百詩篇第4巻28番

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*原文 Lors que&sup(){1} Venus&sup(){2} du&sup(){3} [[sol>Sol]]&sup(){4} sera couuert, Souz&sup(){5} l'esplendeur&sup(){6} sera forme&sup(){7} occulte, Mercure au feu les aura descouuert&sup(){8} Par [[bruit]] bellique&sup(){9} sera mis a l'[[insulte]]&sup(){10}. **異文 (1) Lors que : Lorsque 1712Guy (2) Venus : venus 1572Cr (3) du : de 1572Cr (4) sol 1555 1572Cr 1588-89 1627 1650Ri 1840 : Sol &italic(){T.A.Eds.} (5) Souz : Subs 1611A, Sus 1611B 1660 (6) l'esplendeur : la splendeur 1572Cr 1589Me 1590Ro 1594JF 1672 (7) forme : la forme 1594JF 1672 (8) descouuert : descouuers 1572Cr (9) bellique : Bellique 1672 (10) mis a l'insulte 1555 : mis à l'insulte &italic(){T.A.Eds.} (&italic(){sauf} : misà l'insulte 1650Le, mis a l'Insulte 1672) **校訂  4行目の mis a l'insulte は当然 mis à l'insulte となっていなければならない。 *日本語訳 [[ウェヌス]]が太陽によって覆われるであろう時、 光輝の下に隠された形態があるだろう。 [[メルクリウス]]は火でそれらをさらけ出し、 戦闘の騒音によって矢面に立たされるだろう。 **訳について  大乗訳は3行目「火の中で水星は かれらを発見し」((大乗 [1975] p.130))が微妙だが、あとは一応許容範囲内であると思われる。  山根訳も一応許容範囲であるように思える。 *信奉者側の見解  [[ジャン=エメ・ド・シャヴィニー]]は1576年のこととした。彼は前半を[[百詩篇第8巻14番]]とも関連付けつつ、「知れ渡っている有名な姦通」の露見と解釈した。詳述していないので誰のことか不明だが、当時の人間にとっては思い当たるゴシップだったのだろう。3行目は、占星術師たちの見解として、[[メルクリウス]]が言語を司る神であることから、姦通を暴き立てる存在と位置付けていると主張した。4行目は当事者が戦地に送られることを予言したという((Chavigny [1594] p.234))。  [[テオフィル・ド・ガランシエール]]は、この詩から[[百詩篇第4巻31番]]までの4篇の詩を、錬金術における「賢者の石」の製法と解釈していた((Garencieres [1672]))。  [[バルタザール・ギノー]]はこの詩から[[百詩篇第4巻33番]]までの6篇の詩を、ひとまとまりのヘルメス主義思想に関するものと解釈していた((Guynaud [1712] pp.282-285))。  その後、20世紀半ばまでこの詩を解釈した者はいないようである。少なくとも、[[テオドール・ブーイ]]、[[フランシス・ジロー]]、[[ウジェーヌ・バレスト]]、[[アナトール・ル・ペルチエ]]、[[チャールズ・ウォード]]、[[マックス・ド・フォンブリュヌ]]、[[アンドレ・ラモン]]、[[ロルフ・ボズウェル]]、[[ジェイムズ・レイヴァー]]の著書には載っていない。  [[エリカ・チータム]]はギノーとほぼ同じだが、[[百詩篇第4巻32番]]を除く5篇とした((Cheetham [1990]))。  [[セルジュ・ユタン]]は錬金術的要素と占星術的要素が重なった詩で、ここに描かれている星位のときに戦争が起こることも予言されているとした((Hutin [1978/2002]))。 *同時代的な視点  [[ピエール・ブランダムール]]も錬金術的な詩とした。銅([[ウェヌス]])が水銀([[メルクリウス]])の作用で熱せられて黄金(太陽)になり、冷やされた後に鉄(戦争=[[マルス]])で打たれることを描写したものだという。彼は[[次の詩>百詩篇第4巻29番]]と[[33番>百詩篇第4巻33番]]も同じテーマだとした((Brind’Amour [1996]))。[[ピーター・ラメジャラー]]も基本線としては踏襲した。  [[ジャン=ポール・クレベール]]は1行目の金星が隠されている状態を「夜」と結びつけた。その上で、詩の後半は[[次の詩>百詩篇第4巻29番]]とともに、ノストラダムスが自らの神秘主義関連の蔵書を焼いたと述べていることに関連付けた((Clébert [2003]))。  当「大事典」でも、ひとつ独自解釈を追加しておきたい。詩の情景は梅毒の流行とその治療に一致する部分があるように思われる。  梅毒は当時「ウェヌスの病」と呼ばれた。それは黄金(「太陽」)を求めて新大陸に繰り出した者たちによってもたらされたもので、性病の感染という性交渉のネガティヴな側面を広く知らしめた。  当時の梅毒治療に用いられたのは水銀(メルクリウス)で、全身に水銀を塗った上で加熱し、悪い体液を出しきらせるものだった(「火でさらけ出す」)。この治療は効果がないどころか水銀中毒を招く上に、死んだ方がマシとさえ言われるほどの激痛(「戦闘の騒音」)を伴うもので、命を落とす者たちも出たという。  性交渉で感染することから当時は「ウェヌスと一晩寝てメルクリウスと一生付きあう」という皮肉めいた格言すら存在したらしい((以上、梅毒と水銀治療については、岡田晴恵『感染症は世界史を動かす』pp.102-124 を参照した。))。  詩句の細かい部分での対応関係が微妙なことから強く推す気はないが、参考情報として掲載しておく。 #amazon(4480062866) 【画像】岡田晴恵『感染症は世界史を動かす』カバー表紙(クリックするとAmazonのページに飛びます) ---- #comment
