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黄鬼異変 ストーリー(東風谷早苗ルート) EXTRAモード



注意(最初に必ず読んでください)
このストーリーには、極めて残虐な表現や差別的表現、陰湿な犯罪行為に関する記述が含まれている可能性があります。
それらの表現に嫌悪感を抱く方は、読むのを控える事をお勧めします。
また、途中で気分が悪くなられた方も、読むのを中止する事をお勧めします。
このストーリーには、おぞましい展開が含まれます。正気を削られないよう、心して読むことをお勧めします。
このストーリーは、勧善懲悪です。悪い奴は必ず退治され、良い人は幸せになれます。
希望を失わずに最後まで読んでくれる事を願います。

目次


ストーリー(EXTRA)

 (序章)
 そこは、山奥にある掘っ建て小屋の中。首の無い少女が数人と、人間の少女が一人いた。
 「本当にいいの? 後戻りできなくなるわよ。」
 「いいの。さっさとやってちょうだい。どうせこのままいた所で、普通の人間に戻れやしないのだから。」
 心配そうに言葉を投げ掛ける首無し少女に対し、若干自棄気味に答える人間の少女。
 「それに、そっちの子も、人間になりたいんでしょ? 私と真逆で。」
 そう言って、人間の少女が目線を向けた先には、首無し少女達の後ろのほうで縮こまってる気弱そうな
 一人の首無し少女がいた。彼女は背中を曲げるようにしてコクリと頷く。
 その日は、一晩中土砂降りの雨が続いた。明りが点けっぱなしになっていた小屋から、
 雨音に掻き消されつつも、わずかに悲鳴が漏れた。

 そして、一週間程経った頃、ベッドに横たわる首の無い少女を心配そうに見守る少女が一人。
 かつて、マタギの娘と名乗り、早苗達を引っ掻き回した少女だった。
 しかし、若干違和感のようなものがある。以前と比べて体つきが華奢な感じがして、背も低く、
 何より健脚とまで言われた健康的でしなやかな足が見る影もなく、細長いものとなっていた。
 喉元には包帯が巻かれており、髪も短く切ってある。まるで怪我でもしたか、手術でも受けたかのよう。
 そして、声も別人のように高くなっている。まるでそっくり取り替えたかのように。
 「……動かないわね。私……やっぱり無理だったのかな。人間が生きたまま首無しになるなんて。」
 ベッドに横たわる、その首無し少女は、マタギの娘を名乗っていた少女本人のものだった。
 自ら望んで頭を切除してもらったのだ。しかし、思い通りにはいかない。
 首の切断面に「脳虫」を移植して貰い、生き続ける事は可能になったものの、彼女自身の心が
 戻らないと言うか、空っぽのまま、植物のように動かないままなのだ。
 そして、彼女の体を見下ろす、彼女の頭を持つ少女は、頭の移植先となった元・首無し少女であり、
 彼女の記憶や人格を全て引き継いだ、もう一人の彼女自身だった。
 「魂は抜けてないはずなのに……霊力が足りなかったのかな……だから脳虫を操る事もできずに、
 自分で物を考える事もできないのかも……」
 少女は、かつての自分の無残な成れの果てを見つめながら、嘲笑するかのような視線を投げ掛ける。
 「全く……馬鹿な子……折角望みが叶ったはずなのに……こんな事になるなんて……自分の事なのに、
 可笑しくてたまらないわ。あなたは大馬鹿よ。……それに引き換え、私は人間になりたかった子の体と
 魂を引き継いだおかげで、今はこんなに幸せな気持ちになってる。人間止めたかったはずなのに。」
 そして、しばらく憐憫の眼差しを向けた後、ふとした事を思い付く。
 「そうね……首無し少女の望みを叶えてあげた心優しい私に対するご褒美を考えなくちゃね。
 このままじゃ、元の私があまりにも可哀想だから……とっておきのプレゼントをね……」
 それから程なくして、小屋の近くにあった墓石の下が掘り返され、中にあるものが持ち去られる
 という出来事が密かに起きたが、無縁仏のようなものなので、誰も被害を訴えず、事件化しなかった。

 ある日の朝、ある少女が目覚めると、目の前に見慣れない天井があった。そして、何だか体が軽い。
 無意識のうちに伸びをして唸ってみると、喉元から妙に高い声が出て来る。聞き覚えがあるような、
 ないような……しかし、どことなく、愛する娘に似た感じがする。
 そして、朦朧とした意識のまま布団から立ち上がると、真っ白な一繋ぎの薄手の服という着慣れない
 格好である事に気付き、体を見下ろすと、そこに見たことの無いコブのようなものが二つ付いていた。
 「何じゃこりゃぁ~~~~~!!!???」
 その少女は、年頃に見合うほど育った体に見合わず、少年もしくは男のようなガサツな仕草で、
 食卓の前に片膝立てて座っていた。髪形もボサボサで、顔は美女と言っても差支えないほど端正だったが、
 それを掻き消すほど、雰囲気が男そのもので、目つきも荒んでいた。
 「……で、俺がお前の体で生き返ったってわけか?」
 「そうよ。お父ちゃん。その体は私のものだったのよ。で、私は別の子の体を貰ったってわけ。」
 「……俺は今生きているのは嬉しいが、お前の父ちゃんはこんな事をしろと頼んだ覚えはないぞ。」
 「私がやりたくて勝手にやった事だから、感謝しろだなんて言うつもりは無いわ。
 お父ちゃんが生きてる事が私にとっての御褒美なのよ。その体にも、この頭にとってもね。」
 「俺は、お前をそんな子に育てた覚えは……」
 「でも、今のお父ちゃんは、そんな子の体と魂で生きてるのよ。厳密には、死んだお父ちゃんは
 もう戻っては来ないけど、お父ちゃんの可愛い娘が身も心もお父ちゃんになりきってくれてるの。
 だから、心配しなくてもいいわ。お父ちゃんはお父ちゃんらしく、私の体で幸せになってくれればいいの。」
 自分の娘のあまりに身勝手な理屈に父親として腹を立てそうになるが、体の奥底から込み上げてくる
 幸福感と言うべき感情に押し流され、この少女は娘の顔をしている少女を叱る感情が湧いて来なかった。
 (これは……俺の……なのか? こんなに嬉しいのは……こいつは喜んでいる……のか?)
 マタギの娘の父親だった少女は、自らの感情に任せ、幸せそうに笑うしかなかった。

 人里の片隅にある日当たりの悪い路地裏に、ガラの悪い男たちが屯していた。
 「……で、次の標的はそいつらってわけか。」
 「そうです兄貴。こいつらは非力な上に強力な味方もおらず、数に物を言わせるしかない烏合の衆ですよ。
 おまけに、金をしこたま貯め込んでるって噂ですし。」
 「くく……弱いものを見抜く事に掛けて、お前の右に出るものはいないからな。今度も期待してるぞ。」
 「ありがとうございます。兄貴にそう言われるとこれまで着いてきた甲斐があるというものです。」
 「楽しみだなぁ……かわい子ちゃん達に思う存分ぶつけまくれるのか……早く会いたいぜ……」
 そう言って笑い声を上げる男達の顔には、限りなく下卑たドス黒い笑みが張り付いていた。

 (出発点:守矢神社)
 神社の境内で、早苗は掃き掃除をしている。その時、鳥居を潜る女性の姿を見付けたので、
 参拝客かと思い、挨拶してみる。すると……
  • オシャレな町娘
 その娘は、ある依頼のために神社を訪れたらしい。妖怪退治の依頼だった。
 (既視感があるのは気のせいでしょうか……まるでこの間の異変の始まりと同じような……)
 町娘は空を飛べないらしいので、巫女見習いロボットを一人同伴させ、おぶって行って貰う事にした。
 武装解除されたとはいえ、サイボーグなのでいざという時の戦力にもなる。
 話によると、家族が山へ芝刈りに行った時、見慣れない掘っ建て小屋の傍を通り過ぎようとすると、
 首無しの少女達を連れたマタギの妖怪が現れ、突然襲われたらしい。命からがら逃げ帰った後、
 里の男達を何人か連れて、再び訪れた時に、妖怪がもう一度現れ、何人かが襲われ、また逃げ帰る
 羽目になったとの事。並の男達数人がかりでも歯が立たない程、恐ろしく強いらしい。
 外見はマタギの格好をしたナマハゲのような感じで、鬼の面を被り、身の丈程もある大鉈を振るい、
 向かっていく男達を次々と切り伏せて行ったとの事。背丈まではよく分からなかったが、恐ろしさの
 あまり、大男のように見えたらしい。

 (中間地点1:マヨヒガ)
 途中で、巫女見習いロボットがエネルギー切れを起こしたため、水分補給と休息のため、寄り道を
 する事とした。彼女は人一人背負いながら飛び続けるのにヘトヘトになっていた模様。
 (この程度の距離でへとへとになるなんて、首無し少女さん達って案外ひ弱なんですね……)
 「今、わたくしの事、ひ弱だと思いませんでしたか?」
 「いいえ、別に。(ロボットさんの割に鋭いですね……)」
 「わたくし達は、人を背負って飛ぶ程のイメージ力に乏しいだけで、体は土木作業ができる程度には
 丈夫なのですよ。黄鬼達や、一緒に戦った子達は特別です。霊力や妖力や魔力でカバーしてますから。
 首無し人間には脳がありませんが、人間の脳と同じ程度に知能が発達してなければ、空を飛ぶ程度の
 イメージすら作り出すのは難しいのです。魔力の無い無力なロボット頭も大して変わりません。」
 「体力アピールのための屁理屈を必死で捏ねられる程度のイメージ力があるのは確かですね。
 飛ぶのが辛いなら、これからは歩きながらおんぶするようにしましょうか?」
 「……いいえ、すみません。自重します。」
 「私も責めるつもりなんてありませんよ。少し言い過ぎました。力仕事を任せてるほうなのに。
 キツイでしょうが、後もう少しです。依頼人の運搬頼みますよ。」
 「はい。お任せください。」
 そこに、屋敷の主がクーラーボックスを抱えながら現れた。
  • 橙(凶兆の黒猫)
 「そこのロボットちゃん、燃料切れにはロボビタンAが一番効くよ。一本いっとく?」
 透明なペットボトルを取り出しながら言う橙に対し、早苗が即ツッコミをするが……
 「それは間に合ってます。ウチでは蛇口から飲み放題ですから。」
 「ふぅん……いつも燃料が湧き出て来るなんて、やっぱりあそこはロボットの神様が住んでたのね。」
 「私はロボットは好きですけど、神奈子様はそんなんじゃありませんよ。」
 「誰も名指ししてないのに……自爆するなんてやっぱりロボット……」
 ここで、早苗は話を逸らすように、唐突に別の話に変える。
 「そんな事より、こないだ買った飲み物なんですけど、違う味は売ってるんでしょうか?」
 「へ? あるけど……いるの?」
 「私も幻想郷暮らしが長くなったせいで、外の世情にすっかり疎くなってしまいました。
 この間頂いた缶入り栄養ドリンク……中々に刺激的なものでしたので……別の味のもあればと……」
 「なら、これでもどう?」
 早苗は神社のツケで何本かドリンクを買った。最近羽振りがいいらしく、少々の無駄遣いは
 大目に見て貰えるらしい。
 そんなやり取りを一段落させた後、早苗達は井戸水を分けて貰い、出発した。
 そこに、行き違うように、もう一人の訪問客が訪れる。
 「やあ、いらっしゃい。」
 「……こないだのアレ、一本くださる?」
 「はいよ。毎度あり。最近お仕事大変なの? 疲れてるっぽいけど。」
 「異変の後始末で師匠や先輩方が引っ張りだこなのよ。私も地底担当だったから……」
 「そりゃ大変だね。あそこは特に酷かったんでしょ?」
 「ええ……地形まるごと変える異変なんて天人以来だって、博麗の巫女が言ってました。
 規模で言うならそれ以上かも知れないとも。」
 「強い人妖ほどルールを弁えるけど、今回は弱者の反逆みたいなものだったからね。
 まるで外の世界で起きてる『非対称戦争』みたいだって、紫様や藍様が仰ってたよ。
 弱いから、わざとルールの隙を突いて、周りを巻き込んで滅茶苦茶にしてしまうって。
 ホント迷惑だよね……こんな事されたら、大人しくしている私達弱い者まで警戒されちゃうのに。」
 「でも……彼女達の気持ち……少しは分かる気がします。外の世界で虐げられてる弱い人達も、
 彼らなりの理由があって、強者に楯突くため、必死で知恵を絞ってるだけなんでしょう。」
 「うん……そうだね……あの子達は……被害者でもあるからね……」
 「私が言うのもなんですけど、わざわざ牧場なんか作る必要があったのでしょうか……
 私が直接見た感じ、あの人……と言っていいのか分かりませんが、は好き嫌いとか無さそうでした。
 よりにもよって人間でなくても……」
 「それは……人間のエゴだよ。仮に、牛や豚ならいいとして、牛や豚が喋れたら何て言うのかな。」
 「!!」
 「喋れないから、頭が悪いから、何をされてもいいと言うなら、首無し人間も家畜にされても
 仕方が無いって言えちゃうよ。あなたの前でこんなひどい事言いたくないけどさ。」
 「それは……」
 「ここでは喋れない鳥や兎や魚が食べられてるけど、喋れる鳥や兎や魚の妖怪だっているし、
 一部は捕食されてる。外の世界では犬や猫を食べる人達もいるらしいし。昔は猫の皮を楽器の
 材料に使ってたらしいよ……だから私、三味線とか嫌いなんだよね。」
 「すみません……何と言えばいいか……」
 「ううん。気にしないで。たとえ相手が妖怪を食べるような悪鬼の類だったとしても、紫様は、
 幻想郷のためならばと、妖怪飼育場を作ったでしょうね。つまりは仕方が無かったのよ。
 そのお陰で赤い人青い人だって生まれたんだし、あなたの片割れがいたおかげで、
 命を繋ぐ事もできた。前向きに考えましょ?」
 「はい。……大分気分が晴れました。考えにも整理が付きましたし。
 ……あ、お代はツケでお願いします。経費で落とせるので。」
 (地霊殿からの臨時収入のお陰で大幅黒字だし、私の評価もうなぎ上りだから大丈夫よね。)
 「毎度あり。……ところで、ちょっと頼まれてくれる? 依頼料なら払うからさ。紫様直々にね。」
 「……はい、何でしょう?」
 橙から幼黄姫にメモが手渡される。

 (中間地点2:山奥の掘っ建て小屋)
 掘っ建て小屋の窓から外を覗く少女。マタギの娘から「お父ちゃん」と呼ばれている少女だ。
 彼女の目つきは険しい。何かを警戒している様子。
 「またあいつらか……?」
 「お父ちゃん……大丈夫?」
 「ああ……心配ない。妖怪変化でも連れて来られない限り、俺が連中に負ける事は無いからな。」
 そして、徐に立ち上がると、古くなった戦闘服に身を包み、蓑と笠を被り、鬼の面を付ける。
 背中に少女の背丈程もある大鉈を背負い、外に出た瞬間、全身から覇気のようなものが立ち上り、
 背丈が高くなったような印象を周りに植え付ける。パッと見少女とは誰も分からないだろう。
 そこに、早苗達が現れた。
  • VS ナマハゲ妖怪(に扮したマタギ少女)
 マタギ少女は、早苗の傍にいる、見覚えのある町娘を一目見て、警戒を強めた。
 気配を隠してはいるが、早苗達の後ろには、数人の男達が息を潜めているのが分かる。
 そして、上空にも飛行物体が一匹。鳥に紛れ、うまく隠れているつもりだろうが、
 マタギ少女の野生のレーダー網に掛からないのは難しいだろう。ただ、こちらは敵意は無いため、
 スルーしても構わないと判断し、無視する。
 まずは、目の前にいる青い巫女装束を着た女をどうするかに専念する事とした。
 早苗は、ナマハゲ妖怪から発せられる気配が妖怪とは異質である事と、雰囲気と違い、
 よく見ると体格はそれ程大きくなく、むしろ自分と同年代の少女くらいしかない事を
 短時間で見抜いた。だが、同時に悪意が感じられず、むしろ何かを守ろうとしている意思や、
 そのために虚勢を張っている感じがしたため、この「妖怪」の正体を今ここで看破してよいものか
 決めかねていた。それは、背後で息を潜めている男達の気配を感じた事で、これから起こると
 予想される「弱い者いじめ」の引き金になりかねないと言う懸念が生まれたからでもある。
 だが、まだ後退する時ではない。このまま前へ進めと、神の意思が早苗に囁きかけている。
 よって、早苗はこのまま「無言」で、ナマハゲ妖怪と戦う事を決めた。
 イベントバトル。お互い本気を出さずに腹の探り合いをする程度なので、勝っても負けても、
 お互い致命傷とはならず、先へ進む。
 ナマハゲ妖怪はスペルカード宣言をせず、大鉈を振り回しながら通常弾幕を放つ。
 勝利条件:相手の通常弾幕を3回撃破する。
 勝負が終わり、互いに消耗したところで、背後から男達が一斉に姿を現した。
 横で見ていた町娘はいつの間にかその場を離れ、遠くへ逃げていた。
 「よくやってくれた。守矢の巫女様。これで俺達でも手に負える。……よく見りゃちっこいガキ
 じゃねぇか。よくも俺達を散々虚仮にしやがったな。覚悟しろい!」
 男達は一斉にナマハゲ妖怪に飛び掛かる。が、簡単にやられる相手ではない。
 早苗との戦いがそれ程堪えてなかったのか、大鉈を軽々と振り回し、軽い身のこなしで男達を
 翻弄する。が、覇気での威圧が効かなくなったせいで、どうしても攻撃に重さが乗らず、
 男達の力と数に徐々に押されていく。
 ここで、ナマハゲ妖怪が懐から拳銃のようなものを取り出し、上に向けて信号弾を放つ。
 すると、男達の反対側から首無し少女達が一斉に飛び出し、弾幕を放ち始めた。
 「うわぁぁ!! 守矢の巫女様! 助けてくれぇ!! 首無し妖怪が出たぁ!」
 早苗は男達から促されるままに、首無し少女達に応戦し始めた。
 「あなた達……また性懲りも無く……今度は妖怪として人を襲う側に鞍替えですか?
 ただの好戦的な輩でしかなかったのですね……がっかりです。」
 早苗は冷たく言い放つが、言われたほうの首無し少女達は全く堪える様子も無く、悪びれもせず、
 平然と攻撃を続ける。しかし、どこか切迫感や決め手に欠けていた。
 勝利条件:首無し少女達のスペルカード5枚分を切り抜ける。
 ボム禁止で、ミスしてもクリア扱いのラストワードのみなので、自動勝利となる。
 大方決着が付いた頃合いで、早苗は反撃のためのスペル発動の構えを取る。
 後ろでは、男達が反撃のチャンスを伺っていた。
 (まだですか……もうこれ以上粘るのは限界です。いい加減、決めちゃいますよ……)
 早苗は覚悟を決め、首無し少女達に止めの一撃を放とうとした。その時……
 早苗の放った弾幕は、上空からの激写で全て掻き消された。
 本人はギリギリでファインダーから外れていたため、無傷だったが。
 (今です!)
 早苗はそれが予定調和であったかのように、瞬時に男達のほうへ向き直る。
 「あなた方の企みは全てお見通しです。二度も担がれる程、神様はお人好しじゃありませんよ!」
 そう啖呵を切った早苗を見て、事情を悟った男達は……逃げるでもなく、早苗に食って掛かる。
 「てめ! ふざけんな! さっきから温い弾幕ごっこばかりやってると思ってたが、やっぱり
 三味線弾いてやがったな! 俺ら舐めたらどうなるか、思い知らせてやる! 覚悟しろい!」
 弾幕攻撃は上空からの激写で掻き消されると踏んでか、男達は武器を手に白兵戦を挑んでくる。
 「私が直接出るまでもありません。と言うか、どんな理由であろうと里人に手を出したら、
 現人神としての格に関わりますから。」
 早苗は男達の手の届かない所まで飛び上がり、弾幕でしか対応できないよう距離を取る。
 そして、代わりに巫女見習いメイドロボ「黄鬼一発Mk-2」が前に出た。
 「東風谷様には手出しさせません。わたくしがお相手いたします。」
 しかし、男達は怯む様子も無く、懐からテーザーガンを取り出し、メイドロボに向けた。
 「へっ! こいつは頭が機械で出来てるから電気に弱ぇんだ。これブチこみゃ一発でお釈迦さ!」
 「考えましたね……ですが、私の頭はプラズマにも耐えられるんですよ。そんな物は通用しません。」
 「やってみなきゃ分からねえよ!!っと。」
 男達がメイドロボに向け一斉にテーザーガンを発射した瞬間、メイドロボの目がパカパカと明滅した。
 その瞬間、男達の何人かが卒倒する。倒れていない男達も思わず目を押さえる。
 狙いの外れたテーザーガンは何発か横に逸れるが、メイドロボの体に数本刺さり、電撃が走る。
 そして、メイドロボの体が痙攣し、力なく崩れ落ちた後、動かなくなった。
 「ロボットさん!!!」
 早苗は上空から思わず声を上げるが……
 メイドロボは震える手でサムズアップをして見せた後、自分で自分の胸を思いっ切り叩き続け、
 何回か叩いた後、口から血を吐き、咳き込む。
 「ごぼっ!! ……はぁ……はぁ……蘇生……完了……心機能回復……しました。」
 そして、膝を震わせながらも、何とか立ち上がる。
 しかし、目を押さえていた男達も立ち上がり、再びテーザーガンを構える。
 「けっ……化け物め。今度こそ仕留めてやる!」
 その時、男達が突然白目を剥き、泡を吹きながら倒れた。これで全滅である。
 男達の背後から、景色の歪みから揺蕩う湯気の如く、幼黄姫が目を赤く光らせながら現れた。
 「臭いわね……ここ。ドブネズミの臭いがプンプンするわ。久しぶりに嗅いだ気がする。」
 そう無表情で言い放つ彼女の目は……辛辣な言葉とは裏腹に、ルビーのように透き通っていた。
 その様子を物陰から携帯カメラで撮影する町娘。取られた映像は瞬時にどこかへと送られていた。
 幼黄姫の顔がアップで映っている画面を凝視しながら、男は腹の底から込み上げて来る笑いを
 堪え切れずにいた。
 「くく……見ぃ付けた……こんな上玉になってたとは……神様ってのは突拍子も無い事をするもんだ……」
 「兄貴……まさか……この女……」
 「ああ……幻想郷ってのは、何でも受け入れちまうのさ……それはそれは残酷な話って奴だよなぁ……」
 そう呟く男の顔は、ドブネズミのようにドス黒く、下卑た表情に覆われていた。

