百詩篇第3巻13番

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*原文 Par foudre&sup(){1} en l'[[arche]]&sup(){2} or & argent&sup(){3} fondu: Des deux&sup(){4} captifs&sup(){5} l'vn l'autre mangera: De la cité&sup(){6} le plus grand estendu, Quand submergée&sup(){7} la [[classe]]&sup(){8} nagera. **異文 (1) foudre : foucre 1627, Foudre 1672 (2) l'arche : l'arbre 1644 1650Ri 1653 1665, Arche 1672, l'Arche 1712Guy (3) or & argent : Or & Argent 1672 (4) Des deux : De deux 1568B 1568C 1568I 1597 1605 1610 1611 1627 1628 1644 1649Xa 1650Ri 1653 1660 1665 1672 1716 1772Ri (5) captifs : Captifs 1672 1712Guy (6) cité : Cité 1672 1712Guy (7) submergée : submerge 1627, submergé 1653 1665 1668P (8) classe : Classe 1672 1712Guy *日本語訳 雷によって櫃の中で金と銀が熔かされる。 二人の捕虜の一方が他方を食うだろう。 その都市の最も偉大な者が倒されるだろう、 艦隊が沈められて人々が泳ぐであろう時に。 *訳について  2行目は便宜上「二人の捕虜」と訳したが、[[ロジェ・プレヴォ]]が指摘するように「二頭の捕らわれた動物」などの可能性もある。  山根訳3行目「最大の都市が広がり」((山根 [1988] p.120))は誤訳。le plus grand と la cité は性が一致していないので、前者が後者を形容していると見ることはできない。  同4行目「そのとき艦隊は海中を巡航する」は、沈められる(submergée)が受動態であり、主体的に潜航するという意味合いに取るのは強引だろう。  大乗訳1行目「箱舟に 光 金 銀が溶け」((大乗 [1975] p.100))は誤訳。大乗訳ではしばしば英訳の lightning を単なる light と取り違える事例が見られるが、これもその一つといえるだろう。  同3行目「都市は滅びる」は、 le plus grand に対応する訳語がない。 *信奉者側の見解  [[テオフィル・ド・ガランシエール]]は「単語と意味は平易である」とだけ注記している((Garencieres [1672]))。ほか、[[バルタザール・ギノー]]や[[ヘンリー・C・ロバーツ]]も抽象的な解釈しかつけていなかった。  [[ジャン・ル・ルー]]は語法上の詳しい分析を展開し、4行目についてはウェルギリウスとの関連性を指摘した((Le Roux [1710] pp.94-102))。  [[ロルフ・ボズウェル]]は『ヨハネの黙示録』から借用されたモチーフを含む詩のひとつと位置付けていたが、彼も具体的な解説はしなかった((Boswell [1943] p.329))。  [[エリカ・チータム]]は4行目は潜水艦の描写ではないかとしつつも、前半の金属を溶かす描写との関連が不明瞭だとしていた。日本語版『[[ノストラダムス全予言>ノストラダムス全予言 (二見書房)]]』では監修者らによって独自の加筆がなされ、原子力潜水艦の航行とSALT (核兵器制限交渉)での軍縮の予言とされた。なお、チータムの後の解釈では1行目は水中ミサイルに関するものではないかとされたが、原潜の話は出なかった((Cheetham [1973], チータム [1988], Cheetham [1990]))。  [[セルジュ・ユタン]]は第三次中東戦争(1967年)のこととした((Hutin [1978]))。  [[五島勉]]は、1行目を「弓型のなかで、金銀も溶けるような光がきらめく」と訳し、弓状になっている日本列島に原子爆弾が投下されたことの予言とした((五島『ノストラダムスの大予言』pp.98-100))。  [[加治木義博]]は1990年代に起こると想定していた第三次欧州大戦で、日本がコンテナ(「箱」)を使って輸出する軍需景気に沸くが、その物資を敵国側に押さえられて打撃を受けることと解釈していた((加治木『真説ノストラダムスの大予言 激動の日本・激変する世界』p.86))。 *同時代的な視点  [[ピエール・ブランダムール]]によれば、1行目に描写されているのは、雷が箱を壊すことなくその中に入っていた貨幣を溶かすという驚異であって、カルダーノが『微細な事物について』(1547年)で述べていたという((Brind’Amour [1996]))。[[高田勇]]と[[伊藤進]]は2行目をカニバリスムの描写と見なした((高田・伊藤 [1999]))。[[ジャン=ポール・クレベール]]もこの線に沿って理解している((Clébert [2003]))。  全く異なる読み方を提示したのが[[ロジェ・プレヴォ]]で、1490年代のフィレンツェ情勢がモデルになっていると推測した。  1492年にはフィレンツェの最高権力者ロレンツォ・デ・メディチが歿した。そして、サンタ・リパラタ教会(Santa Riparata)のドームをささえていたアーチ状構造物に落雷があり、同じ頃には檻の中で飼われていた二頭の野獣(fauve)が互いに食い合い倒れたという。こうした出来事はフィレンツェ経済の失墜(「金と銀が鎔ける」)を予告する凶兆と解釈された。さらに、1494年春にはフィレンツェと同盟関係にあったナポリの船がラパッロ(Rapallo)で沈められた((Prevost [1999] p.134))。  [[ピーター・ラメジャラー]]はこの解釈を支持しており、ロレンツォの死にまつわる驚異はコンラドゥス・リュコステネスも報告していたことを指摘している((Lemesurier [2003b]))。 ---- #comment
