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+[[百詩篇第8巻]]>76番
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 *原文
 Plus [[Macelin]]&sup(){1} que roy&sup(){2} en Angleterre
 Lieu obscur&sup(){3} nay&sup(){4} par&sup(){5} force aura l'empire&sup(){6}:
 Lasche sans foy, sans loy saignera terre&sup(){7},
 Son temps s'approche&sup(){8} si pres que&sup(){9} ie&sup(){10} souspire&sup(){11}.
 
 **異文
-(1) Macelin : Marcelin 1653 1665
+(1) Macelin : Macclin 1603Mo, Marcelin 1653 1665
 (2) roy 1568A 1568B 1568C 1590Ro 1597 1611A 1772Ri : Roy &italic(){T.A.Eds.}
 (3) obscur : obsur 1572Cr
 (4) nay : n'ay 1600 1610 1716, ne 1672
 (5) par : bar 1650Ri
-(6) l'empire : l'Empire 1572Cr 1611B 1653 1660 1665 1672 1840
+(6) l'empire : l'Empire 1572Cr 1611B 1653 1665 1672 1840 1981EB
 (7) terre : Terre 1672
 (8) s'approche : sapproche 1568A
 (9) pres que : presque 1600 1672
 (10) ie : ien 1568A, i'en 1590Ro 1653 1665
 (11) souspire : sospire 1568A
 
 *日本語訳
 イングランドにおいて国王よりも肉屋といえる、
 陰気な場所で生まれた者が、力で帝国を手にするだろう。
 信仰も法も持たない卑劣漢が領土から搾取するだろう。
 彼の時代があまりにも近づいているので私は嘆息する。
 
 **訳について
  山根訳2行目「いやしい家に生まれ 力づくで国を奪う」((山根 [1975] p.276))は、lieu obscur を「いやしい家」と訳すのが意訳しすぎに思える。また、empire (帝国)が訳に十分に反映されていない。
 
  大乗訳3行目「道徳にルーズで 信仰なく 法なく 地は血で染まる」((大乗 [1975] p.249))、山根訳3行目「信仰に欠け法を守らぬ臆病者 大地を血まみれにするだろう」は似ているので一度に扱う。Lâche は「臆病者」「卑劣漢」の意味なので、山根訳は問題ない。「道徳にルーズで」という大乗訳も、事実上同じことを言っているのだろう。
  saigner は「採血する」「(動物について)血を抜いて殺す」、転じて「金などを搾り取る」の意味をもつ。1行目の「肉屋」に合わせて、食肉加工になぞらえた表現を使ったのだろう。そういう意味で「血を撒き散らす」ような意味合いの大乗訳や山根訳は、ニュアンスとして妥当なのか疑問がある。なお、中期フランス語には saigner la terre という「悪い時期に土を耕す」ことを意味する成句があった((DMF))。ただし、文脈にそぐわないように思えるので、ここでは採用しなかった。
 
 *信奉者側の見解
  オリヴァー・クロムウェルの専制政治とする解釈が、ほぼ定説化している。
  [[テオフィル・ド・ガランシエール]]、[[1691年ルーアン版『予言集』>ミシェル・ノストラダムス師の真の百詩篇集と予言集 (ブゾンニュ、1691年)]]で解釈した「当代の一知識人」、[[D.D.]]、[[テオドール・ブーイ]]、[[フランシス・ジロー]]、[[ウジェーヌ・バレスト]]、[[アナトール・ル・ペルチエ]]、[[チャールズ・ウォード]]、[[ロルフ・ボズウェル]]、[[アンドレ・ラモン]]、[[ジェイムズ・レイヴァー]]ら、17世紀以降の英仏の著名な解釈者たちのほとんどがこの解釈を採ってきた((Garencieres [1672], Besongne [1691] p.200, D.D. [1715] p.40, Bouys [1806] p.109, Girault [1839] p.19, Bareste [1840] p.501, Le Pelletier [1867a] p.142, Ward [1891] p.177, Lamont [1943] p.115, Boswell [1943] p.87, Laver [1952] p.122))。「臆病者」は、二晩続けて同じベッドで寝なかったとか、暗殺を恐れてコルセットを着用していたといったエピソードが引き合いに出される。
 
 **懐疑的な視点
  [[エドガー・レオニ]]や[[エヴリット・ブライラー]]は、最初に印刷されてから80年以上後のことを「非常に近い」と述べている点に疑問を呈した。
 
 *同時代的な視点
  [[ピーター・ラメジャラー]]は、欠地王ジョンをモデルに未来の暴君が描かれているのではないかとした((Lemesurier [2003b/2010]))。
 
  [[エヴリット・ブライラー]]は、過去にモデルを見出すなら、16世紀のイングランド王ヘンリー8世と、トマス・ウルジー枢機卿が候補になると指摘した((LeVert [1979]))。
 
  トマス・ウルジー(1471年 - 1530年)は食肉業者の息子で、学識によって大法官や枢機卿の地位にのし上がり、ヘンリー8世の治世前半に大きな権力を振るった。しかし、ヘンリー8世のローマ教会を敵に回す強引な離婚騒動のさなか、信任を失って失脚した。ちなみに、そのウルジー失脚後、ヘンリー8世はトマス・クロムウェルの策で、イングランドを「帝国」と位置付け、教皇の権限が及ばないことを宣言した。
  従来、詩の前半と後半は同じ人物を指すと当然のように認識されてきたが、前半を食肉業者の子で国政を取り仕切ったウルジー、後半はその枢機卿・大法官をはじめ、自らの思い通りにならない存在を次々に切り捨てて、専横に振舞ったヘンリー8世と解釈する方が、モデルとしてはすっきりとするのではないだろうか。
  ノストラダムスがこの詩を書いた時期は1557年から1566年の間だが、その頃は国教会のエリザベス1世とカトリックのメアリ・スチュアートの間で、イングランド王位をめぐって確執が続いていた。そのような不安定な状況の中で、再びヘンリー8世のような強引な君主が現れることを懸念したとしても、おかしくはないように思える。
 
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 - チャールズ一世とシャルル9世が同じつづりなのを利用して、イギリスとフランスの宗教戦争を予言。懐疑的な視点はクリアされた。  -- とある信奉者  (2011-05-09 21:37:30)
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