ディルムッドの憂鬱
「召喚に応じ、馳せ参じたと思えば……何だったんだアレは」
ホテルの屋上に一つの影が浮かぶ。
数秒ごとに赤く緩やかな点滅を繰り返す航空障害灯に照らし出されるは、
近代的なホテルに見合わぬ騎士の姿だった。
極限まで無駄を削がれた皮鎧。
薄い衣の上からでもはっきりと分かる鍛えられた肉体。
癖のある長い黒髪を後ろに撫でつけた、端正な顔立ちの美丈夫だ。
数秒ごとに赤く緩やかな点滅を繰り返す航空障害灯に照らし出されるは、
近代的なホテルに見合わぬ騎士の姿だった。
極限まで無駄を削がれた皮鎧。
薄い衣の上からでもはっきりと分かる鍛えられた肉体。
癖のある長い黒髪を後ろに撫でつけた、端正な顔立ちの美丈夫だ。
「目に煩い見世物小屋の次は右も左も分からん孤島とは。
このような催しを企てた輩の顔が見てみたいものだ」
このような催しを企てた輩の顔が見てみたいものだ」
琥珀色の瞳が周囲を見渡す。
今は誰も目にすることのない騎士の貌は、しかし確かに美しい。
高い鼻梁と凛々しい眉は精悍さの見本のよう。
厳格に引き結んだ口元と、穏やかでどこか憂いを帯びた眼差しの対比も見事というよりない。
右目の下の泣き黒子も彼の妖艶さを高める一因となっている。
女のような綺麗さではなく、男特有の色香といえるだろう。
これではただの一瞥でも女性の心を揺り動かすに余りあるに違いない。
彼にとってはごくさりげない仕種であったとしても。
今は誰も目にすることのない騎士の貌は、しかし確かに美しい。
高い鼻梁と凛々しい眉は精悍さの見本のよう。
厳格に引き結んだ口元と、穏やかでどこか憂いを帯びた眼差しの対比も見事というよりない。
右目の下の泣き黒子も彼の妖艶さを高める一因となっている。
女のような綺麗さではなく、男特有の色香といえるだろう。
これではただの一瞥でも女性の心を揺り動かすに余りあるに違いない。
彼にとってはごくさりげない仕種であったとしても。
「興が乗ろうと乗るまいと、規定を破れば罰則はあるのだろうな。
やれやれ……これが剣技を競うコロッセウムであれば楽しみようもあったというのに」
やれやれ……これが剣技を競うコロッセウムであれば楽しみようもあったというのに」
騎士は額に掛かる数房の前髪を物憂げにかき上げた。
世の女性を魅了して止まない容姿を持ちながら、彼はこの催しに乗る意志が薄かった。
――そう、愚直なまでに、彼は騎士なのだ。
主君への忠義と強敵との死闘。
それらこそが彼の求めるものだった。
無論、女性を愛する感情がないわけではない。
かつては主君への忠節と自らに向けられる女の愛の狭間で揺れたこともあった。
ディルムッドとグラニアの物語――それはアイルランドに伝わる伝承。
彼は、伝説に名高きフィオナ騎士団の『輝く貌』ディルムッド・オディナその人である。
聖杯戦争という第二の生を得る好機に応じ、ランサーのクラスを得て召喚されるはずだったのだが――
世の女性を魅了して止まない容姿を持ちながら、彼はこの催しに乗る意志が薄かった。
――そう、愚直なまでに、彼は騎士なのだ。
主君への忠義と強敵との死闘。
それらこそが彼の求めるものだった。
無論、女性を愛する感情がないわけではない。
かつては主君への忠節と自らに向けられる女の愛の狭間で揺れたこともあった。
ディルムッドとグラニアの物語――それはアイルランドに伝わる伝承。
彼は、伝説に名高きフィオナ騎士団の『輝く貌』ディルムッド・オディナその人である。
聖杯戦争という第二の生を得る好機に応じ、ランサーのクラスを得て召喚されるはずだったのだが――
「……さて。そこのご婦人は如何なされるつもりかな?」
ランサーは軽く夜空を仰いだ。
都会よりも星の多い――だがランサーの生きた時代よりは確実に少ない空。
月の光を遮るようにして、ドレスの女が宙に浮いていた。
太腿に届かんばかりの蛍火色の髪を二つに結った妖艶な美女。
淡い桃色のドレスは異様に胸元が開いており、女の色香を遺憾なく高めている。
乳房の上半分は殆ど露出しているのではないだろうか。
肩も露わで、スカートも長いのは後ろと横ばかり。
肝心の前部だけは膝を隠すほどの長さもない。
それほど肌を見せる作りでありながら、両手足は肘と膝の上までを黒い手袋とソックスで包んでいた。
柔肌を視線から隠す布のようでいて、実際は逆だ。
隠されているからこそ、ある男はその内側へ妄念を働かせ、ある男は開かれた乳房に目を奪われるのだ。
都会よりも星の多い――だがランサーの生きた時代よりは確実に少ない空。
月の光を遮るようにして、ドレスの女が宙に浮いていた。
太腿に届かんばかりの蛍火色の髪を二つに結った妖艶な美女。
淡い桃色のドレスは異様に胸元が開いており、女の色香を遺憾なく高めている。
乳房の上半分は殆ど露出しているのではないだろうか。
肩も露わで、スカートも長いのは後ろと横ばかり。
肝心の前部だけは膝を隠すほどの長さもない。
それほど肌を見せる作りでありながら、両手足は肘と膝の上までを黒い手袋とソックスで包んでいた。
柔肌を視線から隠す布のようでいて、実際は逆だ。
隠されているからこそ、ある男はその内側へ妄念を働かせ、ある男は開かれた乳房に目を奪われるのだ。
「ご婦人よりはお嬢さんの方が良かったわ。
それにしてもいい男ね。私好みだけど、もう十年若ければもっと嬉しかったかな」
それにしてもいい男ね。私好みだけど、もう十年若ければもっと嬉しかったかな」
果実のように甘い声色で女が嘯く。
その短い会話だけで、ランサーはこの女が催しに乗ろうとしていることを悟った。
その短い会話だけで、ランサーはこの女が催しに乗ろうとしていることを悟った。
「意図も分からん酔狂に乗る、と?」
「あら。貴方が言えたクチ?
