詩百篇第10巻65番

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[[詩百篇第10巻]]>65番* *原文 O [[vaste]] Romme ta&sup(){1} ruyne s'approche, Non de tes murs&sup(){2} de ton sang & sustance: L'aspre&sup(){3} par lettres&sup(){4} fera&sup(){5} si horrible coche, Fer poinctu mis à tous&sup(){6} iusques au&sup(){7} manche. **異文 (1) Romme ta : Rome ! ta 1981EB, Rommera 1772Ri (2) murs : meurs 1653AB 1665Ba 1697Vi 1720To, Murs 1672Ga (3) L'aspre : Laspre 1590Ro (4) lettres : lettre 1650Mo 1772Ri, les lettres 1720To (5) fera : ferra 1716PRc (6) à tous : a tous 1568X, àtous 1668P (7) iusques au : iusqu'au 1568X 1590Ro 1665Ba 1697Vi 1720To (注記)1697Viは版の系譜の考察のために加えた。 *日本語訳 おお、荒れ果てた[[ローマ]]よ、滅亡が近づいている、 汝の壁にだけでなく、血や実質についても。 文字による無骨さが非常に恐ろしい矢傷を生み出すだろう。 尖った鉄器が全員を柄まで貫くだろう。 **訳について  山根訳1行目「おお 大いなるローマよ 汝の滅亡が近づく」((山根 [1988] p.333))や大乗訳1行目「おお強大なローマよ 汝に破滅が近づく」((大乗 [1975] p.300))は、十分可能な訳であり、なおかつ従来定説化した読み方だった。[[エドガー・レオニ]]の vast Rome や[[ピーター・ラメジャラー]]の mighty Rome といった英訳もこの線に沿ったものだろう。  しかし、[[ジャン=ポール・クレベール]]はここでの [[vaste]] を「荒廃した」の意味に取っており、当「大事典」でもそれに従った。vaste と同系の単語である vast や vaster の『百詩篇集』中の用例は全て「荒廃」に類するものであり、十分に説得力はあるものと考える。  大乗訳2行目「汝にささえなく その血と心髄が」は前半が明らかに誤訳。山根訳2行目「汝の城壁ではなく 血と実質が問題なのだ」は、直訳としては正しい。  ただし、[[ロジェ・プレヴォ]]は「~だけでなく~も」の意味に理解し、[[ジャン=ポール・クレベール]]は「壁も血も実質も一切ない」の意味に捉えている。当「大事典」ではプレヴォの読みに従った。  大乗訳3行目「文字による鋭利さは 谷道を恐れさせ」は誤訳。si horrible は coche にかかる形容詞である。山根訳3行目「粗暴酷薄なる者が文字にて 世にも恐るべき刻み目をつくるだろう」については、aspre が多様に訳しうるとはいっても、「粗暴酷薄なる者」は訳しすぎではないかと思える。  大乗訳4行目「するどい鉄がすべての道に矢をさす」は誤訳。[[ヘンリー・C・ロバーツ]]の英訳 Sharp iron thrust in all the way to the shaft.((Roberts [1949] p.333))に影響されているのだろうが、フランス語原文には「道」も「矢」もないのだから不適切。ちなみにロバーツの英訳は[[テオフィル・ド・ガランシエール]]の英訳 Sharp iron thrust in all to the haft[sic.].((Garencieres [1672] p.431))を下敷きにしたのだろうが、どういう判断で the way を挿入したのかよく分からない。  山根訳4行目「尖った鋼鉄が袖まで貫き傷つける」は tous (全て)に当たる語が訳にない。また、manche は確かに「袖」の意味もあるが、この場合は槍の「柄」の意味だろう。 *信奉者側の見解  [[テオフィル・ド・ガランシエール]](1672年)は物質的な破壊行為ではなく、ローマ・カトリックを押さえつけるような何らかの文書(letters)ないし学説(doctrine)によってローマが崩壊することの予言とした((Garencieres [1672]))。  匿名の解釈書『[[暴かれた未来>L'Avenir dévoilé]]』(1800年)では、1798年にフランス軍がローマを占領した際の略奪行為や虐殺行為と解釈されていた((&italic(){L'Avenir dévoilé}..., p.9))。  [[アナトール・ル・ペルチエ]](1867年)は近未来において起こると想定していたイタリアの革命において、ローマの血と実質といえる聖職者達が滅ぼされることと解釈した。3行目の「文字による Aspre」とは、それを行うことになる人物名が織り込まれた謎語と推測し、その人物によって聖職者達の胸部に鋭利な鉄器が柄までめりこむことになるとした((Le Pelletier [1867a] pp.304-305))。  [[アンドレ・ラモン]](1943年)は近未来におけるローマ市民の死と破壊に関する詩とした((Lamont [1943] p.275))。  [[五島勉]]は『[[ノストラダムスの大予言III]]』では、「アメリカのある女性研究者」が「最後の秘詩」と呼んだとした上で((同書 p.50))、ここでいう「ローマ」は未来においてローマの繁栄のような退廃的な栄華を享受する国々、つまり欧米を中心として場合によっては日本も含む先進諸国を指し、それらが滅亡することの予言とした((同書 passim))。  五島はのちに『[[イスラムvs.アメリカ 「終わりなき戦い」の秘予言]]』では、911テロのあとに起こった郵便物による炭疽菌テロと関連付け、この詩の lettres を英語圏の解釈者は documents や archives と英訳しているのに、エリカ・チータムが letters とそのまま英訳していたのは、彼女が手紙の撒き散らす何らかの恐怖を直感していたからだろうとした((五島『イスラムvs.アメリカ』pp.82-111))。  ただし、実際の[[エリカ・チータム]]の解釈がどうなっているかというと、彼女は1973年の時点では一言も解釈を付けていなかった。1990年版になると、ヨハネ=パウロ2世暗殺未遂事件(1981年)のことだったと解釈した((Cheetham [1973/1990]))。  [[加治木義博]]はここでのローマを広大な独裁国家の比喩として、1989年の天安門事件のような出来事が再び起こり、中国の共産主義体制に終焉が近づくことと解釈した((加治木『真説ノストラダムスの大予言 激動の日本・激変する世界』p.206))。  [[ヴィジャヤ・クマー]]は、第三次世界大戦でヴァチカンにおよぶ被害の予言とした((Kumar [2002] p.72))。 **懐疑的な見解  五島勉の解釈についていくつか指摘しておく。  まず、この詩を「最後の秘詩」と呼んでいる「アメリカの女性研究者」は見当たらない。1980年以前に英語圏で活動していた女性解釈者はエリカ・チータムくらいしかいないはずだが、上で見たように彼女はこの詩をなんら特別扱いしていない。  また、五島は彼女が letters と英訳したことを評価しているが、実際にはテオフィル・ド・ガランシエール、[[アンドレ・ラモン]]、[[ロルフ・ボズウェル]]、[[ヘンリー・C・ロバーツ]]、[[エドガー・レオニ]]、[[ジョン・ホーグ]]、[[ヴィジャヤ・クマー]]らも letters と英訳している一方、当「大事典」では documents や archives と英訳した論者を確認できないでいる。 *同時代的な視点  [[ロジェ・プレヴォ]]、[[ジャン=ポール・クレベール]]、[[ピーター・ラメジャラー]]はこの詩のモデルを「ローマの略奪」(サッコ・ディ・ローマ、1527年)とした((Prévost [1999] p.206, Clébert [2003], Lemesurier [2003b]))。  この略奪は、建造物の破壊や住民の殺戮にとどまらず、エラスムスから「一文明の破壊」とまで言われた大蛮行であり((菊池良生『神聖ローマ帝国』p.199))、ルター派の兵士が多くてカトリックのシンボルを破壊しまくったこととあわせ、2行目に対応する。  3行目の aspre par lettres は、ドイツ兵を率いてきたゲオルク・フォン・フルンツベルク(Georg von Frundsberg)のことで、彼の名前がドイツ語独特の書体(いわゆるヒゲ文字)で書かれたことを言っているという。クレベールは[[百詩篇第9巻26番]]にみられる「無骨な文字、ざらついた文字」(letttres aspres)も同じ意味としている。  ちなみに、aspre par lettres をドイツ語と関連付ける見解は、1724年の匿名論文「[[ミシェル・ノストラダムスの人物と著作に関する批判的書簡>Lettre Critique sur la personne & sur les Ecrits de Michel Nostradamus]]」で既に登場していた。 ---- ※記事へのお問い合わせ等がある場合、最上部のタブの「ツール」>「管理者に連絡」をご活用ください。
