちに、もうそんなにまでなったのかねぇ。」
 神奈子の顔には、子供の成長への喜びと、親から巣立っていく事への哀愁が入り混じっていた。

 黄鬼が率いる人形少女達の列は間延びしており、最後尾は早苗が目視でギリギリ追える程度に、
 出遅れた場所にいた。……わざと追い付かせるためだろう。待っていた可能性もある。
 そのうち、幻想郷に似つかわしくない現代風の無機質な建物が見えてくる。
 だが、幻想郷の雰囲気に見合った程度の妖気に似た禍々しいオーラを漂わせていた。
 「まるで廃病院のような心霊スポットですね……幻想郷では逆に新鮮味が感じられます。
 ここが……人間を『家畜』扱いするような、非常識で汚らわしい場所でさえ無ければ、
 胸躍る楽しい廃墟探訪になったはずなんですよね……。残念です。」
 「そーなのかー」
 「!?」
  • VS ルーミア(宵闇の妖怪)
 「何奴!?」
 早苗の目の前には、その場に似つかわしくない妖怪ルーミアがいた。
 ……いや、ある意味お似合いかも知れないが。
 「わはー。 あなたは食べてもいい人類?」
 「現人神は食べてはいけません。」
 「そーなのかー」
 勝利条件:ルーミアを撃破する。
+ 負けた場合:ルーミアはチェーンソーを装備
+ 勝った場合:ルーミアは二丁拳銃を装備
 勝っても負けても次の戦闘へ進む。
 「綺麗な現人神は消毒なのだぁぁぁー!!!」
  • VS ルーミア + 物騒な武器(チェーンソー or 二丁拳銃)
 勝利条件:物騒な武器を使う凶暴化ルーミアを撃破する。
 前の勝敗により、早苗のスペックとルーミアの強さが変化する。
 対チェーンソー戦:早苗は低速縛り。ルーミアは中速で動き回るが近接攻撃のみ。
 対二丁拳銃戦:早苗は制限なし。ルーミアは低速でほとんど動かないが、2ウェイの高速弾を放つ。
+ 負けた場合
 勝った場合、ルーミアは今度こそ満身創痍となり、武器を破壊され、崩れ落ちる。
 「はぁ……はぁ……終わりましたね……何だったのでしょう。大変な目に遭いました……」
 早苗は何とか勝ったものの、疲労困憊で動けなくなっていた。その時……
 「これで終わりだと……思ってたのかー!?」
 崩れ落ちたと思われたルーミアが、不死身のゾンビの如く立ち上がった。
 「え……まだ動けるんですかぁ!? 幻想郷の妖怪は化け物ですか……」
 「妖怪は化け物に決まってるだろう。……そんな事も、知らなかったのかー!?」
 ルーミアの様子がどこか変だ。しかし、面識の無い早苗には違和感が分からない。
 「ぐへへ……うまそうな神様なのだー。丸かじりにしてやろうかー?」
 だが、面識のある人物の面影に気付くのに、そう時間は掛からなかった。
 「……茶番はお止めなさい。そこにいるんでしょう?
 妖怪の姿をしていても、その鼻に付く気持ち悪い人間の臭いは隠せませんよ。
 影でこそこそするのが好きな恥ずかしがり屋の恥知らずな『人間』さん。」
 ルーミアの顔が妖怪らしい凶暴なものから、人間らしい真顔へと変わる。
 「へへ……やっぱバレた? そうだよ。『俺』だよ! 元気ぃ~?」
 しかし、早苗は無反応。嫌いな男子生徒の顔を見た時の女子の顔だった。
 疲れてるせいで、表情を出す気力が無くなってるせいでもあるが。
 「……って、あまり元気そうでもないな。……仕方ねぇか。あれだけ戦ったんだしな。
 俺のほうも、どうやらかなり限界みたいだ。
 こいつは頑丈なほうだが、いかんせん妖怪としての力が弱い分、ダメージを喰らい過ぎるとやばい。
 ってなわけで、そろそろオサラバするわ。またな。」
 ルーミアの皮を被った何者かは、名残惜しそうに別れの挨拶をするが、
 早苗のほうは、どうでもいいと顔に書いてあった。まるで反応が無い。
 「……と、言いたいところだが、すまない。たった今、あんたの討伐命令が入った。」
 突如、ルーミアの顔つきが真剣なものに変わり、懐から赤い液体の入った小瓶を取り出し、
 開けて中身を飲み干した。
 すると、見る見るうちにルーミアの全身にオーラとともに、狂気が漲り、
 満身創痍だった体が回復していくのが、ビデオの早送りのように見て取れた。
 (あれは……! 異形となった少女達と同じ……)
 「わはっ! こいつとの相性はバッチリのようだ。
 最高に『ハイ!』ってヤツなのかぁぁぁー!!って体が叫んでるようだぜ……!」
 (これなら、完全に同調しても大丈夫だろう。
 そろそろ自力での直接戦闘が多くなる頃合いだろうし、予行演習と行くか……)
 そして、ルーミアに更なる変化が現れる。彼女の髪が銀色に変わり、瞳が青くなったのだ。
 「……初めまして。東風谷早苗さん。お初にお目に掛かります。
 俺の名は『黄鬼戒(きき・かい)』。妖怪への復讐を誓った、元人間です。」
 気障ったらしい顔つきで初対面の挨拶をするルーミア、もとい黄鬼戒だったが、
 早苗にとっては恥知らずな男子小学生のような輩が何を今更と言った感じだろう。
 特に反応を見せるでもなく、彼女は彼女で臨戦態勢に入る準備をしていた。
 手提げ袋から、最後の一本を取り出し、黒地に緑の爪痕がある缶を開けて一気に飲み干す。
 「目には目を……異形には異形の力を。霊薬を服した現人神の異形の力、その目に焼き付け、
 己の非常識さを反省するといい!!!」
  • VS 黄鬼戒(異変中心人物) in ルーミア + 謎の赤い液体
 勝利条件:モンスター早苗で、黄鬼戒(in ルーミア+赤い液体)を撃破する。
 早苗はルーミアとの会話中に休息を取り、ドリンクを服用した事で体力は全回復している。
 さらに、ドリンクの作用でショット・ボムの威力が5割増になっている。
+ 負けた場合
 勝った場合、満身創痍となったルーミアの体は、無理が祟り、激しい痛みに襲われる。
 彼女と同調していた黄鬼戒本人も、激痛をまともに受け、慌てて同調を遮断したため、
 抜け殻となったルーミアは元の姿に戻り、疲労と激痛のショックで白目を剥いて倒れた。
 彼女の口から、吐血に混じり赤黒い液体が蠢くように這い出るのを、早苗は見逃さなかった。
 (また……? 何なのでしょうか。あれからは『不浄なもの』を感じます。)
 倒れたルーミアからは何やら危険な死相が出ていたので、早苗はすぐに彼女を神社へ運んだ。

 (中間地点7:守矢神社・寝殿)
 守矢神社の寝殿の一室では、名も無き妖怪少女とルーミアが2人並んで布団に寝かされていた。
 妖怪少女のほうは、安らかな寝息を立てており、今のところ起きる気配は無いが、
 ルーミアのほうは、明らかに危険な兆候が出ており、無表情のまま悶え苦しんでいるのが
 素人目にも分かるくらい衰弱していた。
 薄目を開けており、表情は虚ろだが、口をへの字に曲げ、顔に脂汗が浮かび、チアノーゼが出ている。
 全身が小刻みに震え、体温が低下していた。「苦しい、助けて」と泣き叫んでいるようだ。
 傍では早苗が看病しているが、彼女も決して元気とは言えず、休息が必要だった。
 にも関わらず、自分の事を後回しにしてでも、ルーミアを助けようとしている様子だった。
 (あの赤い何か……体を蝕む危険な毒薬の臭いがします。このまま放っては置けませんね。)
 その頃、神社の入り口に、兎耳を付けた一人の少女が立っていた。
 「……ここでよかったかしら。」
 早苗の背後に諏訪子が現れる。
 「早苗、疲れてるんだろう? お医者様も来たし、そろそろ休んだほうがいい。」
 「え……あ、はい。分かりました……諏訪子様。」
 そう言うと、早苗は疲れ切った様子で徐に立ち上がり、ヨロヨロと覚束無い足取りで、
 部屋から出て行き、廊下を風呂場のある方向へ歩いて行った。
 それと行き違うように、さっきまで早苗のいた部屋に、諏訪子ともう一人の少女が入って来る。
 さっきまで早苗と話していた諏訪子はいつの間にか姿を消していた。分霊なのだろう。
 その少女は、まるで鈴仙と因幡てゐを混ぜたような服装をしており、知らない人が見ても、
 永遠亭の一員であると分かるだろう。しかし、彼女が普通の人間だと気付く事無く、
 他のイナバ達と同じ妖怪兎だと混同してしまうかも知れない。それくらい、兎達に馴染んでいた。
 そして、初対面の人間が一目見た後の大まかな印象は、9割方「ボーイッシュな子」となるだろう。
 それは本人の格好や仕草や言動と関係なく、否応なしに抱かざるを得ない率直な感想だった。
 それくらい、彼女の目つきは男っぽいものだった。(本人はそれを言われると傷つくらしいが。)
 「この子達だよ。どうやら何か悪いものに操られてるらしくてさ……今は寝てるから大人しいけど、
 目を覚ますと何をしでかすか分からないから、起こす事もできなくて困ってたんだ。」
 「そうですか……一人は大丈夫そうですが、もう一人の金髪の子は……急いだほうがいいですね。」
 ここで、幼黄姫の目の色が赤く変化し、髪の色が黒髪から銀色に変化したように見えた。
 「……この子達も、心の波長が引き離されてるわね……。まずは、元気なほうから元に戻しますね。
 金髪の子は……このまま戻すと、痛みによるショックで、却って命に関わる危険性があるので、
 しばらく様子を見てから、タイミングを決めて元に戻します。」
 「そうか……2人ともできるだけ早く戻さないと、またいつ敵さんが動かし始めるか分からない。
 どうにかならないのか?」
 「それは難しいです。金髪の子は、心ここに在らずと言った状況のおかげで、痛みも何も感じずに、
 ギリギリで命を保っていられてるんです。本来なら、精神力も回復の一助になるはずなんですが、
 今回は心があった場合のマイナス面のほうが却って大きいです。
 体の生存本能……あるいは生命力、魂自体の気力だけで、頑張ってもらうしかないでしょう。
 ……一応、麻酔は掛けておきますね。」
 「ああ、頼むよ。(勝手に動かなければどうということは無いしね……)」
 一通り診断を終わらせると、幼黄姫は瞳を怪しく光らせ、妖怪少女の瞼を開け、瞳を覗き込む。
 すると、妖怪少女の体がビクンと痙攣し、一拍置いてから、寝顔に表情が宿った。
 「……これで、彼女の心は元に戻りました。続きは、目を覚ましてからになります。」
 「続き? 今ので終わりじゃないの?」
 「はい。私にできる事は今ので終わりですが、これから、彼女が操られている間の事を、
 どの程度、どのような形で憶えているかによって、アフターケアが必要になるでしょう。」
 「ああ……なるほどね。それはどっちかと言えば、私らの得意分野かもね。」
 「ええ。よろしくお願いします。」
 続いて、幼黄姫はルーミアのほうを見る。
 「チアノーゼが出ていますね。かなり危険な兆候です。
 自然治癒力で何とかしようとしているみたいですが、栄養が足りていません。
 戦闘による損傷の他、典型的な過労の症状が出ています。
 ……消化吸収能力も落ちている可能性があるため、経口ではなく点滴による栄養補給を行います。」
 ここで、彼女は一旦考え込む。
 「どうしたの?」
 「この子の種族……穢れのようなものを糧として生きる……闇……なのでしょうか。
 おそらく、人間の魂の中にある悪しきものを喰らうグールの一種ではないかと思われます。」
 「ほう……(一目でそこまで見抜くとは……妖怪兎の力も侮れないわね。)」
 「不浄なるものを糧とする妖怪に、清浄なるものを与えた場合、却って毒になりかねません。
 普通の栄養などはNGの可能性があります。何か逆に不浄なものを安全に投与できればいいのですが……」
 (悪人攫って来て、抜き取った生き血を与えるなんて真似できないし……そもそも私人間だから。
 それ以外で不浄なものと言ったら、どれもこれも毒になりそうなものばかりだし……どうしよう。)
 「それなら任せてよ。『穢れ』を扱う事において、私の右に出る者などいないから。」
 「……へ?」
 諏訪子の周囲から、禍々しいオーラが揺蕩う湯煙のように発せられていた。
 早苗は入浴を済ませ、寝間着姿となり、寝室までの廊下を歩いていると、
 ふとルーミアの様子が気になり始めたので、彼女達がいる部屋を覗き込んでみる。すると……
 2人の妖怪の隣で、兎耳を付けた少女が寝込んでいた。丁度3人で川の字になるように。
 「どうしたんですか!? 諏訪子様、これは一体……」
 その場にいた諏訪子は、頭を掻きながら、バツが悪そうに笑ってごまかす。
 「いや~……ちょっとね。血を抜き過ぎちゃって……倒れちゃったんだ。」
 寝込んでいる幼黄姫の横には、銀色のバット(トレー)が置かれ、中に赤い血液を入れた注射器が3本並んでいた。
 そして、ルーミアの腕に繋がれている点滴用のパックに、注射器が1本刺さっている。
 その注射器には赤い血液が少しだけ残っており、点滴パックの中に赤いのが広がっていた。
 そして、注射器からは若干、禍々しいオーラが漏れているように感じられた。
 「この子から抜いた血液に、穢れを寄せ集めて、点滴に混ぜたんだ。妖怪の子は穢れが好物だから。」
 「諏訪子様!」
 「そんなに怒んないでよ。この子が言い出した事なんだから。私は文句を言われる覚えは無いよ。」
 「そうなんですか……私にも言っていただければ、輸血に協力しましたのに……」
 「いや、早苗にはそんな事させられないよ。それに、清浄過ぎるのも駄目なんだ。穢れが中和されちゃうから。」
 そこに、寝込んでいた幼黄姫が別の説明を加える。
 「……あなたの血液型は存じませんが……私の血液はレシピエント(受血者)の抗体に反応しうる抗原が少なく、
 異なるほとんどの型(稀血を除く)への輸血に適しているんです。妖怪の子の餌にするとはいえ、
 血管に入れるわけですし、型が合わずに凝固反応を起こす危険性もありましたから。」
 「なるほど……(レシピエント……? 抗体? 抗原?)」
 「ところで、早苗は休まなくていいの? 疲れてるんでしょう?」
 「あ……そうでした。それではおやすみなさい。」
 早苗はそそくさと部屋を出て行き、自分の寝室へと向かった。諏訪子もどこかに姿を消す。
 幼黄姫は気怠そうに起き上がり、新しい点滴パックに2本目の血液注射を打つため、バットの中を見る。
 すると、バットの横に赤い液体の入った小瓶が転がってるのを見付け、拾い上げた。その瞬間……

 自室で横になってた早苗は、ガラスが破裂するような音で目が覚めた。
 気になったので、何事かと、音がしたと思われる部屋へ入ると、そこには、一人の真っ赤な少女がいた。
 そして、真っ赤な少女の目の前に、血だらけで倒れ伏す……幼黄姫がいた。
  • VS 黄鬼羅羅(真紅の穢れた少女)
 「きゃははははは!!! 予言に従わない異端者の末路は……血の池地獄に決定ねっ!」
 静謐な神社の境内に最も似つかわしくない耳障りな笑い声を上げるのは、穢れた血のように真っ赤な少女。
 その声に反応するように、血だらけで倒れていたはずの幼黄姫が立ち上がる。
 「……まさか、こんな所に敵が隠れてたなんて……迂闊だったわ。」
 そこに諏訪子も現れる。
 「こりゃ一体どういう事? 何でこいつがこんな場所に……」
 「きゃはは! 穢れと血のある所なら、あたしはどこにだって現れるのよ。祟り神様様よね~☆」
 「まさか……そんなはずは……(そこまで神出鬼没なら、もう手の打ちようは……)」
 諏訪子の顔からは絶望のようなものがにじみ出ている。それを察した幼黄姫は……
 「冗談じゃありません! ご安心ください洩矢様! そんなのこいつのハッタリですよ!!
 そこに落ちてた赤い液瓶から出て来たんです。私の血が穢れたくらいでこんなのになるわけありません!」
 ……不快感満載といった表情で、全力で否定した。こんなの呼ばわりされた紅い少女の顔が若干引きつる。
 幼黄姫の生存を確認した早苗は一先ず安堵するも、血まみれになってるのを放ってはおけず、気遣う。
 「あなた……そんな体で立ち上がって大丈夫なの? 今すぐ安静にしないと……」
 「ああ、これ? ただの零れた注射の血液ですよ。……私のですけど。怪我はありません。」
 幼黄姫は強がって見せる。確かに彼女は無傷だが、先程血液を抜いたせいで顔色が悪い。
 「ただの血液……だと、思ってたのかぁ~!?」
 紅い少女がそうおどけた台詞を発した瞬間、幼黄姫の体が……爆炎に包まれた。