 戦いが終わり、辺りに潜んでいた男達は全て意識を失い、幼黄姫の麻酔により眠らされている。
 鈴仙の能力によるものであり、暗示が混じっているので、当分目を覚まさないだろう。
 上空からは、携帯カメラを持った姫海棠はたてが降りて来た。
 早苗は、ナマハゲ妖怪に対し、自己紹介を行う。
 「初めまして。守矢神社の風祝・東風谷早苗です。今日は色々あって、あなた方を助ける事と
 なりました。身辺警護や調査を兼ねて、自宅に案内していただけると嬉しいのですが……」
 ナマハゲ妖怪は、早苗の顔をジッと見ながらしばし考えた後、無言で手招きする。交渉成立か。
 掘っ建て小屋の中には、ナマハゲ妖怪の他、首無し少女数人と……マタギの娘を名乗った少女がいた。
 彼女は早苗と視線を合わせるが、気まずそうに眼を逸らす。
 「あら……自称マタギの娘さん。お久しぶりです。まだ首無しの件に関わってらしたのですか。
 神奈子様からあれだけの御指導をたっぷりと受けておきながら……懲りないですね。」
 早苗のその言葉を聞いた瞬間、マタギの娘の顔が曇り、悲しそうな目つきをする。
 その時であった。ナマハゲ妖怪は鬼の面を外し、顔を露わにしてみせる。
 「……その事については、この子の父親として、大変申し訳なく思っています。すみません。
 親の教育が行き届かなかったばかりに、こいつは色々とご迷惑を掛けていたようで……
 差支えなければ、詳しい事情をお聞かせ願いたいのですが……」
 (父親? この子が……? 子供よね……?)
 「ああ……このナリについては、後で詳しく説明します。」
 「はぁ……」
 釈然としないながらも、早苗はこの父親を名乗る子に対し、これまでの経緯を説明した。
 「なるほど……こいつがそんな小芝居じみた真似をね……父さん何だか悲しくなってきたぞ……」
 父親は、娘に対しジト目で冷たい視線を投げ掛ける。
 「ところで……あなたがお父様だと言うのなら、あの時どこで何をしてらしたんですか?
 娘さんが危険な事に首を突っ込まれていると言うのに……」
 早苗は至極当然と思われる質問をぶつける。そして、これは核心を突くものでもあった。
 「俺は……草葉の陰で眠ってました。すんません。見ている事すらもできなかったんです。」
 そう申し訳なさそうに述べる父親の目は、物悲しげであった。
 (草葉の陰? もしや……)
 早苗は、父親から娘のほうに視線を切り替え、冷たい眼差しで睨み付ける。
 娘のほうは、とうとう観念したのか、話し始めた。
 「そうよ。私が呼び戻したのよ。お父ちゃんを。」
 「じゃあ……まさか……この人の体は……」
 「勘違いしないで。お父ちゃんの体は正真正銘、生粋の人間よ。私が巻き込んだのよ。
 一人寂しい私へのプレゼントとして、ね……」
 そして、娘のほうも、詳しい経緯を話し始めた。が、話を聞くうちに、早苗の顔色が
 どんどん変わっていくのが傍目からも見て取れる。
 「あらら……そりゃ思い切った事をしたわね……首チョンパに、体交換、反魂の術だなんて……
 最近の人間を舐めてたわ……(こりゃ記事にできるかどうか分からないわね。)」
 はたても流石に引いている様子。
 「いくらなんでも常識に囚われなさすぎでしょう……これが幻想郷ですか……付いて行く自信を
 無くしかけています……私はどうすれば……」
 早苗は顔面蒼白となり、怒る気力も失せていた。
 「いやいやいや。そこまで常識無視するのは流石にどうかと思うよ。幻想郷でも。」
 「ですね……そんなに軽々しく命のやり取りをするのが当たり前になるのはどうかと思います。」
 はたてと幼黄姫は、早苗の投げ槍な言い方に即ツッコミを入れる。
 「ところで、東風谷様はなぜ、俺達が事情を明かしてもいないうちに、味方をしてくれたのですか?」
 父親は、話題を本筋に戻すために核心に迫る質問を投げ掛けた。
 「あ……それはですね……先程お話した通り、依頼人に関する調査をする事になりまして……
 担がれたり、嵌められるのを防ぐためです。私を頼ってわざわざ神社まで足を運んで下さった方々に
 疑いの目を向けるのは正直憚られるのですが……異変が関わってくるとなると、被害が大きくなって
 しまいますので、念のため致し方無く、そうする事にしました。」
 「それで、早苗はそこにいるメイドロボに事情を伝えて、通信の媒介役として働いて貰ったってわけ。
 私は事情を教えて貰って、依頼人の身辺調査やら行動追跡やらを小一時間でチャチャっと済ませたのよ。
 依頼人は真っ黒だったわ。と言うか、彼女の背後にいるゴロツキ共が限りなくドス黒い連中でね……。
 あなた達の事狙ってるみたいよ。」
 「それで、姫海棠様からの調査結果待ちのため、東風谷様には戦いを引き延ばして貰ってたのです。
 どちらに転んでも上手く行くようにと……」
 「私は、マヨヒガで橙さんから早苗さんについて事情を聞き、二重尾行のような真似を行いました。
 早苗さんのフォローのために、しばらく隠れて様子を伺ってましたけど。」
 「で、調査結果がギリギリで纏まったから、通信で伝えるよりも、手っ取り早く激写で伝えたのよ。
 依頼人は敵で、標的のほうを守れってね。」
 「大体そんな感じですね。ですが、私は幼さんまで巻き込むつもりはありませんでした。
 何故この事を橙さんから? てっきり橙さんが尾行するとばかり……」
 「そればかりは、私にも分かりかねます……おそらく橙さんよりも私のほうが適任と判断したのでしょう。」
 (何か引っ掛かりますね……あの子は頼まれ事を人に丸投げできるような子には見えないのですが……
 他に誰かが絡んでるとしたら……まさか……)
 早苗はどうやら感付いている様子。ただ、意図までは読めない。
 「なるほど。大体分かりました。」
 父親は、分かったのか分かってないのかよく分からない返事をする。
 「では、護衛よろしく頼みます。正直、あの男衆相手に、女手だけでは不足を感じてた所ですし。」
 「私達も女手しかいないのですが……」
 「あはは……そういや、ここには男はいませんでしたね。」
 そう言って豪快に笑う「父親」と呼ばれた少女を目の前に、早苗達は微妙な顔となる。

 話が一段落し、はたてと幼黄姫は一旦その場を離れる事となった。
 ついでに、幼黄姫は外で眠っている男達全員に再び暗示を掛け、竹林まで連れて行く事にする。
 行動を封じる目的と、事情聴取の他、首謀者から守るためでもあった。
 この男達もまた被害者であると、「経験上」見抜いていたのだ。本当であれば、町娘も一緒に連れて
 行きたかった所だが、間一髪で逃げられたため、それは断念する事とした。
 敵に見付かるとまずいので、自分を含め、全員に迷彩を施し、人里を避けて空から竹林へ直行する。
 その時、男の一人が隠し持っていた携帯のバイブが振動している事に、幼黄姫は気付かなかった。
 ちなみに、幻想郷は結界により外と隔離され、あらゆる電磁波すらも通らないため、GPSが使えない。
 同様の機能を使うには、式神を憑けたりするなどの代替手段が必要となる。そして、人里の住人達に、
 そのような技術は無い。よって、携帯を鳴らす行為は生存確認および連絡のためだろう。
 男は暗示に掛かっているため、電話に出る事は無いし、携帯の電源はオンになったままなので、
 せいぜい「仲間が携帯に出ない、もしくは出られない状態にある」事が分かるだけである。
 電話を掛けた首謀者は、仲間の様子を見に行かせるため、町娘と、もう一人の痩せた男を差し向けた。
 行先は、山小屋である。(幼黄姫が男達を竹林へ連れて行った事はまだ他の誰にも知られていない。)
 「とうとう俺っちの出番だぜぇ……かわい子ちゃん達のボディに石ころポコポコぶつけてぇなぁ……ふひひっ!」
 傍らで変態じみたことを口走る気持ち悪い痩せ男と顔すら合わせず、町娘は無言のままじっと耐える。
 そんな彼女を、痩せ男は片腕で抱き寄せる。町娘は顔も見たくないと言った感じで拒絶するが、
 抵抗はしない。というより、できない。理由は分からないが。
 「ふひひっ! やっぱ俺のかわい子ちゃんが一番だなぁ……大好きだぜぇ……」
 明らかに嫌がられてるにも関わらず、痩せ男はこれっぽっちも不快感を覚えず、へらへら笑っている。
 頭がおかしいのだろうか。ともかく、早苗達と会わせられるような人物でない事だけは確かだ。

 (中間地点2.3:山奥の掘っ建て小屋・夜)
 早苗達は、山小屋の傍にある簡易風呂へ一人ずつ入った後、夕食を御馳走になり、床に就く時間となる。
 「熊肉料理なんて、生まれて初めて食べました。野性味溢れる味でしたね……」
 「東風谷様……それでは味への批評を放棄したも同然です。素直に感想を述べればよろしいのでは?」
 「ロボットさん……あなたも少し前までは人として物を考えてたのでしょう? 空気読んでください。」
 「そうでしたね。私もメカ頭とは言え、人と人との間で生きる人間には違いありませんから、善処します。」
 そこに、マタギの娘が加わる。
 「あんたら……それってどっちにしろ、遠回しに不味かったって言ってるようなもんじゃん。まあ否定はしないけど。」
 「娘さん……あなた、以前と比べて痩せて見えるわね。よかったの? その体じゃ山暮らしは大変でしょう。」
 「そうでもないわよ。そこのロボもそうだけど、この子達、見掛けの割に結構頑丈なのよ。大食いでもあるし。
 だから、これから先の食糧がピンチなのよね……そろそろ狩りに出掛けないとマズイかも。」
 「狩り……ですか。あなたと、お父様が出られるのですか?」
 「私は手伝いだけ。本当はお父ちゃんが出なくちゃいけないんだけど……」
 「?」
 「お父ちゃんが生きてた時は、山での狩りは普通にできてたんだけど、今は私の体だから……」
 「あなたの体に何か具合の悪い所でも?」
 「……私、女だからさ。今のお父ちゃんも……女だから。山の神に許して貰えるか分からないんだ。」
 「! ああ……なるほど。それなら、うちの神社から話を通せば何とかなりそうですけど。」
 「ホントかい? それなら助かるよ。お父ちゃんも大喜びだ。」
 そこに、唐突に地面の中から土着神が現れる。
  • 洩矢諏訪子(土着神の頂点)
 「それがね……問題が多々あって、今のままじゃまずいんだ。」
 「諏訪子様! 聞いてらしたのですか。」
 「洩矢様! ……この前の御無礼、お赦しください。」
 「ああ、それは別に気にしてないよ。信仰を得られないのは神の不徳さ。……それよりも。」
 「それよりも?」
 「あんたは自分の体に謝る事だね。よりにもよって、運悪く不具にされてしまった子達に憧れ、
 その子達ならではの悲哀も知らず、自分もそっくり同じになるためにあんな自傷行為に走るなんて。
 あんたの体が可哀想だよ。……禁術使って無理やり持ち直したけど、もし失敗してたら、
 一生あのままだったよ。可哀想に……」
 「それは……すみません……」
 「私に謝って貰っても困るよ。あんたの父上に謝りな。そこにあんたの体と魂があるなら、
 聞き届けてくれるだろうさ。」
 「……その必要はありませんよ。洩矢様。お詫びの品はもう貰いましたから。」
 そこに、父親が登場する。どうやら最後に風呂に入っていたようだ。
 「ああ、あんたかい。どうだい? 生き返った気分は。」
 「と言っても、本物の俺はあの世にいると思います。今の俺は、娘が成り代わってるだけの
 影のようなものに過ぎませんから。どんな感想を持とうと、それは娘自身が思ってる事です。」
 「そうかい。でもね……あんたは確かにこの子の父親だよ。体と魂が娘さんのものでもね。
 ……どう? 儀式受けてみる? たった今、簡単なのを受ければ、成人するまでは狩りができるよ。」
 「それは……よろしいのですか?」
 「ああ、構わないよ。本格的なものであれば、ちょっと心の準備が必要かな……それは、あんたの体が
 成人するまで狩りを続けられたら、考えとくよ。うちの八坂にも話しておく。」
 「ありがとうございます。」
 そして、諏訪子と父親はそのままどこかへ消えた。詮索はしないほうがいいだろう。
 早苗達は戦いの疲れのせいか、そのまま寝入った。
 山小屋の外では、周囲で首無し少女達が寝ずの番をしている。
 脳虫は人の脳と違い構造が単純であるため、野生動物並に睡眠時間が短くても平気らしい。
 それに、眼球が無く、脳虫に備わってる単眼と複眼のみのため、人間のように目が疲れる事も無い。
 体さえ動かさなければ起きたままでも睡眠不足にならないのだ。
 黄鬼達のように、人間の頭を接合したり、力のある怨霊が実体化したものであれば、それなりの
 睡眠は必要になるが。ちなみに、黄鬼一発はメンテナンスのため、ある程度の休息が必要となる。

 片膝立てて休んでいる首無し少女の一人に、石がぶつかってきた。
 「!!」
 石をぶつけられた首無し少女は立ち上がり、周囲を見回した後、他の子達に知らせようとするが……
 彼女の周囲にいる子達にも、多数の石ころがボコボコぶつかり、周囲は大混乱となる。
 「何!? 何なのこれ?」
 「痛い……!! 誰か……」
 「あっ! あそこ!!」
 首無し少女の一人が指差した先には、茂みに隠れていた痩せ男の気持ち悪い顔があった。
 そして、男の傍には、石の入った袋が山のように積まれていた。
 「ふひひっ……楽しいなぁ……かわい子ちゃん達の痛がる動き……慌てる動き……胸キュンだよぉ……
 あっ、今こっち指差した……バレちゃったかぁ……まあいいや……石ころぶつけられれば……」
 男はまるで疲れ知らずのサイボーグの如く、矢継ぎ早に石ころを無差別に投げ続けてくるため、
 首無し少女と言えど、対応できずにされるがままでいた。
 そこに、携帯の画面を掲げた町娘が割って入る。
 が、痩せ男はそれに気付いてないのか、無差別に石を投げ続け、それらが町娘の体に当たっている。
 にもかからわず、町娘は一切痛がる素振りを見せず、歯を食いしばるような表情で我慢している。
 あまりのシュールな光景に、首無し少女達は呆気に取られ、しばし動くのを忘れる。その時……
 携帯画面に、男の顔が映る。どうやらテレビ電話にもなるらしい。前面にあるカメラが光っている。
 「やあ、諸君。お初にお目に掛かる。私の事は『兄貴』とでも呼んでくれ。」
 突然画面から現れ、こちらへ語り始めた男に対し、首無し少女達は怪訝そうな体勢を取る。
 「突然だが、諸君らは既に、そこにいる石投げ男により、制圧された。」
 突然の勝利宣言に、首無し少女達は体をビクッと震わせ、驚いた素振りを見せる。
 「ここで取引をしよう。私の名の下に、部下である石投げ男に攻撃中止を命じる。これは『貸し』である。
 そして、その代わり、諸君らには、私の軍門に下って貰う。拒否権は無い。貸しは返すものだからな。」
 その瞬間、画面に映る男から眼光が発せられ、首無し少女達に、何かが掛かったように見えた。
 首無し少女達の背中に、半透明の猫が現れ、首の付け根あたりに前足を回し、首輪と鈴を取り付ける。
 すると、たちまち首無し少女達は借りて来た猫のように大人しくなり、町娘のいる方へ一斉に歩き出す。
 彼女達が付けられた首輪と鈴は半透明であり、町娘にも同じものが付けられていた。
 「ふひひっ……あ~楽しかったぁ……それじゃあ帰るとしますかぁ……」
 痩せ男が引き上げようとした、その時……
 「そこまでです!」
 早苗が颯爽と現れた。
 「あっ……青いスカートのかわい子ちゃん! 残念だけど、俺帰らなくちゃいけないんだ……また今度ね!」
 痩せ男は心底残念そうに、気持ち悪い笑みを浮かべた後、一目散に逃げた。その後を町娘が追い掛ける。
 「ちょっと……待ちなさい!」
 追い掛けようとする早苗の目の前に、首無し少女達が立ち塞がった。
 「!? あなた達……何を……」
 「東風谷様……彼女達は既に、敵の手に落ちている模様。霊力探知にて確認しました。
 ……背中と首に、悪霊が取り憑いています。かなり強力なものです。」
  • VS 首無し少女達(悪霊に取り憑かれている)
 勝利条件:首無し少女達6人を全て撃破する。
 黄鬼一発Mk-2(NPC)は、自機である早苗の援護を行う。
+ 負けた場合
 勝った場合、首無し少女達は全員力尽き、倒れる。起き上がったり、無理やり起こされたりする様子は無い。
 「どういう事? まさか……人里に、黄鬼戒さんみたいな能力者が……」
 早苗は、とりあえずこの子達をどこか安全な場所へ運ぶため、諏訪子に呼び掛けるが、返事が来ない。
 (どうしたのでしょう……? いつもならすぐに飛んで来られるのに……忙しいのかしら。)
 そこに、メイドロボが自ら救援要請した事を報告する。
 「わたくしが、神社のほうに連絡を入れました。すぐに増援が来るでしょう。」
 「あ……そうですか。神奈子様にもよろしくお伝えください。」
 「いえ……そちらのほうではなく……」
 「……? まさか……」
 早苗は嫌な予感がした。

