詩百篇第8巻69番

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*原文 Aupres&sup(){1} du ieune le&sup(){2} vieux ange&sup(){3} baisser&sup(){4}, Et le viendra surmonter à la fin: Dix ans esgaux au&sup(){5} plus vieux rabaisser, De trois deux l'vn l'huitiesme&sup(){6} seraphin&sup(){7}. **異文 (1) Aupres : Au pres 1590Ro (2) le : se 1568C 1605 1628 1649Xa 1672 1772Ri (3) ange : Ange 1605 1611B 1628 1649Xa 1649Ca 1650Le 1660 1668 1672 1840, aage 1653, âge 1665 (4) baisser : baiser 1605 1649Xa 1672 (5) au 1568 1665 1840 : aux &italic(){T.A.Eds.} (6) l'huitiesme 1568A 1568B 1568C 1590Ro : huictiesme &italic(){T.A.Eds.} (7) seraphin : Seraphin 1605 1611B 1628 1649Xa 1649Ca 1650Le 1660 1665 1668 1672 **校訂  [[ジャン=ポール・クレベール]]は4行目 deux は d'eux かもしれないとしていた。[[ピーター・ラメジャラー]]も2003年の時点では、同じ見解だった。ラメジャラーは、seraphin を fera fin と校訂していた。  当「大事典」として、4行目 l'un l'huictiesme を l'an huictiesme と読む可能性を追加しておきたい。 *日本語訳 若者の近くで、老いた天使が衰えるだろう、 それでも最後には彼を凌ぐことになるだろう。 十年間、最も老いた者に等しい者たちが再び低める、 三人のうち二人を。一人は八番目の[[セラフィム]]である。 **訳について  前半は議論の余地のないほど明瞭。大乗訳も山根訳も、訳語の選択はともかく、構文理解では一致している。  反面、後半2行は非常に難しい。ここでは[[ヴライク・イオネスク]]の解釈を踏まえた[[竹本忠雄]]訳のように、rabaisser と4行目前半をつなげるのが自然だろうと判断し、そのように訳した。ただし、当「大事典」の訳は、前半律の区切れ目を意識すると、不自然なのも事実である。  クレベールやラメジャラーは3行目と4行目を切り離し、3行目を「平坦な十年で、彼は最も老いた者を凌ぐ」に近い形で訳した。しかし、rabaisser は他動詞なので、その場合、au は必要ないはずだろうと思われる。  4行目について、クレベールは校訂した結果によって「彼らの中の三人の中の一人が八番目のセラフィムだろう」と、疑問符付きで訳した。  ラメジャラーも校訂した結果に基づき、「(彼らの中の)三人のうち一人を、八番目の者が終わらせるだろう」(The eighth shall put an end to one of three)と訳していた((Lemesurier [2003b] p.289))。2010年になると Out of three twos [leaders], the one shall bring down the eighth.((Lemesurier [2010] p.230))と訳し直した。しかし、これはどのような校訂の結果なのか、今ひとつ分からない。  大乗訳、山根訳とも後半の訳し方に疑問はあるが、上記のように、海外でも訳し方が固まっているとは言いがたい状況なので、ここでは論評しない。 *信奉者側の見解  [[テオフィル・ド・ガランシエール]]は、ある老人が若者に負けるが、肩を並べる10年間を経て、再び若者を凌ぐようになると解釈し、セラフィムは「セラフィムの会派」(フランシスコ会の別名)のことかもしれないとした((Garencieres [1672]))。  その後、20世紀半ばまでこの詩を解釈した者はいないようである。少なくとも、[[ジャック・ド・ジャン]]、[[バルタザール・ギノー]]、[[D.D.]]、[[テオドール・ブーイ]]、[[フランシス・ジロー]]、[[ウジェーヌ・バレスト]]、[[アナトール・ル・ペルチエ]]、[[チャールズ・ウォード]]、[[マックス・ド・フォンブリュヌ]]、[[アンドレ・ラモン]]、[[ロルフ・ボズウェル]]、[[ジェイムズ・レイヴァー]]の著書には載っていない。  また、[[エリカ・チータム]]は曖昧な詩として事実上解釈を放棄しており、[[セルジュ・ユタン]]は恐らく錬金術的な詩だろうと指摘するにとどまった((Cheetham [1973], Hutin [1978]))。  [[ヴライク・イオネスク]]は、天王星発見(1781年)の詩と解釈した。  前半は発見された時点の、サトゥルヌス(土星)とその父ウラヌス(天王星)の星位を示したものだという。  