 「きゃあああああああ!!!!!」
 早苗の悲鳴がけたたましく響き渡る。目の前で人が突然燃やされたのだ。無理もない。
 茫然自失となり、力なく膝をつく早苗を諏訪子が寄り添うように支える。
 「ちょっと……私ん家で殺生沙汰なんて勘弁だよ……」
 「んふふ……その心配はないウサ……ありませんよ。」
 幼黄姫がいると思われた場所には誰もおらず、そこの畳が大きく折れ曲がっていた。
 そして、別の場所にある畳の下から、詐欺師っぽい笑みを浮かべた兎耳の少女が現れる。
 爆発のせいか、若干チリチリパーマが掛かってるように見える。体は無傷、服も無事だったようだ。
 「ああ……そこに逃げてらしたんですね……よかった……」
 早苗は心底安心した顔となり、そのまま気が抜けたように倒れそうになり、諏訪子に支えられる。
 「あら……そんな程度の、人一人の運命を上昇させる程度の力で、星の魔人ツィツィミトル様の
 予言を覆せるとでも……思ってたのかしら~? あんたは……ここで血みどろになる運命よっ!」
 「くくっ……言ってくれるじゃないのさ。あんたのような穢れ如きには、このフェムトファイバー製の
 抗菌仕様の看護服に傷一つ刻む事すらできないのよさ~♪ ウサササ♪」
 紅い少女の狂気じみた言動にも、強気の兎耳少女は一分の怯みすら見せない。だが……
 「じゃあ、人二人の運命を上昇させる事は可能かしら~?」
 紅い少女は、突如腕から赤い液体のような触手を伸ばし、動けない早苗を狙う。しかし……
 「させないよ。ここは私の神域だ。お前は手も足も出ない。」
 諏訪子が手を合わせると、早苗を守るように岩壁が畳から生え、同時に、紅い少女の四方に
 モノリス状の岩壁が生え、握り潰すようにして、一ミリの隙間も無く閉じ込めた。
 だが、岩壁の中から削岩機のような音が聞こえ、一秒経った瞬間、中から白い顔が出て来た。
 どこから出したのか全くもって不明だが、黄鬼一発の頭部が紅い少女の右腕から生えており、
 金属光沢のある歯が、岩を噛み砕いていた。
 「ありゃ……合体怪獣のお出ましだね。再生怪人は弱いのが約束のパターンだけど。」
 「あたしが約束を守ると……いつから錯覚していたのかしら? あたしが守るのは予言だけよ~♪」
 そういうと、紅い少女の頭部が消え、そこに黄鬼一発の頭部が繋がり、体と一つながりになる。
 無表情なロボットであるはずの黄鬼一発の顔に、狂気の笑みが張り付いていた。
 「あなたへの対処法は開発済みよ。」
 幼黄姫の髪がチリチリウェーブから銀髪ストレートに変わり、赤く目を光らせた直後、姿が見えなくなる。
 その次の瞬間、傍にいる諏訪子と早苗の姿も周りの風景に紛れ、掻き消える。
 (目標が捕捉できなければ、どのレンジに対応すべきか判断材料が無くなる。つまり、攻撃不可能。
 私の迷彩はあらゆる波長の音波・電磁波をもすり抜けるから、レーダーでの捕捉も不可能よ。
 これで時間稼ぎをしている隙に、みんなを連れて逃げる!)
 「……残念っ! あたしも(自分への)対処法を開発済みなのよ☆」
 黄鬼一発(?)が目を見開いた瞬間、目全体が銀色に変わり、一面に光を発した。
 早苗と諏訪子は気が付くと、部屋から外へ飛ばされていた。迷彩は既に切れている。
 そして、部屋の中には、体中から血を流しながら、やっと立っている幼黄姫がいた。
 髪の色は黒に戻り、チリチリウェーブになっている。顔は詐欺っぽく笑ってるが、死相が出ていた。
 「あらら~♪ 3人分一遍には、無理だったようね~。フェムト何とかが傷だらけよ?」
 「……アレは嘘ウサ。そんな稀少なもの、看護服に使うわけないだろバーカ。騙されてやんの。プギャー!」
 「急所は全部外れたみたいね……でも、血みどろになる予言には徐々に近づいてるわ。
 あと100回くらい同じ攻撃を繰り返せば、そのうち予言は現実になるわ。きゃははは!」
 (冗談……あと100回も待つわけ無いウサ。どうやって逃げようか……)
 「と思ったけど、100回だろうが1回だろうが実現するのに回数なんて関係ないわね……」
 黄鬼一発の体から赤い触手が何本も飛び出し、幼黄姫の全身の傷口目掛けて突き刺さる。
 と同時に、バネのように、黄鬼一発の頭部が幼黄姫の頭目掛け、大きく口を開きながら飛んで来た。
 幼黄姫は咄嗟に両腕で頭をガードしてみせるが、黄鬼一発の歯に、今にも噛み千切られるだろう。
 その矢先、幼黄姫の目の前の畳から岩石の拳が飛び出し、黄鬼一発の頭部を下から突き上げ、
 天井に張り付いた掌がそれを受け止め、拳と掌で挟み潰した。これで、黄鬼一発は潰れたはず。
 しかし、幼黄姫の傷口から入り込んだ紅い触手は、まるで根を張るように彼女の体を浸食し、
 異形化した少女達の時と同じような狂気のオーラを注ぎ始めた。
 「きゃははははは!!! あんたの体……返して貰うわよ! 元々仲間のものだからね!」
 しかし、幼黄姫は全く動じなかった。
 「……誰が仲間だって? 私はお前らなんか知らないウサ。馴れ馴れしくするんじゃないよ!!!!!」
 彼女の剣幕に、赤い触手はビクッとなる。触手を伸ばしている紅い少女の顔も引きつっている。
 「……私は……人間の体を持って生まれたんだ。そして、人間から頭と心を貰った。正真正銘の人間だ。
 誰がお前らみたいな化け物の仲間になんかなるか。死んでもならねーよ。バーーーカ!!!」
 幼黄姫の、普段の彼女からは考えられない口調もさることながら、その揺るぎない態度に、
 紅い少女は返す言葉を失う。
 舌打ちし、一瞬だけ悪魔のような形相を浮かべた後、無表情となり、指をパチンと鳴らす。
 すると、幼黄姫の体が中から弾けた。
 全身ズタボロとなり、血みどろとなった幼黄姫が、血だまりの中に倒れ伏していた。
 顔面蒼白で、チアノーゼまで出ている。表情も虚ろで、生きているとは思えない。もはや手遅れか。
 「……予言実行完了。帰るわ。今日は最悪。」
 紅い少女はさっきまで浮かべていた狂気の笑みも忘れ、まるで彫刻のような無機質・無表情のまま、
 定時帰りの役所職員のように、そそくさとその場を後にする。
 その背後には、深淵にまで達していそうな憤怒のオーラが見え隠れしていた。

 ……と、そこで、違和感に気付いた。
 「……いつから、あたしを担いでたの?」
 紅い少女の後ろには、服が黒焦げになった幼黄姫が立っていた。軽い火傷を負ってはいるが、
 瀕死ではないし、重傷でもない。そして、鈴仙のような赤目と銀髪の姿だった。
 彼女が立っている場所の畳には若干焼け焦げた跡が見られるが、破損はしておらず、
 周囲に戦闘の跡などは全く残っていない。妖怪少女とルーミアは別室に移動させたようだ。
 「私の服に穢れた血が付着して、それが爆発した時よ。」
 「…………きゃは! あの時か。最初に姿が見えなくなった時ね。なるほど。
 ……このあたしに幻覚を見せるなんて、あんたやるじゃない♪ ねぇ、仲間にならない?」
 「答えはあなたの頭の中にあるんじゃないの? もう分かってるくせに。」
 「そうね。大体、あたしが外様であるあんたなんかを引き込むわけないもの。
 桃園の誓いすら共に立てなかった赤の他人を今更誘うなんてあり得ないわ。
 星の魔人ツィツィミトル様だって、そんな予言は一度もされていない。」
 そこに、正装の巫女装束を着た早苗が現れる。
 「……話は終わりましたか。この静謐なる境内での火遊びは禁止です。
 不埒な放火魔は、この私が成敗いたします。……覚悟!!!」
 勝利条件:黄鬼羅羅を撃退する。
 変則ルール:3対1。早苗(自機)&諏訪子(NPC)&幼黄姫(NPC)による共闘。
 諏訪子と幼黄姫は上手く逃げながら援護するので、脱落しない。自機が脱落すると負けになる。
+ 負けた場合
 勝った場合、穢れが祓われた事で、黄鬼羅羅は神社から完全に姿を消す。
 神奈子が神社に強力な結界を張っているため、再び相手が入り込める隙は無いだろう。

 (中間地点8:幻想郷北部山岳地帯)
 ルーミアと妖怪少女の看病を諏訪子と幼黄姫に任せ、早苗は一人、妖怪の山の背にある
 食用人間飼育場の跡を訪れていた。だが……
 「……跡形も無くなってる……?」
 まるでビルの解体跡のように、綺麗に均された細かな砂利で敷き詰められた更地があるだけ。
 「まさか、諏訪子様が……? でも、消そうと思えば、わざわざ私を通せんぼするまでもなく、
 いつでもできたでしょうに。今まで残した意味は……? なぜ今になって……。」
 面白そうな探検スポットが消えたのと、自分の与り知らぬ所で誰かが問題を片付けてしまった
 のではないかという事に、早苗は心底落胆する。
 ふと、遠くを見る。すると、山小屋の近くで見たのと似た『道路』が、今まで建物の死角に
 なっていた所からずっと遠くまで延々と続くのが見えた。視界の向こう側は霧に包まれている。
 (もしかして……)
 早苗はこの先を道なりにずっと行けば、何かが見付かると思い、飛び立った。
 アスファルトで舗装された道路を東の方に進んで行くと、見知らぬ少女達が4人並んで立っていた。
 (何でしょう? あの子達……こちらをずっと見てますね……)
 早苗が近くまで寄ると、少女達が話しかけてくる。
 「あなたが、守矢の巫女ね。黄鬼様の邪魔はさせない。この先には行かせないわよ。」
 「帰しもしないけどね。というわけで……」
 「「「「ここでくたばりなさい!!」」」」
  • VS 少女達4人
 少女達は、まるで一心同体であるかのように、完璧な連携プレーを仕掛けてくる。
 一人一人の強さは一般人レベルだが、まるで少女達の背後に見えない脳があるかのように、
 少女達一人一人が手足となって完璧に連動しているのだ。
 「これは……そこにいるのですか? 非常識なキキカイさんとやら。」
 しかし、少女達は笑うばかりで答えない。
 (困りましたね……正体が分からないと……)
 ここで、早苗は腹をくくった。目つきが据わったものとなる。
 「仕方がありませんね。あなた方の素性は存じ上げませんが、敵対するなら容赦しません。
 ……情け無用です!」
 勝利条件:少女達4人のうち、1人以上撃破する。(体力ゲージは個別)
+ 負けた場合
 勝った場合、倒れた少女に連動するように、他の少女達もつられるように倒れ、全員気を失う。
 「何だったのでしょう……もしかして、中の人は一人? でも、あの人ではないんですね……」
 それから少し進むと、さっきと同じように別の少女達4人が並んで立っている。
 「またですか……」
 少しゲンナリした顔をしながら、早苗が近づくと、少女達が一斉に早苗のほうを見た。
 その動作一つで、早苗には、相手が8つの瞳を持つ異形のものに感じられた。
 「あなた…………一人ですね。」
 「「「「やっぱりバレたか。」」」」
 4人の少女達の声がハモる。まるで一人が4つの口を同時に使っているかのように。
 早苗は再び、見る者を畏怖させるような、冷たい目つきとなる。
 「その子達……人間でしょう? さっきの子達も。」
 「「「「ああ……これは練習台だよ。こいつらがどうしても役に立ちたいっていうから、
 ここでこうして使ってやってるのさ。本番までの肩慣らしってヤツだ。」」」」
 (……本番?)
 「ところで、その鬱陶しいハモり、どうにかなりませんか?
 あなたというだけでも虫唾が走るのに……無意味です。4人同時というのは。1人で十分でしょう。」
 「「「「へへっ……1人だけのほうが却って面倒なんだよ。体と違って顔や声を使い分けるのはな。
 それに、今回は4人同時行動だからな。体は4人だが、いるのは俺一人なんだから、
 顔と声は一緒のほうがやりやすい。」」」」
 「そうですか。詳しい説明ありがとうございます。気持ち悪いですね。」
 「「「「それは、褒め言葉として受け取らせてもらうぜ。」」」」
 「褒めてませんよ。」
  • VS 黄鬼戒 in 少女達4人
 ここで、少女達4人の髪の毛が皆一様に銀髪へと変化し、瞳の色が青くなる。
 「「「「……同調完了。」」」」
 勝利条件:黄鬼戒の第2の体として動く4人の少女達を全て撃破する。
 少女達は全員、視覚などの五感を全て共有しており、完全に一個の生物として振る舞う。
 少女達の体力ゲージ4本の他、黄鬼戒本人の気力ゲージの、計5本のゲージがある。
 黄鬼戒は直接ダメージを与える事は不可能だが、少女達1人を撃破する度に、気力ゲージが一定量減り、
 少女達にまとまったダメージを与える事でも、いくらか連動して気力ゲージを削る事が可能。
 気力ゲージをゼロにすれば、全ての少女達の体力ゲージをゼロにしなくても、全員撃破となる。
 ただし、気力ゲージは自然回復するので、一気呵成に削らないとゼロにならない。
+ 負けた場合
 勝った場合、満身創痍となった少女達4人の髪の毛と目の色が一斉に元に戻り、
 糸が切れた人形のように崩れ落ちる。

 (中間地点X:異界の門)
 アスファルトの道路を道なりに東へ進み続け、山小屋の近くを通り過ぎ、しばらく進んだ所で、
 ようやく行き止まりに到着した。
 ……そこには、白い霧の中、異様な雰囲気を漂わせる巨大な門がそびえ立っている。
 「何でしょう? ……閉鎖されてますね。……いえ、封印? 魔王でも出てくるのかしら。」
  • 八雲紫(スキマ妖怪)
 「あら、封印されてる神様だっているかも知れないわよ?」
 「!? 曲者!!」
 本気で警戒する早苗に、スキマ妖怪はたじろいで、苦笑いを浮かべるしかなくなる。
 「あら……これでも賢者と呼ばれてるのよ。ここ(幻想郷)の管理とかもやってるし。」
 (……管理?)
 キョトンとする早苗に対し、スキマ妖怪は自己紹介を行う。
 「初めまして……でよかったのかしら。ごめんなさいね。
 物忘れが酷くて、以前あなたと会ったかどうか、よく思い出せないのよ。
 ……私は八雲紫(やくも・ゆかり)。境界を操る妖怪よ。」
 「あ……初めまして。東風谷早苗と言います。よろしくお願いします。」
 お互いに自己紹介が終わった所で、紫が本題を切り出す。
 「さて……突然だけど、何か聞きたい事はある? ……異変に関する事ならば、何でも答えるわ。」
 「今回の異変……悪者は誰なんですか?」
 早苗のシンプルかつ核心を突く、あるいは触れてはいけない質問に対し、紫は一考する。
 「…………。……そうねえ。悪いのは私。それが全てよ。」
 「でも……あなたを倒した所で異変が解決しないのは分かります。」
 「そうね……でも、弱い者いじめに加担する事になるわよ?」
 「……贄は、必要です。私も神に仕える者ですから、それくらい分かります。」
 「贄にされたほうは……望まない形でそうされたら……きっと呪うでしょうね。世界そのものを。」
 「彼女達は……世界を挙げて、祀るしかないでしょう。不幸な目に遭わされた事実を認め、
 存在した意味を認めるしか……世界に見捨てられ、救われなかったものを慰める事はできません。
 きっと、それでも自己満足なんでしょうけど。」
 (幻想郷なのに……実現できない幻想もあるのですね。)
 早苗は、黄鬼との会話を思い出しながら、思い通りに行かない現状の歯痒さを噛み締めていた。
 その時、早苗の頭越しに、紫は道路脇のある一点を見ていた。
 「こそこそ隠れてないで、出て来なさいな。弱小妖怪さん。」
 紫の一声に、はっとなった早苗が後ろを振り向く。すると……そこには名も無き妖怪少女がいた。
 彼女の片手には、現代風の薄型携帯のようなものが握られており、カメラが向けられていた。
 表情は虚ろなままだが、瞳には、どこか悲しげな光が宿っている。意思はあるようだ。
 ……そして、携帯の背面には文字が刻まれていた。
 ……「お前は決して逃げられない」と。誰に向けられたメッセージだろうか。
 早苗は、状況がうまく飲み込めず、きょとんとするしかなかった。その時……
 妖怪少女の服装が、神社に運ぶ前の、ボロボロのままだという事に気付いた。
 早苗の視線に気付いたのか、妖怪少女は答える。
 「これ? わざわざ洗ってくれてありがとう。臭くてもう着られないと思ってた所だったの。」
 そして、早苗の表情から、彼女の言いたい事を察し、話を続ける。
 「……ありがとうね。嬉しかったわ。……でも、ごめんなさい。たとえ救われても、私は助からない。」
 妖怪少女の張り詰めていた顔が綻び、大粒の涙がぼろぼろと零れ始める。
 見かねた紫が、口を挟む。
 「それが……あなたの答えなのね。妖怪の本分から大きく外れるけど……いいわ。最期までやりなさい。」
 それをOKサインと受け取ったのか、妖怪少女は一目散に走り去って行った。
 (!!!)
 早苗も流石に気付いたのか、紫に対して声を荒げる。
 「……ちょっと、紫さん!! 何て事を!! あの子を止めないと……!」
 「やりたいように生きるのも、妖怪の本来の姿よ。生命尊重主義は当てはまらないわ。
 ……あれが、今のあの子の本分なのよ。……心配なら、もう一度、救ってあげればいい事よ。
 今ならまだ間に合う。」
 その言葉を合図に、早苗は全速力で妖怪少女の後を追い始めた。

