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明海の通う高等学校は樽帝院の中にある。 自転車で20分、平坦な道を走るか、電車で数分で到着することができる。 自宅からそれほど離れているわけではないのだが、気温がどんどん下がっていることに気がついた。 自転車をこぎながら冷たい風に吹かれる明海。 明海「寒い! ってか冷たい~! こっちのほうは積もったんだ~」 学校に近づくにつれて積雪が深まっていく。 校舎が見えてくると路面にもうっすらと雪が積もっており、スリップ事故の危険性が高くなってきた。 案の定、転倒している人の姿が多数あった。 校門のところに人だかりができていて、なにやら騒動になっているようである。 明海「どうしたの……? 何があったの?」 教師「雪で滑った生徒たちが数十人、折り重なるように転倒して怪我を…」 男子生徒「いてえよぉ……動けねぇ……」 男子生徒「先生! これは足の骨が折れたかもしれません…」 教師「大丈夫か? まともに立って歩けるやつは何人だ?」 女子生徒「あ…足が冷えて感覚がなくなってきました……」 教師「ああ…誰か、校舎へ行って毛布を取ってきてくれ」 明海「あ…あの……あ」 男子生徒「俺が行ってきます!」 教師「頼んだぞ。気をつけてな」 男子生徒「うわっ!」 慣れない積雪で転倒する生徒が続出した。 気温が低く、倒れたままでは体温が下がり、危険な状態になってしまう。 男子生徒「…こうなったのってさぁ……」 男子生徒「…あぁ、絶対あいつのせいだ……」 男子生徒「…相葉の親がこんなに山を削ったからだ……」 男子生徒「…異常気象も全部あいつのせいだろ……」 明海の評判は悲惨なものである。 日本列島の山脈の大部分を平地にし、森や川を人工的な設備に作り変え、 完全な治水を実現させたかのように思われた相葉コーポレーションの革命的事業は、 工事が始められた1年半前から、異常気象を引き起こすものとなってしまっていた。 そのため、明海は高校へ進学する以前に多くの人から非難され、 中学校でできた友達を失い、事実上、孤立しているのである。 明海「……何とかしなきゃ……」 教師「非常に危険だ…。グラウンドが凍結して異常に滑りやすくなっている…」 男子生徒「立って歩くのではなく、地面をはって進んだほうが安全かもしれません」 明海「あたしが行きます」 教師「あ、相葉さん…」 男子生徒「どうせまたろくでもない結果になるだけだ。やめとけ」 明海「……ただ見ているだけでいいの?」 男子生徒「偽善にもほどがあるってもんだろ」 男子生徒「そうだそうだ! 助けたフリをして見直すとでも思ってんのか」 明海「なによ……わかったわよ! あたしの好きにさせてもらうわ!」 教師「ああ! 危ない!」 明海はあえて加速し、カバンをボディボードのようにしてアイスバーンの上を滑った。 男子生徒「すげ……いっそのこと滑っていけばいいのか?」 男子生徒「だめだな。あれじゃ途中で止まる」 明海はグラウンドの中央付近で止まってしまった。 明海「ううっ…冷たい……ここからどうやって進もうかな……」 男子生徒「ほら止まった」 男子生徒「二次災害になったな」 教師「ううむ……救急車がまだ来ない……路面の凍結が想像以上に深刻なようだ…」 男子生徒「救急車も二次災害を引き起こしかねないなぁ」 男子生徒「スケートリンクがこんなに怖いものだとは思わなかったよ…」 男子生徒「アイスバーンに慣れていないのもあるけど、こんな普通の靴だからな…」 女子生徒「先生……私……もう………」 教師「しっかりしろ!」 男子生徒「全身が濡れて体温が下がってるんだ…」 教師「おい、ちょっと上着を貸してくれ! 頼む! 先生も脱ぐ!」 男子生徒「は…はい…」 男子生徒「……凍り始めていますよ……」 教師「なんという寒さだ……。さっきからどんどん冷たくなっている…」 男子生徒「あぁぁ……眠ったらヤバいのでは……」 教師「起きろ! おい! 目を覚ませ!」 骨折の疑いのある男子と、低体温で危篤状態になった女子生徒。 明海はまず自分がアイスバーンから抜け出さなくてはならない。 そして、どうにか二人の生徒を救う必要がある。 明海「こんなとき……どうすればいいの…あすさん……」 明海は、まだ夢の中にいるであろうあすさんに必死に助けを求めた。 ----

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