3行目から4行目前半について、イオネスクは「最古参にひとしい十年につき 三つのうち二つを切り下げれば」と訳し、土星の公転周期の10倍、つまり295年の3つの数字のうち2つを入れ替えて、259への切り下げを行うことと理解し、発見当日の土星の位置(人馬宮の19度)を白羊宮からの通算度数(全360度)であらわした度数(259度)と解釈した。  4行目後半は「同一の第八熾天使」と訳し、第八天の天体(天王星)の公転周期(84年)と、発見当日の星位(双児宮の24度。通算で84度)の数値が一致することを指すと解釈した((イオネスク [1993] pp.278-282))。  [[パトリス・ギナール]]は、この解釈を支持した。 *同時代的な視点  [[ロジェ・プレヴォ]]は前半2行について、[[百詩篇第1巻35番]]とも関連付けつつ、東ローマ帝国のアンゲロス王朝がモデルになったと推測した。「天使」(Ange)は「アンゲロス」(Angelos)のことで、東ローマ帝国の老皇帝イサキオス2世アンゲロス(在位:1185年 - 1195年、1203年)が、弟のアレクシオス3世アンゲロス(在位:1195年 - 1203年)と対立して廃位されたものの、復位したこととした((Prévost [1999] p.21))。  ラメジャラーはこれを支持し、イサキオスの息子達のうちの一人アレクシオス4世(在位:1203年 - 1204年)の残酷な殺害も描かれているとした((Lemesurier [2003b]))。  ある程度説得的なのは事実だろうが、後半の読み方が不鮮明なことは否めない。  いっそのこと、4行目 l'un l'huictiesme を l'an huictiesme と読み替え、seraphin はラメジャラーのように fera fin とした上で、3行目はしばしば採用される読み方を採って、「平坦な十年間に最も老いた者はその地位を低くし、三人のうち二人が、八年目に終わらせるだろう」と読めば、イサキオス2世の凡庸な10年間の治世のあとにアレクシオス3世が帝位を簒奪するが、彼の治世8年目に三人(イサキオス2世、アレクシオス3世、アレクシオス4世)のうち、二人(イサキオス2世とアレクシオス4世)が共同統治する形で、血族の争いを終わらせた、と読めるのかもしれない。 ----
[[詩百篇第8巻]]>69番* *原文 Aupres&sup(){1} du ieune le&sup(){2} vieux ange&sup(){3} baisser&sup(){4}, Et le viendra surmonter à la fin: Dix ans esgaux au&sup(){5} plus vieux rabaisser, De trois deux l'vn l'huitiesme&sup(){6} seraphin&sup(){7}. **異文 (1) Aupres : Au pres 1590Ro (2) le : se 1568B 1605sn 1628dR 1649Xa 1672Ga 1772Ri (3) ange : Ange 1603Mo 1605sn 1611B 1628dR 1649Xa 1649Ca 1650Le 1650Mo 1667Wi 1668 1672Ga 1840 1981EB, aage 1653AB, âge 1665Ba 1720To (4) baisser : baiser 1605sn 1649Xa 1672Ga (5) au 1568 1665Ba 1667Wi 1720To 1840 : aux &italic(){T.A.Eds.} (6) l'huitiesme 1568X 1568A 1568B 1590Ro : huictiesme &italic(){T.A.Eds.}(&italic(){sauf} : huictie me 1650Mo, huitiémeme 1716PRc) (7) seraphin : Seraphin 1605sn 1611B 1628dR 1649Xa 1649Ca 1650Le 1665Ba 1667Wi 1668 1672Ga 1720To 1981EB **校訂  [[ジャン=ポール・クレベール]]は、4行目 deux について、d'eux かもしれないとしていた。[[ピーター・ラメジャラー]]も2003年の時点では、同じ見解だった。  ラメジャラーは、seraphin を fera fin と校訂していた。  当「大事典」として、4行目 l'un l'huictiesme を l'an huictiesme と読む可能性を追加しておきたい。 *日本語訳 若者の近くで、老いた天使が衰えるだろう、 それでも最後には彼を凌ぐことになるだろう。 十年間、最も老いた者に等しい者たちが再び低める、 三人のうち二人を。一人は八番目の[[セラフィム]]である。 **訳について  前半は議論の余地のないほど明瞭。大乗訳も山根訳も、訳語の選択はともかく、構文理解では一致している。  反面、後半2行は非常に難しい。ここでは[[ヴライク・イオネスク]]の解釈を踏まえた[[竹本忠雄]]訳のように、rabaisser と4行目前半をつなげるのが自然だろうと判断し、そのように訳した。  