 (中間地点9:地底の洞穴入口)
 間欠泉地下センターの近くにある地底への洞穴入口の前まで来たところで、
 妖怪少女は影に隠れながら手を伸ばし携帯カメラで撮影して中の様子を確認した後、
 洞穴の中へと入って行った。
 しばらく進んだ所に、水橋パルスィと、一人の少女がいて、その先は行き止まりになっていた。
 その少女は銀髪碧眼を持ち、片手をパルスィの頭に当てており、パルスィは動けず固まっていた。
 あちこちに雪のようなものがこびり付いており、パルスィの体にも付着し、所々凍り付いている。
 「……おかえり。」
 銀髪碧眼少女は、妖怪少女にそうお迎えの言葉を掛けるが、妖怪少女は俯き、表情を固くする。
 「……私は……お前に……もう、殺されたも同然だ……! 早く、一思いに……私を殺せ!!!」
 「……その前に、カメラ。」
 「はい。」
 妖怪少女は、銀髪碧眼少女に携帯を手渡す。
 「……よく捨てずに持って来たな。覚えてるか? お前がそれを隠し持った時の事。」
 銀髪碧眼少女の下卑た笑みに、妖怪少女の顔が嫌悪に染まる。
 「あんた……やっぱり恥知らずだ。あの巫女さんの言う通りだよ。」
 妖怪少女の憎まれ口に対し、銀髪碧眼少女はさらに下卑た笑みを深める……と思いきや。
 「黙れ。俺を食い殺した事に比べれば、お前が食い殺されずにいられるだけで、慎み深いと感謝しろ。
 お前は俺から何をされても文句を言える立場じゃないんだ。分かったか!!」
 「…………はい。」
 妖怪少女の顔は、苦渋に満ちており、目には涙が浮かんでいる。
 「そこまでです。」
 妖怪少女の後ろに、早苗の姿があった。
 「さっきから見ていれば、何ですか。同じ形で復讐しない事が慎み深い? 何をしてもよいと?
 人間が妖怪を食べるなんて変態じゃないですか! 復讐目的でもそんな事しないのは当然です。
 そのような屁理屈で、人として最低限の常識すらかなぐり捨て、自ら外道に堕ちるような輩は、
 人非人と呼びます。そんな輩如きが『人間』を名乗るなど、おこがましいにも程がある。
 さらに言えば、泣いてる妖怪さんをネチネチと苛める輩は、妖怪と比べる事すら妖怪に失礼です。
 人間でも妖怪でもなく、もっと悪い下種な何かという表現がピッタリかも知れませんね。」
 ……早苗の目が完全に据わっている。最早これが彼女のスタイルになりつつあるか。
 「……黙れ。食べられた事も無い、まともに生きてるラッキーな人間の癖に。」
 銀髪碧眼少女のほうも、目が据わっていた。だが、既に徹底的にやり込められたおかげか、
 完全に冷静さを失った目だ。思わず心の奥底に潜めてあった本音もポロリと出てしまった。
 「悲劇の主人公気取りですか。口論すら自力でできないような臆病者の正義など恐るるに足らず。
 そんな虫けらのような弱小が餌にされようとも、良くて同情されるのがオチでしょう。
 弱い事が悪いとは言いません。ですが、偉くもありません。自慢にもならないような事で驕るな。
 ……まずは、男らしく顔を見せなさい。話はそれからです。」
 完全に逃げ道を塞ぐ形での情け容赦ない畳み掛けだったが、銀髪碧眼少女は早苗の最後の台詞で
 思わず吹き出しそうになり、ギリギリのところで堪える。これが気分転換になったのだろうか、
 彼女の顔から先程までの激しい憤怒は消えていた。
 「男……か。」
 「?」
 「いや、正解だ。……そうだな。地底で待ってる。俺の顔が見たけりゃ、お前のほうから来やがれ!
 ここから行ける経路は……妖怪の山の大空洞だ。お仲間も一緒のほうがいいぞ。俺に会うまでに
 死にたくなかったらな。」
 そう言って、銀髪碧眼少女は早苗の手前にいる妖怪少女にさっき渡された携帯を投げて寄越す。
 すると、妖怪少女は携帯を受け取った後、その場から引き返し、走り去って行った。
 「え!? ちょっと待って……」
 早苗も後を追い掛けようとするが……
 「だが、てめえはここで終わりだ! さっきはよくも好き勝手並べてくれたな! ぶっ殺す!!」
 「え? え? 地底で待ってるって言ったじゃないですか!」
 「別に生きてる必要は無い。てめえの死体とご対面でもOKなんだぜ!」
  • VS 黄鬼戒 in 銀髪碧眼少女 & 水橋パルスィ(橋姫)
 パルスィは黄鬼戒の能力を間接使用された事で、頭を掴まれたまま心を操られており、
 単純な弾幕を飛ばしてくるのみで動けない。(単純な操作しかされない。)
 銀髪碧眼少女はパルスィの頭を掴んでいるため、その場から動けず、体のものと思われる
 冷気の能力を使い、氷の弾幕を飛ばしてくる。
 勝利条件:銀髪碧眼少女を倒す。
 なお、体力ゲージはそれぞれ独立しており、パルスィは体力が無くなるとダウンする。
 パルスィの体力が残っている間は、銀髪碧眼少女は彼女の傍から動こうとしない。
 一旦離れたとしても、すぐに元の位置に戻って来る。
 パルスィが攻撃してくるのは、銀髪碧眼少女に頭を掴まれている間のみ。
 パルスィが先にダウンした場合、銀髪碧眼少女は自由に動くようになる。
+ 負けた場合
 勝った場合、早苗は走り去って行った妖怪少女を追い掛けるため、その場から立ち去る。
 満身創痍となった銀髪碧眼少女は糸が切れた人形のようになり、黒髪黒目の姿に戻り、
 そのまま動かなくなる。

 (中間地点10:妖怪の山・大空洞前)
 大空洞の前を見下ろせる場所に、早苗は一人で立っていた。
 「彼女はここから降りて行ったんでしょうか……地底に降りる前に追い付ければよかったのですが。」
 そこに、幼黄姫がやってくる。妖怪少女を追い掛けて来たのだろうか。
 「東風谷さんもここにいらしたんですか。……あの子を追い掛けて?」
 「……はい。あなたも?」
 「うっかりしてました。目を離した隙に、干してあった洗濯物ごと、忽然と姿を消していたんです。
 ですが、万が一のために、遅効性のお薬に特殊な波長を持たせておいたので、分解されるまでの間、
 発信機の代わりにする事が可能なんです。効果は10時間くらいですけど。」
 どうやら、先手は打っていた模様。しかし、彼女は神社の方向からまっすぐ飛んで来たように見える。
 「……今まで何をされていたんですか?」
 「面目ありません。彼女は特に変な様子も無かったので、安心して金髪の子のほうに掛かりきりになってたんです。
 そしたら、入浴から帰って来て、外へ涼みに行くと言ったっきり……」
 「……まあ、私がとやかく言える事ではありませんね。で、彼女は今どこに?」
 「既に、地底の奥深くに……ここからだと、ちょうど真下あたりでしょうか。」
 (ここから真下だとすると……地霊殿あたりになりますね。)
 たとえ飛べると分かっていても、底の見えない奈落のような穴を覗き込むと、早苗は思わず足が竦んでしまう。
 「ここを……飛び降りるのですね。」
 しかし、幼黄姫は何やら思い悩んでいる様子。
 「おかしい……」
 「え?」
 「この穴の深さからすると、たとえ飛ぶ事をせずに、重力に任せて落下したとしても、
 こんなに短時間で地底に辿り着くはずがありません。飛んだ場合は重力に逆らう分時間が掛かるから猶更です。」
 「じゃあ、真下に向けて何かの力で弾き飛ばされたのでは?」
 「……それじゃあ、着地した時に体が持ちませんよ。妖怪と言えども生き物です。」
 「…………どうやって降りたのでしょう? 本当に彼女は地底にいるのでしょうか。」
 「鈴仙先輩の能力は確かですし、私の能力で細かい精度まで再現しきれていない可能性くらいですね。
 そう考えられるとするなら。」
 「……あなたの能力を疑ったわけじゃありません……すみません。」
 (いけない……失言のせいで話が逸れてきたわね。何か他の可能性があれば……)
 早苗は真剣に考え込む。すると……唐突に関係ありそうな記憶がフラッシュバックする。
 「……そうでした。あの子、とても足が速いんですよ。恐らく飛ぶより走るほうが速いと思えるくらいに。」
 「え、まさか……走って降りたとか言うんじゃ……」
 「そのまさかじゃありませんか? 直滑降かジグザグ走行で一気に駆け下りて、
 着地する前にドリフトターン……つまり急に体を逆向きにして、滑りながら地面を蹴る事で減速した後、
 五点着地法で体へのダメージを分散したんですよ。きっと。」
 「え? 一気に駆け下りるって……そんな命知らずな。体を逆向きに滑りながら地面を蹴る?
 いくら丈夫でも大怪我しちゃいますよ……。五点着地法って何ですか? 意味が分かりません。」
 「(一々理屈っぽい人だなぁ。医者ってみんなこうなの?)……気合いで奇跡を起こしたんですよ。」
 「プラシーボ効果は物理には応用できませんけど。」
 「幻想郷では常識に囚われてばかりではいけないんですよ。」
 「はあ……(変な子ね……外来人って聞いてたけど、みんなこうなのかしら。)」
 2人がそんな互いにすれ違いの口論をしている時、上空から2人の姿を見付けた黒い何かが飛来する。
  • 霧雨魔理沙(普通の魔法使い)
 「お前ら、こんなとこで何してるんだ?」
 「「……あ。」」
 2人は今までの経緯と共に、唐突に浮かんだ危険なアイディアを魔理沙に話すが……
 「断る。私はまだ死にたくない。」
 けんもほろろに断られる。
 「らしくないですね。最初から勝ちを諦めるなんて。自分の足だけで最速に挑める子もいるのに。」
 と、早苗は煽ってみせるも……
 「私をスピード狂か何かと勘違いしてないか? 私は飽くまで正気の人間だし、常識人だぜ。」
 (……常識人?)
 「何だその顔。疑ってるのか? 私は法定速度だって守るし、火器取扱いだってキチンとするし、
 人様の物を勝手に取ったりもしない。嘘だって付かない正直者で、善良で常識的な一般人だぜ。」
  • 十六夜咲夜(完全で瀟洒なメイド)
 「白々しい嘘八百を並べるのがお好きね。格好は真っ黒けなのに。」
 そこに、十六夜咲夜が突如現れ、魔理沙に突っ込みを入れるが……
 「私は白鷺のような心の持ち主だぜ。黒は聖職者の衣の色だしな。」
 ああ言えばこう言うを地で行く、魔理沙の切り返し。
 そんな無駄話に花を咲かせている間にも時々刻々と事態は徐々に悪化していく。そんな時。

 「もういいです。私が先に行きます。患者を見殺しにはできませんから。」
 幼黄姫が断崖絶壁の上から飛び降り、真下へ向けて急加速し、あっという間に見えなくなる。
 「お医者さん!!!!!」
 周りは驚き、早苗が悲鳴を上げる。魔理沙はあまりの事態に声すら出ない。
 「……どうするの? 追い掛ける?」
 咲夜が魔理沙に促す。こうなってしまってはもう選択の余地は無い。
 魔理沙は迷うことなく箒に跨り、後ろにミニ八卦炉をセットし、スペルを唱え、
 真下へ急発進し、そのまま飛び降りて行き、幼黄姫にあっという間に追い付く。
 すると、「パチン」と指を鳴らす音が耳元で弾け……

 魔理沙達は呆気に取られていた。幼黄姫は崖の上に立っており、魔理沙はその場から動いていない。
 「……今のは予告です。次は本気で飛び降ります。」
 幼黄姫は、その物腰に似合わないギラついた目で魔理沙を見据える。本気の目だ。
 「幻覚で嵌めるなんてひどいぜ……」
 「……あら、彼女は本当の事しか言ってないわよ。あなたと違ってね。」
 咲夜は幼黄姫のフォローに回る。どうあっても魔理沙を飛び降りさせたいようだった。
 「それに、あなたの本気も見せて貰いました。たとえ私が本当に一人で飛び降りても、
 あなたは絶対に見殺しにはしない。どっちにしろ、魔理沙さんはそういう運命なんです。」
 「……ちぇ。仕方が無い。腹を括るか。」
 魔理沙も観念した様子。箒に跨り、飛び降りる準備をする。
 傍らでは、幼黄姫が前を見据えたまま、髪を後ろで結って、ポニーテールにしている。
 兎耳は外す。さらに、鼻と口元を三角巾でマスクのように覆い隠す。
 (……何かのおまじないかしら?)
 早苗は気になって聞いてみようとしたところ、目線に気付いたのか、先に答えてくれる。
 「ああ、これは心を落ち着かせるための儀式です。何となく、恐怖心が消え去り、
 勇気が与えられる気がするんです。病院では手術前とかによくやります。」
 心なしか、それともマスクのせいか、声は普段よりも若干凛とした男らしい感じに聞こえる。
 また、マスクで女の子らしい可愛い鼻と口元が隠れて、男らしい目つきが目立っているせいか、
 ポニーテールも相まって、よりボーイッシュな印象が増したように感じられる。
 (これは……覆面……いえ、仮面を替えた? これだけで面相が変わるなんて、不思議な方ですね。)
 早苗は何となく感心する。今までこのような方法でイメチェンする人物に会った事が無いからだ。
 「これは……スイッチング・ウィンバック? それとも役作り? アスリートか役者だったのかしら。」
 咲夜も感心するが、何やら彼女の過去に興味がある模様。それ以外にも何か知っていそうだが。
 早苗も幼黄姫に倣い、紛失防止のため、頭のアクセサリを外し、髪をポニーテールにした。
 魔理沙はそれを見て、渋い顔をする。
 「何だ2人も乗るのか。3人乗りはちょっと厳しいな。加速は問題ないが、制動が効きづらくなる。」
 しかし、早苗の決意は固い。
 「救いを求める友のため、私も行かなければなりません。奇跡を叶えるため、同乗は風祝の役目です。」
 幼黄姫も同じく引くつもりは無い。
 「私は計器の代わりになります。ソフトランディングのためには高度や速度の把握が必要不可欠です。
 高速で移動する人に、スピードの錯覚が多いんですよ。速度に慣れてくるというか、
 速さに対する感覚が鈍くなるんです。」
 「ああ……それは分かるぜ。私は運転に慣れてるからな。」
 魔理沙もそれには同意する。だが……
 「でもな、やっぱり3人乗りは不安なんだぜ。(2人乗りまでならいけるけど。)」
 「……大丈夫です。巫女さんもいらっしゃいますし、私も御守り代わりになるので、
 3人分くらいは安全に着地できるように守れるでしょう。後は魔理沙さん次第です。」
 「(御守り代わり?) ……私は最後かよ。運転手でエンジンなのに。」
 「最後の要です。頼りにしてますよ。」
 後回しにされご機嫌斜めの魔理沙に対し、早苗がフォローした。
 「神様に頼りにされちゃ断り切れないな。こちらも神頼みといくか。」
 「はい。頼りにしてくださいな。」
 傍で咲夜が見ている。
 「……ところで、お前は行かないのか? 一緒に行くって言っても、満員だけどな。」
 「私はここで紅白のを待ってるわ。後からでも追い付けるし。」
 「そうか……」
 魔理沙達3人は、断崖絶壁から飛び降りた後、加速用のスペルを発動した。
 彗星「ブレイジングスター」

