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*原文
APRES combat & bataille&sup(){1} nauale&sup(){2},
Le grand Neptune&sup(){3} à son plus&sup(){4} hault beffroy,
Rouge auersaire de fraieur&sup(){5} viendra&sup(){6} pasle&sup(){7},
Metant&sup(){8} le grand ocean&sup(){9} en effroy.
**異文
(1) bataille : baraille 1716
(2) nauale : Navale 1672
(3) Neptune : neptune 1557B 1568A 1589PV 1627, Neptun 1649Ca 1650Le
(4) plus : pl' 1557U 1557B 1568A 1589PV 1611
(5) fraieur 1555 1627 1644 1650Ri 1653 1665 1840 : peur &italic(){T.A.Eds.}(&italic(){sauf} : peu 1589PV)
(6) viendra : deviendra 1588-89 1649Ca 1650Le 1668, de viendra 1672
(7) pasle : passe 1557B 1568B, palle 1611B 1660
(8) Metant 1555 1840 : Mettant &italic(){T.A.Eds.}
(9) ocean 1555 1557U 1557B 1568A 1840 : Ocean &italic(){T.A.Eds.}
*日本語訳
戦闘と海戦の後で、
偉大な[[ネプトゥヌス]]はその最も高い塔にある、
― 赤い敵は恐怖で蒼ざめるだろう。―
大洋を怯えた状態にしつつ。
**訳について
2行目「最も高い塔にある」は、[[ピエール・ブランダムール]]によれば、絶頂期にあることを示す慣用表現だという。
3行目を挿入的に捉えるのはブランダムールらの読み方に従ったものだが、実際のところ、「赤い敵」が恐怖するのはネプトゥヌスが大洋を怯えた状態にした結果と捉えないと、文脈としておかしいだろう。そういう意味では、3行目と4行目を入れ替えて訳す方がすっきりするのかもしれない。
そのため、山根訳の後半「赤い敵が恐怖で蒼ざめ/大海を恐慌状態に陥れる」((山根 [1988] p.116))は、一応そうも読めるが、適切かどうか微妙である。
大乗訳は4行目「恐怖でおののくだろう」((大乗 [1975] p.97))が不適切。ocean が訳に全く反映されていない。
*信奉者側の見解
[[テオフィル・ド・ガランシエール]]は、赤い長衣をまとうローマ教皇の隠喩である「赤い敵」以外に謎めいた要素はないとし、解釈は読者の判断にゆだねるとした((Garencieres [1672]))。
その後、20世紀までこの詩を解釈した者はいないようである。少なくとも、[[バルタザール・ギノー]]、[[テオドール・ブーイ]]、[[フランシス・ジロー]]、[[ウジェーヌ・バレスト]]、[[アナトール・ル・ペルチエ]]、[[チャールズ・ウォード]]の著書には載っていない。
[[マックス・ド・フォンブリュヌ]]は、イギリスが海戦を経て絶頂にのぼりつめることと解釈したが、余り詳しくは述べていない((Fontbrune [1939] p.259))。
[[ロルフ・ボズウェル]]は、当時進行中だった第二次世界大戦においてユトランド半島で起こることになる海戦を描いたものと解釈した((Boswell [1943] p.104))。
[[アンドレ・ラモン]]も第二次大戦中に起こる出来事とし、「ネプトゥヌス」をイギリス、「赤い敵」をロシアと解釈した上で、ロシアが日本を陸戦で打ち破り、海ではロシアの潜水艦が日本の船を破壊することを描いているとした((Lamont [1943] p.316))。
[[エリカ・チータム]]は[[百詩篇第2巻59番]]と関連付け、「偉大なネプトゥヌス」はオスマン帝国の海賊艦隊、「赤い敵」はスペインと解釈した。その場合、この詩はスペインが海賊艦隊に敗れることを描いているが、チータムはレパントの海戦を挙げ、この詩は外れたとした((Cheetham [1973]))。チータムは明示していないがこの解釈は[[エドガー・レオニ]]の解釈をほぼそのまま引き写したものである。
[[セルジュ・ユタン]]は解釈が難しいとしつつ、キューバ危機のことではないかとした((Hutin [1978]))。
[[ヴライク・イオネスク]]は「偉大なネプトゥヌス」をアメリカ、「赤い敵」をソ連とその同盟諸国とし、朝鮮戦争によって太平洋での共産主義勢力の影響力が制約されたことと解釈した((イオネスク [1991] pp.88-89))。
*同時代的な視点
上のチータムの解釈で触れたように、[[エドガー・レオニ]]はオスマン帝国の艦隊がスペインを破るという見通しが語られたものとした((Leoni [1961]))。[[エヴリット・ブライラー]]も疑問符付きで「偉大なネプトゥヌス」を海賊艦隊の提督バルバロッサ・ハイレッティン、「赤い敵」をスペインとする読み方を示した((LeVert [1979]))。
[[ピエール・ブランダムール]]は[[百詩篇第2巻59番]]と関連付け、「偉大なネプトゥヌス」は「偉大な提督」の隠喩で、ラ・ガルド男爵に関する詩とした。ラ・ガルドは1545年に25隻のガレー船を率いてジブラルタル海峡を通り抜け、7月半ばにイングランド上陸を画策して話題になったのだという。「赤い敵」は赤い十字を服につけていた神聖ローマ帝国の軍勢を指すらしい((Brind’Amour [1996]))。
[[高田勇]]・[[伊藤進]]、[[ピーター・ラメジャラー]]、[[ブリューノ・プテ=ジラール]]らはこれを支持している((高田・伊藤 [1999], Lemesurier [2003b], Petey-Girard [2003]))。
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#comment
*原文
APRES combat & bataille&sup(){1} nauale&sup(){2},
Le grand Neptune&sup(){3} à son plus&sup(){4} hault beffroy,
Rouge auersaire de fraieur&sup(){5} viendra&sup(){6} pasle&sup(){7},
Metant&sup(){8} le grand ocean&sup(){9} en effroy.
