百詩篇第2巻52番

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*原文 Dans plusieurs nuits la terre&sup(){1} tremblera : Sur le prinstemps&sup(){2} deux&sup(){3} [[effors>effort]] suite&sup(){4} : Corynthe&sup(){5}, Ephese aux deux mers&sup(){6} nagera : Guerre s'esmeut&sup(){7} par deux [[vaillans>vaillant]] de [[luite]]&sup(){8}. **異文 (1) terre : Terre 1672 1712Guy (2) prinstemps 1555V : prins temps 1555A 1557U 1557B 1568A 1590Ro 1840, printemps T.A.Eds. (3) deux (vers2) : de deux 1627 1644 1650Ri 1653 1660 1665 (4) suite : suscite 1557B, feront suite 1589PV 1649Ca 1668 1712Guy, la suite 1627 1644 1650Le 1650Ri 1653 1660 1665 (5) Corynthe : Chorinte 1590Ro (6) mers : merts 1627, mer 1649Xa, Mers 1672 1712Guy (7) s'esmeut : sesmeut 1672 (8) luite : luire 1590Ro, Luitte 1672 ** 校訂  2行目は明らかに10音節に満たない。後の時代に、その不都合を埋めるべく若干の改変が行われたが、[[ピエール・ブランダムール]]は feront をはさむ読み方を支持していた((Brind’Amour [1996]))。 *日本語訳 何夜もの間、大地が震えるだろう。 春に二度の震動が続くのだ。 [[コリントス]]と[[エフェソス]]は二つの海で泳ぐだろう。 戦争が二人の勇敢な戦士によって惹き起こされる。 **訳について  2行目の [[effors>effort]]に直接的な「振動」の意味はない。しかし、effort は何らかのエネルギーによってもたらされる作用の意味であり、[[ピエール・ブランダムール]]はsecousses (振動)、[[ジャン=ポール・クレベール]]は séismes (地震) と釈義しており、[[高田勇]]・[[伊藤進]]訳でも「震動」となっていることから、ここでもそれを踏襲した。  3行目は直訳したが、ブランダムールらの釈義からいっても、「コリントスとエフェソスがそれぞれの海に沈む」という意味だろう。  4行目は直訳すると「戦争が二人の戦いの勇者によって惹き起こされる」となる。「戦いの勇者」というのは冗長だが、おそらく[[vaillant]]が多義的であることから語義を絞り込むためと韻を整えるためという2つの理由によるのではないかと思われる。高田・伊藤訳では「歴戦の二勇士」((高田・伊藤 [1999] p.166-167))と訳されている。  ほかの既存の訳についてコメントしておく。  大乗訳は2行目「泉で二つの大地震が続いて起こり」((大乗 [1975] p.84))が誤訳。printemps が[[ヘンリー・C・ロバーツ]]の英訳では spring となっていたことによるものと推測され、転訳時の誤訳だろう。  同4行目「戦いは二人の力士で動かされるだろう」は「力士」を棚上げするとしても、不正確。  山根訳は問題ない。その2行目「春 非常な努力が二度つづけてなされる」((山根 [1988] p.95))も、上記の通り直訳としては正しい。 *信奉者側の見解  [[テオフィル・ド・ガランシエール]]は「コリントスはギリシアの都市、エフェソスはアジアの都市で、残りは平易」とだけ述べた((Garencieres [1672]))。  [[バルタザール・ギノー]](1712年)はアジアの2人の君主が繰り広げる戦争で、特にコリントスやエフェソスの住民に被害が出て、彼らの血が付近の海に広がることと、何夜にも渡る地震があることと解釈した((Guynaud [1712] p.362))。  [[D.D.]](1715年)は前後の51番、53番とともに一連の詩として、17世紀半ばのイングランドに関わる諸事件、つまりロンドンの大火や英蘭戦争などと解釈した((D.D. [1715] pp.48-51))。