 (中間地点2.5:永遠亭・過去録)
 竹林では、永遠亭に帰った幼黄姫が鈴仙とてゐに事情を報告した後、永琳に許可を貰い、
 男達を屋敷に運び入れた。名目上は、事件の被害者を保護する目的だが、事情聴取も兼ねている。
 「そう……あの子が、とうとう過去と向き合う時が来たのね……」
 永琳は何か知っている様子。傍ではスキマ妖怪が空間の綻びから顔を覗かせ、何か話し込んでいる。
 「ええ……今がその時ですわ。……あの男も、私の領域に踏み込んで来た以上、これ以上のさばらせて
 おくのは危険と判断し、適任者であるあの子をお借りする事としました。」
 「ようやくウチの仕事が板に付いて来た所なのよ……私の傑作に何かあったら、承知しないわよ。」
 「ええ……その辺はご心配無く。いざとなったら私が直接手を下しますわ。」
 屋敷では、客間に寝かされている男達が、鈴仙と幼黄姫による尋問に受け答えしている。
 自白の暗示を掛けられているせいで、知る限りの事情を洗いざらい話してしまった。
 彼らに共通するのは、『兄貴』と呼ばれる男に対し『借り』があるため逆らえない事だった。
 事情や経緯は様々だが、それだけが共通項だった。見た所、性格はバラバラで、揃いも揃って
 約束や貸し借りを律儀に守るような義理堅い人達には見えないにも関わらず。
 「やっぱり……(あれは能力だったんだ……)」
 「やっぱり?」
 幼黄姫が思わず口にした言葉に、鈴仙が喰いついたため、幼黄姫はハッとなる。
 「あ……いいえ……何でもありません……」
 「……はぁ~……あのねぇ……今更隠し事は駄目よ。大体見当は付いてるから、思った事は正直に、
 包み隠さず、全部話しなさいな。あんたとは腹を割って話し合った仲じゃない。」
 鈴仙の隙の無い突っ込みに、幼黄姫は観念したのか、過去について改めて話し始める。

 思えば、あの男に噛み付かれ、そのまま離れられなくなった切っ掛けは、少年時代に遡る。
 昔から人真似が得意で、粗方の事は見様見真似で再現する特技があった少年は、近所でも
 評判となり、そのうち笠張りや障子張りなどの手伝いを頼まれるようになる。
 少しでも家の助けになればと小遣い稼ぎのつもりで請け負うも、ただお礼を言われるだけで、
 何の見返りも無かった。それでも催促するような真似をすれば却って大人の機嫌を損ねる結果と
 なるのは火を見るより明らかだったので、文句一つ言わず、頼まれ事を受け続ける。
 そのうち、観察力の高さを見込まれ、鍵師に弟子入りする事となり、そこで鍵開けの技術を
 叩き込まれるが、そんなある日、金庫泥棒の事件が起き、鍵師が疑われる事となる。
 目撃証言などから、彼の犯行でほぼ間違い無かったのだが、そこで、あろうことか、
 彼は弟子である少年に罪を擦り付けたのだ。自分は喰うに困ってないが、この少年の実家は
 貧乏だったので、生活の足しにするために、技術を悪用して盗みを働いたのだろうと。
 そして、もっとしっかり面倒を見てやればよかったのだ、師匠として申し訳ない。と、
 皆の前で泣く真似までされてしまい、少年は皆から疑いの目を向けられ窮地に追い込まれた。
 少年は絶望していた。この世の大人全てに。そんな時、目の前に男が現れた。
 その男は、鍵師が借金した金の借用書の写しをどこかから手に入れ、さらに、盗まれた金の
 入っていた金庫は最新式で、極めて複雑な構造をしており、一朝一夕で開け方を覚えられる
 ような代物ではなく、恐ろしく高い技術を持つ職人でないと開けられないものであると、
 皆の目の前で看破して見せた。
 企みを全て見破られた鍵師は、身を震わせ、涙目になりながら、男のほうを見上げていた。
 そして、窮地を救われた少年は、目を輝かせながら、救世主のような男を見上げていた。
 少年の周りの大人はいい顔をしなかったが、少年は、周りの手下から『兄貴』と呼ばれる
 男に付いて行くようになり、ギャングのような集団の中で遊んだり働いたりするようになる。
 集団の中では禄のようなものや、餅代や氷代を貰えたので、家計の足しにするため、
 集団のために色んな事をやった。殺生や傷害沙汰以外の悪事にも手を染めた。
 悪事が嫌になり、抜けようと考えた事もあったが、『兄貴』には一生分の大きな『借り』が
 あったので、抜けるに抜けられず、そのうち家族からも疎まれるようになり、孤立した。
 だが、後悔はしていなかった。自分を生み育ててくれた家族にだけは迷惑を掛けまいと、
 家族を巻き込むような誘いは一切断り、キチンと稼いだ小遣いを送り、親孝行している
 つもりだったのだ。しかし、そんな日々は突如破られる。
 ある日、夜の街をふらついていると、かつて自分を陥れた鍵師の男が居酒屋から出て来るのが
 見えたので、慌てて物陰に隠れ、様子を伺っていると、そこに、『兄貴』が現れた。
 そして、何かを催促する鍵師の手に、中身が沢山入ってそうな巾着袋を乗せたのだ。
 それの中身を確認した鍵師はニンマリとした笑みを浮かべ、『兄貴』の肩をポンと叩いた後、
 そのまますれ違うように去っていく。その時、少年と『兄貴』の目が合った。
 少年は逃げようとしたが、足が竦んで動けなくなり、すぐ後ろに男の影が見えた。
 耳元で、男は囁くように言った。
 「お前がいなくなったら、貸しっぱなしで困るから、家族に返して貰う。」と。
 少年は目の前が真っ暗になった。あの時のやり取りは、もしかして……
 彼には身に覚えがあった。集団で誰かを嵌めるため、小芝居に付き合った事もある。
 その時の心に残る後味の悪さは忘れられず、二度とやりたくないと何度思ったか分からない。
 彼は心底後悔していた。何で、あの男と関わってしまったのだろうと。
 いや、あの展開は予め仕組まれていたものだったのだろう。しかし、少年は、
 自分が取り返しの付かない過ちを犯してしまったと、全ては自分のせいだと、考えた。
 すぐにでも逃げたかったが、逃げれば代わりに家族が犠牲となる。これ以上家族に
 迷惑を掛けたくは無かった。たとえ自殺しても、あの男は家族を道連れにするだろう。
 どこにも逃げ道は残されてはいない。そこで、少年は一世一代の最後の手段を取る。
 あの男を人里近くの運河のそばまで呼び出したのだ。
 手下をぞろぞろ連れてやってきた男の目の前で、少年は土下座をして、懇願した。
 集団を抜けさせて欲しい。家族にも手を出さないで欲しいと。
 それを聞いて、カッとなった他の仲間が寄ってたかって少年をリンチするが、
 男がそれを制止する。そして、返事をした。「ノー」と。
 少年は、予め仕掛けて置いた罠を発動し、運河の橋を壊し、男達の足場を奪った後、
 自分の足に括り付けてあった紐に繋げてあった重石を川に落とし、そのまま引っ張られる
 ように川に入水し、あっという間に流されていったのだ。丁度その日は雨の多い季節で、
 前日に大雨による川の増水があったばかりである。水流も速く、水深もあったため、
 少年が助かる見込みはほぼゼロだった。
 その後、川を流された少年は、竹林の中で少女に運良く命を救われ、しばらくそこでお世話になる。
 しかし、いつまでもお世話になるわけにもいかず、家族に心配も掛けたくないので、
 月の出てない夜に、少女に付き添われながら、実家に帰る事にした。
 人里の入り口には、寺子屋教師が待ち構えていた。
 彼女には沢山の借りがあり、謝りたい事も山ほどあったが、それをする猶予は残されては
 いなかったので、何も言葉を交わす事も無く、彼女の能力で、少年の歴史を隠して貰い、
 周りから身を隠した状態で、実家まで連れて行って貰う。
 そこで、周りに気付かれないよう、声を潜めたまま、家族との再会を喜び合い、
 今まで少年が家族に送り続けていたお金に一切手を付けていなかった事を明かされ、
 そのお金を持ってどこかに逃げろと促される。それは、決して追い出すとか勘当と言う話ではなく、
 純粋に息子を心配しての親心だった。少年は親孝行できなかった事を嘆く一方で、
 感謝してもしきれない程の親の愛に感極まり、ただ涙を流すしかなかった。
 それが少年と家族の最後の触れ合いとなった。妹は泣き出すといけないので、寝かせてある。
 少年は当分の間生活に困らない程の金銭と生活物資を渡され、付き添いの少女らと共に人里を後にする。
 しばらくの間、竹林の少女の家で生活術を教わるため、お世話になり、その後は、
 自分で住処を探す旅に出掛けた。竹林の少女が、あちこちの妖怪に声を掛け、少年を襲わないよう
 警告しておいたので、少年が旅の最中襲われる事は無く、人里から見えない山奥に小屋を建て、
 そこを終の棲家に決める。
 そして数年後、青年となった彼は、小屋の近くで行き倒れになっていた首無し少女を発見した。
 それから色々あり、現在へと至る。

 一通り話し終えた幼黄姫の表情には、まるで非行に走らされた少年のような影が潜んでいた。
 鈴仙はそれに気付いたが、それに対して掛ける言葉が見付からず、ただ、可愛い後輩が再び
 道を誤る事だけを心配する他なかった。
 横で話を聞いていたてゐは、話に出て来た『兄貴』がとんでもなく厄介な能力を持っていると
 見抜き、命名してみせた。
 「こいつは、『貸し憑ける程度の能力』って所だねぇ。……中々イケてると思わない?
 相手に『貸し』を作るのが条件で、それを元に、相手に負い目を植え付けて、言いなりに
 してしまうのさ。低級霊を『憑ける』感じで。まるで『呪い』さね。」
 「それでいいわ。でもね……てゐ。言葉で遊ぶのもいいけど、対策はどうなのよ。
 そんなふざけた能力、あると分からなかったら対処のしようが無いわ。
 気心の知れた間柄なら、貸し借り無しで気兼ねなく助け合いするのが普通でしょうけど、
 そんな日常の中に、スルリと入り込ませるように、相手に貸しを作るなんて、造作も無い事よ。
 特に、日常的に人間関係をコントロールするのに長けている者ならね。
 たったそれだけの事で、他人を支配できる特別な暗号キーを手に入れられるなんて、
 そんな危険な奴、接触するだけで命とりになりかねないわよ。」
 「あー……そうだねぇ。でも、あいつに勝てそうな奴、一人だけ知ってるよ。」
 「誰よ?」
 「青い人さ。この私の口車にも一切耳を貸さなかった、コミュ能力ゼロの人。」
 「ああ、あの人ね。私とも一切波長が合わなかったせいで、能力がまるで効かなかったわ。」
 「つまり……一切耳を貸さず、心動かさなければ、あいつの能力は効かないってわけ。
 人間関係あっての力……まさに、悪い意味で最も人間らしい力って事になるわね。」
 (そう……相手は普通の人間……たとえあれが能力によるものじゃなかったとしても……
 あの男からは逃れられないままだっただろう……全ては、ああいう大人を乗り越えられなかった
 私……あの人の弱さのせい。本当の大人になるためには、乗り越えなければならない壁だった……
 あの人は……逃げた。私は……逃げたくない。)
 「ところで、里を裏から牛耳ってる輩がなぜ今になって、大勢の部下を差し向けてまで、
 危険な山奥にある首無し達の拠点を狙い始めたのかしら。」
 「それは、気になるところだね……」

 (中間地点2.7:山奥の掘っ建て小屋・真夜中)
 「お待たせ。」
 山小屋の前に颯爽と現れたのは、首から上の無い、黄金色の巫女装束を纏った少女だった。
 片手に竹箒を持ち、もう一方の手には、紐をくぐらせた鉄の輪っかを何個かぶら下げている。
 「あなたは……?」
 早苗は内心、相手が知ってる顔でなくてよかったと思ったが、首の無い巫女など前代未聞であり、
 訝しむ様子で誰何する。
 「はじめまして。私は守矢の分社である『首無塚神社』の巫女よ。名前は特に無いわ。
 『首無し巫女』または『無貌(むぼう)の巫女』と言ったら私で通じると思うから。以後よろしく。
 場所は、あの施設跡……と言ったら分かるかしら。」
 どこから出してるのか分からない、妙にくぐもったような、それでいて透き通ったような声で、
 丁寧な自己紹介をする、首の無い巫女。その声にはどこか聞き覚えがあった。
 「……東風谷早苗、守矢の風祝です。どうぞよろしく。」
 早苗もつられて自己紹介をする。だが、顔には怪訝さがさらに色濃く表れている。
 「東風谷様、この方はわたくしが呼んだ方です。信頼できます。」
 空気が若干澱んだのを見かねたメイドロボが、すかさずフォローを入れる。
 「ええ、分かってます。ですが……あなた、どこかで会ってませんか?」
 早苗は、見え透いた嘘は通用しないとばかりに、突き刺すような目線で相手を凝視する。
 その様子を見て取った首無し巫女は、観念したかのように、溜息をつき、肩をすくめる。
 「……まったく、敵いませんね。全部お見通しですか。どこぞの赤い巫女みたいですね……。
 そうです。私は……黄鬼の体を務めた事があります。おそらくこの声のせいでしょうね。
 一度体に染み付いた癖は、無意識のうちに出てしまいますし。」
 「やっぱり……あなたでしたか。」
 「ですが、私は黄鬼ではありません。彼女はいなくなりました。私はあくまで別人です。
 ただ彼女に動かされ続けていただけの、物言わぬ体でした。そこだけは誤解の無きように。」
 「どこまで信じていいのか分かりませんが……消えてしまった人の事で、今更どうこう言っても
 仕方がありませんね。首の無い体で、頭に逆らえたかどうかなんて、私には分かりませんし。」
 早苗は、かつての黄鬼との会話を思い出しながら、残された首無し少女の事を今更責めるのは
 お門違いではないかと思い始める。おそらく首のある普通の人間の少女よりは、やむを得ない
 事情があり、その分責任が軽いのだろうと。
 「ところで……そこにいる子達ですね。悪霊に取り憑かれているというのは。」
 「あ、はい。」
 首無し巫女は、倒れている首無し少女達のうなじの辺りと首の付け根を手で擦ったり翳したり
 しながら検分するように何かを確認している様子だった。
 「めんどくさいわね……強力なマインドコントロールの一種かしら。」
 「え? 呪いではないんですか?」
 「そうよ。これは、悪霊じゃなく、この子達自身の心が形作った幻影のようなもの。
 自縄自縛と言うのが適切な表現かしら。自分自身で思い込みによる枷をはめてしまってる。
 この子達なりの価値観に沿った、理詰めによって作られた堅固なルールだから、外すには、
 本人が納得できるような『正しい道筋』に沿ったやり方じゃないと、無理ね。」
 「つまり……あなたでも、どうにもならないと?」
 「お祓いや退魔の術式でどうこうできるものではないわ。カウンセラーの得意分野よ。
 時間を掛けた粘り強い対話で、この洗脳から解き放ってあげるしかない。克服すべき心の問題よ。」
 「そうですか……では、うちでお預かりします。」
 「あまり役に立てずにすみません。でも、応急措置くらいなら何とかなりそうです。」
 そういうと、首無し巫女は先ほど持って来た鉄の輪を手に取り、首無し少女達の首の断面に
 次々とはめていく。すると、鉄の輪の内側から針のようなものが首に刺さり、固定された後、
 静電気のような透き通った空気のような何かに包まれるのが目視でも確認できる。
 「……これで、この子達はしばらくは大人しくなるでしょう。」
 「何をされたんですか?」
 「体を動けなくしたのよ。元々は同族の謀反を防ぐため、黄鬼が作り出したものだけど、
 今は、悪さをしようとする仲間を止めて、懲らしめるため、黄鬼の体だった私を含め、
 限られた者だけが使用できるの。生体認証方式だから、試しに他の人が使おうとしても動かないし、
 私に対して使う事もできないわ。もちろん、首がある人間に対しては使えない。入らないから。」
 「なるほど。それではロボットさんには使えないのですね。」
 「そもそも使う必要無いからね。頭を手に入れた子達は、ただのOGだから関係ないし。
 あくまで首の無い子限定よ。一応全員うちの者だし、私が管理者って事になってるから。」
 「よく分かりました。あなたの事は信用できそうです。」
 「ありがと。あなたも私の見てくれに惑わされずに内面で判断してくれてるいい人ね。
 大抵の人間は、私に首が無いってだけでお化け扱いして怖がるからね。ただのか弱い少女なのに。
 (そんな連中からは、拝観料と称してぼったくってやるから、別にいいけど。)」
 (……? 何でしょう……今、一瞬だけ邪なものが感じられたような。)

