あすさんの家庭教師29 - 明海の犠牲


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明海は地面をはうようにしてアイスバーンを抜け、高校の正面玄関までたどり着いた。

手足は凍傷になりかけ、感覚が麻痺した状態である。
指先の震えさえも凍結して動かないような手をさすりながら息を吹きかけ、
どうにか体温を取り戻そうとする明海。

明海が玄関の扉に手を伸ばした瞬間、

明海「いたっ!!!!!!!」

金属製のドアノブに手のひらが凍りついた。


厳寒のときは金属製の物体は凍結しているため、決して素手で触ってはならない!
明海は血の気が引いていくのを感じた。


明海「ひっ……ひいいいいいいいいいいっっっっ!!!!!!!!」

「バリバリッ…ブチッ」

自分の右手が凍りついたことで気が動転し、あわてて引き離そうとしたため、
マジックテープ式の財布を開けるときのような音とともに手の皮が引きちぎれ、
激痛を伴ってドアノブから離れた。

明海「う…うあ………あ……あっ……ああああ!!」

右手から鮮血が噴き出し真っ赤に染まったが、あまりにも低温のためすぐに収まった。
しかし、手のひらの皮と筋肉が剥離し、明らかに削り取られているのが見てわかったため、
明海の意識は遠のいてショック状態になった。

明海「……あ…あぁぁ…あぁ……あぁ……」

その光景を玄関の中から見ていた男子生徒が異変に気づき、すぐに駆け寄ってきた。

男子生徒「大丈夫かい!?扉を開けるよ!」
明海「……あああああ…………」
男子生徒「素手で触っちゃったんだね……大変だ……」
明海「…はぁ……あぅ………あぅ……」
男子生徒「内側も完全に凍結しているから、頑丈なグローブをはめていないと触れないんだ…」
明海「……う……うっ……うっ……うぐ……っ…うぇ……」
男子生徒「傷を見ちゃだめだ! 大丈夫だよ! すぐに手当てするから!」

男子生徒は自分の懐からハンカチを取り出し、明海の右手を慎重に包み込んだ。

男子生徒「立てる?」
明海「…う………あ……あ……」

明海は顔面蒼白で目がうつろになり、全身の力が抜けて動くことができない。

男子生徒「僕が保健室まで運ぶから安心して!」

男子生徒は明海を抱き上げると、保健室へ向かって歩き始めた。
校舎内もところどころが凍結し滑りやすくなっているため、走ることができない。

明海はぐったりとし、体が冷たくなり、非常に危険な状態である。


保健室にはストーブがあり、気温も廊下と比べてはるかに高い。

男子生徒は明海をベッドの上に寝かせると、ガーゼと包帯を取ってきた。

男子生徒「今は養護の先生もみんなの手当てに回っていて、ここにはいないんだ。だから僕が…」
明海「……うっ……う………さ…寒い……」
男子生徒「毛布をかぶって。落ち着いて……落ち着いて……」
明海「…寒い…………死にそう………」
男子生徒「大丈夫だよ。右手の応急処置をするからね」
明海「……だめ…もうだめ……」
男子生徒「大丈夫」
明海「……ぁぁ…………」

保健室に張り詰めた空気が漂う中、男子生徒は明海の右手にガーゼを当て、包帯を巻いて固定した。


男子生徒「…早く病院へ連れていかないといけないのに……救急車が学校まで来られないんだ…」
明海「…ね……ねつ……熱気球…………を……」
男子生徒「…えっ?」
明海「……熱気球……早く……」
男子生徒「熱気球…? 熱気球か! それで病院へ行けばいいんだ!」
明海「早く……」
男子生徒「待ってて! すぐに熱気球クラブに行ってくる!」

