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[[詩百篇第10巻]]>67番*
*原文
Le tremblement si fort au mois de May&sup(){1},
Saturne&sup(){2}, [[Caper]]&sup(){3}, Iupiter, Mercure&sup(){4} au beuf&sup(){5}:
Venus&sup(){6} aussi Cancer&sup(){7}, Mars, en [[Nonnay]],
Tombera gresse&sup(){8} lors plus grosse&sup(){9} qu'vn euf&sup(){10}.
**異文
(1) May : may 1597Br 1606PR 1607PR 1650Ri
(2) Saturne : Saturn 1720To
(3) Caper : caper 1568X 1590Ro
(4) Mercure : Morcure 1568X, Merrure 1603Mo, Marcure 1605sn
(5) beuf 1568 1590Ro 1627Ma 1772Ri : bœuf &italic(){T.A.Eds.} (&italic(){sauf} Bœuf 1672Ga)
(6) Venus : Tenus 1627Di
(7) Cancer : cancer 1568X
(8) gresse 1568X 1568A : grosse 1590Ro, gresle &italic(){T.A.Eds.}
(9) grosse : gresse 1672Ga
(10) euf 1568A 1568B 1568C 1627Ma 1627Di 1772Ri : oeuf &italic(){T.A.Eds.}
(注記)1720ToのSaturn はSaturn , という具合に n と , の間に e が入るくらいの隙間がある。
*日本語訳
五月に非常に強い地震。
土星は磨羯宮に。木星、水星は金牛宮に、
金星も同じく。巨蟹宮は火星に。アノネーでは
その時に卵より大きな雹が降るだろう。
**訳について
山根訳は前半は問題ない。3行目「金星も蟹座に 火星は乙女座に」((山根 [1988] p.335))は、[[Nonnay]]の訳し方によってはありえない訳ではない。ただし、前半律(最初の4音節)は Venus aussi なので、そこで一度区切れると見る方が妥当だろう。同4行目に出てくる「雪」は「雹」の誤植だろう。
大乗訳1行目「地震は五月に起こり」((大乗 [1975] p.301))は、 si fort(非常に強い)が全く訳されていない。[[ヘンリー・C・ロバーツ]]の英訳には so great が含まれている。
同2行目「土星 流星塵 木星 水星は牡牛座に」は、[[Caper]]がなぜ「流星塵」になるのか不明。ロバーツの英訳ではそのまま Caper になっている。
同3行目「金星もおなじく かに座 火星はゼロに」も不適切。Nonnay をゼロと訳すのはロバーツの英訳を引き継いだものだが、これまた根拠が全く分からない。
*信奉者側の見解
[[テオフィル・ド・ガランシエール]]はこの星位の時に恐るべき地震と雹が襲うとだけ解釈していた((Garencieres [1672]))。
その後、20世紀までこの詩を解釈した者はいないようである。少なくとも、[[ジャック・ド・ジャン]]、[[バルタザール・ギノー]]、[[D.D.]]、[[テオドール・ブーイ]]、[[フランシス・ジロー]]、[[ウジェーヌ・バレスト]]、[[アナトール・ル・ペルチエ]]、[[チャールズ・ウォード]]、[[マックス・ド・フォンブリュヌ]]、[[ロルフ・ボズウェル]]の著書には載っていない。
[[エミール・リュイール]](1939年)は、1941年5月に西欧で起こる大地震と解釈していた((Ruir [1939] pp.105-106))。
[[アンドレ・ラモン]]は1988年に大戦が起こる予言と解釈していた((Lamont [1943] pp.335-336))。
[[五島勉]]はかつて惑星直列に関連付けて1982年5月に起こる大地震ではないかと解釈したことがあった((五島『ノストラダムスの大予言II』pp.117-118))。
流智明は2000年5月に起こる地震と解釈していた((チータム『ノストラダムス全予言』1988年、p.335))。
[[川尻徹]]は1941年5月に起こったナチス副総統ルドルフ・ヘスのイギリスへの単独飛行についての予言と解釈した((川尻 [1988] pp.15-18))。
[[霧満攔江]]は2008年5月12日の汶川大地震(四川大地震)と解釈した((霧満攔江 [2010]))。