 そこに、メイドロボから緊急の知らせが入る。
 「東風谷様……レーダーにて、敵を2人確認しました。先程の者達ではないかと。」
 首無し少女達を小屋の中に隠し、3人は外に出て周囲を伺う。すると……
 「おやおやぁ~? 飼い馴らした子猫ちゃん達はどこに行ったのかなぁ~? 姿が見えないよぉ……」
 気持ち悪い痩せ男が、ニタニタしながら、石が沢山入った大きな袋を引きずりながら、歩いてくる。
 その後ろに、辛そうな顔をした町娘が三歩下がって付いてきていた。手には携帯を持っている。
 「ふひひっ……ど~こかなぁ~~~~??? か~~わい~~~子ちゃぁぁぁん達ぃぃぃぃ~~~?」
 その男の目を見た瞬間、早苗は身の毛もよだつ程の生理的嫌悪感を催し、吐き気を覚えた。
 (うひぃ……気持ち悪い……なにこれ……やだ……)
 「東風谷様……目を逸らしてください……見てはなりません。」
 メイドロボも、無味乾燥な声に、隠しきれなかった不快感を混ぜつつ、冷静に警告を発する。
 そして、周囲を冷静に観察し、一つの解を得る。
 「……あの男……投石による弾幕の使い手です。あの子達の全身にできた打撲傷や擦過傷から判断して、
 あれに襲われた可能性が高いです。マインドコントロールの使い手の可能性もあります。
 気を付けてください。」
 「あなた達……絶対に掛かっちゃ駄目よ……首輪付けられないんだからね……」
 首無し巫女も、隙の無い構えを取りながら、2人に注意を促す。
 「あっ! 青いスカートのかわい子ちゃん! また会ったね!」
 痩せ男は早苗に気付いたのか、体のほうをジロジロと見つめながら、挨拶してくる。
 しかし、気持ち悪い顔に耐えきれず、早苗は目を逸らしたままである。それでも体に視線が突き刺さり、
 何とも言えない嫌な感じが拭えない。
 「ふひひっ……可愛いなぁ……そんなに怖がらなくてもいいんだよぉ? ……一緒に遊ぼうよぉ……」
 そんな早苗に対し、しつこく視線を向け、気持ち悪い言葉を掛けて来る痩せ男に対し……
 無言で立ち塞がる少女が一人。巫女見習いのメイドロボである。
 機械のように無感情な目で相手を見据えながら、毅然と立ち塞がる。体はわずかに震えているが……。
 「あれぇ? 君は、何を我慢しているのかなぁ? もっと素直になってもいいんだよぉ?
 折角のかわい子ちゃんが、台無しだよぉ……」
 痩せ男の表情が若干曇る。この男は一体何を見て、何と話しているのだろうか。
 そこに、肩を怒らせながら、首無し巫女が割り込んだ。全身から物凄いオーラが立ち上っている。
 「ひぃっ!? 何なんだ君はぁ? そんな怒った動きするなよぉ……別嬪さんが台無しじゃないかぁ……
 お願いだから、もっと優しく動いてよぉ……君みたいな子、世界中探しても見付からないんだからさぁ……」
 「やっぱり……こいつは体にしか興味が無いんだわ。ただの助平でもない……珍しいタイプの『狂人』ね。
 私らみたいな子をど真ん中と見なしてくれるのはくすぐったいけど、気持ち悪いのはお断りよ。」
 首無し巫女のオーラが少し弱まる。どうやら、相手の反応を伺うため、わざと威嚇してた模様。
 「なるほど。女性限定の『相貌失認』……顔が認識できない病気持ちの可能性がありますね。
 それは別として、周囲に落ちていた石ころの数と、男が手に持ってる袋の中身の量から推測した結果、
 発狂レベルの高密度の弾幕を投げて来る恐れがあります。……本当に気を付けてください。
 相手は狂人です……恐らく、容赦はしないでしょう。」
 「……分かりました。私はもう大丈夫です。敵を見定める事ができたので、もう怖くありません。
 ……2人ともありがとうございます。本当に。」
 早苗は2人の冷静な分析により、敵の正体が分かり、正体不明なものに対する恐怖心が取り除かれた事で、
 やる気が出た模様。臨戦態勢に入る。
 「おっ……君は遊んでくれるんだね! ふひひっ! いいよぉ……あ~そびぃましょおぉぉぉぉ~!!」
  • VS 気持ち悪い痩せ男(発狂する石投げ男)
 勝利条件:痩せ男の発狂弾幕をひたすら避け続ける。持続時間180秒の耐久。ボム使用可。
 相手は早苗、メイドロボ、首無し巫女と、傍にいる町娘の4人に無差別に弾幕を放ち続ける。
 早苗以外は全員NPC。町娘はひたすら耐えしのぐだけで何もしてこない。
 メイドロボと首無し巫女は、弾幕を避けたり、ボムを撃って掻き消したりする。
 当たり判定があるのは石ころのみ。相手の本体にいくら撃ちこんでもダメージは無い。
+ 負けた場合
 勝った場合、痩せ男の投げられる石が無くなり、その辺が石ころだらけになる。
 そこで諦めるかと思いきや、痩せ男は落ちてる石を拾い上げながら、しつこく投げ続けてくる。
 早苗を含めた3人とも疲労困憊となり、戦う力はほとんど残っていなかった。
 その様子を見て取った町娘は、携帯画面を開いて、ある男との通話回線を開き、画面を早苗達の
 ほうに向けてくる。その瞬間であった。敵が何かを仕掛けてくると踏んだ首無し巫女が、
 ライフルを構えるような姿勢で竹箒の柄の先を向け、直線軌道の高速ショットを発射し、
 携帯を画面ごと撃ち抜いたのだ。
 あまりの見事な狙撃に、周りは思わず動きを止めて見入る。その隙を突いて、首無し巫女は
 竹箒を振り回し、箒の毛先から一気に弾をばら撒き、町娘と痩せ男に命中させる。
 町娘は気を失い、足をもつれさせて倒れるが、痩せ男は死にもの狂いで逃げようとする。
 そこに、早苗がタックルをかまし、引きずり倒した後、メイドロボが上からダイブして、
 思いっ切り頭突きをかます。ヒヒイロカネでできた硬い頭をモロにぶつけられた痩せ男の
 脳は強烈にシェイクされ、脳震盪を起こして意識を失う。敵は完全にやっつけた。
 そして、メイドロボが落ちている携帯を拾い上げたところ、既に通話は切れ、割れた画面には
 待ち受け画像のようなものが映っていた。まだ完全に壊れてはいない模様。しかし……
 画面に映っていたのは爆弾の絵で、導火線が徐々に短くなり、数秒後に……爆発した。

 爆発はそれほど殺傷力のあるものではなかったため、メイドロボは大事には至らなかったが、
 右手に大火傷を負ったため、大事を取り、一晩寝た後、翌朝神社に帰って休む事となる。
 「まさか……携帯電話にも自爆スイッチがあったとは……無念です。」
 メイドロボは、無表情ながら、心底落胆していると明らかに分かる様子で肩を落としつつ、
 包帯を巻かれた右腕を見続けていた。
 翌朝になって帰って来た諏訪子と、マタギ少女(父親)は、山小屋の周囲が砂利だらけに
 なってたり、小屋の中で首無し少女数人が寝込んでたり、怪しい痩せ男と町娘が縛られてたり、
 メイドロボが大火傷をしている様子を見て、いない間に一体何が起きたのかと、愕然とするが、
 敵襲があった事を説明すると、諏訪子はすぐに首無し少女数人と怪しい男女2人連れと、
 怪我をしたメイドロボを神社へ連れ帰った。メイドロボは戦線離脱となる。
 早苗は、彼女に対し、最後に労いの言葉を掛けた。すると、彼女の顔が少し綻んだように見えた。

 (中間地点3:永遠亭)
 マタギの小屋を襲った男達が永遠亭に匿われてるという話を諏訪子から聞かされた早苗は、
 永遠亭を訪れていた。メイドロボが神社で静養している間も、はたてと連絡を取り続け、
 はたてが『兄貴』連中の動きを監視し続けた結果、幼黄姫により、ほとんどの構成員が永遠亭に
 連れて行かれたことを、彼女は突き止めたのだ。そして、『兄貴』は次の動きに入ったらしい。
 怪しげな物乞い風の男達により里の出入り口付近が常時見張られ、通行人の人相をチェック
 しているとの事。男達に共通しているのは、薄い板のようなものをずっと見続けており、
 時折通行人のほうをチラ見している事くらい。どうやら、山奥にある首無し少女の拠点を
 襲撃する作戦は中止したようだ。理由は人員不足と、優秀な武闘派構成員(石投げ男)の喪失。
 はたてと連絡を取り続けてる鈴仙から事情を聞いた早苗は、早速人里のほうへ行ってみようと
 提案するが、鈴仙と幼黄姫に反対される。人里は包囲網が敷かれており、下手に踏み込むと、
 敵に顔が割れている可能性の高い早苗は袋の鼠のように追い込まれる恐れがあるかららしい。
 ではどうすればいいのかと、早苗が対案を求めると、てゐが案を出した。
 早苗、鈴仙、てゐ、幼黄姫の4人が2人組に分かれ、里の両側の出入り口から、それぞれ入り、
 そこにいる見張り役の反応や、連中の動きを、上空からははたてが、近くからは鈴仙と幼黄姫が、
 それぞれチェックし、誰が狙われてるのかを推測する。そして、中通りの中央で4人が落ち合い、
 今度はメンバーを組み換え、それぞれ入って来たのと反対側の出入り口へ歩いて行き、そこで、
 再び見張り役の反応と、連中の動きをチェックする。という作戦である。
 組み合わせは、前半は竹林側が鈴仙とてゐ、山側が早苗と幼黄姫で、後半は山側が早苗と鈴仙、
 竹林側がてゐと幼黄姫。(鈴仙と幼黄姫は、相手の動向チェックのため、必ず別行動とする。)
 この提案にはほぼ全員が賛同した。が、早苗には改善案があると言う。
 それは、ある小道具を用意するというものだ。

 (中間地点4A:人里入口・山側)
 竹林から大きく迂回して、早苗達は命連寺近くの人里入口(山側)に辿り着く。
 彼女達の出で立ちは普段と異なるものであった。2人とも眼鏡を掛けており、人相が分かりづらく
 なっている。片方は白いリボンの巻かれた黒い中折れ帽を被り、サングラスを掛け、白いブラウスと
 赤のネクタイ、黒のロングスカートを着用。ブラウスの裾には赤い点線模様、スカートの裾には
 白い点線模様が入ってる、独特のセンスを持つ逸品である。どこかで売られてるのだろうか。
 もう片方は黒縁眼鏡を掛け、前髪の左側に蛙を象ったアクセサリ、その下の揉み上げ部分は
 お下げ髪にし、螺旋を描く蛇のアクセサリが巻いてある。服は、早苗の巫女服と同じだ。
 そのまま入口を通過し、周囲の様子を伺いながら、中通りを進んでいく。
 幼黄姫は鈴仙の能力を発動し、見張り役の有無などを確認するが、動揺している人は、
 特に確認できなかった。知り合いに会うと面倒なので、足早に通り過ぎようとする。だが……
  • 霧雨魔理沙(普通の魔法使い)
 「よう! 早苗、元気か? 最近どうだ?」
 2人の表情が強張る。徐々にテンパってきている様子。このまま無視する事もできるが、
 あまりに不自然だと周囲に怪しまれるので、仕方なく返事をする。
 「げ……元気ですよ。霧雨さんこそ、最近調子はどうなんです?」
 (ん? 霧雨さん? んん???)
 魔理沙が怪訝な表情となる。
 (いたたっ……ちょっと……足踏まなくたっていいじゃない……悪かったってば……)
 「調子はいいぜ。……ところで……隣の奴は誰だ?」
 足早に去って行こうとしたところで、再び魔理沙に呼び止められ、2人はビクッとなる。
 「見かけない顔……というか……どこかで会ったような気もするがな。で、誰だ?」
 「わ……わわたしですか? はじめまして……『宇佐耳蓮根(うさじ・はすね)』と言います。
 最近ここに越して来た外来人で、東風谷さんとは中学からの友人です。
 再会のお祝いに、人里を案内して貰い、レストランで一緒に食事をする予定なんです。」
 「ふ~ん……外来人か……」
 (何だか聞いてもいないのにベラベラと口数の多い奴だな……それに、あいつそっくりだ。)
 「何か……?」
 「お前ら……ってか……早苗……お前そういう趣味あったのか……なるほどな~」
 魔理沙は何か壮大な勘違いをしながら、腕を組み、ウンウンと頷いている。
 2人はしばしの間、呆気に取られるが……その意味に気付いた早苗が吼えた。
 「だだ……誰がそういう趣味があるって証拠ですか!? 私は断じてそんなんじゃありません!!」
 「ああ……すまん。(何でこいつが先に怒るんだ?)」
 「では……そろそろ時間が押しているので……」
 「ああ、またな。」
 何とか切り抜けたようだ。しかし、魔理沙は何だか釈然とせず、首を捻っている。
 (早苗……何だか痩せたな……特に胸のあたりが。激務による疲れとストレスで痩せたのかもな。
 あそこの神社、最近羽振りいいらしいし。きっと若白髪も増えまくってるんだろう。
 白髪染めで真っ黒に染め抜いて、目立たないようにしてるしな。)
 魔理沙という難関を突破した2人は、そのまま中通りの中間点まで足早に歩いて行った。

 (中間地点4B:人里入口・竹林側)
 てゐと鈴仙は、竹林からそのまま人里まで直行し、早苗達が逆側の出入り口付近に到着するまで
 人里付近に寄らないよう、はたてからの連絡を待ちつつ、息を潜める。
 そして、早苗達が到着したという知らせを受け、急いで人里出入り口付近まで歩いて行き、
 タイミングを合わせ、出入り口を通過する。周りの反応を伺うと、傍にいる見張り役が何やら
 鈴仙のほうを凝視し、手に持っている薄い板と見比べるように視線を交互に合わせ、その後、
 自分の顔を隠すように、薄い板をこちらに翳しつつ、何か独り言を呟いているようだった。
 耳を凝らすと、その場にいない誰かと話している様子。あの板は通信機のようなもので、
 こちら側に向けている面は……レンズか。向こう側は映写機のように何かが映ってるのだろう。
 (……確定ね。連中は、あの板に映し出される……人相書きを見ながら通行人の人相と照らし合わせ、
 標的となる人物が通過したら、その姿をカメラで撮影しながら、『兄貴』に報告する。
 標的は……おそらく……)
 真剣な表情となる鈴仙の横で、てゐが呑気な顔であちこちを見ながら、鈴仙に声を掛ける。
 「鈴仙ったら、そんな怖い目してたら、皆から怖がられるわよ。ただでさえそんな目つきなんだし。」
 「……ほっといてよ。あの子には悪いけど、やっぱこの目元と眉毛はきつすぎるわね。
 道行く人の視線がこんなに痛いとは思わなかった。あの子の気持ちが少しは分かった気がする。」
 「まあ、本人だと思われるから別にいいんじゃない? 変な事さえしなければ、いつものあいつと
 同じさね。うさささ♪」
 「まあね。今度、あの子にアイメイクのやり方でも教えてあげようかな。眉毛は下手に剃ったり、
 抜いたりすると、形が崩れて、後のお手入れが面倒だから、そっちは前髪で隠せばいいし。」
 「しかし……守矢の巫女の提案を入れてみたけど、本当にこれで結果オーライなのかね……。
 もし何も意味が無かったら、鈴仙あんた……とんだピエロじゃん。」
 「うるさいっ……大丈夫よ。大体、物乞いがあんな洒落たアイテム持ってスタンバってる時点で、
 誰かに雇われてコソコソと隠れて不穏な事してるって自白してるも同然でしょうに。
 連中は相当切羽詰ってるって証拠よ。恐らく喰いついて来るわ。」
 「そうかなぁ~」
 「そういうものなのよ。『組織』は常に動き続けないと死ぬのよ……だから止まれない。
 特に、戦う集団ってのは、常に敵を探し続けないといけないし、勝ち続けないと駄目になる。
 てゐ……あなたみたいに平和な集団の棟梁を千年以上も続けてちゃ分かんないわよね……」
 「まあね……毎日・毎月・毎年同じことの繰り返しで彼是千年……違う事やるにしても暇つぶしの
 遊び程度だかんね。何で人間ってああも生き急ぐんだろうねぇ……修行して仙人にでもなれば
 時間はいくらでもあるだろうに。」
 「弱いのよ……人間は。」
 鈴仙は切ない表情で、そう呟いた。と同時に、後ろに気を付けるのも忘れない。
 彼女の後ろ、少し離れた所から、怪しげな男が横目でチラチラと見ている。手には薄い板。
 背面のカメラを鈴仙のほうへ向けていた。今も撮影中なのだろう。
 上空にいるはたてから鈴仙の通信機に連絡が入る。携帯の音声も受信できるよう改造してある。
 鈴仙の後ろに1人、真横の辺り、両側に1人ずつ、前方に1人、監視役が付いてるらしい。
 それを聞いた鈴仙は、無意識のうちに前のほうを確認し、怪しい男と目を合わせてしまう。
 相手のほうは、感付かれた事に気付いたのか、慌てて目を逸らし、どこかに隠れてしまう。
 (しまった……!)
 男が隠れるまでの一瞬の間、鈴仙は目ざとく、彼が手に薄い板を持っているのを見付けた。
 (前後から撮影……念入りに本人確認しているわけね。……全く、ドサンピンね。
 本物の細かい仕草やら行動パターンを把握してるなら、あんなわざわざ人通りの多い場所で
 張り込んで、一々通行人の人相を確認するまでも無いじゃない。人相だけを頼りに人探し
 してる時点で、行動パターンとか全く把握してないの確定よ。なのに、どうやって今の私と
 本物とで見比べるって言うのよ。)
 鈴仙は、心の中で溜息をつきながら、後ろを振り向いて見せる。
 すると、後ろから見ていた男が慌てて目を逸らし、こちらの様子を伺いながら、逃げて行く。
 「てゐ!」
 「あいよ!」
 てゐは後ろの男を追い掛けて行き、あっという間に追い付き、飛び掛かる。
 男は周囲に助けを求めるため、大声を上げようとするが、てゐがすかさず口を押さえたため、
 窒息して声が出せなくなる。
 後から追い付いた鈴仙は、男の顔を確認した後、目を赤く光らせ、局部麻酔の暗示を掛ける。
 手足が痺れて動けなくなり、喉も痺れて擦れた声しか出せなくなった男は、鈴仙の顔を見て、
 まるで何か恐ろしいものに出会ったかのような顔となり、涙目になる。
 「ゆ……ゆるして……くれぇ……」
 「何で私をつけてきたの? 目的は何かしら?」
 「ああ……あの男に……やれと言われたんだ……」
 「あの男?」
 「お前も知ってるだろう……お前の『兄貴』だった男だ……」
 「…………そう。で、その『兄貴』に言われて、あなたは私をどうするつもりだったのかしら。」
 「……もう一度、やり直すつもりだと……言っていた。」
 「……そう。」
 「……あの男は……お前の『兄貴』は……お前の家族に謝りに行ったらしい……お前の事でな……」
 「……」
 「……追い返されちまったらしいけどな……へへ……馬鹿だよな……ゴメンで済むなら地獄なんて無ぇだろ……」
 「……そう……」
 「……お前にも……迷惑掛けちまったっけな……すまんな……ホントに……あんな奴の言いなりになって……
 お前さんの人生を……滅茶苦茶に変えちまった……。その姿……何でそんなんなったか、見当も付かねぇけど、
 よっぽど死ぬような目に遭ったんだろうなぁ……」
 「そうね……死ぬところだったわ。」
 「……怒んねえのか……? 俺がお前さんだったら、今すぐぶん殴る所だぞ……何でそんなに落ち着いてやがる……」
 「……さあね。自分でも分からないわ。」
 「…………お前さん、誰だ?」
 「えっ……」
 「……お前さん……女だな……生まれついての。男なら……男として生まれたからには……やられたら絶対に
 忘れねぇ……やり返すまでは……それが男の性ってもんだ……たとえナリが変わっても、性根は変わらねぇ……
 恨みってのは勝つまでは絶対に消えねぇもんだ……なのに、お前さんは……まるで親しいダチの事みてぇに……
 お前さん……俺の事も、ホントは知らねぇんだろ……どうなんだ? 俺は誰だ? 答えてみやがれ!」
 鈴仙は言葉に詰まった。傍では、てゐが拾った薄い板の画面を鈴仙のほうに向けている。
 薄い板には、男の顔が映っていた。男が喋り始めると、どこかから男の声が流れてくる。
 「……ごくろう。よくぞ我々を引っ掛けてくれた。お礼と言ってはなんだが、君の友人のほうを
 我々のアジトへご招待するとしよう。丁重にお持て成しさせていただく。これは……」
 ここで、てゐは薄い板を思いっ切り地面に叩き付け、足で踏んづけて壊した。
 「!? ……てゐ! あんた何やってんの……! まだ話が……」
 「ごめんねぇ~手足が勝手に滑っちゃって。ガイアが私にブチ壊せと囁いていたもんで……つい。」
 「んとにもう……」
 鈴仙はまた溜息をついた。
 「あ。おじさん。ゴメンね。でも、本気で謝るつもりがあるのなら、本人に会わせてあげてもいいわ。
 ……麻酔は小一時間もすれば切れるから。じゃあね。」
 そう、目の前の男に別れの挨拶をして、鈴仙はてゐと一緒に反対側の出入り口のほうへ走って行った。
 ……彼女達の後を、隠れていた2人の男達が追い掛けて行く。

