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ドクターあすさん2

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「先日は息子を助けていただきありがとうございます!」


小さな大学病院の研修医・田中信一のもとに訪れたのは、
商店街で倒れた息子とその母親である。


田中「ああ、あのときの!」
ふじこ「私は久阿瀬ふじこといいます」
田中「くあせさんですか。お子さん、元気そうですね」
たかし「(恥ずかしくて何を話したらいいかわからないようだ)」
ふじこ「たかし、お兄さんにお礼を言いなさい」
田中「あはは。いいですよ。私は田中信一といいます」

ふじこ「あの……」
田中「はい?」
ふじこ「あの、あの人は……」
田中「あ……。実は、私にもわからないんです…」
ふじこ「あの人にもお礼を言いたいのですが…、ご存知ありませんでしたか…」
田中「…………」


名前も言わずに去っていったあすさんの正体を突き止めるのだ。


田中「痩せ型で背が高くて、眼鏡をかけて、長袖で、いまどきシャツインというダサい格好の…」
仁岡「そんな男、俺は見たことないぞ」
田中「だろ? だろ? そんな男がいたらすぐにわかるはずなんだよ」
仁岡「おいおい…。まさか、お前、近所の病院を片っ端から捜してるわけ?」
田中「……私に気になることを言ったんだよ。話を聞かなきゃ気が済まない」
仁岡「どんなだよ?」
田中「なんか…奥歯に物が詰まったような…。一言で言えば怪しい」
仁岡「どういうこと?」
田中「あいつは男の子を殺そうとしたんじゃないかって」



仁岡「なんかワクワクするな。指名手配か」
田中「今後も同じような事件が起こるかもしれない」
仁岡「考えすぎなんじゃねえの?」
田中「いや…。彼はまた商店街に現れる…」
仁岡「おいおいおいおいwww」


田中は友達で同志の仁岡に事情を話し、情報の提供を呼びかけた。

今夜も熱帯夜となる蒸し暑い帰り道。

田中はあすさんを待つべく、あの商店街に向かっていた。


田中「いた!!!!!!」


まぎれもないあすさんを見つけた田中。

あのときと同じ服装で、緊張感のない姿勢の男が商店街を歩いていたのだ。


田中「見つけたのはいいが……、どうやって切り出したらいいんだ……」


田中「もう薄暗いのに親子連れが多いな。あいつ、誰を標的にするつもりだ…」


田中はすっかり刑事ドラマの主人公になったかのようにあすさんを尾行し、
その全容の解明を、いや、まずは会話する機会をうかがっていた。


田中「……しまった、見失った……」
あすさん「たなしん」
田中「!!!!!!!!!!!!!!!」
あすさん「たなしん…田中信一さん」
田中「うわ…わっ…! だ…誰だっ!?」
あすさん「僕ですよ。田中さんの会いたがっている男です」
田中「ど……どこにいる……!?」


突然の不意打ちを受けてうろたえる田中。
公衆便所の裏から姿を現すあすさん。


あすさん「そんなに驚かないでください。田中さん」
田中「あ…あ…あなたは……」
あすさん「ああ、まだ自己紹介をしていなかったですね」


あすさん「あすさんと呼んでください。細かい理由は省略します」
田中「あすさん…」
あすさん「あ、言っておきますが、僕は悪い人間ではありませんよ」
田中「…そ、それは……」
あすさん「僕はそもそも人間ではないのですから…ククク…」
田中「いや!!怪しい! すごく怪しい!!」
あすさん「無理もないことです」
田中「…………」


あすさん「田中さん。もしあなたが、僕をただ怪しいというだけで悪者だと決めつけているのなら、
 その考え方を改めたほうがいいですよ」
田中「なんですって……」
あすさん「さて、田中さん。こんな時間にこんな場所へ一人でやってくるというのは、
 何か意味があってのことなのでしょうか。それとも、僕に会いに…? ククク…」
田中「う……」
あすさん「聞きたいことがあるなら、どうぞ」


あすさんを目の前にして田中は言葉を失った。
その異様な雰囲気と圧倒的な存在感に
恐怖さえ覚えたのである。

話を始めるには時間が必要であった。


田中「あすさん…。あなたは私に、医師を目指すようにと激励してくれましたが、
 あのときの言い方がどうも引っかかっているのです」
あすさん「ほう」
田中「研修医といっても、医師であることには変わりはないのですよ」
あすさん「ふむ」
田中「ですから…、あの、その……私が言いたいのは……」
あすさん「落ち着きのない人だ」
田中「……………」


田中「……私の言いたいのは……こういうことじゃない……。
 どうやって話したらいいんだ……なぜ、こんなに話しづらいんだ…」



田中は自分の思うことを話せない。
あすさんの前では、なぜか上手く話すことができなくなる。

どこか軽蔑されているような、心を見透かされているような、
得体の知れない圧力を加えられているからだ。


田中「あすさん……あなた、いったい何者なんですか…」
あすさん「何者? と、いいますと…?」
田中「ただの人間……ではないでしょう…」
あすさん「はて? 田中さん、僕が人間の形に見えるのですか?」
田中「そ、その質問は意味不明ですよ……」
あすさん「そうですか、では田中さん、続けてください」


田中「あのときの行動と態度は、明らかに普通のものではありませんでした」
あすさん「普通のものではありませんでした。ですか」
田中「……?」
あすさん「田中さんにとって普通ではなかった、というだけのことですよね?」
田中「いいえ、男の子の母親も、あなたのことを不審に思っていましたよ」
あすさん「それはそれは」


田中「あなたは何者ですか?」
あすさん「……ただの引きこもりですよ」
田中「引きこもり?!」
あすさん「少なくとも、田中さんのように立派な仕事を抱えてはいません」
田中「じゃ、じゃあ…しかし……」
あすさん「あのときの一件。男の子を助けたという事実だけで、
 僕に対する勝手な妄想を膨らませているのではありませんか?」
田中「…………」
あすさん「まぁ、いずれ田中さんにも理解することができます」
田中「…………」
あすさん「あのとき田中さんに、立派な医師になるように言ったのは本当に激励ですよ。
 素直に受け取っていただけなかったようですね」
田中「……もう、いいです……。あすさんが医者ではないことだけはわかりました」
あすさん「それはよかった」
田中「では、これで……」
あすさん「おやすみなさい」



あすさんは夜の公衆便所に消えていった。





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