さっきから私に魅了の魔術を掛けてるじゃない」
「あら。貴方が言えたクチ?
さっきから私に魅了の魔術を掛けてるじゃない」
くすりと笑う女。
ランサーは肩をすくめ苦笑を返した。
ランサーは肩をすくめ苦笑を返した。
「生まれつきなものでね。こればかりはどうしようもない」
「生まれついての女殺しってわけね。それで顔もいいなんて反則だわ」
「生まれついての女殺しってわけね。それで顔もいいなんて反則だわ」
ディルムッド・オディナが有する魔性の黒子。
これにより、彼と対峙した異性は彼に強烈な恋愛感情を懐いてしまうのだ。
『魔眼』ならぬ『魔貌』。
ランサーが直接相手を見るのみならず、女が一方的に顔を眺めるだけでも効果がある。
とはいえ絶対的な呪いではなく、魔術や呪術に抵抗する力を持っているならば話は違う。
ただし、魅了を拒む気持ちがあれば、の話ではあるが。
これにより、彼と対峙した異性は彼に強烈な恋愛感情を懐いてしまうのだ。
『魔眼』ならぬ『魔貌』。
ランサーが直接相手を見るのみならず、女が一方的に顔を眺めるだけでも効果がある。
とはいえ絶対的な呪いではなく、魔術や呪術に抵抗する力を持っているならば話は違う。
ただし、魅了を拒む気持ちがあれば、の話ではあるが。
不意に女は、良いことを思いついたとばかりに手を打った。
「私、好みの子を探したいんだけど、しばらくお供をして貰えないかしら。
ナイトならレディのお願いは断らないわよね?」
「……」
ナイトならレディのお願いは断らないわよね?」
「……」
ランサーは表情を歪めた。
あの女が考えていることは容易く理解できる。
要は、魔貌で他の女を引き付けておけば、好みの男が独りになりやすいと踏んだのだろう。
そんなことをしてしまっては、あの偏屈なルールのせいで、何人の女が人生を狂わせることか。
特に相手を見繕えず時間制限をオーバーした際のペナルティが枷になる。
ディルムッド・オディナという騎士は、自分の苦難よりも相手の心の痛みに思いを致す男だった。
彼が軽薄で軟派な男であったなら、美貌も魔貌も彼に苦悩をもたらさなかったかもしれない。
しかしそれも叶わぬこと。
あの女が考えていることは容易く理解できる。
要は、魔貌で他の女を引き付けておけば、好みの男が独りになりやすいと踏んだのだろう。
そんなことをしてしまっては、あの偏屈なルールのせいで、何人の女が人生を狂わせることか。
特に相手を見繕えず時間制限をオーバーした際のペナルティが枷になる。
ディルムッド・オディナという騎士は、自分の苦難よりも相手の心の痛みに思いを致す男だった。
彼が軽薄で軟派な男であったなら、美貌も魔貌も彼に苦悩をもたらさなかったかもしれない。
しかしそれも叶わぬこと。
幸運E――
彼に割り振られたこのステータス、実に最低値――
彼に割り振られたこのステータス、実に最低値――
【F-6 ホテル屋上/午前1:00】
【ランサー@Fate/Zero】
[状態]:健康+げんなり
[道具]:基本支給品一式(中身は見ていない)
[標的]:忠義を尽くせる相手
(備考:生前に愛した妻は、自分の思いを信じ貫く勇気のある女性だった)
[思考]:0.仕えるべき主を求める
1.なるべく魔貌で騒動を起こしたくない
[状態]:健康+げんなり
[道具]:基本支給品一式(中身は見ていない)
[標的]:忠義を尽くせる相手
(備考:生前に愛した妻は、自分の思いを信じ貫く勇気のある女性だった)
[思考]:0.仕えるべき主を求める
1.なるべく魔貌で騒動を起こしたくない
【アララ・クラン@式神の城(漫画版)】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式(中身は見ていない)
[標的]:年下の可愛い男の子
[思考]:1.好みに合う少年を漁る
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式(中身は見ていない)
[標的]:年下の可愛い男の子
[思考]:1.好みに合う少年を漁る