**異文
(1) bataille : baraille 1716
(2) nauale : Navale 1672
(3) Neptune : neptune 1557B 1568A 1589PV 1627, Neptun 1649Ca 1650Le
(4) plus : pl' 1557U 1557B 1568A 1589PV 1611
(5) fraieur 1555 1627 1644 1650Ri 1653 1665 1840 : peur &italic(){T.A.Eds.}(&italic(){sauf} : peu 1589PV)
(6) viendra : deviendra 1588-89 1649Ca 1650Le 1668, de viendra 1672
(7) pasle : passe 1557B 1568B, palle 1611B 1660
(8) Metant 1555 1840 : Mettant &italic(){T.A.Eds.}
(9) ocean 1555 1557U 1557B 1568A 1840 : Ocean &italic(){T.A.Eds.}
*日本語訳
戦闘と海戦の後で、
偉大な[[ネプトゥヌス]]はその最も高い塔にある、
― 赤い敵は恐怖で蒼ざめるだろう。―
大洋を怯えた状態にしつつ。
**訳について
2行目「最も高い塔にある」は、[[ピエール・ブランダムール]]によれば、絶頂期にあることを示す慣用表現だという。
3行目を挿入的に捉えるのはブランダムールらの読み方に従ったものだが、実際のところ、「赤い敵」が恐怖するのはネプトゥヌスが大洋を怯えた状態にした結果と捉えないと、文脈としておかしいだろう。そういう意味では、3行目と4行目を入れ替えて訳す方がすっきりするのかもしれない。
そのため、山根訳の後半「赤い敵が恐怖で蒼ざめ/大海を恐慌状態に陥れる」((山根 [1988] p.116))は、一応そうも読めるが、適切かどうか微妙である。
大乗訳は4行目「恐怖でおののくだろう」((大乗 [1975] p.97))が不適切。ocean が訳に全く反映されていない。
*信奉者側の見解
[[テオフィル・ド・ガランシエール]]は、赤い長衣をまとうローマ教皇の隠喩である「赤い敵」以外に謎めいた要素はないとし、解釈は読者の判断にゆだねるとした((Garencieres [1672]))。
その後、20世紀までこの詩を解釈した者はいないようである。少なくとも、[[バルタザール・ギノー]]、[[テオドール・ブーイ]]、[[フランシス・ジロー]]、[[ウジェーヌ・バレスト]]、[[アナトール・ル・ペルチエ]]、[[チャールズ・ウォード]]の著書には載っていない。
[[マックス・ド・フォンブリュヌ]]は、イギリスが海戦を経て絶頂にのぼりつめることと解釈したが、余り詳しくは述べていない((Fontbrune [1939] p.259))。
[[ロルフ・ボズウェル]]は、当時進行中だった第二次世界大戦においてユトランド半島で起こることになる海戦を描いたものと解釈した((Boswell [1943] p.104))。
[[アンドレ・ラモン]]も第二次大戦中に起こる出来事とし、「ネプトゥヌス」をイギリス、「赤い敵」をロシアと解釈した上で、ロシアが日本を陸戦で打ち破り、海ではロシアの潜水艦が日本の船を破壊することを描いているとした((Lamont [1943] p.316))。
[[エリカ・チータム]]は[[百詩篇第2巻59番]]と関連付け、「偉大なネプトゥヌス」はオスマン帝国の海賊艦隊、「赤い敵」はスペインと解釈した。その場合、この詩はスペインが海賊艦隊に敗れることを描いているが、チータムはレパントの海戦を挙げ、この詩は外れたとした((Cheetham [1973]))。チータムは明示していないがこの解釈は[[エドガー・レオニ]]の解釈をほぼそのまま引き写したものである。
[[セルジュ・ユタン]]は解釈が難しいとしつつ、キューバ危機のことではないかとした((Hutin [1978]))。
[[ヴライク・イオネスク]]は「偉大なネプトゥヌス」をアメリカ、「赤い敵」をソ連とその同盟諸国とし、朝鮮戦争によって太平洋での共産主義勢力の影響力が制約されたことと解釈した((イオネスク [1991] pp.88-89))。
*同時代的な視点
上のチータムの解釈で触れたように、[[エドガー・レオニ]]はオスマン帝国の艦隊がスペインを破るという見通しが語られたものとした((Leoni [1961]))。[[エヴリット・ブライラー]]も疑問符付きで「偉大なネプトゥヌス」を海賊艦隊の提督バルバロッサ・ハイレッティン、「赤い敵」をスペインとする読み方を示した((LeVert [1979]))。
[[ピエール・ブランダムール]]は[[百詩篇第2巻59番]]と関連付け、「偉大なネプトゥヌス」は「偉大な提督」の隠喩で、ラ・ガルド男爵に関する詩とした。ラ・ガルドは1545年に25隻のガレー船を率いてジブラルタル海峡を通り抜け、7月半ばにイングランド上陸を画策して話題になったのだという。「赤い敵」は赤い十字を服につけていた神聖ローマ帝国の軍勢を指すらしい((Brind’Amour [1996]))。
[[高田勇]]・[[伊藤進]]、[[ピーター・ラメジャラー]]、[[ブリューノ・プテ=ジラール]]らはこれを支持している((高田・伊藤 [1999], Lemesurier [2003b], Petey-Girard [2003]))。
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