この解釈は[[チャールズ・ウォード]]が踏襲した((Ward [1891] pp.214-218))。これらの解釈では、コリントスとエフェソスはイングランドとアントウェルペンの位置関係(狭い海を隔てている)の隠喩と理解される。  [[エリカ・チータム]](1973年/1990年)もこの解釈を紹介するにとどまるが、コリントスなどの結び付け方に対して疑問を投げかけていた((Cheetham [1973], Cheetham [1990]))。  [[アンドレ・ラモン]](1943年)は「大地が震える」を近未来に起こる戦争と解釈し、海を隔てたコリントスとエフェソスが血まみれになることと解釈した((Lamont [1943] pp.235-236))。  [[セルジュ・ユタン]]は第二次世界大戦中にドイツ軍がギリシアを占領したことと解釈した((Hutin [1978]))。 *同時代的な視点  [[ピエール・ブランダムール]]は[[百詩篇第3巻3番]]とも結び付けつつ、地震で壊滅する東方の都市に関するモチーフは、ノストラダムスの暦書の方にも見られることを指摘した。彼が例として挙げている『[[1563年向けの暦>Almanach povr L'An M. D. LXIII.]]』にはこうある。 「星の六分(sextil)のアスペクトは、東方の諸地域で非常に大きく急で驚倒すべき地震が起こるであろうことを意味しており、それによって多くの都市が深淵に呑み込まれるであろう」((Brind’Amour [1996] p.267))。  [[ピーター・ラメジャラー]]は、『[[ミラビリス・リベル]]』の「マーリンの予言」に描かれた勇敢な王の予言と、1509年のコンスタンティノープル大地震(リュコステネスの著書でも触れられている)の記録とに基づくと推測した((Lemesurier [2003b], Lemesurier [2010]))。  なお、[[百詩篇第3巻3番]]の解釈で引用しているように、エフェソスが地震で水没する予言は『[[シビュラの託宣]]』に含まれている。ただし、ノストラダムスがこれを参照したかどうかは分からない。 #ref(Corinthe.PNG) 【画像】関連地図 ---- #comment
*原文 Dans plusieurs nuits la terre&sup(){1} tremblera : Sur le prinstemps&sup(){2} deux&sup(){3} [[effors>effort]] suite&sup(){4} : Corynthe&sup(){5}, Ephese aux deux mers&sup(){6} nagera : Guerre s'esmeut&sup(){7} par deux [[vaillans>vaillant]] de [[luite]]&sup(){8}. **異文 (1) terre : Terre 1672 1712Guy (2) prinstemps 1555V : prins temps 1555A 1557U 1557B 1568A 1590Ro 1840, printemps T.A.Eds. (3) deux (vers2) : de deux 1627 1644 1650Ri 1653 1660 1665 (4) suite : suscite 1557B, feront suite 1589PV 1649Ca 1668 1712Guy, la suite 1627 1644 1650Le 1650Ri 1653 1660 1665 (5) Corynthe : Chorinte 1590Ro (6) mers : merts 1627, mer 1649Xa, Mers 1672 1712Guy (7) s'esmeut : sesmeut 1672 (8) luite : luire 1590Ro, Luitte 1672 ** 校訂  2行目は明らかに10音節に満たない。後の時代に、その不都合を埋めるべく若干の改変が行われたが、[[ピエール・ブランダムール]]は feront をはさむ読み方を支持していた((Brind’Amour [1996]))。 *日本語訳 何夜もの間、大地が震えるだろう。 春に二度の震動が続くのだ。 [[コリントス]]と[[エフェソス]]は二つの海で泳ぐだろう。 戦争が二人の勇敢な戦士によって惹き起こされる。 **訳について  2行目の [[effors>effort]]に直接的な「振動」の意味はない。