*原文 Lors que&sup(){1} Venus&sup(){2} du&sup(){3} [[sol>Sol]]&sup(){4} sera couuert, Souz&sup(){5} l'esplendeur&sup(){6} sera forme&sup(){7} occulte, Mercure au feu les aura descouuert&sup(){8} Par [[bruit]] bellique&sup(){9} sera mis a l'[[insulte]]&sup(){10}. **異文 (1) Lors que : Lorsque 1712Guy (2) Venus : venus 1572Cr (3) du : de 1572Cr (4) sol 1555 1572Cr 1588-89 1627 1650Ri 1840 : Sol &italic(){T.A.Eds.} (5) Souz : Subs 1611A, Sus 1611B 1660 (6) l'esplendeur : la splendeur 1572Cr 1589Me 1590Ro 1594JF 1672 (7) forme : la forme 1594JF 1672 (8) descouuert : descouuers 1572Cr (9) bellique : Bellique 1672 (10) mis a l'insulte 1555 : mis à l'insulte &italic(){T.A.Eds.} (&italic(){sauf} : misà l'insulte 1650Le, mis a l'Insulte 1672) **校訂  4行目の mis a l'insulte は当然 mis à l'insulte となっていなければならない。 *日本語訳 [[ウェヌス]]が太陽によって覆われるであろう時、 光輝の下に隠された形態があるだろう。 [[メルクリウス]]は火でそれらをさらけ出し、 戦闘の騒音によって矢面に立たされるだろう。 **訳について  大乗訳は3行目「火の中で水星は かれらを発見し」((大乗 [1975] p.130))が微妙だが、あとは一応許容範囲内であると思われる。  山根訳も一応許容範囲であるように思える。 *信奉者側の見解  [[ジャン=エメ・ド・シャヴィニー]]は1576年のこととした。彼は前半を[[百詩篇第8巻14番]]とも関連付けつつ、「知れ渡っている有名な姦通」の露見と解釈した。詳述していないので誰のことか不明だが、当時の人間にとっては思い当たるゴシップだったのだろう。3行目は、占星術師たちの見解として、[[メルクリウス]]が言語を司る神であることから、姦通を暴き立てる存在と位置付けていると主張した。4行目は当事者が戦地に送られることを予言したという((Chavigny [1594] p.234))。  [[テオフィル・ド・ガランシエール]]は、この詩から[[百詩篇第4巻31番]]までの4篇の詩を、錬金術における「賢者の石」の製法と解釈していた((Garencieres [1672]))。  [[バルタザール・ギノー]]はこの詩から[[百詩篇第4巻33番]]までの6篇の詩を、ひとまとまりのヘルメス主義思想に関するものと解釈していた((Guynaud [1712] pp.282-285))。  その後、20世紀半ばまでこの詩を解釈した者はいないようである。少なくとも、[[テオドール・ブーイ]]、[[フランシス・ジロー]]、[[ウジェーヌ・バレスト]]、[[アナトール・ル・ペルチエ]]、[[チャールズ・ウォード]]、[[マックス・ド・フォンブリュヌ]]、[[アンドレ・ラモン]]、[[ロルフ・ボズウェル]]、[[ジェイムズ・レイヴァー]]の著書には載っていない。  [[エリカ・チータム]]はギノーとほぼ同じだが、[[百詩篇第4巻32番]]を除く5篇とした((Cheetham [1990]))。  [[セルジュ・ユタン]]は錬金術的要素と占星術的要素が重なった詩で、ここに描かれている星位のときに戦争が起こることも予言されているとした((Hutin [1978/2002]))。 *同時代的な視点  [[ピエール・ブランダムール]]も錬金術的な詩とした。銅([[ウェヌス]])が水銀([[メルクリウス]])の作用で熱せられて黄金(太陽)になり、冷やされた後に鉄(戦争=[[マルス]])で打たれることを描写したものだという。彼は[[次の詩>百詩篇第4巻29番]]と[[33番>百詩篇第4巻33番]]も同じテーマだとした((Brind’Amour [1996]))。[[ピーター・ラメジャラー]]も基本線としては踏襲した。  [[ジャン=ポール・クレベール]]は1行目の金星が隠されている状態を「夜」と結びつけた。その上で、詩の後半は[[次の詩>百詩篇第4巻29番]]とともに、ノストラダムスが自らの神秘主義関連の蔵書を焼いたと述べていることに関連付けた((Clébert [2003]))。  当「大事典」でも、ひとつ独自解釈を追加しておきたい。詩の情景は梅毒の流行とその治療に一致する部分があるように思われる。  梅毒は当時「ウェヌスの病」と呼ばれた。それは黄金(「太陽」)を求めて新大陸に繰り出した者たちによってもたらされたもので、性病の感染という性交渉のネガティヴな側面を広く知らしめた。  当時の梅毒治療に用いられたのは水銀(メルクリウス)で、全身に水銀を塗った上で加熱し、悪い体液を出しきらせるものだった(「火でさらけ出す」)。この治療は効果がないどころか水銀中毒を招く上に、死んだ方がマシとさえ言われるほどの激痛(「戦闘の騒音」)を伴うもので、命を落とす者たちも出たという。  性交渉で感染することから当時は「ウェヌスと一晩寝てメルクリウスと一生付きあう」という皮肉めいた格言すら存在したらしい((以上、梅毒と水銀治療については、岡田晴恵『感染症は世界史を動かす』pp.102-124 を参照した。))。  詩句の細かい部分での対応関係が微妙なことから強く推す気はないが、参考情報として掲載しておく。 #amazon(4480062866) 【画像】岡田晴恵『感染症は世界史を動かす』カバー表紙 ---- ※記事へのお問い合わせ等がある場合、最上部のタブの「ツール」>「管理者に連絡」をご活用ください。

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