*同時代的な視点
[[ピエール・ブランダムール]]によれば、2行目から3行目は、土星が磨羯宮に入り、木星、水星、金星が金牛宮に入り、火星が巨蟹宮に入る星位を表しているのだという。そして彼は、この星位に当てはまる1549年5月4日に[[モンテリマール]]一帯を襲った大地震が、この詩のモデルになっていると推測した。
ジャン・ペラの手になる当時の年代記には、同じ年の6月15日には、同じ地方でヘイゼルナッツやクルミより大きい雹が降ったと記録されていることも傍証とされる((Brind'Amour[1993] pp.227-231))。ノネー(Nonnay)は近隣の都市[[アノネー]]の語頭音消失。
[[ピーター・ラメジャラー]]はこれに加えて、[[コンラドゥス・リュコステネス]]の『驚異論』(1557年)に書かれている1538年のバーゼル地震の記録も併記している。そこには、チューリヒなどで卵よりも大きい雹が降ったと書かれているからである((Lemesurier[2003] pp.363-364))。
ブランダムールはこの詩に関連性のある詩として、[[第3巻40番>百詩篇第3巻40番]]、[[第6巻37番>百詩篇第6巻37番]]、[[第6巻51番>百詩篇第6巻51番]]、[[第6巻88番>百詩篇第6巻88番]]、[[第9巻83番>百詩篇第9巻83番]]などを挙げている。
#image(annonay.PNG)
*その他
2014年5月には「2014年5月12日に関東で大地震が起こる」としてこの詩を引き合いに出したビラが、新宿や秋葉原に貼り出されており、一部で騒がれた(([[東京都心で謎の張り紙が発見され、ネット上で話題に!「5月12日に関東地方を巨大地震が襲う。ノストラダムスの予言を解析した」 >>http://saigaijyouhou.com/blog-entry-2510.html]]。山口敏太郎『世界の不思議超怪奇XXファイル』pp.140-141))。5月10日前後になると一部の信奉者がこの詩を引き合いに出したがるのは、何も2014年に限った話ではないのだが、ビラを貼って不特定多数に呼びかけるというのは珍しいかもしれない。
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- “非常に強い地震”は大地が震えるほどの驚異と解釈する。従って5月に大地震は無い。 -- れもん (2016-04-25 18:22:44)
[[詩百篇第10巻]]>67番*
*原文
Le tremblement si fort au mois de May&sup(){1},
Saturne&sup(){2}, [[Caper]]&sup(){3}, Iupiter, Mercure&sup(){4} au beuf&sup(){5}:
Venus&sup(){6} aussi Cancer&sup(){7}, Mars, en [[Nonnay]],
Tombera gresse&sup(){8} lors plus grosse&sup(){9} qu'vn euf&sup(){10}.
**異文
(1) May : may 1597Br 1606PR 1607PR 1650Ri
(2) Saturne : Saturn 1720To
(3) Caper : caper 1568X 1590Ro
(4) Mercure : Morcure 1568X, Merrure 1603Mo, Marcure 1605sn
(5) beuf 1568 1590Ro 1627Ma 1772Ri : bœuf &italic(){T.A.Eds.} (&italic(){sauf} Bœuf 1672Ga)
(6) Venus : Tenus 1627Di
(7) Cancer : cancer 1568X
(8) gresse 1568X 1568A : grosse 1590Ro, gresle &italic(){T.A.Eds.}
(9) grosse : gresse 1672Ga
(10) euf 1568A 1568B 1568C 1627Ma 1627Di 1772Ri : oeuf &italic(){T.A.Eds.}
(注記)1720ToのSaturn はSaturn , という具合に n と , の間に e が入るくらいの隙間がある。
*日本語訳
五月に非常に強い震動。
土星は磨羯宮に。木星、水星は金牛宮に、
金星も同じく。巨蟹宮には火星。アノネーでは
その時に卵より大きな雹が降るだろう。
**訳について
山根訳は前半は問題ない。3行目「金星も蟹座に 火星は乙女座に」((山根 [1988] p.335))は、[[Nonnay]]の訳し方によってはありえない訳ではない。ただし、前半律(最初の4音節)は Venus aussi なので、そこで一度区切れると見る方が妥当だろう。同4行目に出てくる「雪」は「雹」の誤植だろう。