しかし、effort は何らかのエネルギーによってもたらされる作用の意味であり、[[ピエール・ブランダムール]]はsecousses (振動)、[[ジャン=ポール・クレベール]]は séismes (地震) と釈義しており、[[高田勇]]・[[伊藤進]]訳でも「震動」となっていることから、ここでもそれを踏襲した。  3行目は直訳したが、ブランダムールらの釈義からいっても、「コリントスとエフェソスがそれぞれの海に沈む」という意味だろう。  4行目は直訳すると「戦争が二人の戦いの勇者によって惹き起こされる」となる。「戦いの勇者」というのは冗長だが、おそらく[[vaillant]]が多義的であることから語義を絞り込むためと韻を整えるためという2つの理由によるのではないかと思われる。高田・伊藤訳では「歴戦の二勇士」((高田・伊藤 [1999] p.166-167))と訳されている。  ほかの既存の訳についてコメントしておく。  大乗訳は2行目「泉で二つの大地震が続いて起こり」((大乗 [1975] p.84))が誤訳。printemps が[[ヘンリー・C・ロバーツ]]の英訳では spring となっていたことによるものと推測され、転訳時の誤訳だろう。  同4行目「戦いは二人の力士で動かされるだろう」は「力士」を棚上げするとしても、不正確。  山根訳は問題ない。その2行目「春 非常な努力が二度つづけてなされる」((山根 [1988] p.95))も、上記の通り直訳としては正しい。 *信奉者側の見解  [[テオフィル・ド・ガランシエール]]は「コリントスはギリシアの都市、エフェソスはアジアの都市で、残りは平易」とだけ述べた((Garencieres [1672]))。  [[バルタザール・ギノー]](1712年)はアジアの2人の君主が繰り広げる戦争で、特にコリントスやエフェソスの住民に被害が出て、彼らの血が付近の海に広がることと、何夜にも渡る地震があることと解釈した((Guynaud [1712] p.362))。  [[D.D.]](1715年)は前後の51番、53番とともに一連の詩として、17世紀半ばのイングランドに関わる諸事件、つまりロンドンの大火や英蘭戦争などと解釈した((D.D. [1715] pp.48-51))。この解釈は[[チャールズ・ウォード]]が踏襲した((Ward [1891] pp.214-218))。これらの解釈では、コリントスとエフェソスはイングランドとアントウェルペンの位置関係(狭い海を隔てている)の隠喩と理解される。  [[エリカ・チータム]](1973年/1990年)もこの解釈を紹介するにとどまるが、コリントスなどの結び付け方に対して疑問を投げかけていた((Cheetham [1973], Cheetham [1990]))。  [[アンドレ・ラモン]](1943年)は「大地が震える」を近未来に起こる戦争と解釈し、海を隔てたコリントスとエフェソスが血まみれになることと解釈した((Lamont [1943] pp.235-236))。  [[セルジュ・ユタン]]は第二次世界大戦中にドイツ軍がギリシアを占領したことと解釈した((Hutin [1978]))。 *同時代的な視点  [[ピエール・ブランダムール]]は[[百詩篇第3巻3番]]とも結び付けつつ、地震で壊滅する東方の都市に関するモチーフは、ノストラダムスの暦書の方にも見られることを指摘した。彼が例として挙げている『[[1563年向けの暦>Almanach povr L'An M. D. LXIII.]]』にはこうある。 「星の六分(sextil)のアスペクトは、東方の諸地域で非常に大きく急で驚倒すべき地震が起こるであろうことを意味しており、それによって多くの都市が深淵に呑み込まれるであろう」((Brind’Amour [1996] p.267))。  [[ピーター・ラメジャラー]]は、『[[ミラビリス・リベル]]』の「マーリンの予言」に描かれた勇敢な王の予言と、1509年のコンスタンティノープル大地震(リュコステネスの著書でも触れられている)の記録とに基づくと推測した((Lemesurier [2003b], Lemesurier [2010]))。  なお、[[百詩篇第3巻3番]]の解釈で引用しているように、エフェソスが地震で水没する予言は『[[シビュラの託宣]]』に含まれている。ただし、ノストラダムスがこれを参照したかどうかは分からない。 #ref(Corinthe.PNG) 【画像】関連地図 ---- ※記事へのお問い合わせ等がある場合、最上部のタブの「ツール」>「管理者に連絡」をご活用ください。

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