 (中間地点10.5:地霊殿裏・灼熱地獄跡)
 時間は少し遡る。
  • 火焔猫燐(地獄の輪禍)
 「まただよ。ここ最近、ずっと毎日飛び降り自殺死体が空から降って来る。
 きっと、上の大空洞が飛び降り名所になってるんだ。まあ、あたいは暇しなくていいけど。」
 お燐の目の前には、血まみれになって倒れ伏している少女が一人。既に死んでいるのだろうか。
 少女の死体と思われるものを猫車に乗せ、灼熱地獄跡まで運び、うず高く積まれた
 未処理の死体の山の所に放り投げる。
 一仕事終えたと言った感じで、お燐はその場から立ち去ろうとするが、
 背後から微かな空気の流れを感じたため、後ろを振り向こうとした瞬間……
 先ほど運んだ死体、と思われた少女に頭を鷲掴みにされる。
 「……何のつもりだい? ってか生きてたんだね。 あたいの頭に気安く触るな。」
 お燐は手で振り払おうとした、その瞬間……動けなくなった。彼女の頭を掴んでいる少女の外見が、
 銀髪碧眼へと変化する。
 「……げほっ!! やっと『当たり』が出たか。」
 銀髪碧眼少女は口から血を吐きながら、お燐の頭を掴んだまま、彼女の体にもたれかかる。
 お燐は少女を抱きかかえ、背中におんぶさせた後、そのままの格好で灼熱地獄跡から出て行く。
  • 霊烏路空(熱かい悩む神の火)
 (あれは……お燐? どこへ行くんだろう? 背中におぶってるのは、死体……じゃないよね。)
 間欠泉地下センターの建物内からちょうど外を見ていたお空は、外を歩くお燐の姿を見付け、
 何だか様子が変だと思い、上から後を付けてみる事にした。
 お燐は、上にある一点を見つめた後、まるでそこで飛ぶ事が予定されていたかのように、
 真上へ飛び始め、そのまま一点まで一直線に飛び続ける。そこは、大空洞の断崖絶壁の中にある、
 岩の窪みだった。そこに到達すると、岩の窪みに一人でに穴が開き、中から銀髪の子供が顔を覗かせる。
 お空の全く知らない子供だった。一言二言何か会話した後、お燐は招き入れられるようにその穴の中へ入り、
 数秒後、穴は一人でに閉じた。
 (お燐が、誰か知らない人と密会してる? さとり様に知らせたほうがいいのかな?
 でも、お燐に黙って知らせたら怒るかも知れないし……かと言って、何かあったらさとり様が悲しまれるし……
 どうしよう……)
 お空は知らず知らずのうちに、究極の選択を迫られていたが、その選択の意味に気付く事は無かった。
 そして、その事が後々明暗を分ける結果となる事を、知る由も無かった。

 (中間地点Y:大空洞の岩壁内部に掘られた秘密基地)
  • 黄鬼淋(幼きネクロマンサー)
 彼女は、黄鬼喫姫の一味の一人である。妖怪に殺された一家の子供の頭蓋骨と、残された祖父の魂、
 首無し少女の体から作られた、生きた体を持つキョンシーであり、土からゾンビを出す術者である。
 そして、この場所に秘密基地を掘ったのは、彼女の仕事である。
 「その子が死体を運び、怨霊を操る妖怪か。」
 「ああ、とうとう捕まえる事ができた。あとは、引き抜くだけだ。」
 お燐の後ろでおぶさっている銀髪碧眼少女が答える。
 「……行くぞ。」
 「ああ」
 そのまま3人は奥へと続く通路を進んでいく。すると、一番奥の部屋に到着し、中に入ると……
  • 黄鬼戒(魂吸い女)
 ヘルメットを被り、ライダースーツを着込んで、古ぼけたバイクに跨ったままの女がいた。
 エンジン音は聞こえない。ただのポーズのようだ。そして、微動だにしていない。
 お燐の後ろにいる少女の外見が元に戻り、頭から手が離れ、糸が切れた人形のように、
 ダランと力なく手が下がる。と同時に、お燐の顔に生気が戻り、目の前の状況が飲み込めずに、
 そのまま固まってしまう。
 「え……あ……何?」
 次の瞬間、地面から土の塊が跳ね上がり、お燐の全身を包み込んで、そのまま固めてしまう。
 「え、ちょ……動けない……何を……」
 お燐は全く状況に付いていけないまま、何もできずに捕縛されて動けなくされてしまう。
 「ここが地底の一部でよかったわい。守矢の神の御膝下では土いじりすらさせて貰えなんだからのう。」
 銀髪の子供の仕業のようだ。地面に手を翳し、何かの術を使ったのだろう。
 そこに、ライダースーツを着たヘルメットの女が歩み寄り、お燐の頭を鷲掴みにしようと手を伸ばす。
 お燐は思わず叫び声を上げそうになるが、後ろでおぶさっていた少女の手が口を塞いだため、
 息ができず声が出せなくなる。
 そして、頭を鷲掴みされ、そのまま引っこ抜く動作をされると……お燐の顔から生気が消えた。
 と同時に、どこかから靴で地面を引きずる音が聞こえたため、銀髪の子供は即座に周囲を警戒し、
 地面に手を翳す。すると、奥の部屋の外で悲鳴が聞こえた。
 お燐を包んでいた土の固まりはいつの間にか消え、捕縛を解かれたお燐は、少女を背中から降ろし、
 傍にいる3人と一緒に、通路まで様子を見に行く。
 目の前には、お空がいた。後を付けて来ていたのだ。入口は制御棒で叩いて壊したようだ。
 そして、その制御棒の狙いを付けたまま、構えを取るような格好で、土の固まりに捕縛されていた。
 「……お燐に何をした? 正直に答えないとお前ら全員燃やすよ? 答えても後で燃やすけど!」
 お空の表情が怒りに満ちている。お燐が取り返しのつかない何かをされたと理解しているからだ。
 「……お空。止めな。この人たちは、あたいの友達だから。」
 お燐が、虚ろな目を向けながら、お空を説得しようとするが……
 「……嘘だ。お燐はそんな事言わない。そいつはお燐じゃない。お燐をどこへやった?」
 お空はあくまで自分の直感を信じているようだ。相手のどのような甘言にも乗らないだろう。
 「……お前、何か勘違いしてないか? 脅迫できる立場なのは、俺達のほうだぜ。」
 ヘルメット女は、低く調子を抑えた声に怒気を孕ませつつ、お燐の背後に歩み寄り、お空に答える。
 隠れてはいるが、素顔は恐らく下卑た表情が張り付いている事だろう。
 そこに、お燐が続ける。
 「お空、あんたは、あたいを巻き込むような真似はできやしない。あんたがいくら偽者呼ばわり
 しようとも、あたいはここにしかいない。死んでしまったら、本物は戻っては来ないんだ。
 生きてても、あたいが死ぬまで一生本物に戻る事も無いだろうけどね。だから、あんたは何も
 できやしないのさ。そして、だからと言って逃げる事もできない。あんたもあたいと同じように、
 仲良くこの人たちの言いなりになって、偽者になるんだよ。……楽しいよ? くふふっ」
 お燐の顔にも、下卑た笑みが張り付いていた。
 「……いやだ!! 私は、さとり様に寂しい思いをさせたくは無い! お燐、あんたも連れ帰る。
 そして、おかしくなったのを直して貰って、元に戻す!! こんな事されて、楽しいだなんて、
 やっぱり理解できないよ。だから、お燐の言葉でも、もう聞く気も無い。それだけだ!!」
 お燐の言葉にも、お空は揺るがなかった。真っ直ぐな瞳が相手を見据えていた。
 「さとり様か……それなら彼女も一緒に仲間になれば、あたい達3人仲良くできるじゃないか。
 そのためにも、あんたにも仲間になって貰うよ。お空。」
 そう言うと、お燐はお空の制御棒の先端を自分の体に押し付けたまま、彼女の両目を塞ぐように
 手で覆い隠す。お空は泣いているようだった。涙が頬を伝って流れ落ちるのが見える。
 そして、一瞬でお空の背後に回ったヘルメット女が、お空の頭を鷲掴みにした。
 (さとり様……お燐……ごめんなさい……)

 (中間地点11:間欠泉地下センター)
  • 黄鬼喫姫(一人でも百人力な妖怪)
 そこには異変の首謀者である彼女の姿があった。本来なら異物扱いされる所だが、
 今では彼女がその施設の主のように振る舞っている。
 「ご苦労様。これで大分戦力アップになるわ。
 ……死体を持ち去る能力か……ゾンビの素材調達には持って来いね。」
 そして、彼女は目の前にいるお空を一瞥する。お空は無表情のまま、微動だにしない。
 「この子の能力……話には聞いてたけど、神の力と言うのは本当だったみたいね。
 結局、コピーできなかったわ。
 妖怪としての能力も、あるのかどうかすら分からないし、この子は戒の下で使うしか無さそうね。」
 傍らにいる紅い少女も、続けて言う。
 「そうね~。この子の力って太陽なのよね……爆炎はあたしと被るし……威力はこの子のが遥かに上だけど。
 乗っ取って操ると、あたし自身が浄化されちゃうから、入り込む余地すらないし、やっぱりカイ君だけね。
 ……それに、おバカキャラになりきるのって、虫唾が走るのよ。たとえ操れてもパスだわ。それよりも……」
 ここで、紅い少女はお燐のほうをジロジロと見る。
 「こっちの子のほうが、好みなのよ。口調も性格も面白いし、なりきるのって楽しそう……」
 そんなやり取りをしている所に、一体のゾンビに連れられた名も無き妖怪少女が入って来る。
 「……ここにはいないの?」
 妖怪少女は自分のかつての操り主を探しているようだが、どうやらここにはいないようだ。
 「携帯カメラ、頂戴。」
 そこに黄鬼喫姫が声を掛ける。
 「はい。」
 妖怪少女は携帯を投げて寄越し、黄鬼はそれを片手で器用に受け取る。そして、質問に答える。
 「ここにはいないわ。そこのゾンビに付いていけば会えるわよ。もう既に待ってると思う。」
 それを聞いた妖怪少女は、傍にいる見慣れない妖怪2人を一目見た後、目を合わせ、理解する。
 そしてすぐにゾンビに連れられる形でその場を立ち去る。だが……
 「そこまでよ。」
 入口の所に、幼黄姫と霧雨魔理沙、そして……東風谷早苗がいた。
 「霧雨さん……東風谷さん……あの2人も、既に……」
 「ああ……何となく分かる。違うってな。」
 「何て事を……神聖なる力を悪用しようなどと……風祝として、ここで止める他ありませんね。」
 早苗はここで戦う気まんまんである。だが……
 (戦力の過度の集中は愚策ね。あの巫女は無視していい。今は……地底攻略に集中すべきよ。)
 黄鬼喫姫は人形少女達を伴い、その場から一目散に逃げる。妖怪少女とは別方向に。
 「……逃がさないぜ!! お前とはまだ本気の勝負が残ってるんだからな。」
 魔理沙は黄鬼を追い掛けようとするが、目の前を爆炎が走り、視界が遮られる。
 「きゃははは!!! あんたの相手はあたしよ! 今日は新しい電波を浴びせてあげるわ~!」
 紅い少女、黄鬼羅羅が目の前に立ち塞がっていた。その傍らにはお燐がいる。
 「まあ見ててごらんなさい。あなたのお友達が、アセンションする所。」
 そう言うと、羅羅の掌から紅い液体のようなものが滴り、お燐がそれを手に取って飲み込む。
 次の瞬間、お燐の瞳に狂気が宿り、全身から禍々しいオーラが迸り始めた。
 「……地霊異変の仕切り直しか。望む所だ。本気で叩き潰してやる。」
 冗談めかした言い方で気取って見せるが、魔理沙の目は……本気で怒っていた。
 「私は、あの子のほうを追い掛けます。居場所を追跡できるのは私だけですから。」
 幼黄姫はそう言い残すと、すぐに迷彩で姿を消し、その場からいなくなる。
 「私は……烏さんが相手ですか。神の力……相手に取って不足はありません。」
 「ここは、私も参加させて貰うよ。あの烏は私の管轄だ。勝手な真似はさせない。」
 「!! 神奈子様!!」
 「私もいるよ。早苗。」
 「諏訪子様まで!」
 早苗の両隣には、八坂の神と洩矢の神が顕現していた。
 「三位一体の神の攻撃、地獄で見られる事を神に感謝しなきゃね。」
 それに呼応するように、お空は巨大な黒翼を広げ、全身に圧倒的なオーラが漲り、迸る。
 「守矢の神! いいだろう……この体のお手並み拝見だ! 俺の恨みの炎は、神ですら消せない!!!」
 お空の全身が白銀の光に包まれ、翼と髪の毛が白銀に染まり、両の瞳と……胸の巨大な瞳が青く変わる。
  • 守矢三神 VS 黄鬼戒 in 霊烏路空 with 八咫烏
 勝利条件:東風谷早苗(自機)、八坂神奈子(NPC)、洩矢諏訪子(NPC)で、
 霊烏路空の体を乗っ取った黄鬼戒を撃破する。(お空の体力をゼロにするか、戒の気力をゼロにする。)
 戒はお空と完全に同調しているため、彼女の能力を全て使用可能。
 NPCである神奈子と諏訪子は無敵なので脱落しない。自機である早苗を援護し続ける。
+ 負けた場合
 勝った場合、完全燃焼したお空は、死んだように眠り、動かなくなる。
 魔理沙達は、守矢とお空の戦いがあまりに凄まじかったため、双方共、施設の外へ逃げていた模様。
 勝負の方は魔理沙が勝ったようだ。崩れ落ちたお燐の口から赤黒い液体が零れ出て、どこかへ消えた。
 さらに、黄鬼羅羅本体も本気の魔理沙の攻撃に恐れをなし、いつの間にか姿を消していた。
 残されたのは、精根尽き果て、完全に動けなくなったお燐だけである。
 勝ったはずの魔理沙の表情は優れない。本当の悪者を倒し損ねたせいか、それとも……

 (中間地点Y:大空洞の岩壁内部に掘られた秘密基地)
 勝負の決着を確認し、お燐とお空が共に意識不明となったのを感じ取った黄鬼戒は、
 気力が削られたせいか、立ち眩みを起こし、跨っていたバイクから転げ落ちる。
 「うぅ……げほっ! げほっ! うぇっ……」
 「大丈夫か? 顔色が悪いぞ。」
 傍らで見ていた黄鬼淋が寄り添って気遣う。
 「くそっ!! くそっ! くそっ! くそぉぉっ!! 折角手中に収めた地底妖怪を……悉く……
 ……おのれ、守矢!! ……おのれ、東風谷早苗ェ!!!」
 黄鬼戒は、尋常じゃない程体を激しく震わせながら、地団駄を踏む。
 おそらくヘルメットの下に隠れている顔は鬼のような形相になっているだろう。
 傍らで気遣う黄鬼淋が彼女の背中を擦ってあげ、黄鬼戒は徐々に呼吸を整えていく。
 そして、落ち着いた頃合いで、ヘルメットを抜いた。
 中から、銀髪碧眼の、氷のような冷たい眼差しを持つ少女の顔が露わになる。
 「……次は俺が直接相手してやる。」