 (中間地点4C:人里中央)
 早苗達は、眼鏡フレームに組み込んである無線式骨伝導ヘッドホンマイクで、はたての携帯からの
 連絡を聞きながら、周囲を一応確認する。……が、怪しい男は一人も見当たらない。
 監視役の男達は鈴仙達のほうに集まっていると判断し、合流地点へと向かう。
 (はたてさんからの報告では、私達2人が入った時には敵は全く気付かなかったとの事ですが……
 敵の親玉が言った事はブラフの可能性がありますね……もしくは、鈴仙さんのほうを追い掛けて、
 私達と合流した所を狙う寸法でしょうか……でもそれだと、私達と一緒に鈴仙さん達まで一遍に
 アジトに招待される事になりそうですが……)
 ここで、早苗は見落としている何かに気付いた。
 (友達……? まさか……)
 早苗は無線ではたてに連絡を取る。
 鈴仙と話し合った結果、鈴仙のほうを追い掛けている男2人を反対側の出入り口におびき寄せて、
 人里を山側に出た所で、早苗と幼黄姫が待ち伏せする作戦に変更となり、早苗達は来た道を引き返す。
 途中で魔理沙とすれ違うが、気にしている余裕はない。魔理沙のほうも声を掛けそびれた様子。
 そして程なく、鈴仙達が走って来るのが見えたので、魔理沙は声を掛けるが、無視される。
 (何だ……? 今日は皆慌ただしいな。……それにしても、今日の幼黄姫、何だか鈴仙みたいだったな。
 あいつみたいになる日も近いのか。私も負けてられないんだぜっ!)
 魔理沙はまた何か勘違いしながら、ガッツポーズを取る。何はともあれ、やる気が出た様子。
 その時、鈴仙達を後から追う怪しげな男達が、魔理沙の視界に入る。彼女はそれを見逃さなかった。
 人里の山側出入り口付近では、早苗達が待ち伏せしていた。早苗の服は元に戻っており、
 『宇佐耳蓮根』なる人物の衣装は、代わりに幼黄姫が着ている。メガネも交換済み。
 そこに、鈴仙達が合流し、後から追手の男達がやってきた。
 「……やばい! 『兄貴』……あいつら4人います! 待ち伏せしてやがりました!」
 男達2人は、薄い板の背面を早苗達のほうに向けながら、『兄貴』に状況を伝える。
 「……逃げろ。絶対にやられるな。生き残れ。」
 男達は、『兄貴』からの指示を合図に、一目散に逃げて行く。
 「……逃がさないぜ。」
 男達が逃げて行こうとした先には、人里への道を塞ぐように、魔理沙が立っていた。
 「囲まれちまった……『兄貴』……どうすれば……」
 「健闘を祈る。」
 それっきり、『兄貴』から男達への通信は切れたままだった。
 ここで、早苗は鈴仙に目配せする。と、鈴仙は理解した様子。すぐに、幼黄姫の傍へ行き、
 男の一人をブロックする。それに合わせるように、てゐは魔理沙のほうへ行き、もう一人の
 男のほうをブロックに回る。早苗は一人、その場から離脱し、山のほうへ飛んで行った。

 (中間地点5:山奥の掘っ建て小屋跡)
 早苗が山奥へ着いた頃には、小屋はほぼ全壊しており、マタギの娘が1人、そばに取り残されていた。
 「……お父ちゃんが……攫われちゃったよぅ……変なモグラ男に……うぅっ……ひぐっ……」
 小屋は土台から壊されており、地面は穴だらけになっている。引きずり込まれたのだろうか。
 マタギの娘は尋常じゃない程の落ち込みようだった。父親を二度も喪いそうなのだから。
 彼女は早くから母親を亡くし、父子家庭で育った。そして、山で狩りをしている最中に、
 父親に庇われ、自分だけ助かったものの、父親も亡くしたのだ。そして今度は、彼女自身の体と魂で
 蘇った父親をも亡くしかけている。もし死んでしまったら、彼女自身も死ぬ事になり一家全滅。
 そして、マタギの血筋も途絶える事となる。後には、他人の体と魂を持つ彼女の頭だけが残される。
 そうなったら、もはや彼女は自身との縁が切れ、赤の他人と同じになるのかも知れない。
 泣いている彼女の傍に、諏訪子が現れた。
 「……すまない。まんまとやられた。」
 「諏訪子様! どうして……」
 「弁解のしようも無いよ。完全に高を括ってた。この山の地面は私の管理下だから、変な事は
 絶対にできないってね。でも、敵さんは完全に裏をかいてたよ。普通に穴を掘り進んでるんだ。」
 「諏訪子様……言い訳でもいいので、もっと詳しく教えてください。」
 「……あいつは、全く気配すら持たずに、まるでミミズのように地中を移動している。
 それも、ミミズなんかよりずっと速いスピードで。あっという間に逃げられた。
 もう私の目の届く場所にはいない。どこかにいるとするなら、地底か……地上の平地の下だろう。」
 「平地の下……魔法の森か……人里あたりでしょうか……」
 早苗はすぐに、はたてに連絡し、それらの地面の下を探って貰うように頼む。
 そして、小屋の土台部分に開けられた穴を覗き込んでみるが、既に塞がってて先が見えない。
 ここから追い掛けるのは無理のようだった。
 「ところで……相手は、妖怪か何かですか……?」
 「いや……妖気の類はまるで無かった。さとり妖怪の妹……と似ているかも知れない。気配そのものが
 無かったんだ。ただ、心を閉ざしたわけでもない。閉ざす以前に、心の中身が限りなく薄い……
 が正確かも。人間でも妖怪でもない何か……一つだけ心当たりがある。」
 「心当たり……ですか。」
 「ああ……食用人間の話は知ってるよね。」
 「はい。黄鬼達と、首無し人間の事ですね。」
 「それ以前にも、別の食用人間が飼育されていたんだ。」
 「! そう……なんですか……」
 早苗は初めて聞く、更なる事実に衝撃を受けていた。
 「『青人間』。死体から作られた、コストの掛からない食用人間だ。
 自我が生まれないよう、薬品漬けにされていたらしい。いわば、黄人間のプロトタイプさ。」
 「……薬漬けにして、心を奪う……まるで……」
 「ああ……おぞましい話さ。前の異変には関係無かったから、早苗にはわざわざ話さなかったけど。
 生まれてすぐ首チョンパよりは大分マシだから、今の早苗になら、受け止められると思う。」
 早苗は顔色が若干青くなっており、思わず口を押さえるが、何とか持ち直す。
 「多分……大丈夫だと思います。かなり気分は悪いですが。……で、諏訪子様は何故ご存知なのです?」
 「一人、イレギュラーがいて、逃げたんだよ。その子が後に、黄人間と知り合いになるんだ。」
 「なるほど。……で、彼女が今回の事件に関わっているとお考えなのですね?」
 「……いや、それはないよ。あの子は全てに無関心だ。連中との接点も無い。
 たとえ引き込まれそうになっても、連中の能力では歯が立たないだろうから、ありえない。」
 「そうなんですか……? (一体どんな子なのかしら。)」
 「前の異変の時だって、異変に加担する動機は十分あったにも関わらず、どちら側に付く事も無く、
 全く姿すらも見せなかった。黄鬼達にとっても、味方に付けておきたい程度の力はあった。
 あの子が一人いれば、邪仙の力を借りるまでも無かったし、ゾンビ使い以上の戦力になっただろう。
 何せ、山の土を動かさずとも、死体を操る事ができるんだからね。」
 意外な事実だった。
 早苗は、青人間が前の異変に関わっていたら一体どうなっていただろうかと、空恐ろしくなる。
 「死体を操るんですか……邪仙さんや、お燐さんみたいな力ですね。」
 「でも、あの子は現れなかった。恐らく見付けられなかったか、全く返事が無かったんだろう。
 第一、あの子に地中移動なんて芸当はできやしない。今回も無関係だよ。」
 「それで、彼女でもないとしたら、一体誰なんでしょうね。」
 「……イレギュラーが一人……とは限らないよ。脱走防止や捕獲に掛かる費用よりも、
 新しく育て直すほうが安上がりらしいからね……管理は杜撰だったと聞いている。
 (……その失敗のお陰で、新たに黄人間が生まれたんだけどね。)」
 「じゃあ、彼女の言う『モグラ男』と言うのは……青人間の殿方なのでしょうか?」
 「まあ……そうかも……ね。」
 諏訪子の返事はどこか歯切れが悪い。なので、それを聞いた早苗は訝しむ。
 「何か不自然な所でもあるんですか?」
 「いやね……食用人間は……遺伝子操作されてるから、同類同士の交配は考えられてないんだ。
 だから……数種類の種細胞からクローンみたいな形で生み出される。それらは全て『女性』だ。
 数世代毎に遺伝子入れ替えのため、人間の男性の細胞と交配させる事があるらしいけど。
 妖怪は……人間の男性は(食糧として)あまり好みじゃないらしい。だから女子供が好まれる。
 よって、食用人間に男性はいない。いるとしても、突然変異か、先天性異常くらいしか……」
 「女の子しかいない……妙だったんですよね……本気で戦争を仕掛けようと言うのに、大の男が
 一人もいなくて、男役と呼べるのが黄鬼戒さんだけという大奥+宝塚歌劇団状態でしたから……
 今回現れたモグラ男さんも、もしかしたら男装の麗人なのかも知れませんね。」
 「いや……もしかしたらそうなのかも……でも、見た感じ、素っ裸のマッチョな褌男だったから……
 どうだろうねぇ……顔はイケメンだから、むしろそっち系っぽいというか……上司も『兄貴』だし。」
 早苗が鋭い指摘をしてみせるも、諏訪子の発言で、場の空気が微妙になる。
 「マッチョな裸フンドシ男さんですか……しかも穴掘り上手……いやむしろ……
 そっちのほうが安心ですね……お父様があの体(少女)なら狙われずに済みそうですし……」
 「ちょっと……早苗まで何言い出すのさ……」
 「すみません……」
 脇で聞いていたマタギの娘も会話がいつの間にかあまりにも変な方向に進んでいたため、
 悲しみに暮れるのも忘れ、赤面していた。
 「お父ちゃんは……大丈夫ですよね……? 生きて帰って来れますよね?」
 「ああ……それは大丈夫さ。おそらく人質目的だろうし、生きて帰す事が前提だからね。
 仮に手下にするのが目的だったとしても、私達が必ず止めて、取り返してみせる。」
 マタギの娘は、寝泊まりする家が無くなったので、しばらくは守矢神社で預かる事となった。
 諏訪子は少女を連れて神社へ戻る。早苗は魔理沙達の様子を見に行った。

 (中間地点5.5:男の秘密基地)
 マタギ少女(父親)は、逃げられないよう、椅子に括り付けられ、手足を縛られていた。
 目の前には『兄貴』と、裸のフンドシ男がいる。
 周りにはドブネズミが徘徊した形跡があり、隅っこから一匹がこっそり顔を覗かせている。
 そして、『兄貴』の膝の上には猫が乗っており、周りに睨みを利かせている。
 「へ……あんた……意外と紳士的なんだな……年頃の女子を目の前にして、澄ましてられるなんて。」
 マタギ少女は憎まれ口を叩くが、『兄貴』は顔色一つ変えない。
 「生憎だが……俺は大人の女にしか興味は無い。言っちゃ悪いが……手前の体の魅せ方も知らぬ、
 形だけ立派に育ったガキには、そそられないんだ。」
 マタギ少女は、それを聞いて、(年頃の娘の身を案じる父親として)安心したような、
 それでいて、(年頃の女の子としての自分もしくは娘を貶され)怒ったような表情となる。
 「へっ……そうかい。もしかしたら、ソッチのほうの趣味があるのかと疑ってたんだけどな。」
 「よく誤解されるんだが……俺にはそういった嗜好は無い。」
 「隣にいる兄ちゃんもそう思うのかい? そんな構図を見せられたら説得力ねえけどな。」
 マタギ少女は、裸フンドシ男に振って見せるが、男は答えず、黙ったままである。
 『兄貴』も、さすがにこのままではまずいと思ったのか、着替えを命じる。
 「……『我が弟』よ。そろそろ着替えたらどうだ? さすがにこのままだと暑苦しくなる。」
 「……はい。兄者。」
 裸フンドシ男は、その体躯に似合わない少年のような声で答える。
 次の瞬間、体を大きく反らせ、ブルンッ!と大きく震わせる。
 ……すると、顎の周辺から肉襦袢が剥がれ、花びらのように大きく裂け、中からほっそりとした
 中性的な少年のような体が飛び出した。すぐに体を大きく後ろへ回転させたため、腰の部分は
 周りからはよく見えない。そのまま宙返りをして、後ろへ着地した後、すかさず体育座りをし、
 両腕と膝で体を隠す。『兄貴』が白いシーツを放り投げ、『弟』の体に掛けてあげると、
 それを体に巻き付け、修行僧のような恰好となる。
 先程まで土まみれになっていた男が、瞬く間に無垢な少年のような姿へと変わっていた。
 顔もいつの間にか汚れが無くなっている。そして、先程までそこにあったマッチョな体は、
 いつの間にか土くれのようなものへと変わっていた。周囲からはドブネズミが様子を伺っている。
 それに呼応するように、膝の上にいた猫が飛び降り、ネズミに対して威嚇して、近付けなくする。
 少年が手を上げ、指をクイクイと曲げると、土くれのような何かが少年のほうに引き寄せられ、
 纏わりついた土や泥を自ら払い落としながら、クネクネと形を変えて行き、少年の纏う服の裾から
 足に纏わりつき、服の中へと入っていく。すると、少年の体が徐々に細いものから肉付きの
 よいものへと変わり、体のラインがくびれ、女性的なものへと変わっていく。
 胸にも大きな二つの膨らみができ、あっという間に大人の女性へと姿を変えた。
 「見ての通り、こいつは俺の『女』だ。そして、最も信頼できる『弟』でもある。」
 この世のものとは思えない大魔術のような変身を見せられ、マタギ少女は言葉が出なかった。
 「……言葉も出ないようだな。こいつは俺の切り札だ。決して失敗はしない。
 お前を人質として取ったが、次は、お前と一緒にいたもう一人を人質にする。誰にも止められない。
 だが、お前が我々の仲間になるというのであれば、この件は無しにしよう。お前も解放する。
 ……これは『貸し』だ。乗ってみる気は無いか?」
 ようやく我に返った少女は、突然の脅迫および交換条件の提示に対し、わずかに動揺するが、
 すぐに持ち直し、一笑に付して見せた。
 「へっ……何言ってんだ。そんな事したって、お前らなんか守矢の神様に勝てるわけないだろ。
 俺や、俺の娘が人質にされたって、必ず奪い返しに来てくれるし、お前らなんかに絶対負けない。
 そんなバカげた取引無効だってえの。」
 しばしの間、少女は男を睨み付け、男は押し黙る。だが……
 「……お前。勘違いしてないか? お前に対する生殺与奪の権利は常に我々にあるんだ。
 貴様のような力の無い小娘など、いつでも胴から首を切り離せると、思い知る事だ。」
 男は、少女に近寄り、岩のように強烈な眼光を向けながら、少女の顎の先を指で摘み、軽く上げる。
 少女の喉元は、手術跡すら残っていないすべすべの綺麗な白い肌で、顎先を経て、顔の天辺まで
 傷一つない綺麗な柔肌だったが、男のゴツゴツした指が喉元をなぞり、赤い跡を付けて行く。
 「今ここで、お前が終わらないと、誰が保障するんだ? 神とやらが救ってくれるのなら、
 今すぐここに呼んでみろ。」
 男はひんやりとした巌のような目つきで、少女の目を見据え、冷たい現実を告げる。
 少女の顔は徐々に恐怖に染まり、顔からは冷や汗が吹き出てくる。体の奥底から恐怖が湧き起り、
 体が震えてくる。頭でいくら恐怖に打ち克とうとしても、魂が怯えてしまっていた。
 (だ……だめだ……俺は、こんなのに負けては駄目だ……でないと、娘にまで危害が及んでしまう。
 父親として……そんな事は……許されるわけがない。俺が身を挺してでも、助けないと……。
 だが……俺が死んだら……この体も……娘も一緒に……でも、頭だけでも無事なら……)
 少女は必死で恐怖に抗うも、体が恐怖で震え、心拍数が上がり、呼吸が増え、目の前が霞んで、
 徐々に涙目になってくる。
 「いい子だ。お嬢ちゃん。お兄さんが優しくしてあげよう。これは『貸し』だ。
 仲間になってくれれば、これ以上の誘拐はしない。約束しよう。」
 少女の背中から半透明の猫が出現し、少女の首に、鈴の付いた首輪が掛けられる。
 男は少女の頭をクシャクシャと撫で、少女は……年相応の女の子の顔で、泣いていた。