大乗訳1行目「地震は五月に起こり」((大乗 [1975] p.301))は、 si fort(非常に強い)が全く訳されていない。[[ヘンリー・C・ロバーツ]]の英訳には so great が含まれている。
同2行目「土星 流星塵 木星 水星は牡牛座に」は、[[Caper]]がなぜ「流星塵」になるのか不明。ロバーツの英訳ではそのまま Caper になっている。
同3行目「金星もおなじく かに座 火星はゼロに」も不適切。Nonnay をゼロと訳すのはロバーツの英訳を引き継いだものだが、これまた根拠が全く分からない。
*信奉者側の見解
[[テオフィル・ド・ガランシエール]]はこの星位の時に恐るべき地震と雹が襲うとだけ解釈していた((Garencieres [1672]))。
その後、20世紀までこの詩を解釈した者はいないようである。少なくとも、[[ジャック・ド・ジャン]]、[[バルタザール・ギノー]]、[[D.D.]]、[[テオドール・ブーイ]]、[[フランシス・ジロー]]、[[ウジェーヌ・バレスト]]、[[アナトール・ル・ペルチエ]]、[[チャールズ・ウォード]]、[[マックス・ド・フォンブリュヌ]]、[[ロルフ・ボズウェル]]の著書には載っていない。
[[エミール・リュイール]](1939年)は、1941年5月に西欧で起こる大地震と解釈していた((Ruir [1939] pp.105-106))。
[[アンドレ・ラモン]]は1988年に大戦が起こる予言と解釈していた((Lamont [1943] pp.335-336))。
[[五島勉]]はかつて惑星直列に関連付けて1982年5月に起こる大地震ではないかと解釈したことがあった((五島『ノストラダムスの大予言II』pp.117-118))。
流智明は2000年5月に起こる地震と解釈していた((チータム『ノストラダムス全予言』1988年、p.335))。
[[川尻徹]]は1941年5月に起こったナチス副総統ルドルフ・ヘスのイギリスへの単独飛行についての予言と解釈した((川尻 [1988] pp.15-18))。
[[霧満攔江]]は2008年5月12日の汶川大地震(四川大地震)と解釈した((霧満攔江 [2010]))。
*同時代的な視点
[[ピエール・ブランダムール]]によれば、2行目から3行目は、土星が磨羯宮に入り、木星、水星、金星が金牛宮に入り、火星が巨蟹宮に入る星位を表しているのだという。そして彼は、この星位に当てはまる1549年5月4日に[[モンテリマール]]一帯を襲った大地震が、この詩のモデルになっていると推測した。
ジャン・ペラの手になる当時の年代記には、同じ年の6月15日には、同じ地方でヘイゼルナッツやクルミより大きい雹が降ったと記録されていることも傍証とされる((Brind'Amour[1993] pp.227-231))。ノネー(Nonnay)は近隣の都市[[アノネー]]の語頭音消失。
[[ピーター・ラメジャラー]]はこれに加えて、[[コンラドゥス・リュコステネス]]の『驚異論』(1557年)に書かれている1538年のバーゼル地震の記録も併記している。そこには、チューリヒなどで卵よりも大きい雹が降ったと書かれているからである((Lemesurier[2003] pp.363-364))。
ブランダムールはこの詩に関連性のある詩として、[[第3巻40番>百詩篇第3巻40番]]、[[第6巻37番>百詩篇第6巻37番]]、[[第6巻51番>百詩篇第6巻51番]]、[[第6巻88番>百詩篇第6巻88番]]、[[第9巻83番>百詩篇第9巻83番]]などを挙げている。
#image(annonay.PNG)
*その他
2014年5月には「2014年5月12日に関東で大地震が起こる」としてこの詩を引き合いに出したビラが、新宿や秋葉原に貼り出されており、一部で騒がれた(([[東京都心で謎の張り紙が発見され、ネット上で話題に!「5月12日に関東地方を巨大地震が襲う。ノストラダムスの予言を解析した」 >>http://saigaijyouhou.com/blog-entry-2510.html]]。山口敏太郎『世界の不思議超怪奇XXファイル』pp.140-141))。5月10日前後になると一部の信奉者がこの詩を引き合いに出したがるのは、何も2014年に限った話ではないのだが、ビラを貼って不特定多数に呼びかけるというのは珍しいかもしれない。
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- “非常に強い地震”は大地が震えるほどの驚異と解釈する。従って5月に大地震は無い。 -- れもん (2016-04-25 18:22:44)