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忍びが一人


このばか騒ぎの会場となった島の南西部には大きな森が
広がっている。

その森の中を、凄まじい速さで走りぬける一つの影がある。

汚く、血が滲んですらいるボロボロの羽織と袴を身に着け、
腰にひと振りの刀を差した男だ。

顔も所々土や血で汚れており、
ボサボサの髪は『よもぎ』のようであった。

しかしそのバサと垂れ下った髪の下の顔は、
そのみすぼらしい風体とは似ても似つかぬ
若く美しいものであった。

その瞳は見る者を酔わせる精悍な光を放っており、
それでいて頬の線は少年のように純潔で初々しい。
一言でいえば青春美の結晶であった。

されども、その美しい表情は、
苦悩と憎しみと焦りに埋め尽くされ、
正に凄惨と言うほかない壮絶極まりない物であった。

青年の名前は笛吹城太郎。
伊賀の国鍔隠れ谷の生まれの
「伊賀者」、すなわち忍者であった。

(帰らねば・・・・帰らねば・・・一刻も早く、早く!)

森を音も無く駆け抜けながら、城太郎は歯ぎしりをする。
このばか騒ぎに偶然巻き込まれた彼には、
一刻も早く自分の世界に帰らねばならぬ理由があった。

(あの腐れ外道ども、七人の根来法師ども、そしてその主たる松永弾正・・・)

ぎりり、ぎりりと城太郎の歯が凄まじい音を上げる。

(一人の残らず討ちはたさねばならぬのだっ!俺の命に代えても!)

城太郎を突き動かす物、それは復讐であった。


ここに連れてこられるほんの少し前まで、
城太郎は幸せの絶頂にあった。

一年前、忍びの掟、遊角の掟を互いに破って
駆け落ちをした恋人、篝火(かがりび)と
故郷伊賀に戻って主君服部半蔵に詫びを入れ、
祝言をいざ上げようという所であったのだ。
駆け落ちしていた一年間は、その為の準備に費やしてきた。
準備もなり、いざ伊賀へ、そう思った矢先、二人の幸せは唐突に破壊された。

破壊したのは七人の根来法師。
何れも、戦国随一の「幻術師」、果心居士(かしんこじ)
の直弟子の化け物忍者である。
この化け物忍者に、城太郎は愛しの篝火を攫われ、
輪姦された揚句に、彼らの主君、戦国の梟雄松永弾正の
所望する最高の媚薬「淫石」を作るための『材料』にされ、
殺されたのだ。

根来の「七天狗」の操る超常の技に為すすべもなく敗れた
城太郎は、半死半生となりながらも、生来の高い生命力で
何とか生き延びることは出来た。

しかし、彼が死の淵から生還した時には、
もはや全てが遅すぎた。

降り注ぐ雨の中、篝火の死に慟哭する城太郎は誓ったのだ。
命に代えても俺一人で奴らを討ち果たす、と!

城太郎がこの島に連れてこられたのは、
この誓いの直後であった。


(早く・・・・早く・・・・)

城太郎は一刻も早くこの森から出て、
人のいる場所を探すべく疾走していた。

一刻も早く、彼はこの島から脱出する方法を見つけ出さねばならないのだ。
愛する篝火の為にも。

(しかし・・・・)
相手もバカではなかろう。
忍びである自分すらここに連れだした以上、
容易には逃げられるぬよう、手は打ってあるだろう。
はたして、脱出など叶うのか?
それよりも、もっと確実な・・・・

(バカな!)
城太郎は、脳裏に浮かんだその考えを、
頭を振ることで無理やりかき消した。

彼の頭の中には、実はすでにここから簡単に抜け出す方法が
考え付いていたのだ。
しかし、その方法を取ることは決して出来ない。

その方法とは、ゲームのルールに従い、
一刻も早く恋人を作り、ここから抜け出す事である。

彼は、忍者だ。
故に、相手を丸めこむ話術に長けているのは当然である。
また、彼は、自分の顔が、女性に魅力的に見えること、
それが武器として使えることを認識していた。

だから、自分がその気になれば、
頭の軽い、尻の軽い女ならば
たやすく手籠めにできる事も。

しかしその方法を取ることは、城太郎には絶対に出来なかった。

彼には篝火との誓いがあった。

『いつかの約束・・・笛吹城太郎は、篝火のほかに女を断つという誓いを忘れないで――』

篝火が残した最後の言葉。
この誓いが、城太郎を縛って離さないのだ。

彼は誓ったのだ、篝火だけを愛すと、それは彼女が死しても変わらないと。

故に、彼はそれが最良の手段であると解っていながら、それを行う事が出来ない。

だからこそ、探さねばならぬ。
他の脱出方法を。一刻も早く。

城太郎は、出口を求めて闇の中を疾走した。

【森/12月20日 午前1時】

【笛吹城太郎@伊賀忍法帖】
[状態]:健康、激しい焦り
[道具]:不明
[標的]:無し。「現状では」恋愛が出来ない
[思考]:森を抜けて、脱出方法を探る。




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