 (中間地点12:地霊殿)
 間欠泉地下センターでの戦いが終わり、早苗達は、お燐とお空の身柄を取り戻したので、
 動けなくなった2人を地霊殿まで送って行く事とした。
 早苗はお空を、魔理沙はお燐を、それぞれ背中におぶっている。
 勝負が終わってから程なくして、幼黄姫と合流する。
 妖怪少女のほうは、何とかなったらしく、しばらくは放って置いても心配ないとの事だった。
 「どういう事だ?」
 「そうですね。私も気になります。一体何があったんですか?」
 魔理沙と早苗の疑問に、幼黄姫が答える。
 「はい。元々は、私が間欠泉地下センターからいなくなる時に発した台詞が原因と思われるのですが……
 あの時、私は『居場所を追跡できるのは私だけ』とハッキリ言い残し、その場から姿を消しました。
 敵に操られているお空さんとお燐さんの目の前で。つまり、敵からすれば、あの子は私をおびき寄せる
 生き餌であり、同時に、自分達の居場所を特定されかねない『トロイの木馬』となったわけです。
 それを敵のほうは、恐らく見抜いたと思われます。あの子はいつまでたっても敵の所には辿り着けず、
 あちこちを不規則に走らされ続けています。傍らにいるゾンビがそうさせてるのでしょう。
 今でも私から逃げ続けてます。」
 「なるほどな……で、お前はここにいるけど、分身でも使ってるのか?」
 「私から逃げ続けてるという暗示を掛けただけです。ゾンビのほうは単純なので簡単に掛かりました。」
 「大丈夫なのか? もし暗示がバレたら……」
 「一度掛けた暗示は、解除しない限り、絶対に解ける事はありませんし、バレる事もないでしょう。
 ただ、他の敵のほうから合流するとマズイので、こちらが先に敵を見付ける必要があるでしょう。」
 幼黄姫の一見隙の無い戦術に、早苗は感心するが、魔理沙はまだ何か言いたそうである。
 (大事な患者なら、自分の目から離さないように意地でも追い掛け続けるもんなんじゃないのか……
 案外ドライなんだな。効率的ではあるけど。)
 「ところで、先程の敵の目の前での発言は、意図的にされたんですか?
 『追跡できるのは私だけ』の下りです。」
 「ああ、それはですね……意図しないで、口からポロッと出ちゃいました。追い掛けてる最中に気付いて、
 しまった!って思ったんですが、結果オーライだったので、そのまま利用しました。」
 「ゑっ……そうなんですか……(案外いい加減なんですね……)」
 (何か抜けてる奴だな……今回の策も、失敗しないといいけどな。)
 それからしばらく歩くと、地霊殿の玄関前で、館の主が待ち構えていた。
  • 古明地さとり(怨霊も恐れ怯む少女)
 さとりは、既に3人の心を読んていたのか、魔理沙達に対し、感謝の意を述べた。
 「……うちのペット達を助けていただき、誠にありがとうございます。……こちらへどうぞ。」
 館の中へ案内された3人は、急遽用意されたベッドにお燐とお空を寝かせ、幼黄姫が経過を見守る。
 「……どうやら命に別状はないようです。これなら心を元に戻しても心配ありません。」
 そして、お燐とお空の目をそれぞれ瞼をこじ開けた状態で見つめ、心の波長を元に戻した。
 すると、2人の目から涙が流れ始め、表情に若干安らぎが籠る。
 「……ありがとうございます。本当に……」
 魔理沙達を客室へ案内した後、さとりは夕食も摂らず、一人自室に籠り、考え込む。
 どうやら、かなり精神的に参っている様子。知らないうちにペット達が敵の手に落ちていた事や、
 それを未然に防げなかった事をとても気に病んでおり、かなり凹んでいた。
 (どうやったのか皆目見当も付きませんが……まさか、こんな事になるなんて……
 敵を侮っていました。レミリアさん達から教えて貰った情報だけでは不十分でしたね。
 改めて、情報を集め直す必要がありそうです。もう一度、魔理沙さん達の心を読んでみましょう。)
  • 古明地こいし(閉じた恋の瞳)
 「お姉ちゃん。元気出して。」
 さとりの傍らには、いつの間にか妹のこいしが立っていた。
 「!! そこにいたのですね……」
 「お姉ちゃんは、考え過ぎなんだよ。一々全部考えてから動くから、予想外の事に対応できない。
 まあ、私みたいに強くないから、しょうがないけどさ……」
 「私は、あなたみたいに考え無しで動けるほど無謀じゃありませんから。」
 「んもう……折角、敵のアジト見付けてきたのに、お姉ちゃんのいじわる。教えてあげないんだから。」
 「!? ちょっと……今、何て? こいし……」
 「しーらない!」
 「待って……待ちなさい! こいし!」
 「ふ~んだ!」
 こいしを追い掛けて、さとりが部屋から出て行く。存在感ゼロな上に心が読めないので、
 一旦目を離すと、向こうから話しかけて来るまで彼女を見付ける事は困難となる。
 なので、さとりは必死に彼女の後を追い掛けて行く。
 その頃、魔理沙達は大広間で夕食を御馳走になっていた。
 「さとりはどこに行ったんだ? 夕食なのに客の前に顔も見せないなんて。」
 「魔理沙さんったら、失礼ですよ。」
 そこに、雇われメイド妖精が現れ、事情を説明する。
 「そうか……ご飯も喉を通らないくらい落ち込むなんて、よっぽどペットが可愛かったんだろうな。」
 (もっと手加減しとくべきだったか……)
 「……御馳走様でした。」
 幼黄姫が席を立つ。何だか顔色が悪い。
 「ん? もういいのか? まだいっぱい残ってるのに。」
 「私、小食なんです。もうお腹いっぱいなので……」
 「そうか……(案外ひ弱なんだな。度胸もそれなりにあって、目つきは男らしいのに。)」
 心配そうに見守る魔理沙と早苗を尻目に、幼黄姫はそそくさを大広間を後にし、メイド妖精に案内され、
 風呂場へ移動する。どうやら早く寝たいようだ。足元が覚束無くなっている。
 (あいつ……疲れてるみたいだな。それで、途中で追い掛けるの止めたのか。
 面倒臭がりかと思ってたけど、パチュリーみたいなもやしっ子でもあるんだな。)
 「彼女……患者の治療のために、血液をかなり抜いたみたいなんです。それからずっと患者に付きっきりで、
 碌に栄養も摂らず、休んでもいないと思います。おそらくもう限界かと。」
 「なん……だと……」
 魔理沙達も食事を早々に切り上げ、大浴場まで様子を見に行ってみる。
 すると、脱衣所で風呂上りの幼黄姫と出くわすが、ふらついており、今にも倒れそうだった。
 そして、そのまま早苗にもたれ掛るようにして……彼女は倒れた。
 すぐにメイド妖精を呼び、寝室まで運んで貰い、早苗達が看病した。
 「どうやら、貧血のようですね。今は、ゆっくり休んだほうがよさそうです。」
 「早苗、今のうちに風呂入っとけ。」
 「はい? 魔理沙さんはよろしいので?」
 「私は今そんな気分じゃないからな。彼女の事は看といてやるから。」
 「分かりました……」
 早苗は申し訳なさそうな顔で、その場を後にする。
 「なるほど、大体分かったわ。」
 そこに、十六夜咲夜が突如出現した。
 「うおっ!? いきなり出て来るなよ! 心臓が止まるだろう!」
 「あら、毛の生えた強心臓がそんな簡単に止まるのかしら? 今夜は吹雪になるわね。」
 「ところで、霊夢は一緒じゃないのか?」
 「あら、紅白のは今別行動よ。一応他人の振りしてるわ。」
 「他人の振り? 何のこっちゃ。」
  • 博麗霊夢(貧乏巫女)
 「何よ? 何か文句ある? 攻略済みのダンジョンでは主人公は顔パスって決まってるのよ。
 攻略済みじゃなくても、勇者は家の箪笥の引き出しの中身とか自由に持ってっていいらしいし。」
 お腹を空かせた巫女は、大広間で食事の残りをパクついていた。
 周りにいるメイド妖精達はどうする事もできずに困惑している。
 何せ、主が急にいなくなったため、対処法が分からないのだ。もちろん武力では到底敵わない。
 頼みのお燐とお空も満身創痍で寝込んでいるため、動ける状態ではない。
 地霊殿はほぼ無力化していた。おそらく現時点の力関係では、霊夢が新たな主に納まるだろう。

 (中間地点Y:大空洞の岩壁内部に掘られた秘密基地……の跡)
 古明地姉妹は、困惑していた。やっと見付けたと思った敵のアジトは既に蛻の殻となっていたからだ。
 「あちゃ~。遅かったか。」
 「……ここで間違いないのよね? って、あなたが嘘なんか付くわけないものね。
 ここはもう既に用済みというわけですか。決戦が近いという事ですね。手掛かりになるようなものは……」
 「あ~あ。つまんない。帰る……」
 「……ちょっと待って。」
 さとりが足元にある何かを見て、こいしを呼び止める。
 「何? お姉ちゃん……」
 さとりの手には、モグラが乗せられていた。
 「それってモグラじゃん。それがどうかしたの?」
 「……この子、先祖代々住み続けた巣穴が滅茶苦茶に壊された上、道に迷って困ってるらしいのよ。」
 「へぇ~」
 「その巣穴は、ここじゃない……もっと奥のほうにあったそうよ。」
 「奥って……」
 古明地姉妹の視線の先には、壁になった何もない突き当りがあるだけだった。

 (中間地点Z:どこか)
 そこは、幻想郷には似つかわしくない現代的な電子機器が数多く並んでいる異様な部屋だった。
 事情を知らない幻想郷の人妖が見たら、恐らく河童が使っている秘密の研究所かと思う事だろう。
 しかし、その中心に鎮座するのは、これまた幻想郷に不釣合いな現代風の若者だった。
 一目で何の能力も持たない外来人と分かるその男は、気持ち悪い笑みを浮かべながら、
 目をキラキラさせて、ノートPCと向かい合っていた。その横にはケーブルで接続された携帯電話。
 妖怪少女が持っていたものだ。背面に刻まれたメッセージは塗料か何かで消されている。
 「んふふ……それにしても面白いですね。この携帯カメラは。ここまで高精細かつ高機能なものは、
 現代社会でも実用化されてませんよ。」
 「河童製だからね。携帯電話、メールとかの機能は、高速大容量な回線は大規模な設備改修が
 必要になるから、河童でも実現できなかったけど、カメラだけは天狗が使ってる優れものとかもあるから、
 大容量化に成功したわ。だからこそ、撮影した写真や動画をメールで送る事ができずに、
 直接手渡しなんて面倒な事になったんだけど。」
 その部屋の隅っこにあるソファに腰かけながら、男と会話する少女は、黄鬼喫姫だった。
 「しかし……よく考えましたね。画像解析で、スキマ……を操る神出鬼没の妖怪の出現パターンを分析して
 予測できるようにしようだなんて……」
 「相手を知り、己を知れば、百戦して危うからず。……って、古代の軍事思想家が言ってたわ。
 よく見て、よく考える事こそ、絶望的な運命に打ち克つための、唯一無二の正攻法なのよ。
 無敵のスキマ妖怪だって、どこかに瑕があるはずよ。……それが、業を背負う生き物の宿命なのよ。」
 「なるほど……しかし、本当にいいんですか?
 幻想郷が無くなったら、あなたの存在も消えてしまうかも知れないと言うのに。
 科学全盛の世の中では、抜け首や怨霊、首無し人間の居場所なんて、どこにもありませんよ。
 存在の礎となるエネルギーも存在しないのですから。」
 「私は……人間が人間らしく生きる事ができる、当たり前の世界になれば、それでいいのよ。
 幸せになれない幻想など……もう沢山よ。」
 (惜しいですね。こんなにも素敵な子らが沢山いる、素晴らしい世界だと言うのに。
 当の住民達が、それを望んでいない。素晴らしさの影に潜む負の面を目の当たりにし過ぎたために、
 それらを捨ててでも、普通の世界を望む。ノスタルジーに溢れる田舎に潜む村社会の因習に嫌気が差し、
 都会に出て行ったり、都市化を求める住人と根は同じなんですねえ……
 まあ、私もさっさと異変とやらを成功させ、元の世界に帰りたいのは山々なんですが。)
 黄鬼喫姫は、電子機器で溢れた部屋を後にし、別室へ移動する。
 「あー……あの男の気持ち悪い顔と耳障りな声もさる事ながら、電磁波が頭にキンキン来るわ……
 あれって霊に良くないらしいわね。私怨霊出身だからなー相性悪いのかも。」
 そして、開けた場所へ出ると、他の4人の黄鬼達が準備万端と言った様子で待ち構えていた。
 「旧都襲撃作戦、準備完了よ。別名『星熊勇儀討伐戦』……作戦開始。」