男子生徒はクラブの部員と話をつけ、ただちに大型熱気球を使用することになった。


そのころ、校門では…


教師「…目を覚ませー! おいー!!頼むー! 死ぬなあああああ!」
外の男子生徒「先生、あれは!!」
教師「……な…なんだ!?」

グラウンドで巨大な気球が膨らみ始めた。

外の男子生徒「まさか…あれで病院へ!?」
外の男子生徒「飛ぶつもりらしいな」
教師「そうか!!もう気球で行くしかない! よし、お前たち、運ぶのを手伝ってくれ!」

校門に集まった数十人の生徒の協力で、倒れた女子生徒と骨折の疑いのある男子生徒が熱気球まで運ばれた。

教師「どうした! 何があった! 相葉も倒れたのか!?」
中の男子生徒「はい…右手に大怪我を負って……ショック状態に…」
教師「無茶しやがって……」
養護教諭「先生! こっちの生徒たちもお願いします」

白衣を着た養護の先生も、手や足に怪我をしたり、担架に乗せられたりした生徒を連れてグラウンドに出てきた。

教師「これで全員か? ほかのみんなは大丈夫か?」
牛岡「…あと、私も…足をくじいてしまって……」
教師「う…牛岡先生……」
男子生徒「体育の先生なのに…しっかりしろよ~」
牛岡「ああ…すまない……」
教師「よし、もう全員乗ったな? 出発するぞ!」


熱気球が地上を離れ、ゆっくりと上昇していく。


教師「いいか、みんな! できるだけ体を寄せ合って温まり、その場からむやみに移動しないようにするんだぞ!」
男子生徒「は、はい」
男子生徒「牛岡先生~~~! 1時間目の体育はどうすれば~~?」
牛岡「中止だ~~」
男子生徒「ちゅ“うし”だ~~~」
男子生徒「ゲラゲラゲラゲラ…」

教師、養護教諭、負傷した生徒12人、明海、それに足をくじいた牛岡が乗り込んだ熱気球は高く飛び立った。

高度が上昇し、地上で牛岡のことを笑う生徒たちの姿が徐々に見えなくなった。



牛岡「相葉……聞こえるか……? あのとき笑って悪かったな………」
明海「……牛岡…先生……」
牛岡「ああ……寝ていていい…。俺が悪かった……」
明海「……そうですか……」
牛岡「今回、お前が機転を利かせて熱気球と叫んだことで救助が早くなった…」
明海「……そんな……冗談のつもり……だったんですよ……」
牛岡「これでいいんだ。ほら、病院が見えてきたぞ」


見下ろすと病院があった。

病院の周囲の道路は自動車であふれかえり、大渋滞が続いているのが見えた。


牛岡「ほら…。あそこで立ち往生している救急車、たぶん学校に向かっている途中だ…」
教師「このまま病院の屋上に着陸すればいいでしょうか?」
牛岡「ええ。慎重に高度を下げていってください」
養護教諭「…こんなものが屋上に降りたら、みんな驚きますよねぇ……」



そのころ………



あすさん「ははは……なんて寝相が悪いんだろう……。布団から数百mも転がってるよ…」

あすさんは正式に目を覚まし、意識もはっきりとしていた。

あすさん「部屋の中に池があるから危ないよな。もし顔面から落ちていたら今ごろ死んでたかも…」

体を拭いて浴衣を脱ぎ、着替えながら部屋を歩き回るあすさん。
ベッドの上に置かれた弁当箱の存在に気がついた。

あすさん「“あすさんのお弁当です。あすさんの好きなものばかり入れたつもりです。だから残さず食べてね。明海より”
 ふむ……わざわざ私のために弁当を作ってくれたのか……」

時計を見ると12時を回っており、お昼ご飯を食べてもよさそうな時間であった。

あすさん「さっそく食べようかな。…ん? ん? あれは……なんだ?」


ふと窓の外を見たあすさん。
その先には、巨大な熱気球が飛んでいるのが見えた。


あすさん「本物の熱気球!?……あれ? 下がっていってる…。どこに着陸するんだろう?」





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