 (中間地点6:人里・商店前)
 人里出入り口付近で、男達2人を倒した魔理沙達は、早苗からの連絡を受け、男達のアジトを
 聞き出そうとしたが、彼らは何も知らされていない事が分かった。
 そして、『兄貴』が人里にある商店の若旦那であり、金貸しを兼業している事も判明。
 家族は、弟が一人いるだけで、両親は既に他界しており、弟と2人暮らしである。
 ちなみに、弟は知恵遅れで、子供の頃から二十数年間幽閉されているという噂だ。
 敵の正体は分かったので、はたてに頼んで、こいつらに関する悪い噂を集め、広めて貰う事で、
 完全に無力化する事ができるだろう。もうじき息の根は止まる。
 だが、マタギの父親が誘拐された事で、事態は複雑化しそうだ。最悪、人質との交換で、
 彼らの悪行を全て見逃さざるを得ない結果になるだろう。
 そして、もう一つの不確定要素がある。モグラ男の存在だ。
 武力だけなら、おそらく彼らの中で最強の敵となると考えられる。
 魔理沙達は、前の異変において黄鬼淋と交戦した事があり、その経験に基づいて、必要無い限り、
 低空および地上での戦闘はなるべく避け、高高度の空中戦に持ち込む事で合意した。

 早苗が合流してから、敵のアジト探しを始めるが、人里にある商店は臨時休業となっており、
 魔理沙が無断で中に入ると、誰もおらず、蛻の殻だった。そして、奥にある部屋へ行ってみると、
 座敷牢のような場所があったが、そこにも誰もいなかった。
 幽閉されていると言われる弟の姿も見えない。一緒にどこかへ逃げたのだろう。
 「もしかしたら、弟さんも利用されてるのかも知れませんね。」
 早苗は諏訪子の話から受けたモグラ男への印象から、彼が弟ではないかと睨んでいた。
 裸マッチョのフンドシという異様な風体からも、羞恥心の欠落が伺え、それが精神の遅滞による
 ものと推測できるからである。それに、穴掘りという泥臭い苦役を任されているのも、
 知能の弱さに付け込まれ、汚れ仕事を押し付けられているように思えたからというのもある。
 ただ、青人間の可能性もあるため、一概に決め付けられる事ではないが。
 「あいつは……昔からそういう奴なんです……人の弱みに付け込んで徹底的に利用する……最低の男です。」
 幼黄姫は、彼を知っている口ぶりで、冷たく辛辣な言い方をする。相当憤っている様子。
 「幼さん……そんな言い方はあまりにも……」
 早苗が宥めようとするも、鈴仙が止める。
 「巫女さん。あなたにはまだ分からないかも知れないけど、世の中には、とことん悪い奴がいるのよ。
 性善説だけでは説明の付かないようなね。……この子も、とても大変な目に遭わされてるのよ。
 辛辣に言う権利くらいあるわ。……それくらい言われても仕方の無い奴なのよ。」
 鈴仙は、先程の怪しい男(鍵師)との会話を思い返していた。彼もまた、あの男の被害者なのだろうと、
 勝手にそう解釈していた。(そして、道筋がどうであれ、それは事実である。)
 そこに、はたてから連絡が入る。メイドロボの電磁波探知によると、博麗神社の方角に、電子機器から
 発せられる電磁波が感知できたらしい。距離は、博麗神社の手前の森の真下あたり。
 妖怪の山の高い地点にある守矢神社からの探知であり、地平面に対して斜めにスライスした探知のため、
 方角だけでなく距離の精度も高く、信用できるとの事。しかも、メイドロボが怪我した体を引きずってまで、
 神社の境内をわざわざ歩き回り、複数地点からの観測を行ったため、より正確な高さや場所まで絞り込めた。
 地図も送られてきたため、はたての先導により、その場所へ一直線に向かう。

 (中間地点7:博麗神社手前の森)
 その森の上空には、赤い服の巫女がいた。
  • VS 博麗霊夢(楽園の素敵な巫女)
 「あんた達が、この森を焼こうとする不届き者ね。退治してあげるわ。」
 何だかえらく誤解されているようだが、早苗が事情を説明しようとすると、魔理沙が遮った。
 「……よく分かったな。この森の下に悪の秘密基地があるから、焼き払おうと思ってたんだぜ。」
 「何を言い出すんです? 魔理沙さん! 確かに、この下にある敵のアジトへ攻め込む話でしたが……」
 もちろん、森を焼き払うなどという作戦は立てていない。魔理沙の口から出まかせだが、早苗の反論も
 全くフォローになっていないばかりか、更なる誤解を生むものだった。
 「なるほど。やっぱり図星だったか。……ここはうちの神域よ。御神木に傷を付ける輩は許さないわ。」
 「土の下を弄って、悪い奴のアジトにするのは神域を冒す事にならないのか?」
 「あいつらはキチンと許可を取ったからいいのよ。地鎮祭もやったし、賽銭と謝礼も頂いた。
 神木を一切傷つけない場所でやるって条件付きだから、何も問題ないわ。」
 霊夢も能力に掛かったのかと思い、鈴仙は心の波長を覗いてみるが、何も取り憑いていない。
 どうやら完全に正気の上での発言だった。
 「……霊夢さん。見損ないました。人攫いの悪党を見逃した上に、庇うなんて……」
 「あー……勘違いしないでちょうだい。里の悪事は里の人間が解決すればいいのよ。異変でない以上、
 私がどうこうする問題では無いわ。」
 早苗の怒りを込めた冷たい眼差しと言葉に対し、やや気まずそうに霊夢は答える。
 「ともかく、この森を荒らすような真似はいかなる理由があろうと私が許可しないわ。」
 霊夢は気を取り直すように、毅然と言い放つが、それを聞いた魔理沙はほくそ笑む。
 「あはは。敵を炙り出すために、最悪森を焼き払う事も考えたんだけど、霊夢に許可を貰えそうに
 無かったし、後で何言われるか分かったもんじゃないから、正直諦めてたんだぜ。
 でも、やる前に文句を言われたし、勝負を挑まれた。つまり、霊夢をやっつければ、森は焼き放題。
 我ながらナイス・アイディアなんだぜ☆」
 「……つまり、私が霊夢さんを退治する役ですね。分かります。」
 早苗は完全に怒った目で、霊夢を見据えている。
 「……あんた達、一度頭冷やしたほうがいいわよ。」
 霊夢は、完全に呆れている様子。
 勝利条件:早苗一人で、霊夢を撃破する。
+ 負けた場合
 勝った場合、満身創痍の霊夢を横目に、魔理沙が本気で森を吹っ飛ばそうと、ミニ八卦炉を構えるが、
 地面から大きな土の塊のような何かが飛び出し、魔理沙目掛けて飛んで来たので、慌てて避けようと
 して、バランスを崩す。激突しそうになるが、その物体は魔理沙の体をすり抜け、上空目掛けて
 飛んで行き、雲の上辺りで止まった後、中からミサイルのような何かが飛び出し、上から一直線に
 はたて目掛けて突っ込んだ。死角の頭上から不意に突っ込まれたため、はたては対処できず、
 そのまま激突して、地面に墜落する。
  • 魔理沙達 VS 『弟』
 ミサイルのように見えたものは、裸のフンドシ男だった。
 はたては気絶しており、体が地中に埋まっている。
 魔理沙は背筋に悪寒を覚え、体中の全神経が非常事態を告げていた。
 迷わずマスタースパークを放つ。森が焼けるとか、そんな事を考える余裕も無かった。
 その時、上空から大鉈を振りかぶったまま落ちてくる少女に気付かなかった。
 あわや、真っ二つに切り伏せられるかという瞬間、遠くから飛んで来たミサイルのような弾幕が命中し、
 少女は軌道が逸れ、そのまま地上に墜落する。弾幕をまともに喰らったため、意識を失ったようだ。
 離れた場所にある木の天辺に腰かけるように片膝立て、肩に担ぐように竹箒を構えた首無し巫女が、
 竹箒の柄の先を、魔理沙の近くにいた標的へ向けていた。後ろの木々が若干焼け焦げている。
 無反動砲「パンツァーファウスト250」
 メイドロボから、マタギ少女(父親)が誘拐されたと聞き、敵のアジトのある場所まで飛んで来たのだ。
 魔理沙が上から降って来た少女にようやく気付き、目の前から注意が逸れた瞬間、裸フンドシ男は、
 何とマスタースパークに真正面から突っ込み、そのままダイヴする。そして、魔理沙の眼前に現れ、
 右手で作った手刀を魔理沙の腹に突き刺した後、すかさず左手で魔理沙の顔を掴み、そのまま手を
 潜り込ませ、中身を優しく揉むような仕草をし、すぐに手を引き抜く。
 すると、魔理沙は白目を剥いてバランスを崩し、そのまま地面へ墜落する。
 魔理沙は地面の上で蹲りながら、腹を押さえ、尋常じゃないほどの脂汗を掻きつつ、口を押さえる。
 直後、周囲から見えないよう顔を伏せ、嗚咽するような感じで、何かを吐き出す音を立てた。
 その様子を見た鈴仙は、危険と判断し、迷彩で身を隠しながら魔理沙に近づいたあと、背中を擦りつつ、
 波長操作で魔理沙に精神安定および吐き気止めと痛み止めを行う。だが、鈴仙の背後にはいつの間にか
 裸フンドシ男が立っていた。迷彩で身を隠しているはずの鈴仙の頭を鷲掴みにし、少しだけ手を潜り
 込ませ、そのまま上へ引っ張り上げると、鈴仙は白目を剥いて気絶してしまう。
 すぐに目が覚めたものの、鈴仙も吐き気を催し、涙目になり、波長操作どころではなくなる。
 横から幼黄姫が援護のために波長攻撃を行うも、全く効き目が無い。
 まるで、こいしを相手にしているようだった。いや、無意識ですら無い分、より性質が悪い。
 心そのものが希薄過ぎて全く感じられないのだから。
 正気に戻った魔理沙が、咄嗟に鈴仙の襟首を掴んでその場を離れると同時に、瓶のようなものを
 放り投げる。すると、裸フンドシ男を巻き込んで大爆発を起こした。
 さらに、帽子やスカートの中から信じられないほどの数の爆弾を放り出し、裸フンドシ男に投げ付けて、
 正真正銘の弾幕地獄をお見舞いする。魔理沙の本気だった。マスパでは潜り込まれると判断し、
 無数の弾幕の乱射攻撃で焼き尽くす戦法に出たのだ。
 後には、消し炭になった黒い塊だけが残っていた。
 魔理沙は一瞬だけ恐怖と罪悪感を覚えるが、気分が高揚していたため、乾いた笑いを漏らすのみ。
 全員から力が抜け、その場にへたり込んだ。
 終わったと思ったのも束の間、次の瞬間、魔理沙の目の前には裸の女性の上半身が地面から出ており、
 彼女の右手が魔理沙の喉元に突き刺さり、そのまま顎の下から頭を掴み上げる形になっていた。
 まるで、魔理沙の生首を持ち上げる右手の甲から、魔理沙の首と体が生えているように見える。
 魔理沙は全身の感覚がプツンと途切れ、両腕を力なくブランと下げ、ピクリとも動かない。
 顔は何が起きたのか分からないといった表情で、声すら出せず、息もできないまま、目の前が
 薄暗くなり、そのまま目から光が消えた。
 手を引き抜くと、首は元通り繋がるが、魔理沙は目が虚ろで、意識を失ったまま、力なく倒れる。
 そのまま、裸の女は魔理沙を地面に引きずり込もうとするが、後ろから鈴仙の回し蹴りを喰らう。
 だが、靴が彼女の顔をかすった瞬間、上体を思いっ切りずらし、遠くに避けるのとは逆に、
 一気に間合いを詰め、頭を鈴仙のふくらはぎで引っ掛けられる形となる。
 その次の瞬間、頭が鈴仙の脚をすり抜け、鈴仙の眼前に体全体が迫る形となり、一気に肉迫する。
 だが、鈴仙のほうも、それは計算済みとばかりに、もう片方の脚を振り上げ、前回し蹴りを行う。
 ムチのように足がしなり、高速の蹴りが顔にぶつかるも、頭をさらに前のめりにする事で、
 蹴りの勢いで靴下がずり落ちた向う脛を頭がすり抜け、女の上半身が鈴仙のすぐ背後にまで迫る。
 ここで、鈴仙はすかさず腰を後ろに突き出し、ボディプレスをお見舞いする。
 だが、裸の女はそこで何の躊躇もなく、鈴仙のスカートを捲り上げ、中に履いてる下着を擦り下げて、
 そのまま下のほうから鈴仙の体に潜り込み、服の中からスルリと全身に入り込んで、頭の天辺から
 爪先まで、鈴仙と重なる。鈴仙の顔面には、裸の女の顔が浮き出ている。その間、鈴仙の意識は……
 どこかへ飛んでいた。その状態のまま、鈴仙の体ごと地面の中に潜り、数秒後に、彼女だけが
 地面の中から現れた。鈴仙の服を着た状態で。鈴仙のほうは、地中に埋められたままだろう。
 てゐは、敵わないと見て、とっくに姿を晦ましていた。
 残りは早苗と、幼黄姫のみだが、早苗は霊夢との戦いで疲労困憊であり、動けるのは幼黄姫だけ。
 女のほうも、狙いは幼黄姫のみだったので、動けない早苗には見向きもしなかった。
 (そんな……魔理沙さん……はたてさん……それに、鈴仙先輩まで……みんな……)
 幼黄姫の中で、何かが芽生えようとしていた。
 (……酷いじゃない……よくも……私の…………あの人だけでなく、私達まで滅茶苦茶にしようと言うの?
 ……ふざけないで……ふざけないでよ…………ふざけんなよ……あの野郎ぉ……!!!)
 幼黄姫の髪の毛が、燃えるような金色に染まっていた。瞳の色も、黄色く燃える炎のように光り、
 目は……完全に怒っていた。頭に付けていた兎耳は、徐々に黒く焼け焦げていき、消し炭と化した。
 帝装備「THE EMPEROR 黄鬼喫姫」
 幼黄姫に新たな仮面が装備され、人格が豹変する。在りし日の黄鬼のようなものに。
 目を合わせただけで今にも焼き殺されそうな眼力を目の前にしても、謎の女は表情一つ変えず、
 一気に間合いを詰めようとする。が……
 「バーニング・グレアリング・アイズ」
 幼黄姫の目が黄鬼のような燃える眼光を発すると、謎の女の頭が突然燃え上がり、炎に包まれる。
 「……死ねよ。」
 炎は頭のみならず、全身に燃え広がり、あっという間に骨も残さず消し炭となった。
 ……と、見せかけて、女は幼黄姫の背後にいた。そこから後頭部を鷲掴みにしようとするが、
 幼黄姫の頭髪が黄鬼のように燃え上がり、炎が女の手に燃え移った事で慌てて手を離す。
 すぐに幼黄姫は後ろを振り向き、女の目を睨み付ける。すると、また女の頭が燃え始め、
 女は顔を押さえてもがき苦しむ。と同時に、体を地面に潜り込ませ、消火と共に、視線から逃れる。
 女……『弟』は、ここから一旦逃げてアジトへ戻り、火傷を治し、力を回復させた後、もう一度、
 裸フンドシ男の姿で再勝負に臨む事もできたが、『兄貴』の目の前での失敗を恐れるあまり、
 後退という選択肢は始めから頭の中に無かった。真正面から挑んでも絶対に勝てない相手を
 目の当たりにし、彼女は人生で三度目の窮地に立たされていた。最初は青人間飼育場から逃げる時。
 二度目は、『兄貴』の両親を誤って食中毒で死なせた時。そして、今回のこの戦いである。
 最初は自力で切り抜けようとしたが、最終的には両親に助けられる形となった。二度目は、
 自力で何かする暇も無く、『兄貴』のお陰で助かった。今度は……誰も助けてはくれない。
 彼女は今までにないくらい動揺し、いつもは無表情な顔が、苦痛に歪んでいた。
 眉を八の字に曲げ、眉間にしわを寄せ、歯を食いしばり、今にも泣き出しそうな顔をしながら、
 全身全霊で考えていると、ふと打開策が閃いた。
 (まずは……狙撃手を狙え。)
 女は、地中を物凄いスピードで移動し、木の根っこから上に潜り込み、木の天辺にいる首無し巫女の
 背後に現れる。どこから物を見ているのかよく分からないので、確実に死角になりそうな背中の
 下のほうに体を潜め、首根っこを掴もうとする。が、最後のほうで見えていたらしく、すかさず
 振り向いた首無し巫女と向き合う形となる。女は首無し巫女の腋から手を潜り込ませ、心臓を
 鷲掴みにし、同時に、首無し巫女は竹箒の柄の先を、女の喉元に突き付ける。
 互いに銃口を向け合う形となる。
 その様子を遠くから見ていた早苗は、違和感に気付き、大声で呼びかける。
 「駄目ぇ!!! その頭は偽物よぉ!!!!!」
 幼黄姫は女を睨み付け、頭を燃やすが、女はそれに構わず、首無し巫女の心臓を握る手に
 力を込めた。首無し巫女は竹箒の柄の先から弾幕を放ち、女の喉元を撃ち抜くと同時に、
 まさに心臓を握り潰されたような嗚咽を漏らし、そのまま動かなくなる。
 消し炭となった女の頭の後ろから、もう一つの頭が起き上がる。本当の頭は後ろに反らし、
 前のほうに偽物の頭を作っていたのだ。早苗からは見えていたが、首無し巫女と幼黄姫からは
 死角となっていたため、気付かれなかった。
 女は首無し巫女の体を引きずりながら木の中に潜り込み、そのまま地中に移動するが、
 途中で首無し巫女の体が木の枝に引っ掛かったせいで、彼女の体だけ置き去りにする。
 おかげで、木の枝などに叩き付けられる事となった首無し巫女は、全身から血を流した状態で、
 木の中に挟まっているのが見付かる。
 ショックに浸る間も無く、幼黄姫は地中からの攻撃を避けるため、空高く飛び上がる。
 だが、早苗は動くのが遅れたため、飛び立とうとした矢先、足を掴まれ、そのまま女に捕まってしまう。
 今度は、幼黄姫の攻撃を受けないため、早苗の頭の後ろに自分の頭を隠したまま、女は早苗を盾にする。
 その時、女の真横から鋭い木の枝が飛んで来たため、咄嗟に前のめりに体をずらし躱す。
 飛んで来た方向を見ると、木の中に挟まったままの首無し巫女が、こちらに首を向けながら、
 片手に竹箒を石弓のように構え、まるで笑っているかのように肩を震わせていた。
 そして、気付いた時には、女の頭は燃えていた。咄嗟に避けたため、早苗の体も一緒に前に倒れ、
 女の頭が死角から外れ、幼黄姫から丸見えになっていたのだ。
 女は咄嗟に早苗の体を後ろから羽交い絞めにし、道連れにしようとする。こうすれば、早苗の身を案じて、
 これ以上の攻撃ができないと踏んでの事だった。しかし……
 幼黄姫は、冷静さを失っている上に、人格が豹変していた事で、情までも失っており、そのまま躊躇なく
 攻撃を続行した。完全に予想外の反応に、女は度肝を抜かれ、全く成す術が無くなる。
 「え……嘘……あなたの仲間じゃ……う……うえ……えぎゃあああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
 早苗は熱さに耐え兼ね、自力で振りほどいた後、その場から離れる。
 女は一人火達磨となり、熱さと苦しみでのたうち回り、断末魔の悲鳴を上げる。
 その時、幼黄姫の頭が横から何かに撃ち抜かれ、同時に、火達磨になった女から全身の炎が消えた。
 鈴仙が炎の波長を操り、消火すると同時に、精神攻撃用の弾丸で幼黄姫を撃ち抜いたのだ。
 「止めなさい! 幼黄姫! 私達は殺人集団じゃない! あんたもそんな事しちゃいけない!」
 我に返った幼黄姫から、燃えるような金髪と炎の瞳が消え、元の黒髪黒目に戻る。
 「わ……たし……何て事を……」
 自分のしでかした事の重大さを前に、茫然自失となった幼黄姫は、徐に着地し、そのまま頽れる。
 鈴仙は、はたてや魔理沙の意識を回復させた後、てゐに安全な場所へ運んで貰っていた。
 大鉈の少女も、眠らせたまま、安全な場所へ運んである。早苗と霊夢は自力で移動した。
 さらに、てゐは首無し巫女を木の中から助け出すため、木の幹を揺らしたり枝を折ったりしている。
 その時、霊夢は火達磨になった女がまるで蛇の抜け殻のように皮だけ残し、忽然と消えているのに気付く。
 そして、皆のマークから一人外れている幼黄姫の背後に、地面から出て来た女(?)が迫っているのを
 見付け、封魔針を投げ付けた。女(?)は咄嗟に片手で防いだため致命傷を避けるが、手に針が
 突き刺さり、退魔の力により、手が爛れ落ちそうになったため、慌てて針を引き抜こうとして、
 もう片方の手も焼け爛れそうになる。それでも我慢して針を引き抜いて、投げ捨てたため、大事には
 至らず、ダメージもすぐに回復した。その間に、早苗が幼黄姫をその場から引き離し避難させる。
 幼黄姫は完全に戦意を喪失しており、とても自力で動けるような状態ではなかった。
 そんな時、鈴仙が傍らに寄り沿い、飲み物を差し出した。
 「これでも飲んで、元気出せっ!」
 「え……これ……」
 「あんたの好物でしょ。経費で落としてるからバレバレなのよ。」
 「すみません……」
 「いいのよ。いざとなれば天引きすればいいし。」
 「お給金……いただいておりませんので……」
 「そっか……まあ……そろそろ何かと入り用になると思うから、師匠に掛け合っておくわ。」
 「え? そんな……こんな私のために……」
 「あんた……そろそろ自信持ちなさい。でないと、内省的になり過ぎて、自分の価値に気付かないまま、
 生き急ぐ羽目になるわよ。自分を大事にできないと、誰かを助ける事も導く事もできなくなるのよ。
 期待してるんだから、こんな事くらいで気落ちして諦めてたら、先は無いと思いなさい。」
 「先……ですか。考えた事もありませんでした……」
 「……あんたは死んでないでしょ。昔からずっと生き続けてる。命は変わったけど、あんたはあんたのままよ。
 さっさと昔の面倒事を片付けて、今を先に進みなさい。これからあんたはまだまだ強くなるんだから。」
 「はい……頑張ります。」
 鈴仙と幼黄姫は、黒地に水色の爪痕が付いたクールな飲み物を酌み交わし、ゼロからの成長を誓う。
 その様子を見ていた早苗は、手提げ袋から、黒字に赤い爪痕が付いたカオスなドリンクを取り出し、
 一気に飲み干す。
 そして、気合を入れるため、地面に向けて拳を振り下ろした。
 (……混沌に、光あれ!)
 神の一撃「ビッグ・バン・インパクト」!!!
 すると、早苗が拳を当てた所から地面に亀裂が走り、森の大地を大きく真っ二つに割り、離れた所に
 生えていた木を真っ二つに引き裂いた。そして、その木の中に挟まっていた首無し巫女が救出される。
 「ちょっと……何してくれてんのよ。あんた……」
 霊夢は早苗の起こした突拍子も無い行動に呆れ返っている様子。もう怒る気力も失せている。
 「あれ……? あはは……結果オーライって事でいいじゃないですか。奇跡も起こせましたし。」
 早苗は自分が何をしでかしたのかも分からず、ただ笑って誤魔化す他無かった。
 霊夢はもう何かを言う事すら諦め、ただ溜息をつくのみ。
 その時、地割れを覗いていた幼黄姫が、地中深くにいる見覚えのある人影を見逃さなかった。
 「……あ!! あそこにあいつがいる! あれがアジトだったのね!」
 向こうのほうも驚いているのか、慌てて物陰に隠れ、そこから様子を伺いつつ、武装を始めた。

