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あすさん特別編 - ドクターあすさん

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真夏の商店街の昼下がり。


夏休みということもあって、家族連れの客でにぎわっている。

気温36.8度の猛暑日であった。



店の中はエアコンが利いているため快適だが、
屋外の日の当たるところには立っていられないほどの暑さである。
日陰に入っていても、建物や地面からの照り返しの熱で非常に暑い。


よく冷えたビール、かき氷、アイスクリームが飛ぶように売れる。


「熱中症に気をつけてください」というアナウンスが流れ続けている。



そんな矢先に起こった。


「子供が倒れた」


商店街の裏、人のあまり通らない場所で倒れている子供と、うろたえる女性。

意識を失っているのか、子供はピクリとも動かない。

女性は子供の体をゆすって大きな声で名前を呼び続けるが、
子供は返事をせず、声を聞いて駆けつける人もいない。


ただ一人、あすさんだけがその光景を見つめていた。



女性「たかし~!!たかし~~!!!」
あすさん「大丈夫ですか? 医者を呼びましょうか」
女性「助けてください!!!」
あすさん「ここで待っていてください。子供から目を離さないように」
女性「あの、子供はどうすれば…」
あすさん「人を呼ぶまで動かさないで。そこの診療所に行ってきます」


女性は携帯電話で119番通報し、救急車を要請した。


あすさん「………誰もいないだと…」

商店街に設置された臨時の診療所には医師の姿が見当たらない。
多数の人が熱中症で倒れたため、すべての医師が出てしまっていたのである。

異常な高温のもとでありえない事態が起こっている。


あすさん「この混み具合だと、救急車がここへ到着するまでに、あと7分はかかる……」
田中「あの、どうかされましたか?」
あすさん「子供が倒れたのですよ」
田中「どちらで?」
あすさん「あなたは…? 田中信一………。研修医…?」
田中「はい。どちらですか?」
あすさん「こっちです。たなしん」
田中「え…」


あすさんは研修医・田中を子供のところへ案内した。


子供は倒れたまま。女性は子供の名前を呼び続ける。

暑さのせいか、現場には誰もいないままである。


田中「倒れたのはいつごろですか?」
女性「5分くらい前…」
田中「すぐ応急治療を」
あすさん「包帯が1つ以上必要です」
田中「え?」
あすさん「なんでもない」

あすさん、女性、田中は協力して、子供を安全な場所へ移動させた。


田中「……意識が戻らない……」
女性「あああああああ……っ……たかし~~!!!」
あすさん「…………」
田中「救急車は呼ばれましたか?」
女性「ええ……」
あすさん「この異常な暑さで次々に人が倒れているとすると、数分では到着しない可能性が…」
田中「ど、どうすれば……」
女性「たかしを助けて…」

あすさん「ところでドクター」
田中「は…はい」
あすさん「子供を診るのは初めてで?」
田中「あ…ええ、そうです…」
あすさん「ただ目で見ているだけですか?」
田中「え…」
あすさん「( ゚д゚ )」
田中「……?」
あすさん「口の周りが匂うんです」
田中「は…?」
あすさん「田中さん、風邪で鼻が詰まっていますか?」
田中「いいえ??何を言ってるんですか…」
あすさん「この子、熱中症ではありませんよ」
田中「な…!!!!!」


暑さの中で倒れたのだから、熱中症だとばかり思い込んでいた田中。
自らも暑さで判断力を欠いていたのである。


あすさん「地面に食べかけのお菓子が落ちていますね?」
田中「は……」
あすさん「これはあわてて食べると喉に詰まりやすいんですよ」
田中「どうして早く教えてくれないんです?!」
女性「あのお菓子が……うう……」
田中「と、とにかく、すぐに吐き出させないと!」


田中は男の子を抱き上げ、背中を叩いて異物を吐き出させようとした。
しかし、思うようにいかない。


あすさん「力ずくではだめですよ」
田中「わかってますよ! そんなこと!」


田中は思わず声を荒げてしまう。
目の前にいる小さな子供の命。
それを自分の手で救うことができずにいるからだ。


田中「頑張れ…頼む…息をして…!」
女性「たかし……」
あすさん「子供と大人では体格が違うので、大人と同じ扱いではま…」
田中「ああ! もう!!」
女性「………」
あすさん「ここを、こうして」
男の子「ぐっ……ぐふっ! げほっ」
田中「なっ…」
女性「たかし!!」


意識を取り戻した男の子。


あすさん「さあ、もう大丈夫です」
女性「あぁ……ありがとう……」
あすさん「ん、救急車のサイレンが今ごろ聞こえてきましたね」
女性「たかし……もう大丈夫よ」

田中「…あなた……最低の人だ」
あすさん「ふむ?」
田中「こんな小さな子供が、窒息したまま何分も放置されたらどうなると思っているんだ!」
あすさん「大丈夫ですよ」
田中「あなたの妙に落ち着いた様子……、初めから事情を知っていたんでしょう?」
あすさん「それが何か?」
田中「何が、って…?! この子を見殺しにしようとしたんでしょう?!」
あすさん「見殺しにするなら、田中さんを呼ぶことなどしていませんよ」
田中「そ……それはそうだけど……」
あすさん「それとも? 僕が何もせずに、ただ立っていればよかった、と?」
田中「どうしてそんなに冷静でいられるんですか! 状況をわかっていないんですか!」
あすさん「とりあえず、田中さんが落ち着きのない人だ、ということは理解できました」
田中「なっ……」

あすさん「僕が診療所へ行ったとき、田中さんはこの役を自分から買って出たんですよ?」
田中「そ、そりゃ当然ですよ……。わ、私は医師を目指す者として……」
あすさん「そうですか。それはよかった」
田中「……?」

あすさん「僕はそろそろ失礼します」
田中「ちょ、ちょっと待ってください。まだ話が…」
あすさん「…………」
田中「男の子は……本当にもう大丈夫なのですか??」
あすさん「大丈夫だと言いましたよ」
田中「し、しかし……呼吸が止まってから10分はたっている……」
あすさん「ふむ…呼吸がねぇ」
田中「え?」
あすさん「呼吸は止まってはいませんでしたけど」
田中「は……」
あすさん「まぁ、これからも医師を目指すために頑張ってください」
田中「あの、ちょっと……」
あすさん「失礼します」
田中「ちょ、ちょっと!!」


男の子「う…うぅ……お母さん……」
女性「たかし……大丈夫?」
男の子「あれ…お母さん……泣いてるの…?」
女性「たかし…ごめんね…ごめんね……」
男の子「お母さん…泣かないで…」


救急車が到着し、救急隊が男の子の安否の確認に訪れた。


救急隊「はぁい、もう大丈夫だよ。ちょっとこの上に寝てくれるかな?」
男の子「え……あ……」
田中「実はこの子、直前まで意識を失っていたのですが……」
女性「ええと、さっきの人……あれ……いない……」
救急隊「意識のない状態でしたか? 通報の内容があいまいでして……」
女性「……ごめんなさい……。私、うまく説明できなくて…」
救急隊「病院への搬送は必要ないのでしょうか…」
田中「……………」
女性「すみません、みなさん……。ご迷惑をおかけしました…」

男の子「うっ……うわあああああん」


この騒動で大勢の人が集まり、物々しい雰囲気に包まれた商店街の裏通り。

意識を取り戻した男の子の泣き声が響いている。


そこにあすさんの姿はなかった。





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