 (最終決戦開始)
 突如、旧都の家々が下から競り上がって来た無数の石柱によって押し上げられ、
 天蓋に打ち付けられて挟み潰される。一方、地面は一気に奈落の底へ落ち込んで行く。
 地底の旧都は、まるで柱だらけの檻のような別世界に一瞬で変わり果てた。
 そして、天蓋の中心から水滴が滴るように、球状の土の固まりが落ちて来て、空中で弾け、
 中から黄鬼達5人が飛び出し、あちこちに散らばって行く。
 突如、柱の一本の天蓋と合わさった隙間から、地底の鬼が飛び出し、黄鬼目掛けて飛んで行く。
  • 星熊勇儀(語られる怪力乱神) VS 黄鬼一派
 どうやら家で寝ている時に、家ごと押し上げられて天蓋とで挟み潰された模様。
 痛みで目が覚めた後、無理やりこじ開けて、そのまま犯人目掛けて殴り掛かって行った。
 その時、柱の横から枝分かれするように細い柱が横向きに飛び出し、勇儀の進路を塞いだ。
 が、構わず殴り掛かる。細い柱はいとも簡単に砕け、無数の瓦礫が黄鬼に降りかかる。
 咄嗟に、黄鬼は片手から魔力の糸を少し離れた柱まで飛ばし、そのまま柱まで体を引っ張って、瓦礫から逃れる。
 勇儀がさらに追撃を掛けようとする横で、柱から無数のゴーレムが飛び出し、勇儀目掛けて体当たりを仕掛けてくる。
 それに対し、勇儀は真っ向から受けて立ち、一体一体を拳だけで破壊していく。
 だが勇儀の傍にある柱から、またもや枝分かれするように細い柱が伸び、それが空中にいるゴーレム達と一体化し、
 勇儀もろとも一塊の巨大な拳に変化する。これで勇儀は身動きが取れなくなった。
 その時、天蓋付近から地底妖怪達が、勇儀が握られてる巨大な拳目掛けて落ちて来る。
 勇儀は何が起きたのか飲み込めず、固唾を飲んでいたが、彼らは群がるように勇儀を取り囲み、
 一斉に勇儀の頭を鷲掴みにしてきた。その瞬間、彼らの外見が白銀の体毛と碧眼の姿へと変わる。
 最初の柱攻撃で潰されて満身創痍となった地底妖怪達を、お燐の「死体を持ち去る程度の能力」を
 植え付けられた人形少女達が運び去り、黄鬼戒の所まで集めた後、纏めて心を抜き取って、
 手下に変えてしまったのだ。そして、勇儀の頭を掴んだ瞬間、同調して間接的に能力を発動したのだ。
 勇儀の頭から、ドッペルゲンガーのようなもう一人の勇儀の体が引っ張り出され、そのままの状態を維持される。
 勇儀自身は既に抜け殻となって動けない。その後、勇儀を包んでいた巨大な岩の拳は形を失い、
 勇儀はそのまま体ごと上へと引っ張り上げられ、上で待っていた黄鬼戒本人の元まで運ばれる。
 操り人形と同調している間、黄鬼戒本人は自分では動けなくなるため、傍らにいる人形少女が黄鬼戒の腕を取り、
 掌を勇儀の頭に当てがう。次の瞬間、同調が解け、周囲にいる地底妖怪達は元の姿へ戻り、
 糸が切れた人形のように動かなくなると同時に、奈落の底へと落下していく。
 そして、勇儀の頭が鷲掴みにされ、心が引っ張り上げられようとした、その時……
 勇儀の顔が阿修羅のような形相となり、黄鬼戒は逆に心が引っ張られそうになる。
 慌てて手を離そうとするが、その手を逆に掴まれ、勇儀に思いっ切り柱に叩き付けられそうになったその瞬間、
 咄嗟に割って入った人形少女数人が身代わりとなり、クッションとなって、まとめて柱に叩き付けられ、
 血反吐を吐きながら、力なく下へ落ちて行く。
 勇儀は地底妖怪達を落下から救うため、柱を伝って一気に下まで駆け下りて行き、
 奈落の底の地面に激突するのも構わず、加速を緩めないまま強烈な着地を行い、そのままの勢いでジャンプし、
 落ちて来る地底妖怪達を一人一人、手近な柱に叩き付け、めり込ませて落下から救った。
 多少の怪我はものの数にも入らないという事か。
 その様子を上から見下ろしていた黄鬼は、瀕死状態の人形少女達を糸で引っ張り上げながら、
 作戦の合図を出す。すると、全ての柱が爆破により砕け、無数の破片が下へ降り注ぎ、勇儀諸共、
 下にある物すべて下敷きとなった。
 後に残ったのは、瓦礫の山となった旧都の跡のみである。
 直後、黄鬼淋が天蓋に手を翳し、術を発動すると、下の瓦礫の山をまるで噛み砕くかのように、
 旧都に空いた奈落の穴の縁から無数の柱が平行な歯のように水平方向に生え、伸び縮みする。
 さながら地底の地面に超巨大なゴーレムの口を召喚したようだった。
 ある程度瓦礫が細かくなったところで、奈落の穴の周辺部にノコギリ状のギザギザが現れ、
 グラインダーのような摩擦音を立てながら回転し始め、徐々に中心部に向けて、穴を縮めていく。
 その間に、黄鬼羅羅が手から紅い液体を滴らせ、人形少女達のマネキンの頭部に振り掛ける。
 すると、それらは彼女達の口から体内に入り、傷口から血管へと浸食し、体と一体化する。
 人形少女達の全身に禍々しいオーラが漲り、瀕死状態だった体が急速に回復していき、
 マネキンの目には、血も通ってないにも関わらず、怪しい光が灯る。
 そして、人形少女達は唸り声を上げ、それらは徐々に奇声じみた笑い声へと変わって行く。
 「きゃは! 修理完了~♪ ねえどんな気分?」
 「「「「最高に……『ハイ!』って奴ですぅぅぅーーー!!!」」」」
 その声に呼応するかのように、瓦礫の中心部が発破のごとく爆発し、土煙が上がる。
 その中から、一人の鬼が上へ向けて一直線に飛び出し、そのまま真っ直ぐ迫ってくる。
 勇儀の狙いは、黄鬼淋だった。目の前の事に対処するのが手一杯でありながら、密かに敵の陣形を観察し、
 土いじりの能力者を見付けていたのだ。
 しかし、そうは問屋が卸さないとばかりに、目の前を人形少女達が立ちはだかる。
 数人が一斉に盾を翳し、勇儀の突進を受け止め切ると、勇儀は一瞬驚いた顔をする。
 まさか、止められると思ってなかったのだろう。追撃を加えようと拳を振りかざした所で、
 人形少女達が一斉に盾を下ろし、剣による刺突に切り替え、カウンターを仕掛ける。
 ここは後ろに下がる所だが、勇儀は……盾が無くなった事で前を遮る物が無くなったとばかりに、
 逆に前進して、全ての剣を空振りさせ、そのまま突っ切ろうとする。が……
 人形少女達の口が耳元まで大きく裂け、ギザギザの形に変わり、悪魔のような面相となる。
 そのまま勇儀を追い掛けると同時に、頭だけが弾かれるように首から離れ、まるでろくろ首のように伸び、
 勇儀の体に纏わりついて、あちこちに噛み付いた。
 そのまま食い下がるかと思いきや、人形少女達の頭が爆発し、勇儀を爆炎の中に包み込んだ。
 首から上が無くなった元・人形少女達は、それぞれの近くに、上から糸で吊り下げられた袋があるのを見付け、
 それを手に取り、中身を取り出す。すると、それらは新しい頭部だった。
 それを各自、首の上に置き体と繋げると、すぐに一体化し、目に怪しい光が戻る。
 爆発が収まり、中の様子がどうなってるのか確認しようとした矢先、人形少女の一人の背後から勇儀が迫っている事に、
 周りの誰もが気付くのが遅れ、彼女の頭頂部に強烈な肘鉄が炸裂した。
 それをまともに喰らった人形少女の頭は潰れ、首にめり込んだ後、何かが潰れたような音がした。
 と同時に、人形少女の体がまるで糸が切れた人形のように脱力し、飛ぶ事を止め、落下し始めた。
 すかさず、勇儀はその体を掴み、他の人形少女目掛けて、思いっ切りブン投げる。
 剛速球並の速度で飛んで来た仲間の体をまともに受け止めたもう一人の人形少女は、
 全身の骨という骨が砕け、背骨が軋み、おそらく内臓も破裂したのだろうか……口から血を吐き、
 意識が飛んだように力なく崩れ落ち、そのまま落下し始めた。周囲が呆気に取られている中、
 勇儀は既に3人目の背後に回り、強烈な踵落としをお見舞いする所だった。
 そこに、横からもう一人の人形少女が割って入り、右脇から突き飛ばし、攻撃の軌道から体を外させる。
 が、踵落としを両腕にもろに喰らってしまい、左腕はグシャグシャに折れ曲がり、右腕は一部が削り取られ、
 両方とも使い物にならなくなる。あまりの激痛のためか、彼女は無表情のまま、
 どこから出したのか分からないような悲鳴を上げ、痛みに震え、そのまま動けずに蹲る。
 勇儀は狙いを彼女に変え、頭上から踵落としを再度お見舞いしようとするが、3人目の人形少女が割って入り、
 盾で受け止めようとする。だが、彼女一人の膂力ではおそらく無理だろう。
 そんな矢先、勇儀の体が極大レーザーの光に呑み込まれた。人形少女達も巻き添えを喰らう。
 そのレーザーは、白銀の髪と真っ白な顔を持つサイボーグ、黄鬼一発の口から放たれたものである。
 だが、勇儀はほとんどダメージを受けておらず、残りの人形少女達が一掃されただけだった。
 勇儀が黄鬼一発のほうを見ると、彼女の目が光ったように見えた。
 次の瞬間、目から発射された細いレーザーが勇儀の両目を狙い撃ちにする……が、
 直前に紙一重で射線からずれていたため、直撃は免れる。
 だが、勇儀の顔に一筋の焦げ跡が付く。一瞬、勇儀が微笑んだように見えた。
 黄鬼一発は両目からのレーザーを雨あられのごとく、勇儀に浴びせ掛けるが、
 勇儀は全身に鬼気を纏いながら移動しているため、全てのレーザーは軌道が逸れ、直撃を免れており、
 傷一つ付ける事ができない。今度は、移動をブロックするため、黄鬼一発の口からプラズマの炎の塊が放射される。
 が、勇儀は構わず突っ込む。全く痛くも痒くもないという事か。
 アウトレンジも、ミドルレンジも、完全に封じられ、まさに勇儀の独擅場だった。
 だが、勇儀のほうも決め手に欠けていた。黄鬼達は完璧なチームワークで互いの弱点を補完し合い、
 守りを固めてくるだけではなく、矢継ぎ早に次の手を繰り出してくるため、このまま続けると、
 徐々に体力を削り取られ、消耗戦に持ち込まれる恐れがある。
 その場合、数で劣る勇儀のほうが不利になるかも知れないのだ。
 そこで、勇儀はふと気付く。周りは全て敵であり、一網打尽にしてしまえばいいと言う事に。
 横車「昇龍風」
 勇儀は即興でスペルカードを組み上げ、発動した。
 力業「大江山颪」の上下逆転版で、重力に逆らい、下から強烈な滑昇風が吹き上げるがごとく、
 天蓋に向けて、大玉の嵐が下から「揚がり注ぎ」続けるというものだ。
 まさに、力のみで道理を曲げ、無理を通す、横車と呼ぶに相応しいスペルである。
 黄鬼淋は咄嗟に天蓋に手を当て、5人の体を包み込むように、岩のゴーレムを召喚する。
 だが、無数の大玉の嵐の前に、盤石と言うわけには行かず、あっという間に壊されてしまう。
 壊れた岩盤と天蓋とで挟み撃ちにされた上に、周りは大玉の嵐であり、却って逃げ場が無くなり、
 5人とも天蓋に打ち付けられてしまう。これで一気に形勢は勇儀の方に傾いた。
 最初に狙うのは、攻守揃った上、数攻めに長けてはいるが、接近戦の苦手な黄鬼淋である。
 自分が狙われているのに気付いたのか、黄鬼淋は咄嗟に天蓋から岩の防壁を出現させ、
 ミルフィーユのように無数に層が重なった衝撃吸収用の盾とし、それを10枚重ねて並べる。
 雲母壁「千枚葉(ミルフィーユ)の十二単」
 勇儀は相手のスペカが強かろうと見かけ倒しであろうと一点の迷いも無く、構わず一直線に突っ込む腹積もりで、
 防壁を拳で突き破る。……と、ここで、堅そうに見えた岩壁が、まるで淡雪のように大した手応えもなく、
 サラサラと散っていくのが見て取れた。
 (!! 虚仮脅しか!?)
 いつの間にか、一つ向こう側の壁が手前に迫っていたため、今度は掌を当てて押してみる。
 すると、今度は壊れずに、勇儀のほうが徐々に押されていく。
 いつの間にか、一番向こう側に新たな岩壁が出現していた。このままではキリが無い。
 「将棋倒しのように、一網打尽と言うわけにはいかないか……中々嫌らしいスペルだねえ……」
 勇儀が上に気を取られている隙に、下のほうから瓦礫でできた巨大なゴーレムの腕が迫っていた。
 (!! しまった……こっちは囮か!)
 その様子を上から見下ろしながら、リーダーの黄鬼は一人ほくそ笑んでいる。
 (そう……あなたの攻撃パターンは事前に予測している。
 考え得るあらゆる可能性の試算をPC上で何度も繰り返し、不確定要素を加味しながら、
 あなたをシンプルに倒せる方法を考え抜いて来た。
 作戦は破られるもの、予定は未定と言うけれど、不測の事態にすら対処できる王道や定石は、
 探せば確実に見付かるのよ。さあ、頑張りなさい。
 次の作戦も、次の次の作戦も、際限なく、いくらでも用意してあげるから。)
 黄鬼達は既に次の動きを予測し、黄鬼淋は天蓋の中に潜り込み、姿を消している。
 他の4人は予め用意した完全防音ヘッドホンを付け、天蓋に張り付いて待機している。
 (弾幕はブレイン……魔術師が言ってたわ。)
 巨大な腕に捕まった勇儀は、大きく息を吸い込む仕草をする。そして……
 四天王奥義「三歩必殺」
 勇儀が大きく一歩を踏み出すと、彼女の体を捕えていた巨大な瓦礫の拳は砂の城のごとく、
 いともあっさり崩れ、その後、周囲に高密度の弾幕が展開される。
 (!!!???)
 黄鬼は自分の予想が外れた事を瞬時に理解した。だが、外れた理由は理解できていない。
 「そんな馬鹿な!! ここでそんな事したら……天蓋が……壊れちゃうじゃない!!!」
 勇儀は、そんな黄鬼の叫びが聞こえたのか、鼻で笑った。
 「鬼が……そんなみみっちい事気にすると思ってたのか? だったら今から教えてやるよ。
 私ら鬼という生き物についてな! 途中で居眠りなんかしたら叩き起こしてやるから、
 死ぬまで付いてきなよ!!」
 このままでは、黄鬼達に逃げ場は残されてはいなかった。黄鬼淋は既に地中に潜っているため、
 新たな指示をすぐに届けるのは不可能であり、他の仲間もヘッドホンで耳が塞がれているので、
 同じように指示を届ける事ができない。ジェスチャーなどの合図も複雑な指示に関しては、
 予め決めていないため、三歩目が発動するまでのごくわずかな時間に指示を出す事は不可能。
 すぐ後ろは天蓋のため、ダメージを逃がす事もできず、挟み潰されるのは必至であった。
 八方塞がりである。策士策に溺れた結果か。
 (う……狼狽えるんじゃあないっ……黄人間の抜け首は狼狽えないっ……お……落ち着け……
 兎のつがいの数を数えて落ち着くんだ……1……1……2……3……5……8……13……21……34……55……)
 黄鬼は完全に冷静さを失い、狼狽していた。それは誰の目にも明らかだった。
 その時、黄鬼一発が彼女の目の前に移動し……レーザーで彼女の胸を貫いた。
 「……え???」
 「ダメージコントロールを実施。リーダーを一時的に排除します。」
 黄鬼一発は、無味乾燥な声でそう告げた後、黄鬼の胸倉を掴み、勇儀の弾幕目掛けて投げ飛ばした。
 そして、勇儀の二歩目が発動し、黄鬼は高密度の弾幕に飲み込まれる。
 この意味不明かつ予想外な奇行が、他の2人の落ち着きを取り戻し、次の行動を生んだ。
 「……突っ込みなさい!!!!! 壁に潰されるよりマシよ~!!!」
 黄鬼羅羅が、ありったけの大音声で叫び、勇儀の二歩目の弾幕に自分から突っ込んで行く。
 と同時に、本体である彼女自身の頭を赤い液体に戻し、首から体内に無理やり押し込め、
 全身の血管を強化し、衝撃に備える。
 そして、黄鬼戒もつられるように、二歩目の弾幕に突っ込んで行く。
 が、彼女にはダメージを軽減する術が残されていなかった。
 普段の彼女であれば、自分が操る妖怪を平気で盾にしそうなものだが、生憎近くにそのような妖怪はいない。
 操られた地底妖怪達も今は瓦礫の底に沈んでいる。その時であった。
 黄鬼一発が後ろから覆いかぶさるように、黄鬼戒の体に抱き付き、ガッチリとガードを固めた状態で、
 自らが蓄えてきた全ての記憶をどこかへ転送し、全機能を停止した。
 ……そして、三歩目が発動。地底天蓋付近は無数の弾幕で「一塊の破壊空間」と化し、
 天蓋には、衝撃と、それによる轟音が鳴り響いた。
 地底の中心にあった旧都だった場所に積もってる瓦礫の山の中に、黄鬼淋を除く、黄鬼達4人が埋まっていた。
 リーダーの黄鬼は、全身ボロボロとなり、胸から背中にかけてレーザーで貫かれており、ピクリとも動かない。
 既に死んでいるのだろうか。
 黄鬼羅羅は全身黒こげになりながらも何とか生きていた。体はボロボロだが、液体生物で強化してあった上に、
 三歩目を喰らわず、二歩目だけ喰らったので、ダメージは軽減できていた。
 黄鬼戒は、黄鬼一発の捨て身のガードのおかげで、何とか動ける程度のダメージで済んだ。
 黄鬼一発は……眠るように目を閉じており、体はズタズタで、既に事切れていた。
 (なんだ……心なんか無くても……いい奴はいるじゃないか……妖怪でも……心を抜き取ってしまえば……
 それなりに『いい奴』になれるって事か……)
 黄鬼戒の顔には、下卑た……という表現とはまた違った……狂気の笑みが張り付いていた。
 ちょうどその頃、リーダーである黄鬼は、自らが死人となり、体から全ての生気が失われた感覚を、
 かつて生まれたばかりの自分が首を刎ねられ、体から切り離されて殺された遠い過去の記憶と重ね合わせる事で、
 初心を思い出していた。
 (寒い……でも……何も感じない……痺れもないし……そこにあるという事すら……分からない……
 これが……『死』か。懐かしいなぁ……私……体……無かったんだっけ。そう……手の届かない……
 いえ、手すらも……届かない所で……まるで私のじゃないみたいに……好き勝手に……生かされて……
 食べられて…………悔しかったなぁ……何で……こんな……ひどい事…………私の体なのに……
 私のだったのに……取らないでよ……あれも私なのよ……殺すなら一緒にしてよ……
 まるで、私…………私だけいらないみたいじゃない。)
 黄鬼は、目を覚ました。目の下を涙が伝っている。泣いていたようだ。
 「…………」
 声が出ない。息もできない。体からは何も伝わって来ない。死んでいるようだった。
 (思い出した。……我ながら恥ずかしい……何がブレインよ……おかげでボディが亡くなったわよ。)
 自身を肉体から霊体に変え、首から切り離し、存在感を薄くして、外の様子を見る。
 すると、はるか上空に、勇儀がいた。天蓋のほうを見ているようだ。
 (……天蓋……淋が隠れている!? まだ生きているの? 何とかしないと……)
 黄鬼は霊体となった頭で必死に考える。すると、新たな作戦が浮かんだ。
 (今の私は、『火車』の能力を併せ持っている。つまり、死体も操れる。
 それなら、その辺にゴロゴロしてるわ。まずは……かわいい私の体からね。)
 思い立つなり、目にも止まらぬ速さで動き始める。
 それから程なくして、黄鬼一発が目を覚ます。あり得ないと思ってた黄鬼戒はびっくりするが、
 黄鬼一発がまるで別人のように話し始め、リーダーを名乗る事で、黄鬼の魂の一部が憑依したものと勘違いされ、
 何とかそれで丸く納まった。(実際は死体を操作されていただけである。)
 この後、体は黄鬼羅羅の液体生物を注入される事で蘇生・回復し、頭は再起動する事で元通りとなる。
 そして、地中から死んだと思われた地底妖怪達がひとりでに這い出て来た事で、また黄鬼戒を驚かせるが、
 お燐の「死体を操る能力」のおかげであると説明する事で、納得させる。
 地底妖怪達の死体には低級霊を憑かせてあったが、黄鬼羅羅の液体生物を注入して回復・蘇生させる事で、
 心が抜き取られたままの本人達の魂が体に戻り、黄鬼戒によって再び操る事が可能となった。
 同様に、黄鬼自身の体も黄鬼羅羅の液体生物を注入して貰う事で、心肺機能が復活し、蘇生する。
 その合図として胸の傷口から血が吹き出し、慌てて塞ぐ羽目になるが、すぐに傷口が治り、
 全身にできた傷が痛みを伴いながら、全て治っていく事で、体が生き返った事を実感できた。
 ついでに、倒れた人形少女達も地中から救い上げ、蘇生を試みたが、うち3人は回復したものの、
 1人は首の断面にあった脳虫(代用脳)が潰れて死んでいたため、動かす事ができなくなっていた。
 なので、黄鬼羅羅の液体生物を入れて生命維持を行い、予備の体として地中に埋めておく。
 天蓋では、勇儀の拳を受ける度に振動し崩れ落ちようとする岩盤を、
 黄鬼淋がゴーレムの術で必死に修復し続けていた。
 地表に近い部分は守矢の神が何とかするとしても、秘密基地のある地中深くは、
 このまま天蓋を抉られ続けると崩れ落ちる危険性が高いからだ。
 (何より、彼女は人里出身であり、地底天蓋に穴が開き、地上が崩落してしまうのは、
 人里の消滅を意味するため、それだけは何としても避けたかったのだ。)
 しかし、度重なる衝撃によるダメージの蓄積と、術の多用のせいで、限界が近かった。
 勇儀がふと下を見下ろすと、いつの間にか復活した黄鬼達4人が立っているのが見えた。
 黄鬼達4人の生存を確認した勇儀は、余裕の表情で手招きする。真の強者の貫禄である。
 「まあ……順当な所よね。私達は元々挑戦者なのだから。」
 手招きに応じ、4人は一斉に勇儀の方へ飛んで行く。
 勇儀が迎え撃つように大きく構えを取る。その瞬間、黄鬼羅羅の頭が大きく変形し、赤い液体生物となり、
 ガソリンを撒き散らすように、辺り一帯に大きく散らばった後、一気に爆発し、辺り一面炎に包まれる。
 鬼声「壊滅の咆哮」
 次の瞬間、勇儀は周りの炎を掻き消すかの如く、大音声で雄叫びを上げ、空気の振動で嵐が巻き起こる。
 それをいち早く察知した黄鬼一発は、イヤーマッフルが自動的に密閉状態となり、装甲でカバーされると同時に、
 自らも雄叫びを上げ、勇儀の声と逆位相の音を出す事で、威力をわずかながら掻き消す事に成功する。
 だが、これでもまともに喰らえば鼓膜だけでなく意識まで持っていかれる事が確実なため、各自防御態勢となる。
 黄鬼は咄嗟に頭部の実体化を弱め、鼓膜を消す事でダメージを軽減する。
 黄鬼羅羅は元々頭部が液体なので、音の攻撃は通用せず、ダメージは無い。
 黄鬼戒は耳を塞ぐと同時に、周囲にいる地底妖怪達に自分の耳を塞がせるとともに、壁になってもらう事で、
 音によるダメージを何とか抑えた。
 鼓膜が破れる事は無かったが、それでも耳がキーンとなって、しばらくは何も聞こえない状態が続く。
 地底妖怪達は鼓膜が破れるが、心が抜けているため、痛みを感じず、精神的ダメージは無い。
 黄鬼戒と地底妖怪達がダメージを受けた様子を見て取った黄鬼は、黄鬼羅羅に回復を命じた後、
 人形少女3人と共に、勇儀の方へ向かっていく。接近戦を仕掛けると予測した勇儀は、受けて立つとばかりに、
 黄鬼目掛けて真正面から殴り掛かる。黄鬼は、動けなくなった人形少女1人から回収した剣と盾を手に、
 勇儀相手に白兵戦を仕掛けようとしていた。剣捌きは某人形使い直伝であり、それなりに自信はあった。
 勇儀の一直線な正拳突きを盾で受け流しつつ、剣で喉元へ一閃しようと体を捻った瞬間、
 鬼気を纏った拳の余波により、盾ごと弾き飛ばされ、体ごと錐揉み回転させられて、バランスを失ってしまう。
 グルグル回りながらも、何とか踏み止まり、バランスを立て直すが、周りに勇儀の姿を見失う。
 すると、真上から踵を振り上げた状態で迫ってくる勇儀の姿が視界の端にチラリと見え、
 咄嗟に剣と盾で防ぐも、強烈な踵落としをもろに喰らい、そのまま地面へ真っ逆さまに叩き落される。
 今の一撃で、盾と剣は粉々に砕け、両腕も折れ、肩を脱臼し、全身を痛みと痺れが襲う。
 (ははっ……やっべ……なにこれ……鬼強ぇ……私、絶対殺されるわ。)
 そこに人形少女達が割って入り、何とか地面への激突だけは免れた。
 黄鬼と入れ替わるように、黄鬼戒と地底妖怪達、黄鬼一発が上へと飛んで行く。
 そして、黄鬼羅羅が黄鬼の体に赤い液体を注入し、折れた骨を治すための自然治癒力を高めて行く。
 だが、肩の脱臼は治らないので、両脇にいる人形少女達が黄鬼の両腕を掴み、思いっ切り肩関節に押し付け、
 力押しで関節を填める。もちろん、言葉にならないほど物凄く痛い。黄鬼も白目を剥きそうになり、
 苦悶の表情で、顔面蒼白となり、脂汗が浮かんでいる。
 痛みとトラウマでへこたれそうになっている黄鬼を置いてきぼりにするかのように、
 人形少女達はぱっと散るように離れ、フォーメーションを組んで、勇儀のいる方へ飛んで行く。
 黄鬼戒と地底妖怪達が連携しているのを見た勇儀は、同じ手は喰わないとばかりに、潰しに掛かる。
 もちろん、操り主と思われる黄鬼戒のほうを真っ先に狙う。が、地底妖怪達が壁となって割って入る。
 しかし、それも織り込み済みとばかりに、勇儀は強烈なパンチを放ち、地底妖怪達は玉突きのように折り重なったまま、
 一番後ろにいる黄鬼戒目掛け、同士討ちのボディプレスを放つ羽目になる。
 地底妖怪達が踏ん張ったおかげで威力は軽減しているが、岩の固まりをぶつけられるのと同程度のダメージを喰らったため、
 全身の骨という骨が軋み、意識が飛びそうになる。
 もちろん、まともに喰らった地底妖怪達は全身の骨が砕け、満身創痍である。
 もはや同調は無理だろう。そんな事をすれば黄鬼戒自身の意識が飛んでしまうから。
 これで、黄鬼戒の能力を地底妖怪達が間接使用する事で勇儀から心を引っ張り出すという作戦は、
 二度目は無理となった。……と、その時、勇儀の体が極大レーザーの奔流に呑み込まれた。
 勇儀が他の仲間と戦っている間、黄鬼一発がエネルギー充填を完了させていたのだ。
 だが、この技は一度使用しており、大したダメージを与えられなかったため、決定打には程遠い。
 しかし、目晦ましには十分であった。勇儀はレーザーの光で目をやられないよう、固く目を閉じていたが、
 レーザーが納まった頃合いを見て、目を開けようとしても、どういうわけか開かなかった。
 顔全体の感覚が無くなっており、頭がひんやりしている感じがする。
 両手で触ってみると、冷たさを超えた激痛が走り、まるで冷凍庫の氷を手で掴んで離れなくなった時のような感触がした。
 手を離そうとしてもくっついて離れないため、無理やり引き剥がすと、掌に激痛が走り、ジンジンと痛む。
 勇儀は自身に何が起きているのか全く把握できなかった。
 その時、不意に頭を後ろから引っ張られる感覚に襲われ、気が付くと、自分の後頭部を見下ろしていた。
 勇儀の後ろには、頭から引っ張り出されたドッペルゲンガーのような勇儀の分身がいて、
 彼女自身の体を見下ろしていた。ドッペルゲンガーを鷲掴みにして引っ張り上げているのは……人形少女達だった。
 髪の色は元のブロンドのままで、顔はマネキンだが、勇儀の知らない間に彼女達は黄鬼戒に操られ、
 同調していたのだ。頭部は生体と違い、人形なので、外見が変わらず、気付かれる事は無い。
 そして、心が引っ張り上げられた勇儀の体は微動だにせず、顔面は目を瞑ったまま凍らされており、
 両掌の皮が張り付いている。一方、皮が剥がれた両掌からは真っ赤な血が流れ出ていた。
 「⑨とハサミは使いようで動く。つまりは最強って事ね! ……誰かに言えと言われた気がしたわ。」
 黄鬼の首から上に、本人の頭が戻って来る。勇儀の頭に憑依して何かをしていたようだった。
 勇儀のドッペルゲンガーは、しまったという顔になり、阿修羅のような怒りの形相で唸り声を上げるような
 仕草をするが、本人の体はピクリとも動かず、いくら手足をバタバタさせようと、何も起こらなかった。
 そうこうしているうちに、凍らされていた頭が徐々に解け、張り付いていた手の皮が剥がれ落ち、
 瞑っていた瞼が自然と開く。そして、皮が剥がれていた掌の出血が止まり、薄皮ができ始め、徐々に治っていく。
 鬼の治癒力は半端ではなかった。……だが、もう遅かった。
 虚ろな顔のまま、物言わぬ人形となった勇儀は、そのまま地面に降ろされ、黄鬼の前に力なく跪く。
 そして、黄鬼は勇儀と握手を交わし、勇儀の体から鬼の力が吸われていき、能力がコピーされる。
 力をどんどん吸われ、勇儀は疲れたように瞼を閉じ、そのまま眠りに入る。
 そして、その様子を上から何もできないまま見下ろす勇儀のドッペルゲンガーの顔からは、闘志が消えて行った。
 徐に、人形少女達は空いているほうの手でスカートをたくし上げ、中に隠し持っていた拳銃を取り出し、
 勇儀の体を狙い撃つ。無抵抗のまま撃たれ続けた勇儀の口から一筋の血が流れ出る。
 さらに、黄鬼は動かなくなったもう1人の人形少女の体を呼び寄せ、彼女のスカートの内側から、
 拳銃を取り出し、自分のスカートの中から、ライフル「M1866イエローボーイ」を取り出す。
 拳銃を勇儀の全身に打ち込んで、手足の関節を破壊して動けなくした後、
 ライフルで心臓を狙い撃ちにしようと構えた瞬間、横から黄鬼一発の体当たりを受け、狙いを外す。
 その直後、それまで黄鬼が立っていた場所をマスタースパークの光が呑み込んだ。
 さらに、視界の両側から大量の水が迫って来るのが見えたため、咄嗟に全員で上へ逃げた。
 旧都のあった瓦礫の山は、まるで割れた海が元通りになるかのように、大量の水の中に沈んでいく。
 そして、水が引いた後は、何も無かったかのように、元通りの更地となった。