*原文 Par foudre&sup(){1} en l'[[arche]]&sup(){2} or & argent&sup(){3} fondu: Des deux&sup(){4} captifs&sup(){5} l'vn l'autre mangera: De la cité&sup(){6} le plus grand estendu, Quand submergée&sup(){7} la [[classe]]&sup(){8} nagera. **異文 (1) foudre : foucre 1627, Foudre 1672 (2) l'arche : l'arbre 1644 1650Ri 1653 1665, Arche 1672, l'Arche 1712Guy (3) or & argent : Or & Argent 1672 (4) Des deux : De deux 1568B 1568C 1568I 1597 1605 1610 1611 1627 1628 1644 1649Xa 1650Ri 1653 1660 1665 1672 1716 1772Ri (5) captifs : Captifs 1672 1712Guy (6) cité : Cité 1672 1712Guy (7) submergée : submerge 1627, submergé 1653 1665 1668P (8) classe : Classe 1672 1712Guy *日本語訳 雷によって櫃の中で金と銀が熔かされる。 二人の捕虜の一方が他方を食うだろう。 その都市の最も偉大な者が倒されるだろう、 艦隊が沈められて人々が泳ぐであろう時に。 *訳について  2行目は便宜上「二人の捕虜」と訳したが、[[ロジェ・プレヴォ]]が指摘するように「二頭の捕らわれた動物」などの可能性もある。  山根訳3行目「最大の都市が広がり」((山根 [1988] p.120))は誤訳。le plus grand と la cité は性が一致していないので、前者が後者を形容していると見ることはできない。  同4行目「そのとき艦隊は海中を巡航する」は、沈められる(submergée)が受動態であり、主体的に潜航するという意味合いに取るのは強引だろう。  大乗訳1行目「箱舟に 光 金 銀が溶け」((大乗 [1975] p.100))は誤訳。大乗訳ではしばしば英訳の lightning を単なる light と取り違える事例が見られるが、これもその一つといえるだろう。  同3行目「都市は滅びる」は、 le plus grand に対応する訳語がない。 *信奉者側の見解  [[テオフィル・ド・ガランシエール]]は「単語と意味は平易である」とだけ注記している((Garencieres [1672]))。ほか、[[バルタザール・ギノー]]や[[ヘンリー・C・ロバーツ]]も抽象的な解釈しかつけていなかった。  [[ジャン・ル・ルー]]は語法上の詳しい分析を展開し、4行目についてはウェルギリウスとの関連性を指摘した((Le Roux [1710] pp.94-102))。  [[ロルフ・ボズウェル]]は『ヨハネの黙示録』から借用されたモチーフを含む詩のひとつと位置付けていたが、彼も具体的な解説はしなかった((Boswell [1943] p.329))。  [[エリカ・チータム]]は4行目は潜水艦の描写ではないかとしつつも、前半の金属を溶かす描写との関連が不明瞭だとしていた。日本語版『[[ノストラダムス全予言>ノストラダムス全予言 (二見書房)]]』では監修者らによって独自の加筆がなされ、原子力潜水艦の航行とSALT (核兵器制限交渉)での軍縮の予言とされた。なお、チータムの後の解釈では1行目は水中ミサイルに関するものではないかとされたが、原潜の話は出なかった((Cheetham [1973], チータム [1988], Cheetham [1990]))。  [[セルジュ・ユタン]]は第三次中東戦争(1967年)のこととした((Hutin [1978]))。  [[五島勉]]は、1行目を「弓型のなかで、金銀も溶けるような光がきらめく」と訳し、弓状になっている日本列島に原子爆弾が投下されたことの予言とした((五島『ノストラダムスの大予言』pp.98-100))。  [[加治木義博]]は1990年代に起こると想定していた第三次欧州大戦で、日本がコンテナ(「箱」)を使って輸出する軍需景気に沸くが、その物資を敵国側に押さえられて打撃を受けることと解釈していた((加治木『真説ノストラダムスの大予言 激動の日本・激変する世界』p.86))。 *同時代的な視点  [[ピエール・ブランダムール]]によれば、1行目に描写されているのは、雷が箱を壊すことなくその中に入っていた貨幣を溶かすという驚異であって、カルダーノが『微細な事物について』(1547年)で述べていたという((Brind’Amour [1996]))。[[高田勇]]と[[伊藤進]]は2行目をカニバリスムの描写と見なした((高田・伊藤 [1999]))。[[ジャン=ポール・クレベール]]もこの線に沿って理解している((Clébert [2003]))。  全く異なる読み方を提示したのが[[ロジェ・プレヴォ]]で、1490年代のフィレンツェ情勢がモデルになっていると推測した。  1492年にはフィレンツェの最高権力者ロレンツォ・デ・メディチが歿した。そして、サンタ・リパラタ教会(Santa Riparata)のドームをささえていたアーチ状構造物に落雷があり、同じ頃には檻の中で飼われていた二頭の野獣(fauve)が互いに食い合い倒れたという。こうした出来事はフィレンツェ経済の失墜(「金と銀が鎔ける」)を予告する凶兆と解釈された。さらに、1494年春にはフィレンツェと同盟関係にあったナポリの船がラパッロ(Rapallo)で沈められた((Prevost [1999] p.134))。  [[ピーター・ラメジャラー]]はこの解釈を支持しており、ロレンツォの死にまつわる驚異はコンラドゥス・リュコステネスも報告していたことを指摘している((Lemesurier [2003b]))。 ---- ※記事へのお問い合わせ等がある場合、最上部のタブの「ツール」>「管理者に連絡」をご活用ください。

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