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† 死を受け入れた私に、神はこれ以上何をお望みなのですか・・・・・・ †



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かつて「アルヴァーン(誇りの地)」そう呼ばれた聖域があると言われた。

多くの時を経て希望を捨てた者達は、楽園と呼ばれたその地を目指した。
その地を目指したが為、多くの者が血を流した。
その地を目指したが為、多くの者が涙を流した。

そんな場所が。
そんな場所が、本当に楽園などと呼べるのだろうか・・・・・・。



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「あ、カモメ」
日が西にゆっくりと下っていき、カモメが夕方の漁から帰って来る頃。
シャティーナ・アルドランスは石造りの波止場に寝転んで空を指さした。
指が指した先には連れ添って空を漂う二匹のカモメ。
「・・・・・・ふあ」
少し遅れて、アエナ・ウェラギスがポヘッとため込んだ空気を吐き出す。
その返事があまりにも気が抜けていて、シャティーナは笑えてしまう。


時が止まって欲しいと望んでしまうほど美しい夕日が薄暗い空をオレンジに染めていた。


「・・・・・・アエナ」
「ん?」
呼び声に答えてアエナがこちらへ向くのが衣擦れの音で分かる。
「信じられないくらい、穏やかだよね・・・・・・」
そんな事は分かりきっているのに、何故かそんな言葉が口から出てしまっていた。


生暖かい潮風の匂いが鼻をこそばゆくさせる。


返事をもらおうと顔を横に倒す。
アエナはこちらの目を見ると「そうね」と言って、優しい笑顔で頷いた。
その笑顔にまた一ついい事あったなんて思う。


波の音が何度も引いては折り返し、絶え間のないエコーをかける。


手を空に突き出して、何かを掴もうと指を動かしてみる。
それ自体意味はまったく無い行為なんだけど、何となくやってしまうこの感じ。
なんと言うか、肩の力が抜けてしまうような雰囲気。
そんな魅力がこの街にはあるのだと、この石造りの波止場に寝転ぶたびにシャティーナはいつも思うのだ。



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「シャティー、そろそろ行こっか」
夕日が海に沈み空が星と暗闇に包まれ始めた頃、私達は体を起こした。
「うん」
頷いて、先に立ち上がったアエナに続く。


石畳を歩く音はカスタネットのように軽快な音をだして街へ音を手向ける。


「アエナ」
「ん?」
先へと歩く同輩を呼びかける。
「この街は魔法がかかってるみたいだよね」
自分でも馬鹿げた事を言ったなあと思うけど、その心は本心だった。
アエナは立ち止まると、息を吐いて肩の力を抜いた。
そして、私が追いつくのを待つと。
「シャティー、ロマンティック感じすぎ」
そう言ってこちらを見て、また暖かく微笑んでくれた。

変えるべき家(修道院)へはそう時間はかからないだろう。
家がある丘を登るときに、背を向ける。


昼を彩った太陽の代わりに、月が徐々に天へと昇っていく。


「シャティー、また夜景?」
そうだ、と小さく首を縦に振る。
そう、家の方向に背を向ければアレイダラムの街が一望できる。
赤や黄、橙とさまざまな大小の灯りがアレイダラムの街を彩っていた。
「宝石みたい」
「うん」
キラキラと煌く街の灯りと、草葉の陰から静かに音を出す虫達。
「シャティー、お祈りの時間だよ」
そう言ってせかす友の声が少し辛い。
少しでいいからここに寝そべりたいと思うのだが。
「しかたないっ!」
そう言って景色に背を向け、家へと走り出す。


海洋都市アレイダラムの街は今日も穏やかだった。