 (最終決戦第2ラウンド)
 勇儀の身柄は、魔理沙の手で安全な場所へ移動されていた。
 力をほとんど吸い取られた上に、拳銃で何発も撃たれたため、満身創痍の上、今は眠っている。
 心は吸われておらず、その表情には「負けた」とはっきり書かれているようだった。
 黄鬼達は、勇儀から吸い取った鬼の力を分け合う事で、戦いの傷を全快させていた。
 戦いが一段落付いた事を察知した黄鬼淋は天蓋から顔を出した後、地上まで降り、仲間と合流し、
 妖力を回復させる。犠牲者は人形少女1人のみという信じ難い程の完全に近い勝利となった。
 対する地底側の犠牲者は、旧都の地底妖怪達の大半と、勇儀。
 彼我戦力差からは考えられない途轍もない大敗である。
 冷静に分析してしまえば、今の黄鬼達と戦おうなどと考えられる者は誰一人いないだろう。
 特に、絶対に負けるはずの無い勇儀が負けた事が大きく響いている。
 黄鬼戒の後ろに、妖怪少女が立っている。
 実際の力はともかく、「鬼に勝った無敵の集団」から逃げられると思えるほど、彼女は能天気ではない。
 何も言わず、黄鬼戒に自らの頭を差し出す。
 幼黄姫により、彼女に追い掛けられるという暗示を掛けられていたが、
 黄鬼達と合流すれば確実に返り討ちにできるという安心感から、追い掛けられる事に対する切迫感が消えた事で、
 それが暗示による思い込みである事に気付き、暗示は既に意味を成さなくなった。
 早苗の制止も虚しく、妖怪少女は早苗に対し名残惜しそうに微笑み掛けた後、表情が消えた。
 その彼女の傍らには、凍てつくような眼差しを早苗のほうに向ける銀髪碧眼の少女がいた。
 視線を向けられる早苗のほうも、仇敵を見据えるような、見る者を震え上がらせるような、
 人間よりも、妖怪よりも、神様よりも、残酷な何かの眼差しを相手に向けていた。
 2人の睨み合いは数分間ほど続く事となる。
 黄鬼達は未だかつてないほど舞い上がっていた。だが……
 「勝って兜の緒を締めよ。……って、昔の偉い人が言ってたわ。
 でもね……そんな事言ってる時点で、私達は既に兜の緒を緩めているのよ。
 ……油断するなと言った時、既に油断しているの。……分かる?」
 「リーダー。そのような発言は、舞い上がっている証拠です。クールダウンをお勧めします。」
 黄鬼一発の冷めた一言により、黄鬼の顔が思わず引きつり、乾いた笑いが漏れる。
 「じゃが、たまには舞い上がるのもええのではないかのう? 終わらぬ戦いが続くんじゃ。
 ……戦いは、楽しめる者が最後に勝つのじゃ。終わらせたがる奴ほど、長期戦を嫌うからのう。
 儂らは端から戦いの後の平和なぞ求めてはおらん。その先に待つ結果なぞ変わらんのじゃから。
 だからこそ、笑って勝って終わりたいものじゃ。」
 そして、黄鬼淋のこの言葉で、現実に引き戻される。
 そう、黄鬼達は始めから死ぬつもりで戦いを仕掛けたのだ。
 もう後戻りなどできないし、しないつもりで始めたのだ。
 早苗達のほうも、戦う準備が整いつつあるようだ。
 遅れてやってきた十六夜咲夜、博麗霊夢、幼黄姫も合流し、丁度5人揃った。
 最終決戦の終盤戦が始まる。
  • 霧雨魔理沙 VS 黄鬼一発(無慈悲な人間砲台)
 魔理沙は黄鬼喫姫との再戦で完全に決着を付けるため、リーダーを狙いマスパをかますが、
 間に割って入った黄鬼一発の極大レーザー「アルティメットスパーク」により相殺されてしまう。
 天狗の新聞である程度の事を知ってはいたが、自慢のレーザーを相殺する相手だと分かり、
 まずは黄鬼一発のほうを片付ける事にした。
  • 博麗霊夢 VS 黄鬼羅羅(這い寄る紅蓮の水)
 霊夢は、一番先に確実に倒すべき相手を決めていた。幼黄姫から話を聞いた限りで、
 今回の異変を裏から後押ししつつ、仲間の支援や回復役を務めていた黄鬼羅羅こそ、
 異変のキーパーソンであるという結論に達した。
 さらに、直接相見えてみた所、とんでもない悪神クラスの穢れを秘めている事が判明。
 異変の最終ボス以上の極悪さだと分かり、迷わず退治する事とした。
 なお、早苗から話に聞いていた黄鬼戒については、黄鬼羅羅にも引けを取らない程、
 裏から異変を引っ掻き回していたにも関わらず、雑魚と判断。
 面と向かって直接戦う事が苦手なチキンと評し、早苗に全て任せる事とした。
  • 幼黄姫 VS 黄鬼喫姫(一人でも百人力な妖怪)
 彼女とは互いに因縁のある相手であり、最初から戦うと心に決めていた。
 色々聞きたい事は山ほどあったが、相手の覚悟の目を見た瞬間、全てを受け入れ理解した上で
 異変を起こしていた事を何となく察してしまい、双方の誤解やすれ違いなど無く、
 もはや言葉など要らないという結論に達してしまった。
 それでも、再会を喜び合いたかったが、そんな事をして打ち解けてしまったら、決意が濁って、
 互いにやるべき事ができなくなると思い、何も言わずに戦いを始めた。
 幼黄姫は、積もる話は異変解決の後でもいいと思った。が、黄鬼喫姫は……
 彼女達は、最後の最後ですれ違ってしまったのだろう。本当に分かり合える日が来る事は、無い。
  • 十六夜咲夜 VS 黄鬼淋(幼きネクロマンサー)
 黄鬼戒は早苗が担当すると自然と決まっていたので、残りの黄鬼淋を担当する事にした。
 残り物であっても文句を言わないのが瀟洒なメイドのしきたりなので、咲夜は何も言わない。
 だが、残り物には福があるという先人の教え通り、黄鬼淋との出会いには、ときめきのような何かがあった。
 その正体はよく分からなかったが、咲夜には、この戦いが心地良いものになる予感があった。
  • 東風谷早苗 VS 黄鬼戒(魂吸い女) & 名も無き妖怪少女(魂を吸われた妖怪人形)
 早苗は、もう相手と話す事など無かった。ただ、その忌々しい鼻っ面を引っぱたくため、
 神の一撃をお見舞いする事だけを考えていた。それくらい心底頭に来ていた。
 分かり合おうなどとは夢にも思っていない。互いに、本気の本気で殺しに掛かるつもりだった。
 黄鬼戒のほうも、自分の動きを散々邪魔してきた相手だけに、己の仇以上の憎悪を向ける対象であり、
 心を抜いて利用してやろうなどとは思わず、二度と視界に入らないよう、相手の神社ごと叩き潰すつもりで、
 戦いを挑む。
 最後の因縁の対決が始まる。
 勝利条件:黄鬼戒と、名も無き妖怪少女を両方倒す。
+ 負けた場合
 勝った場合、早苗は止めの一撃として、妖怪退治「妖力スポイラー」を発動。
 名も無き妖怪少女から、残りの妖力がどんどん吸われていき、ついに動けなくなり、眠りに落ちる。
 だが、黄鬼戒からは一切の力が吸い取れなかった。彼女は妖怪ではないのだろうか?
 しかし、人間相手でもある程度は通用するはずなのに、霊力や魔力すらも出てこないのはおかしい。
 ここで、黄鬼戒は満身創痍になりながらも、自分の能力変化に気付いた。
 いや、能力の「正体」と言っても差支えないだろう。
 吸い取れるのは心だけではなかったのだ。彼女の能力を発掘した黄鬼喫姫は、黄鬼戒にも自分と同様に、
 妖力などを吸い取る力が隠されている事を見抜いていたが、
 自分以外で、まだ信用できるかどうかも分からない元外来人が同じ能力を持つ事を警戒し、
 わざと教えなかったのだ。(これは、黄鬼戒が黄鬼喫姫の妖力を注がれて生まれた事が関係している。)
 妖力を吸い取れる力のある者が、妖力スポイラーによって、そう易々と力を吸われる訳もなく、
 逆に妖力スポイラーから妖力を吸い取り始めた。
 さらに、周囲を漂っていた黄鬼喫姫の残骸である怨霊の欠片をも吸い取り始め、
 霊夢が祓い切れなかった黄鬼羅羅の穢れの残りや、黄鬼淋の残りの妖力までもが彼女のものとなり、
 まるで合体怪獣のような様相を呈して来た。
 黄鬼戒は黄鬼淋の能力を使い、巨大な卵のような形をした土のゴーレムを召喚し、その中に入る。
 魔理沙が巨大な卵に向けてマスパを放つが、ビクともせず、まるで効果が無い。
 だが、相手も黙ってやられるがままでいるわけではなく、抵抗の姿勢を見せ始めた。
  • 早苗達5人 VS 巨大な卵型ゴーレム(???)
 卵型ゴーレムの表面に、黄鬼一発の頭部がビッシリと生え、レーザーやプラズマを発射し始める。
 勝利条件:卵型ゴーレムに一定のダメージを与えるか、一定時間経過するまで耐えしのぐ。
 早苗以外のメンバーは全員NPCであり、魔理沙以外は体力切れのため、後方支援のみとなる。
 魔理沙は攻撃担当でマスパを撃ち続けるが、敵の攻撃をうまく避けるので、脱落しない。
 さらに、マスパには接触判定があるので、予告レーザーを見ながら回避する必要がある。
+ 負けた場合
 勝った場合、卵型ゴーレムが割れ始め、中から眩い光が放たれ、大爆発が起こる。
 ついに最後の異変中心人物を倒したかに見えたが、そうではなかった。
 卵型ゴーレムは、魔理沙の放ったマスパをも吸収し続けていたのだ。
 それらの力が十分に溜まった事で、「進化」の準備が整い、卵型ゴーレムが割れたのだ。
 つまり、どっちにしろ止められなかったと言う事だ。