[[詩百篇第10巻]]>65番* *原文 O [[vaste]] Romme ta&sup(){1} ruyne s'approche, Non de tes murs&sup(){2} de ton sang & sustance: L'aspre&sup(){3} par lettres&sup(){4} fera&sup(){5} si horrible coche, Fer poinctu mis à tous&sup(){6} iusques au&sup(){7} manche. **異文 (1) Romme ta : Rome ! ta 1981EB, Rommera 1772Ri (2) murs : meurs 1653AB 1665Ba 1697Vi 1720To, Murs 1672Ga (3) L'aspre : Laspre 1590Ro (4) lettres : lettre 1650Mo 1772Ri, les lettres 1720To (5) fera : ferra 1716PRc (6) à tous : a tous 1568X, àtous 1668P (7) iusques au : iusqu'au 1568X 1590Ro 1665Ba 1697Vi 1720To (注記)1697Viは版の系譜の考察のために加えた。 *日本語訳 おお、荒れ果てた[[ローマ]]よ、滅亡が近づいている、 汝の壁にだけでなく、血や実質についても。 文字による無骨さが非常に恐ろしい矢傷を生み出すだろう。 尖った鉄器が全員を柄まで貫くだろう。 **訳について  山根訳1行目「おお 大いなるローマよ 汝の滅亡が近づく」((山根 [1988] p.333))や大乗訳1行目「おお強大なローマよ 汝に破滅が近づく」((大乗 [1975] p.300))は、十分可能な訳であり、なおかつ従来定説化した読み方だった。[[エドガー・レオニ]]の vast Rome や[[ピーター・ラメジャラー]]の mighty Rome といった英訳もこの線に沿ったものだろう。  しかし、[[ジャン=ポール・クレベール]]はここでの [[vaste]] を「荒廃した」の意味に取っており、当「大事典」でもそれに従った。vaste と同系の単語である vast や vaster の『百詩篇集』中の用例は全て「荒廃」に類するものであり、十分に説得力はあるものと考える。  大乗訳2行目「汝にささえなく その血と心髄が」は前半が明らかに誤訳。山根訳2行目「汝の城壁ではなく 血と実質が問題なのだ」は、直訳としては正しい。  ただし、[[ロジェ・プレヴォ]]は「~だけでなく~も」の意味に理解し、[[ジャン=ポール・クレベール]]は「壁も血も実質も一切ない」の意味に捉えている。当「大事典」ではプレヴォの読みに従った。  大乗訳3行目「文字による鋭利さは 谷道を恐れさせ」は誤訳。si horrible は coche にかかる形容詞である。山根訳3行目「粗暴酷薄なる者が文字にて 世にも恐るべき刻み目をつくるだろう」については、aspre が多様に訳しうるとはいっても、「粗暴酷薄なる者」は訳しすぎではないかと思える。  大乗訳4行目「するどい鉄がすべての道に矢をさす」は誤訳。[[ヘンリー・C・ロバーツ]]の英訳 Sharp iron thrust in all the way to the shaft.((Roberts [1949] p.333))に影響されているのだろうが、フランス語原文には「道」も「矢」もないのだから不適切。ちなみにロバーツの英訳は[[テオフィル・ド・ガランシエール]]の英訳 Sharp iron thrust in all to the haft[sic.].((Garencieres [1672] p.431))を下敷きにしたのだろうが、どういう判断で the way を挿入したのかよく分からない。  山根訳4行目「尖った鋼鉄が袖まで貫き傷つける」は tous (全て)に当たる語が訳にない。また、manche は確かに「袖」の意味もあるが、この場合は槍の「柄」の意味だろう。 *信奉者側の見解  [[テオフィル・ド・ガランシエール]](1672年)は物質的な破壊行為ではなく、ローマ・カトリックを押さえつけるような何らかの文書(letters)ないし学説(doctrine)によってローマが崩壊することの予言とした((Garencieres [1672]))。  匿名の解釈書『[[暴かれた未来>L'Avenir dévoilé]]』(1800年)では、1798年にフランス軍がローマを占領した際の略奪行為や虐殺行為と解釈されていた((&italic(){L'Avenir dévoilé}..., p.9))。  [[アナトール・ル・ペルチエ]](1867年)は近未来において起こると想定していたイタリアの革命において、ローマの血と実質といえる聖職者達が滅ぼされることと解釈した。3行目の「文字による Aspre」とは、それを行うことになる人物名が織り込まれた謎語と推測し、その人物によって聖職者達の胸部に鋭利な鉄器が柄までめりこむことになるとした((Le Pelletier [1867a] pp.304-305))。  [[アンドレ・ラモン]](1943年)は近未来におけるローマ市民の死と破壊に関する詩とした((Lamont [1943] p.275))。  [[五島勉]]は『[[ノストラダムスの大予言III]]』では、「アメリカのある女性研究者」が「最後の秘詩」と呼んだとした上で((同書 p.50))、ここでいう「ローマ」は未来においてローマの繁栄のような退廃的な栄華を享受する国々、つまり欧米を中心として場合によっては日本も含む先進諸国を指し、それらが滅亡することの予言とした((同書 passim))。  五島はのちに『[[イスラムvs.アメリカ 「終わりなき戦い」の秘予言]]』では、911テロのあとに起こった郵便物による炭疽菌テロと関連付け、この詩の lettres を英語圏の解釈者は documents や archives と英訳しているのに、エリカ・チータムが letters とそのまま英訳していたのは、彼女が手紙の撒き散らす何らかの恐怖を直感していたからだろうとした((五島『イスラムvs.アメリカ』pp.82-111))。  ただし、実際の[[エリカ・チータム]]の解釈がどうなっているかというと、彼女は1973年の時点では一言も解釈を付けていなかった。1990年版になると、ヨハネ=パウロ2世暗殺未遂事件(1981年)のことだったと解釈した((Cheetham [1973/1990]))。  [[加治木義博]]はここでのローマを広大な独裁国家の比喩として、1989年の天安門事件のような出来事が再び起こり、中国の共産主義体制に終焉が近づくことと解釈した((加治木『真説ノストラダムスの大予言 激動の日本・激変する世界』p.206))。  [[ヴィジャヤ・クマー]]は、第三次世界大戦でヴァチカンにおよぶ被害の予言とした((Kumar [2002] p.72))。 **懐疑的な見解  五島勉の解釈についていくつか指摘しておく。  まず、この詩を「最後の秘詩」と呼んでいる「アメリカの女性研究者」は見当たらない。1980年以前に英語圏で活動していた女性解釈者はエリカ・チータムくらいしかいないはずだが、上で見たように彼女はこの詩をなんら特別扱いしていない。  また、五島は彼女が letters と英訳したことを評価しているが、実際にはテオフィル・ド・ガランシエール、[[アンドレ・ラモン]]、[[ロルフ・ボズウェル]]、[[ヘンリー・C・ロバーツ]]、[[エドガー・レオニ]]、[[ジョン・ホーグ]]、[[ヴィジャヤ・クマー]]らも letters と英訳している一方、当「大事典」では documents や archives と英訳した論者を確認できないでいる。 *同時代的な視点  [[ロジェ・プレヴォ]]、[[ジャン=ポール・クレベール]]、[[ピーター・ラメジャラー]]はこの詩のモデルを「ローマの略奪」(サッコ・ディ・ローマ、1527年)とした((Prévost [1999] p.206, Clébert [2003], Lemesurier [2003b]))。  この略奪は、建造物の破壊や住民の殺戮にとどまらず、エラスムスから「一文明の破壊」とまで言われた大蛮行であり((菊池良生『神聖ローマ帝国』p.199))、ルター派の兵士が多くてカトリックのシンボルを破壊しまくったこととあわせ、2行目に対応する。  3行目の aspre par lettres は、ドイツ兵を率いてきたゲオルク・フォン・フルンツベルク(Georg von Frundsberg)のことで、彼の名前がドイツ語独特の書体(いわゆるヒゲ文字)で書かれたことを言っているという。クレベールは[[詩百篇第9巻26番]]にみられる「無骨な文字、ざらついた文字」(letttres aspres)も同じ意味としている。  ちなみに、aspre par lettres をドイツ語と関連付ける見解は、1724年の匿名論文「[[ミシェル・ノストラダムスの人物と著作に関する批判的書簡>Lettre Critique sur la personne & sur les Ecrits de Michel Nostradamus]]」で既に登場していた。 ---- ※記事へのお問い合わせ等がある場合、最上部のタブの「ツール」>「管理者に連絡」をご活用ください。

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