 (最終地点:博麗神社手前の森の地下秘密基地)
 幼黄姫は敵のアジトへ一人突入しようとするが、その前に『弟』が立ち塞がった。
 「ここは僕が相手だ。『兄者』には指一本触れさせない!」
  • VS 『弟』(青人間の女)
 勝利条件:混沌神・早苗と、幼黄姫(NPC)で、青人間『弟』を撃破する。
 変則ルール:戦闘は、早苗VS『弟』、幼黄姫VS『兄貴』という形式で行われる。
 ただし、『弟』がいる限り『兄貴』への攻撃はできないため、実質的に『弟』との2対1となる。
 幼黄姫は『兄貴』への攻撃を通すため『弟』を排除しようとするが、あくまで狙いは『兄貴』のみで、
 『弟』よりも『兄貴』へ積極的に攻撃を行うので、『兄貴』への牽制となり、動きを封じる事になる。
 『兄貴』は、地中深くで幼黄姫からの攻撃をしのぎながら隙を伺いつつ、『弟』の援護のため、
 時々、銃火器で早苗と幼黄姫を攻撃してくるので注意。
 早苗が『弟』を撃破すれば、自動的に『兄貴』との戦闘でも勝利となる。
+ 負けた場合
 勝った場合、早苗によって完全撃破された『弟』は、地割れの中に落ちて行く最後の瞬間まで、
 『兄貴』に助けを求める視線を送るものの、『兄貴』は目を伏せ、諦め顔となるのみで、
 そのまま落ちて行く『弟』に見向きもせず、アジトを後にし、どこかへ姿を晦ます。
 幼黄姫が地中のアジトに入ろうとしたその時、出入り口に仕掛けられていた自動爆破装置が作動し、
 それ以上先へ進めなくなる。さらに、地割れが元に戻ろうとしていたため、鈴仙の呼び掛けにより、
 慌てて地上に戻り、それ以上の深追いができなくなる。
 早苗は地割れに落ちて行った『弟』を助けるため、中に入ろうとするが、霊夢と魔理沙に止められ、
 泣き叫ぶ事しかできないまま、結局見殺しにする事になった。
 元々穴掘りや、すり抜けの能力があるので、死なないだろうと言う事で納得するしか無かった。
 その後、その青人間の足取りは不明である。『弟』の姿を見た者は誰もいない。
 そして、結局、男だったのか女だったのか、人間だったのか青人間だったのかすら、分からず仕舞いだった。
 その場から去ろうとする早苗達だったが、鈴仙のみ、その場から動けずにいた。
 裸の女に服を取られた上、服ごと燃やされてしまい、着るものが無くなったからだ。
 迷彩で何とか誤魔化していたものの、マッパのまま空を飛んで帰るのは流石に恥ずかしいらしく、
 博麗神社で余った布きれを貰い、急ごしらえのツギハギのワンピースを着て帰る事となる。
 その事で、永遠亭の主や医師から死ぬほど笑われたのはまた別の話。
 そんなゴタゴタがあったせいもあり、一人だけその場から姿を消した事に気付く者は誰もいなかった。

 (終章)
 早苗達に攻め落とされた秘密基地から『弟』を見捨てて命からがら逃げてきた『兄貴』は、
 秘密の通路を通り、実家の座敷牢の地面に開けられた隠し扉から家に戻った後、
 一旦姿を晦まして再起を図るために、箪笥の中から金目の物や印鑑、財産の権利書等、
 貴重品を全て持ち出し、屋敷の裏口から出ようとする。
 すると、そこに幼黄姫が待ち構えていた。
 「やっぱり……最後はここに来ると思ってたわよ。」
 男の顔から、一目で分かるくらい動揺の色が伺える。顔じゅう脂汗まみれだった。
 「……久しぶりだな。生きてて何よりだ。また会えるとは思わなかった。」
 男は落ち着きを取り戻すよう、自分に言い聞かせるかのように、無難な挨拶をする。
 「ええ。私も、またあなたに会う事になるとは、夢にも思わなかったわ。」
 幼黄姫の目線は、互いの上滑りな挨拶と相まって、どこまでも冷たいものだった。
 「また……俺と一緒になる気は無いか? これから雌伏の時が長くなるだろうが、元手はあるし、
 人集めも一からやり直せばいい。お前の助けがあれば、おそらく上手く行くだろう。」
 「……私達、いつから離縁後の元夫婦になったのかしら? あっちの趣味は無いつもりだし、
 一応、私も女だけど、あなたはハッキリ言って好みじゃないわ。他を当たってちょうだい。」
 男の歯の浮くような誘い文句に対しても、けんもほろろに断る幼黄姫。
 「……分かった。では、こうしよう。」
 男の表情が変わる。幼黄姫も何かを感じ取ったのか、警戒感をあらわにする。
 「俺の持つ全財産、全てお前に預ける。そして、お前の周囲にいる仲間に危害を二度と加えない。
 約束を破ったなら、俺の命や全財産をどう処分しようとお前の好きにすればいい。
 だから、これ以上俺の邪魔をするな。……これは『貸し』だ。乗ってみる気は無いか?
 お互い悪い話ではないだろう。」
 男の甘い誘い文句が幼黄姫に投げ掛けられる。そう、本当に甘いものだった。
 「……何か、勘違いしてない?」
 幼黄姫が刺すような目つきで男を睨み付ける。男は「ひょ?」と言いたそうな顔をする。
 「お前を生かすも殺すも私次第だと言う事を忘れてないか?」
 彼女の言葉が男っぽいものへと変化していき、徐々に感情が露わになっていくのが伺える。
 「ま……待て……」
 「今まで……私を含め、数えきれない人間を貶め、踏みにじり、利用してきたお前なんかに、
 この先の豊かな人生も、至福どころか雌伏の時すらも、都合よく用意されていると……
 一体いつから勘違いしてるんだ? お前、今……ここで終わらないと本気で信じてたのか?」
 「やめろ……」
 「死は……どんな悪人にも、善人にも、平等に与えられる人生の結末と言えるわ。
 でも……あんたには、それすらも生温いのよ。いえ……死後における地獄の十王裁判を経た後の
 無間地獄すらも、あんたには贅沢すぎる。」
 「やめろぉ……」
 「……その程度で反省できる程、あんたが犠牲にしてきた者達の時間は短くない。
 あんたはこのまま死ぬ事すらも許さない。……反省する時間をあげるわ。
 これまでどれだけの人生を狂わせて、踏みにじって来たのかを……気の済むまで……いえ……
 気が済んでからも猶、反省するのか嫌になっても反省し続けるだけの時間をあげるわ。
 これは『貸し』よ。あなたに拒否権は無いわ。」
 「それをやめろと言ってるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
 男は激昂して吼えるが、完全に冷静さを失っている上に、気合負けをしているので、
 幼黄姫を全く動じさせる事も無く、虚しく響くのみである。
 「……『あなたの時間は1秒毎に倍に加速する』。」
 幼黄姫の目が怪しく光る。彼女はこれまでで最も恐ろしい目つきとなった。
 「!!!」
 「倍々ゲームのように。バイバイ。……なんつって。」
 幼黄姫がそう言い終わるか否かの、次の瞬間、男は力無く頽れた。
 もう、男が言葉を発する事は、二度とない。

 「あれ……?」
 幼黄姫が振り返り、男の目を見る。
 「……もしもーし?」
 男の目の前で手を振って見せるが、全く反応が無い。
 (まさか……死んでないわよね……?)
 恐る恐る、心音を確かめたり、呼吸や脈拍を見てみるが、異状はない。
 最後に、意識があるかどうかを調べるため、男の目を見て波長を調べるが……
 「きゃああ!? やだ! なにこれ……」
 何やら雲行きが怪しくなってきた。幼黄姫の目に涙が浮かぶ。
 「どうしよう……やっちゃった……まさかこんなになるなんて……」
 途方に暮れていると、後ろからポンと肩を叩かれる。
 「ひゃあ!?」
 そこには、鈴仙の姿があった。服は元に戻っている。永遠亭で着替えて来たのだろう。
 「せせ……先輩……」
 「あんた……やったわね。二重の意味で。」
 「すみません……」
 「で、何をしたの?」
 幼黄姫は、男に掛けた暗示についての説明をした。
 簡単に言うと、男の体感時間を1秒毎に倍速にする。というものだ。
 幼黄姫は予想していなかったが、結果的に、男は幼黄姫が喋り終える前に、動かなくなった。
 幼黄姫が想定していた内容は、実時間が1秒経過する毎に男の体感時間が倍速になる事で、
 男が死ぬまでの間、途方も無い長さの時間を過ごす事となり、いつまでも死なない一方で、
 感じる体の速さがどんどん遅くなり、ゆっくり考える事を強いられ続け、自らの罪について
 十分に反省するようになるというものだ。
 この場合、時間の進み方は遅くなるが、男は必ず人生の終わりを迎える結果となる。
 「なるほどね……やっぱあんた未熟ね。」
 「へ?」
 「そもそも、時間なんて主観的なものなのよ。あんたが1秒経過したと思ってなくても、
 この男がそう思っていれば、この男にとっては1秒経過した事になる。
 実際に掛かった暗示は……こうよ。
 『男の時間を1秒毎に倍速にする』。
 この場合の時間は、男の体感時間でしかない。他の時間は全く関係ないわ。
 つまりね……」
 この場合、奇妙な事が起こる。男にとって1秒経過したと感じる毎に、実際に経過する時間は半分となり、
 まるで「アキレスと亀」のような現象が起こる。暗示に掛かってから1秒経過するまでは、時間の進み方は
 周りと同じだが、それ以後は、男の中で1秒経過する度に、0.5秒、0.25秒……と、経過時間が半分となり、
 永遠に2秒後に到達する事ができない。つまり、男の中で無限に時間が経った後に実際の2秒後がやって
 来るので、暗示の2秒後以降の世界に、男の心は存在する事ができず、無い状態となる。
 「そんな事って……」
 「結構あるのよ。人は自分の思い込みだけで、自分を殺す事だってできる生き物なんだから。」
 「じゃあ……どうすれば……」
 「あのね……これってまかり間違えば『殺人』よ。今回は私が何とかしてあげるから大丈夫だけど……」
 「すみません……ごめんなさい……」
 「はぁ~……これは『貸し』だからね。」
 その後の鈴仙による暗示解除で、男は意識を取り戻したが、最早以前のような心は残っておらず、
 廃人と成り果てていた。そして、翌日の朝、男は一気に老け込み、白髪頭のヨボヨボの老人となる。
 周りにわずかに残っていた男達は、老人となった男の財産欲しさに世話をするが、すぐに面倒になり、
 金目の物を持ち逃げされた後は、誰も近寄らなくなる。
 一人ぼっちとなった男は自分で動く事すらまともにできないまま孤独死を迎えようとしていたが、
 いつの間にか、傍らには『弟』が『女』の姿で寄り添っていた。
 そして、この兄弟は人知れずどこかへ姿を晦まし、以後、二度と人前に現れる事は無かった。
 トゥルーエンド。

 蛇足:
  • 首無し巫女(前代未聞の無貌の巫女)
 大怪我をした首無し巫女は、永遠亭に運ばれた後、入院する事となる。
 仲間の首無し少女達は、神奈子と諏訪子の説得で、男の洗脳から解けたため、行動の自由を取り戻すが、
 自分達の弱さを大いに痛感した事で、首無し巫女を頼るようになり、プレッシャーがのしかかる。
 その事で、首無し人間を祀る神社を守りながら、首無し少女達を一人で守り続ける事に不安を感じた
 首無し巫女は、永琳から兼ねてより相談のあった、蓬莱の薬の実験台の話に乗る。
 上手く行けば、不老不死になれるため、後継者問題などの諸問題が全て解消する上に、永遠亭からの
 バックアップを受けられるという話なので、いいことづくめだった。
 ただ、不死身になる事は、永遠に死ねない事を意味する。つまり、首無し人間のままだと、永遠に
 それを止める事ができなくなるという事だ。頭部移植を受けても、魂の形が変わるわけではないので、
 すぐに首無しに戻ってしまうかも知れない。だから、首無し巫女を永遠に続ける覚悟が必要だった。
 たとえ、今生きてる他の首無し少女達が全員何らかの理由でいなくなっても、神社が忘れ去られても。
 治療を受ける前夜、首無し巫女は一晩中考え事をしていた。今の自分の周囲にいる子達の事を考えれば、
 一刻も早く、確実に元気になる必要があるし、決して倒れない体も必要だった。
 食費も馬鹿にならないので、バックアップはぜひとも欲しい。だが、その後の事はどうする?……等と。
 次の日、薬の投与が行われ、首無し巫女の体の傷は全て治り、怪我は全快した。
 ……だが、実験結果は失敗だった。
 正確には、魂の形を固定する事はできたものの、不老不死にはならなかった。
 少々の怪我はすぐに治る強い体を手に入れはしたものの、老いもするし死ぬこともできる体のまま
 だったというのが、実験結果から分かった事らしい。
 本当の不老不死になるには、永遠に生きる事への覚悟と、自分の姿を明確に思い描く事が必要だったが、
 彼女の場合、その覚悟も欠けており、自分の姿に対する明確なイメージも無かったという事だ。
 そして、魂の形にしても、首から上に関してはぼやけているため、首の怪我には気を付けた方がいい
 と宣告を受けたらしい。
 ともかく、神社へのバックアップを受けられる事にはなったので、それでよしとした。
 そして、覚悟が固まるまでの猶予期間を設けられた事で、彼女は安堵する。これからゆっくり
 考えて行けばいいのだと。
 それから、時々守矢神社で早苗と会ったりする事もあるが、彼女を見た早苗は、時折彼女に顔がある
 ような錯覚に襲われる事があるらしい。黄鬼とよく似た黒髪の女の子の顔がうっすらと見えるそうだ。
  • 首無し少女達
 一部は、竹林に匿われていた男達や、『兄貴』がいなくなってから行き場の無くなった男女の一部から、
 頭部の提供を受ける事で、接合手術を受けた後、新たな人間として生まれ変わる。
 残りは、首無し巫女の怪我が快復した後、彼女と共に山へ帰って行った。
  • 竹林に匿われた男達
 一部は体が悪かったり、評判が悪いせいで、このまま生きていても先が無いと諦めていたので、
 首無し少女に頭を提供する事で、全く新しく別の少女として生まれ変わり、あちこちへ散って行った。
 (その際、残された元の体は永遠亭に献体として出される事となる。)
 残りは『兄貴』の呪縛から解放された事で、元々あるべき自分の場所へ戻って行った。
  • マタギ少女(父親)
 大鉈を振りかざして襲ってきた少女は、『兄貴』によって洗脳されたマタギ少女だった。
 危うく仲間を手に掛ける所だったが、首無し巫女の手により未然に阻止され、そのまま意識を失って、
 全てが終わるまで眠り続けたのは幸いだった。
 そのまま守矢神社まで運ばれ、『兄貴』がいなくなった事を告げられ、洗脳を解いて貰う。
 だが、父親としてのプライドを守れずに、少女として心を折られた事で、父親として振る舞う事に
 自信を無くし、娘の前で、父親を止めたいと打ち明ける。
 しかし、娘は全て分かっていたかのように、父親を抱きしめ、自分の心を犠牲にしてでも、
 体を守ってくれた事に感謝を述べた。そう、また、身を挺して自分を守ってくれたのだと、
 娘は信じているのだ。だから、父親を止める必要なんかない、あなたは立派に父親を演じていると、
 励ましの言葉を貰い、少女は自分自身の心に自信を取り戻す。
 それからしばらくして、少女は自分の体に成人した女性としての兆候が表れた事を自覚し、
 娘に見守られながら、諏訪子への謁見を行い、儀式を願い出る。
  • 幼黄姫(黄絹幼婦のニコイチ少女)
 因縁の敵である『兄貴』に完全勝利した上、二度と悪さができないよう心の抹殺まで行った幼黄姫は、
 過去に打ち克つ事に成功したものの、いささかやり過ぎたことを気に病んだために、
 自ら能力制限を鈴仙に願い出る。だが、鈴仙は首を縦に振らなかった。
 やり過ぎたと思うのなら、安易に力を放り出したり、他人に預けたりせず、自分でしっかり受け止め、
 間違った使い方をした事を反省し、力の使い方を自分で正しく制御しなければ本物にはなれない。
 という事らしい。永琳も、鈴仙の考え方に賛同し、黄鬼の仮面を暴走させた事についても不問とした。
 一時は、危険予防のため、紫の境界操作で能力発動の条件を厳しくして貰おうと考えてもいたが、
 紫が難色を示したのと、鈴仙の考え方を聞いたため、思い直したようだ。
 それからは、鈴仙の賃上げ交渉により、給金を貰える事となり、鈴仙の勧めで、化粧品を購入する
 ようになる。目元のメイクを教えて貰い、目つきが女の子っぽくなるような化粧法を伝授され、
 男っぽさが陰に隠れるようになる。その代わり、以前よりも活発で積極的になる。
 芯に男らしさを秘めた、女らしい女になれる日も少しだけ近づいたようだ。
  • 東風谷早苗(祀られる風の少女)
 見事、青人間を撃破した早苗は、全てが終わった後、荒らした御神木やら、割った地面の修繕を
 魔理沙達と一緒にさせられる事となる。
 幼黄姫はいつの間にか姿を消しており、鈴仙とてゐは永遠亭の仕事があると言って帰った。
 首無し巫女は怪我人なので動けず、はたても天狗の仕事が忙しいと言ってさっさと飛んで行った。
 よって、霊夢の命令により、たった2人で作業をさせられる羽目になる。
 しばらくすると、神社で首を長くして待っていた諏訪子がやってきて、全部一気に片付けた後、
 マタギ少女を引き取って神社に帰ったため、何もする事が無くなり、そのまま解散となる。
 諏訪子から、前の異変の中心人物より強いと評された青人間を撃破した事は、早苗に自信を深め
 させる結果となったが、本当はさらに強いのがもう一種類いるのかも知れないと早苗が言い始め、
 流石に諏訪子でも冷や汗をかかされる。次はそいつと戦いたいと言い出さないか戦々恐々である。