 (最終決戦最終ラウンド)
 割れた卵の中から、白銀の翼が生え、凍てつくような碧い三眼を持つ、自らを神と気取ったかのような
 気障ったらしい格好に様変わりした黄鬼戒が現れた。彼女は自らを「ゴッド」と名乗った。
 今の戦いで、早苗達5人は完全に力尽きてしまい、もはや戦える力などこれっぽっちも残ってはいなかった。
 魔理沙に至っては、必死でマスパを撃ち続けたのが却って仇となった事で、
 完全に心が折れてしまい、彼女の目は絶望に染まり、らしくなく、シクシクと泣いていた。
 早苗も、最早これまでと言った心境となり、俯いたまま、神様の名前を心の中で唱えていた。
 「神奈子様……諏訪子様……私達を……どうかお救いください……」
 そんな早苗の傍らに、神奈子と諏訪子の分霊がうっすらと現れる。
 どうやら、先程の間欠泉地下センターでのお空との戦いで力を使ってしまったため、
 今出せる力があまり残っておらず、分霊として具現化しながら戦うのは無理らしい。
 そこで、残りの力を早苗一人に預ける方法を選んだ。早苗の体に2柱の神々の力が注がれる。
 ……さっきまで早苗が跪いていた場所に立っていたのは、諏訪子の帽子を被り、神奈子の注連縄と御柱を背負う、
 神となった新たな早苗である。彼女は自らをこう名乗る。「パーフェクト守矢」と。
 早苗が究極形態へ変貌を遂げたのを確認したゴッド黄鬼戒は、それに煽られるように、三眼の色を、
 青一色から、青(右)・黄(上)・赤(左)の3色へと変化させ、翼の片側(左)を漆黒へと変え、
 頭髪は灰色に変化した。黄鬼達5人の色を全て備えた四神相応かつ完全な合体形態のつもりらしい。
 本人達は至って真面目であり、必死なのだが、何も知らない人が見たら、失笑するかも知れない。
 その場にいる人間達は皆真剣そのものだが。彼女達の様子を遠巻きに眺める妖怪が2人。
 古明地姉妹である。さとりは、お互いの心を読み、その心中にあるものを理解した事で、
 真剣な眼差しで戦いの行方を見守っていたが、妹のこいしは、反応に困っていた。
 「やだ……なぁにこれぇ……」
 勝利条件:パーフェクト守矢で、ゴッド黄鬼戒を撃破する。
+ 負けた場合
 勝った場合、満身創痍となり、穢れと狂気が祓われた黄鬼戒からは、白と黒の翼が失われ、
 三色に凍てつく三眼も消え、元の姿に戻る。そのまま意識を失い、彼女は夢を見る。
 外の世界で生まれ、過ごして来た人生と、幻想郷に迷い込み、妖怪に喰われて一度死んで、
 蘇ってからの新たな人生の全てを走馬灯のように追体験していた。
 そこで、彼女は昔の自分がどれだけ常識的だったか、蘇ってからの自分がどれだけ薄情で、
 周囲を踏みつけて恥知らずで非常識な生き方をしてきたかを、直視せざるを得なくなり、
 堪えられなくなった。そう、自分が心底嫌になったのだ。誰かに救って貰いたかった。
 目が覚めた彼女は、目の前にいる神々しい女性のシルエットを見て、女神様だと思い、
 助けを乞うた。すると、目の前の女性は聖母のような微笑みを見せ、手を差し伸べてくれた。
 その瞬間、彼女の心は救われ、妖怪への憎しみから解き放たれ、目の前が光で包まれた。
 グッドエンド。

 (異変解決後)
  • 黄鬼一発
 魔理沙の手で完全消滅し、ゴッド黄鬼戒の卵に使われたスペアの頭部も消失したため、
 もう現存しないと思われていたが、地底の地中やら、天蓋の中にあった秘密基地内など、
 あちこちから隠されていたスペアが出土した事で、これらを平和利用できないかという話になった。
 旧都は壊滅的な被害を受けたため、復興のために少しでも人手が欲しかったという事情もあり、
 土木作業員として、首無し少女の残党達の頭に接続して、使役する事となった。
 さらに、旧都の地形を滅茶苦茶にした主犯である黄鬼淋も工事に駆り出され、
 ゴーレム作成の術を用いて復興に大きく役立つ事となる。
 その後は、お役御免となったため、別の働き口を探す事となり、地霊殿のメイドや、
 灼熱地獄の死体運び、間欠泉地下センターの警備や管理の代行などを務める事となり、
 残りは地上に戻って、紅魔館のメイド見習い、守矢神社の巫女見習いなどの仕事に就く事となる。
  • 黄鬼淋
 異変終了後、彼女一人だけが生き残ったため、当初は異変の責任全てを負う事となり、
 償いとして、地底の復興に携わる事となる。最初はあまりの重圧に押し潰されそうになり、
 死のうとした事もあったが、様子を見に来た閻魔から、現世での償いがあの世での裁判に反映される事や、
 重罰が当人のみならず、家族にも迷惑となる事などを告げられたため、逃げられないと悟り、
 先に逝った家族のためにも、必死で働いた。
 なお、閻魔の計らいにより、地底妖怪を含めた多数の妖怪を操り人形にした所業については、
 彼女の責任は軽いと言う事になり、妖怪達から恨まれる事は無くなった。
 地底での復興事業が終わった後、地上に返して貰える事となるが、地上では、
 人里で主義者らから支援を受け、協力関係にあった事を責められ、出入り禁止にされてしまう。
 だが、上白沢慧音らの説得により、酌量すべき事情があると知れ渡り、結局許された。
 その後は、慧音が教育などの面倒を見る事となり、生前の孫娘と同じように寺子屋通いを許される。
 ただし、生活力は大人と同じなので、学費と生活費は自腹となる。
 そして、人里でゴーレム職人として生計を立てる事となり、畑作農家などを相手に、
 動く案山子(実際はゾンビ)を売り出すなどして、色々新しい事を始めたらしい。
  • 黄鬼羅羅
 霊夢に退治された上、残りの穢れをゴッド黄鬼戒誕生のための糧として吸われた事で、
 完全にこの世から消滅する。霊夢が言うには、黄鬼羅羅を動かしていた穢れのような何かは、
 彼女が倒れた後、黄鬼戒へと乗り移り、新たな異変へと発展させたという事らしい。
 その新たな異変であるゴッド黄鬼戒も倒された事で、最早再び現れる切っ掛けすらも失ったとの事。
 唯一、霊夢自身ではなく守矢の手で最後の止めを刺された事だけが心残りらしい。
 「また出てきたら私が取っちめてやるのに」と、霊夢は語っていたそうな。
  • 黄鬼喫姫
 幼黄姫との戦いで全ての力を使い果たしたせいで、ラストワード発動前に消滅した。
 その後の戦いは残された首無し少女達が引き継ぎ、最後まで抵抗したが、あえなく全滅。
 彼女の本体である頭の怨霊は、消滅した後、欠片として漂っていたが、黄鬼戒により吸収された事で、
 ゴッド黄鬼戒の一部となり、その後再び倒された事で、あちこちに散らばって、
 残された首無し少女達に吸収された。そのため、記憶や人格の断片が首無し少女達の中に残っているらしい。
 完全に消えたわけではなく、いつか再び一個の妖怪として復活する日が来るのかも知れないが、
 いつになるか分からないし、その前に首無し少女達が寿命で全員死ぬ可能性のほうが大きいため、
 死んだ扱いとなる。
 これにより、異変のリーダーがいなくなり、異変は解決となった。
 彼女の持つ恨みや穢れなどは、ゴッド黄鬼戒が一手に引き受けたため、
 首無し少女達が新たな異変を起こす後継者となる事はあり得ないと思われている。
 だが、彼女と直接相対する事となり、自ら手を下した幼黄姫の顔には、影が差していた。
 彼女が一番、黄鬼の苦しみを理解していたのかも知れない。
 それでも、異変を自ら起こすような非常識な人物ではないので、心配する程の事では無いのかも知れないが。
 残された首無し少女達は、土木作業員になったり、メイド見習いや巫女見習いになったり、
 魔法の森に定住し、マネキン人形の頭を付けた妖怪として暮らし始めたり、
 虚無僧になってあちこちを放浪したり、食用人間飼育場跡に守矢の分社を建て、巫女になったりと、
 あちこちに散らばって行き、今でも幻想郷のどこかでひっそり暮らしているらしい。
  • 黄鬼戒
 ゴッド黄鬼戒となってパーフェクト守矢と戦い、成敗された後、自らの行いを悔いて、
 早苗に手を差し伸べられた事で、心が救われ、妖怪への憎しみに囚われなくなった結果、
 魂だけが成仏した。残された体は、物言わぬ抜け殻であり、酷く衰弱していたのだが、
 自らの手で死人を出すつもりまでは無かった早苗が必死で応急処置を施したため、
 奇跡的に息を吹き返した。その後、永遠亭に運ばれて治療を受け、回復する。
 が、彼女は以前とは全く別人になっており、能力も完全に失われ、ただの人間となっていた。
 改心したとか、そういうレベルの話ではなく、記憶はそのままだが、人格だけが別人になっていたのだ。
 言葉遣いや仕草は前のまま男っぽいものだったが、少女の体に相応しいキャラとなり、
 異変を起こした人物とは同じとはとても思えないほどであった。
 さらに、ゴッド黄鬼戒となった時の記憶だけは完全に抜け落ちており、
 その時自分がどんな恥ずかしい姿となり、何をしでかしたかも、全く憶えていないらしい。
 まあ、これは憶えていないほうがこれから彼女が生きて行く上で好都合なのだが。
 そういう事もあり、これからの彼女の名誉のためにも、ゴッド黄鬼戒の事は、
 異変関係者のみの秘密となった。言い換えると、「黒歴史」である。
  • 黄鬼戒の被害者達
 名も無き妖怪少女は、異変が終わった後、目が覚めるが、自ら再び異変に加担した事を憶えていたため、
 幼黄姫らに顔向けができず、一度は姿を晦まそうとする。
 だが、黄鬼戒が生きていると聞き、もう一度殺してやろうと息巻いて、永遠亭に乗り込むも、
 本人に泣いて土下座までされてしまった事で、怒る気も失せ、その後はしばらく彼女と話し込む事となる。
 それで、黄鬼戒本人は既にこの世にいない事を悟り、今の黄鬼戒は体と記憶が同じなだけの別人であり、
 悪いものに操られていただけの可哀想な少女だと勝手に判断する事で、それまでの所業を彼女なりに完全に水に流した。
 そう、自分と同じ被害者なのだと、そう思う事でしか、無垢な少女を許せなかったのだ。
 それからしばらくの間、彼女の目の前に幼黄姫が現れる事は無かったが、
 偶然でも流石に変だと気付き始め、自分が避けられているのではと思い、その理由に思い当たるふしがあったので、
 自分から幼黄姫に会いに行った。
 そして、冷たく目線を合わせようとしない相手の目の前で、土下座して謝罪した。
 医者の治療を受けながら、その治療を拒絶するような真似をした事に対する謝罪である。
 彼女の謝罪の真意を受け取った幼黄姫は、異変終了後、初めて彼女と目を合わせた。
 それからは、彼女は定期的に永遠亭のカウンセリングを受けるようになったらしい。
 ルーミアは、守矢神社で休んだ後、永遠亭に運ばれ、本格的な治療のため入院生活を送るが、
 治療費が払えなかったため、守矢神社が肩代わりする事となった。
 後遺症もなく、退院した後は、どこかへフヨフヨと飛んで行ったらしい。
 操られていた地底妖怪達は、幼黄姫の治療で心を取り戻した後、しばらく静養する事となり、
 永遠亭からの往診を受ける事となる。後遺症も無く、すぐに元気に動けるようになったらしい。
 お燐とお空はしばらく寝込んでいたが、永遠亭からの往診により、すぐに回復し、仕事に復帰した。
 2人とも後遺症やトラウマなどは無く、逆に互いの信頼関係がより深まったとの事。
 特に、お燐が操られている間の言動にお空が一切耳を貸さず、本当のお燐を信じ続けた事を
 お燐本人が憶えていたらしい。
 星熊勇儀は、力を吸い取られたために、しばらく動けずに弱っていたが、萃香が極上の酒を持って
 お見舞いに来たため、すぐに気力が戻り、鬼の力も順調に回復しつつあるらしい。
 今では普通に動けるようになったとの事。ただ、派手に喧嘩できるようになるまでには、
 もう少しかかるらしい。くよくよしない性格のため、負けた事については負けた事として受け止め、
 心の整理は既についているとの事。
 古明地さとりは、ペット達が元気になった事で、心が癒えたのか、ふさぎ込むのを止め、
 復興事業に協力したり、お役御免となったサイボーグ少女達の新たな働き口を斡旋したりと、
 東奔西走し続けているらしい。
 妹のこいしは、そんな姉の様子を横から面白がって見ているだけのようだ。
 だが、嬉しそうではある。
  • その他の人妖達
 霧雨魔理沙は、結果的にゴッド黄鬼戒の誕生に加担してしまった事を悔やんでいたが、
 その存在自体が黒歴史とされた事で、誰かに相談する事もできず、いつまでもくよくよと
 悩んでいるわけにも行かなくなったため、とりあえず忘れる事にした。黒歴史化その2である。
 そのおかげか、早く立ち直る事ができた。切り替えが早いのだろう。
 ゴッド黄鬼戒の黒歴史化は、パーフェクト守矢の戦いを闇に葬る結果にもなった。
 相手が分からなければ、戦い振りを語る事すらできないからだ。黒歴史化その3である。
 と言うわけで、守矢神社の信仰があまり増える事は無かった。
 早苗は話したくて仕様がないと言った感じで、しばらくは周囲を戦々恐々とさせていたらしいが。
 どこから話を聞きつけたのか、稗田阿求が手掛かりを得るため守矢神社を訪れた事もあったが、
 上白沢慧音の協力で、歴史を隠す事で、黒歴史の発掘は未然に防がれる結果となった。
 黄鬼の信者となっていた少女達は、異変の失敗と、黄鬼の死を聞かされた事で、絶望し、
 現実逃避のために、黄鬼をキリストのように祀り上げようとするが、
 首無し少女達との間で何やら口論となり、外様扱いされた事で、行き場を失う。
 その後、一部の少女達は黄鬼にさらわれ失踪していた事が発覚し、家族の元へ帰された。
 自分達が黄鬼の勝手な行動に巻き込まれただけの被害者だと気付いた者は、次々と離れて行き、
 残ったのは、身寄りも無く、行き場の無いごくわずかな者達だけである。
 一部は主義者らに匿われ、良からぬ事に首を突っ込みつつあるが、その主義者とも交わる事のできない者は、
 人間をも「無理解な集団」として見下し、虚無僧に成りすまして、再起の機会を伺ったり、
 首無し少女達の仲間に入れて貰うため、自分の頭を別の誰かに移植してもらい、
 残った自分の体を首無し人間に改造して貰えるよう懇願したりする者もいるらしい。
 その手術の成功例は未だ確認されていないが。
 あまりに勝手で悪質な振る舞いを続けている者達は、陰でスキマ妖怪の餌食にされているという
 噂を誰かが流し始めたのを機に、そのような「まつろわぬ」少女達はパッタリといなくなり、
 どこかの勢力に居場所を貰って落ち着いたらしい。
 ちなみに、その噂の出所はハッキリしないが、一説では、巫女装束を纏った首無し少女が
 柳の下にいるろくろ首に吹き込んで広めさせたという話である。
 天狗の噂なのでどこまで信じていいか分からないが。
 黄鬼達の秘密基地にいた外来人の男は、異変が失敗したのを見届けた後、ノートPC一台と、
 USBメモリ数本を持って、基地から姿を消した。
 その後、スキマ妖怪に見付かり、身包み剥がされ、荷物を全て没収された後、着の身着のままで、
 外の世界に帰されたらしいが、その後の足取りは不明である。結局、身元も分からず仕舞いだった。