ただし、当「大事典」の訳は、前半律の区切れ目を意識すると、不自然なのも事実である。  クレベールやラメジャラーは3行目と4行目を切り離し、3行目を「平坦な十年で、彼は最も老いた者を凌ぐ」に近い形で訳した。  しかし、rabaisser は他動詞なので、その場合、au は必要ないはずだろうと思われる。  4行目について、クレベールは校訂した結果によって「彼らの中の三人の中の一人が八番目のセラフィムだろう」と、疑問符付きで訳した。  ラメジャラーも校訂した結果に基づき、「(彼らの中の)三人のうち一人を、八番目の者が終わらせるだろう」(The eighth shall put an end to one of three)と訳していた((Lemesurier [2003b] p.289))。  2010年になると Out of three twos [leaders], the one shall bring down the eighth.((Lemesurier [2010] p.230))と訳し直した。しかし、これはどのような校訂の結果なのか、今ひとつ分からない。  大乗訳、山根訳とも後半の訳し方に疑問はあるが、上記のように、海外でも訳し方が固まっているとは言いがたい状況なので、ここでは論評しない。 *信奉者側の見解  [[テオフィル・ド・ガランシエール]]は、ある老人が若者に負けるが、肩を並べる10年間を経て、再び若者を凌ぐようになると解釈し、セラフィムは「セラフィムの会派」(フランシスコ会の別名)のことかもしれないとした((Garencieres [1672]))。  その後、20世紀半ばまでこの詩を解釈した者はいないようである。少なくとも、[[ジャック・ド・ジャン]]、[[バルタザール・ギノー]]、[[D.D.]]、[[テオドール・ブーイ]]、[[フランシス・ジロー]]、[[ウジェーヌ・バレスト]]、[[アナトール・ル・ペルチエ]]、[[チャールズ・ウォード]]、[[マックス・ド・フォンブリュヌ]]、[[アンドレ・ラモン]]、[[ロルフ・ボズウェル]]、[[ジェイムズ・レイヴァー]]の著書には載っていない。  また、[[エリカ・チータム]]は曖昧な詩として事実上解釈を放棄しており、[[セルジュ・ユタン]]は恐らく錬金術的な詩だろうと指摘するにとどまった((Cheetham [1973], Hutin [1978]))。  [[ヴライク・イオネスク]]は、天王星発見(1781年)の詩と解釈した。  前半は発見された時点の、サトゥルヌス(土星)とその父ウラヌス(天王星)の星位を示したものだという。  3行目から4行目前半について、イオネスクは「最古参にひとしい十年につき 三つのうち二つを切り下げれば」と訳し、土星の公転周期の10倍、つまり295年の3つの数字のうち2つを入れ替えて、259への切り下げを行うことと理解し、発見当日の土星の位置(人馬宮の19度)を白羊宮からの通算度数(全360度)であらわした度数(259度)と解釈した。  4行目後半は「同一の第八熾天使」と訳し、第八天の天体(天王星)の公転周期(84年)と、発見当日の星位(双児宮の24度。通算で84度)の数値が一致することを指すと解釈した((イオネスク [1993] pp.278-282))。  [[パトリス・ギナール]]は、この解釈を支持した。 *同時代的な視点  [[ロジェ・プレヴォ]]は前半2行について、[[詩百篇第1巻35番]]とも関連付けつつ、東ローマ帝国のアンゲロス王朝がモデルになったと推測した。  「天使」(Ange)は「アンゲロス」(Angelos)のことで、東ローマ帝国の老皇帝イサキオス2世アンゲロス(在位:1185年 - 1195年、1203年)が、弟のアレクシオス3世アンゲロス(在位:1195年 - 1203年)と対立して廃位されたものの、復位したこととした((Prévost [1999] p.21))。  ラメジャラーはこれを支持し、イサキオスの息子達のうちの一人アレクシオス4世(在位:1203年 - 1204年)の残酷な殺害も描かれているとした((Lemesurier [2003b]))。  ある程度説得的なのは事実だろうが、後半の読み方が不鮮明なことは否めない。  いっそのこと、4行目 l'un l'huictiesme を l'an huictiesme と読み替え、seraphin はラメジャラーのように fera fin とした上で、3行目はしばしば採用される読み方を採って3・4行目を訳し、「平坦な十年間に最も老いた者はその地位を低くし、三人のうち二人が、八年目に終わらせるだろう」と読んでみてはどうだろうか。  その場合、イサキオス2世の凡庸な10年間の治世のあとにアレクシオス3世が帝位を簒奪するが、彼の治世8年目に三人(イサキオス2世、アレクシオス3世、アレクシオス4世)のうち、二人(イサキオス2世とアレクシオス4世)が共同統治する形で、血族の争いを終わらせた、と読めるのかもしれない。 ---- ※記事へのお問い合わせ等がある場合、最上部のタブの「ツール」>「管理者に連絡」をご活用ください。

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