  • 『男の時間を1秒毎に倍速にする』暗示についての計算
  • n:体感時間, t:実時間の場合(実際に掛かった暗示)
n≧0, n∈X, t(0)=0と定義すると、数列t(n)の漸化式は以下のものとなる。
t(n+1)=t(n)+2^(-n)
よって、数列t(n)は以下の式で定義される。
t(n)=(1-2^(-n))/(1-2^(-1))=2-2^(-n+1)
nの極限を取ると、tは以下の値に収束する。
lim_(n->+∞)t(n)=2
∴現時点からn秒後における時間の進む速度が2^(-n)の場合、実際に進む時間tは2秒の手前で収束するため、2秒後以降の世界は永遠に来ない。
  • n:実時間, t:体感時間の場合(想定したが実現しなかった暗示)
n≧0, n∈X, t(0)=0と定義すると、数列t(n)の漸化式は以下のものとなる。
t(n+1)=t(n)+2^(n)
よって、数列t(n)は以下の式で定義される。
t(n)=(1-2^(n))/(1-2)=2^(n)-1
ここで、tの極限を求めるため、式の変形を行い、逆関数n(t)の式を求める。
2^(n)=t+1
log(2^(n))=log(t+1)
n*log(2)=log(t+1)
n(t)=log(t+1)/log(2)
tの極限を取ると、nは以下の値に発散する。
lim(t->+∞)n(t)=∞
∴現時点からn秒後における体感時間tの進む速度が2^(n)の場合、実際に進む時間は収束しない。つまり、進み続ける。


 (昔話:兄弟船・過去録)
 時は二十数年前に遡る。
 男は人里で生まれ育ち、裕福な家庭で何不自由なく育った。勤勉で学業優秀で力持ち。
 一つだけ不具合があるとすれば、知恵遅れの弟が一人、座敷牢に幽閉されている事だけ。
 両親は商いを営んでおり、信用が大事だったため、他人様に見せられない子を野放しには
 できなかったのだ。しかし、誰かが流した噂のせいで、そういう子供がいる事が露見し、
 そのせいで近所の評判が悪くなり、商売が傾く結果となった。
 家計が一気に苦しくなり、借金まみれになった事で、子供を売ろうという話になったが、
 弟は人前に出せる状態でなかったため、売る事もできず、代わりに長男である男が奉公に
 出される事となった。
 男は役立たずな上に疫病神だった弟を憎み、たった一人の弟を愛せない事を悔やんだ。
 奉公先では人として扱われず、毎日のように酷い仕打ちを受け、汚れ仕事しかさせて貰えず、
 弟の事でも馬鹿にされていたために、彼自身も馬鹿扱いされ、何を言っても聞く耳を持っては
 貰えず、他人の悪事を擦り付けられたりもして、荒んだ性格となる。
 ただ、元々頭が良く力もあるので、言い付けられた仕事は全て卒なくこなし続けるため、
 雇い主からは重宝がられ、立場は下っ端扱いのままだが、一応安定していた。
 しかし、その事が周りの人間達からの嫉妬を買う事に繋がり、陰湿な嫌がらせを執拗にされ、
 とうとうブチ切れて乱闘騒ぎを起こしてしまい、お暇を言い渡され、放り出されてしまう。
 それからは野犬のようにあちこちで噛み付いて回り、喧嘩に明け暮れ、窃盗や詐欺等を働く
 荒んだ生活を送り続け、とうとう裏社会の住人となり、一つの勢力を築くまでになる。
 暇つぶしに路地裏をふらついてる時、たまたま実家が目に入ったため、久しぶりに訪れる。
 座敷牢の小窓から中を覗いてみると、中にいたのは、……見知らぬ子供だった。
 商売のほうは何とか持ち直したようだったが、家計は苦しく、両親はすっかりみすぼらしく
 変わり果てていた。男は両親に、座敷牢にいる子供の事について尋ねると、一拍置いた後、
 恐る恐る、ゆっくりと言葉を選ぶように、それまでの経緯を打ち明けられた。

 男が奉公に出された後、座敷牢に幽閉されていた弟は、実家が傾き、兄がいなくなった事を
 何となく感じ取ったのか、毎晩のように夜中じゅう大声で奇声を上げて泣き喚くようになり、
 両親はその度に起こされて泣き止ませる日々が続き、とうとう耐え兼ねて、放り出す事とした。
 知恵遅れなのは一目瞭然であり、悪い噂も広まっていたので、奉公に出す事もできず、
 人里離れた山奥まで連れて行き、置き去りにして妖怪の餌にするしかなかったのだ。
 息子を置き去りにした後、一目散に山奥から逃げ、博麗神社の近くの参道に出た所で、
 日傘を差した赤い服の女性に出くわす。両親は、その女性の正体を知っていたようで、
 まるで罰にでも当たったかのように震え上がり、跪き、まるで神に救いを乞うように頭を下げる。
 赤服の女性は、しばし目の前の夫婦を見つめた後、事情を察したのか、小動物を虐める猫のような
 不気味な笑いを浮かべ、畳んだ日傘の先を目の前に向ける。
 そこに、閻魔が通りかかり、威圧感のみで、赤服の女性を制止する。
 すると、赤服の女性は、つまらなそうな顔をして、その場から去って行く。
 その後、閻魔は両親に対し、刺すような目線を向け、無言で合図を送る。「今なら引き返せる」と。
 思い直した両親は、一度は置き去りにした息子を探すが、泣き声すら聞こえなかったため、
 胸騒ぎを覚える。そして、その予感は、奇妙な形で的中する事となる。
 木の傍に、2人の子供がいた。片方は、粗末な着物を身に付けている利発そうな子供であり、
 もう片方は、血の付いた薄汚れた白いワンピースを纏い……顔が原型を留めない程潰れた子供で、
 既に事切れており、腰の辺りが真っ赤な血で染まっていた。
 そして、利発そうな子供が着ている服は、先程まで、息子が着ていたのと同じものだった。
 両親は、この子供が何をしたのか、語らずとも全てを察したが、逃げたり、咎めたりする事ができず、
 じっと見つめ合いながら、逡巡していた。
 ……そう、息子の代わりに連れて行こうと本気で考えたのだ。子供の顔にもそう書かれていた。
 両親は、この子供を息子の代わりに連れて帰る。参道を歩いている所を、少し離れた所から
 閻魔が見ていたが、何も言わずに目を伏せた。
 それから程なくして、木の傍で死んでいる子供を見付けた白い防護服の人達は、ビニール袋に
 子供の死体を乱暴に放り入れ、そのまま山奥のほうへ去って行った。

 男は、厄介者の弟がいつの間にか利口な弟にすり替わっていた事に、驚きと、若干の安堵を覚えるも、
 それが前の弟に手を掛けた殺人者であるという気持ち悪さは拭えなかった。
 いや……それは両親のやろうとした事にも同じように言えるだろうし、自分でも同じ事をしただろう。
 決して責められる事ではない。そう思い直し、男は新しい弟を受け入れた。
 その『弟』は奇妙だった。毎日少ないながらも食事を与えられてはいるが、風呂にも入らず、
 用も足さず、一日中座敷牢の中でじっとしている事のほうが多く、たまに、こそこそと地面に
 何かを埋めていたりする。(便所に相当するものは一切置かれていない。なぜなら、知恵遅れの弟が、
 瓶を割って中身を飛散させたり、穴の中にある汚物を手に取って壁に塗り付けるなど、
 極めて不潔な異常行動に走り、止めようとしても理解できないのか、聞く耳を持たなかったため、
 そのようなものは全て撤去し、汚れても平気なように、壁と床の全面を土で囲ったからだ。)
 元々不潔な部屋だったので、新しい住人を入れるにあたり、土を取り払い、消毒したものの、
 費用を掛けられないため、それ以上の事はしなかった。よって、用足しは自分で穴を掘るしかない。
 しかし、弟の体は土汚れ以外に一切の垢などの汚れが溜まる事も無く、悪臭を放つ事も無く、
 常に手入れされた身綺麗な格好のままだった。着ている服にしても、いつまでも洗わなくても、
 ほとんど汚れず、臭いもしないので、不審に思った両親が、無理やり服を脱がせ、風呂に入れて、
 服を洗濯する事にした。その時、もう一つの驚くべき事が分かった。
 その『弟』の股間には、あるはずのものが無かった。いや、元々無いものだったのだろう。
 顔もよく見ると、年頃のそれらしいものだった。この子は、偽ってたのだろう。
 体つきも、痩せているので分かりづらかったが、それらしいものになっていた。
 両親は、自分達に可愛い子供が新たに生まれた気分となり、見る目が若干優しくなった。
 たまに、こそこそと地面を掘っていたのも、隠したい何かを埋めていただけなのだろう。
 その日、両親はわざわざ赤飯を炊き、『弟』の所へ持って行った。
 それからは、男子の粗末な着物を身に付けていても、一目見ればそれと分かるくらい、
 全身と顔から仄かな色気を発するようになっていたため、男は自分の『弟』の正体に薄々気づき始める。
 そして、同時に、仄かな恋心をも抱き始める。
 男は気付いていた。時折周囲に寄って来る町の女性達にはない、サファイアのような希少な輝きが、
 あの『弟』に秘められていた事に。
 しばらくすると、店の商売は完全に持ち直し、借金も完済し終え、家計は潤い始める。
 男も、忙しくなり始めた店の手伝いに駆り出されるようになり、少しずつ、悪事からも足を洗い始めた。
 しかし、好事魔多しという言葉通り、新たなトラブルに巻き込まれる事となる。
 かつて裏社会で男に叩き潰された輩共が徒党を組み、闇夜に紛れ、お礼参りを決行したのだ。
 コテンパンにやられ、瀕死の重傷を負った男は這いずるように実家へと帰り、そこで力尽きそうになるが、
 うつ伏せに横になっている男の目の前を、スライム状の何かが横切り、男の口に纏わりついて、
 中に入ろうとしてくる。男は吐き出そうとするが、それが舌に吸い付きそうな程の美味だったため、
 クチャクチャと噛んで飲み込んでしまう。すると、見る見るうちに腹の奥から活力が湧いて来て、
 立ち上がれるまでに回復する。男は足を引きずったまま家に入り、何を思ったか、座敷牢の所まで行き、
 『弟』に会おうとする。そして、目の前にいる『弟』に呼び掛けると、向こうも気付いたのか、
 男のほうを振り向き、笑顔で何かを差し出す。それは、先程口にしたスライム状の何かであった。
 よく見ると肉塊のようでもあり、ほんのりと薔薇のような香りがする。
 香りにつられるように、それを受け取り、口に運ぶと、得も言われぬ香しい匂いが鼻から脳天を突き抜け、
 今まで食べたどんな獣肉よりも濃厚で雑味の無い、醍醐味を超えた何かを感じ、天に誘われたような
 気分となり、知らず知らずのうちに出血は止まり、全身の傷が治っていた。
 だが、手足や胸の痛みは完全には引かなかったので、大事を取るため、二三日寝込む事となる。
 そして、その夜の出来事を物陰から見ていた者達がいた。彼らの両親である。
 男が寝ている間、両親は座敷牢に踏み入り、土の中からあるものを掘り出そうとする。
 しかし、『弟』は精一杯抵抗しようとする。が、力では大人の男に敵わないので、殴りつけられた後、
 気絶して動けなくなる。そして、地面の中から真っ白な何かの塊が掘り出される。
 それを台所へ持っていき、父親が生のまま毒味をした後、食べられると判断し、母親が一部を包丁で
 切り取り、洗って焼いたものを2人で食べ始める。そうしているうちに、白い塊は徐々に黒ずみ始め、
 腐臭のようなものを放ち始める。2人は食べたものがあまりに美味しかったのか、飽き足らずに、
 黒ずんだ塊から、さらに切り取って、洗ったものを、今度は三杯酢で食べ始める。
 しかし、突然苦しみ出し、そのまま倒れ、動かなくなる。
 『弟』が目を覚まし、開けっ放しになっていた扉から出て、台所まで駆けつけた時には、既に遅く、
 両親は事切れていた。ちょうどその時、用を足すのに起きていた男も現場を目撃する。
 『弟』は、「違う」と言いたいのか、眉を八の字にして、目を潤ませながら、首を横に振る。
 男は、台所に置かれていた黒い塊を見てから、事情を察し、『弟』に、それを持って離れるように言った。
 父親が持っていた座敷牢の鍵を取り上げ、座敷牢のほうへ行くと、『弟』は既に中に戻っており、
 膝を抱えて震えていた。男は、座敷牢に踏み入り、『弟』の肩をポンと叩いた後、こう告げた。
 「これは『貸し』だ。」と。
 男は里の自警団に通報した後、『弟』の事や、黒い塊の事を伏せたため、食中毒による死亡とされた。
 店の経営が軌道に乗った事で、たまの贅沢のために、どこかから生ものを仕入れ、運悪く毒に中った
 という事で話が納まり、男は長男だったので、そのまま店を継ぐ事となった。
 家族経営であり、他に有力者がいないためでもある。だが、不慣れな上に人手不足のため、
 経営を一気に縮小し、その代わり、裏社会の人脈を利用し、裏で金貸し業を始める事となる。
 男は先日のお礼参りによる後遺症で、あちこちの腱を痛めたせいで、激しい運動のできない体になった。
 もう二度と以前のような喧嘩に明け暮れる事はできない。しかし、それを代替機能で補うかのように、
 新たな能力が芽生え始めた。人心把握能力とも呼ぶべきそれは、金貸し業で身に付いたものなのか、
 人に『貸し』を作っておいて、猫の首に鈴を付けるかのように、相手を縛るという手口を用いる。
 この力は年月を経る毎に強くなっていき、それを自覚し始めた頃、目に見える形で発現する事となる。
 能力の管理下にある人間の首には、鈴の付いた首輪が巻かれ、背後に半透明の猫が憑いているのだ。
 このビジョンは、男の知る限り、彼自身にしか見えない虚像であり、能力に掛かった者とそれ以外とを
 見分ける以上の意味が無い記号に過ぎなかったが、猫が可愛かったため、男はその像を気に入り、
 自身の能力にこう名付けた。『首に鈴をつける程度の能力』と。
 元々猫好きで、野良猫の餌やりなどが趣味だったが、実家では商品に瑕を付ける猫を飼うのを禁止
 していたため、飼うのを我慢していたのだ。しかし、店を縮小させた事と、自身が店主となった事で、
 猫を飼えない理由が無くなったため、気に入った野良猫の一匹を家に上げるようになり、そのうち
 男に懐いて住み着くようになった。その猫は虎柄で青い目をした短尾の日本猫で、今でも飼い主の
 膝の上でよく寝ている。
 そして、『弟』のほうは、元々知恵遅れのほうの弟に成り変わっていたため、人前に出る事ができず、
 以前と変わらず座敷牢に閉じ込められていたが、夜中にこっそり抜け出すようになり、偶然それを
 目撃した男が、本人に問い詰めた結果、地面に穴を掘って移動している事を自白した。
 元々潜るのが得意なため、この家にやって来る前から、水や土を問わず、色んなものに潜りながら、
 逃亡を何度も試み、脱走に成功してからは、追っ手から逃げ回っていたそうだ。
 元々生まれた場所から逃げたのは、そこでは、気分が悪くなるほど不味い飯しか食べさせて貰えず、
 口を利いただけで監視役の人間に叩かれ、気分が悪くなる薬を飲まされるのが嫌になったから。
 そして、周りにいる同じような子がどこかに連れて行かれ、二度と戻って来ないのが、
 何となく不吉に思えたから。もう一つは、着たくも無い違和感のある服を着せられるから。
 周りにいる子達とは、自分だけはどこか違うと思ってたので、同じ様に扱われたく無かったらしい。
 逃げ出した後、偶然今の両親や知恵遅れの弟と出くわし、そこの家の子供にして貰いたくて、
 前の弟に手を掛けたそうだ。悪かったとは思ってるらしく、何とかして罪滅ぼしをしたいと
 考えてるらしい。
 それを聞いた男は、『弟』のそれまでの生き様や、特技などから、能力の命名を行う。
 『潜り込む程度の能力』。これが、『弟』の能力名となった。
 (おわり)