詩百篇第1巻40番

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[[詩百篇第1巻]]>40番* *原文 La [[trombe]]&sup(){1} faulse&sup(){2} dissimulant&sup(){3} folie, Fera&sup(){4} Bisance&sup(){5} vn changement de loys: [[Hystra>issir]]&sup(){6} d'Egypte&sup(){7} qui veult&sup(){8} que l'on&sup(){9} deslie&sup(){10} Edict changeant&sup(){11} monnoyes&sup(){12} & aloys&sup(){13}. **異文 (1) trombe : trompe 1588-89 1607PR 1610Po 1612Me 1627Di 1627Ma 1644Hu 1650Ri 1653AB 1665Ba, tourbe 1672Ga (2) faulse : fauce 1588-89 1612Me, fause 1590Ro (3) dissimulant : dissimilant 1672Ga (4) Fera : Ferra 1627Di (5) Bisance : bisance 1588Rf 1589PV 1590SJ, bisence 1589Rg (6) Hystra : Istra 1588-89 1612Me 1672Ga (7) d'Egypte : d'Ægypt 1672Ga (8) veult : veus 1672Ga (9) l'on : lon 1590Ro 1591BR 1597Br 1606PR 1607PR 1610Po 1627Di (10) deslie : dessie 1606PR 1610Po 1627Di 1644Hu, deffie 1607PR 1627Ma 1650Ri 1653AB 1665Ba, d'effie 1716PR (11) changeant : changea nt 1611A, changant 1672Ga (12) monnoyes : monnoyees 1589PV, monnoye 1605sn 1611A 1611B 1628dR 1649Xa 1981EB, Monnoys 1672Ga (13) aloys : alloix 1589PV 1590SJ 1649Ca 1650Le 1667Wi 1668 *日本語訳 狂気を隠蔽する虚偽の[[喇叭>ラッパ]]が [[ビュザンティオン>イスタンブル]]に法制の変更をさせるだろう。 撤回されることを望む者がエジプトから出るだろう、 貨幣とその品位を変更する勅令について。 **訳について  後半を各行に対応させることにこだわらずに訳すと、「貨幣とその品位を変更する勅令が撤回されることを望む者がエジプトから出るだろう」となる。  既存の訳についてコメントしておく。  [[大乗訳>ノストラダムス大予言原典・諸世紀]]について。1行目「にせの一団がおのれの愚かさを隠しながら」((大乗 [1975] p.55。以下、この詩の引用は同じページから。))は、[[trombe]]が tourbe になっている底本の訳としては許容できるが、その異文に正当性は認められない。  2行目「コンスタンチノープルで法の交換をするだろう」は直訳としては不適切だが、前置詞を補った訳としては許容範囲内か。  3行目「人はエジプトを出て勅令を解くだろう」は、veut (~を望む)が訳に全く反映されていない。  4行目「旗と金貨をかえながら」は完全に誤訳。「旗」は、もとになったはずの[[ヘンリー・C・ロバーツ]]の英訳で standards となっていたので、転訳による誤訳と見るのが妥当だろう。本来の原語 aloi に「旗」の意味などない。    [[山根訳>ノストラダムス全予言 (二見書房)]]はおおむね問題ないが、4行目「彼は勅令の撤回 貨幣と金位の改正を要求するだろう」((山根 [1988] p.49))が微妙である。「変える」が現在分詞であることからすれば、「貨幣とその品位を変えること」は「勅令」に掛かっていると見るべきで、変えること(改正)と勅令の撤回を並列的に捉えるのは不適切。 *信奉者側の見解  [[テオフィル・ド・ガランシエール]]は前半と後半に分け、それぞれほとんどそのまま敷衍し、前半は狂気を装う騒々しい一団のせいでコンスタンティノープルで法が変更されることの予言で、後半はエジプトからきた数人のバサ (Bassa) が貨幣と金位を変更するために彼らを説き伏せることの予言とした((Garencieres [1672]))。  その後、20世紀半ばまでこの詩を解釈した者はいないようである。少なくとも、[[ジャック・ド・ジャン]]、[[バルタザール・ギノー]]、[[D.D.]]、[[テオドール・ブーイ]]、[[フランシス・ジロー]]、[[ウジェーヌ・バレスト]]、[[アナトール・ル・ペルチエ]]、[[チャールズ・ウォード]]、[[アンドレ・ラモン]]、[[ロルフ・ボズウェル]]、[[ジェイムズ・レイヴァー]]の著書には載っていない。  [[マックス・ド・フォンブリュヌ]]は、1999年を前に[[反キリスト]]が出現したころの出来事の一つと位置付けていた((Fontbrune (1938)[1939] p.269))。  [[ジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌ]]は1920年のセーヴル条約でオスマン帝国が解体され、エジプトも失ったこととした((Fontbrune (1980)[1982]p.221))。  [[エリカ・チータム]]は解釈が難しいとしていたが、[[その日本語版>ノストラダムス全予言 (二見書房)]]ではイラン革命の予言とされている。  2016年のアメリカ大統領選挙でドナルド・トランプが勝利すると、トランペットとトランプが符合するとして、移民の排斥などを大統領選で訴えたことと結びつける解釈が提示された。日本ではネットメディアのTOCANAがこれを紹介した(([[ノストラダムスが「トランプ大統領誕生」を完全予言していた! “恥知らずなトランペット”が核戦争勃発→世界滅亡は確定か!?>>http://tocana.jp/2016/11/post_11445.html]]))。 *同時代的な視点  [[ピエール・ブランダムール]]は前半と後半に分け、前半は狂気を装った不和が戦いのトランペットを鳴らし、政体と宗教が変わることを告げることの暗示とした。後半は、聖王ルイ9世の事績が投影されているとした((Brind’Amour [1996]))。  ルイ9世は十字軍遠征に参加してアイユーブ朝エジプトを攻めた際に、マンスーラの戦いで敗れて捕虜となり、多額の身代金を払って解放された。彼は解放されたあとも中東に残って防衛拠点の強化などを行い、帰国すると、遠征前にもまして清貧を志向した諸改革を行うことになる((佐藤賢一『カペー朝』講談社現代新書、pp.176-180))。  ルイ9世をモデルとする解釈は[[ピーター・ラメジャラー]]、[[ブリューノ・プテ=ジラール]]、[[リチャード・シーバース]]も支持した((Lemesurier [2003b/2010], Petey-Girard [2003], Sieburth [2012]))。  [[ロジェ・プレヴォ]]はミカエル8世パライオロゴスのときにコンスタンティノープルを奪還し、東ローマ帝国が再興したときに行われた諸改革がモデルと判断した((Prévost [1999] p.201))。 ---- ※記事へのお問い合わせ等がある場合、最上部のタブの「ツール」>「管理者に連絡」をご活用ください。
[[詩百篇第1巻]]>40番* *原文 La [[trombe]]&sup(){1} faulse&sup(){2} dissimulant&sup(){3} folie, Fera&sup(){4} Bisance&sup(){5} vn changement de loys: [[Hystra>issir]]&sup(){6} d'Egypte&sup(){7} qui veult&sup(){8} que l'on&sup(){9} deslie&sup(){10} Edict changeant&sup(){11} monnoyes&sup(){12} & aloys&sup(){13}. **異文 (1) trombe : trompe 1588-89 1607PR 1610Po 1612Me 1627Di 1627Ma 1644Hu 1650Ri 1653AB 1665Ba, tourbe 1672Ga (2) faulse : fauce 1588-89 1612Me, fause 1590Ro (3) dissimulant : dissimilant 1672Ga (4) Fera : Ferra 1627Di (5) Bisance : bisance 1588Rf 1589PV 1590SJ, bisence 1589Rg (6) Hystra : Istra 1588-89 1612Me 1672Ga (7) d'Egypte : d'Ægypt 1672Ga (8) veult : veus 1672Ga (9) l'on : lon 1590Ro 1591BR 1597Br 1606PR 1607PR 1610Po 1627Di (10) deslie : dessie 1606PR 1610Po 1627Di 1644Hu, deffie 1607PR 1627Ma 1650Ri 1653AB 1665Ba, d'effie 1716PR (11) changeant : changea nt 1611A, changant 1672Ga (12) monnoyes : monnoyees 1589PV, monnoye 1605sn 1611A 1611B 1628dR 1649Xa 1981EB, Monnoys 1672Ga (13) aloys : alloix 1589PV 1590SJ 1649Ca 1650Le 1667Wi 1668 *日本語訳 狂気を隠蔽する虚偽の[[喇叭>ラッパ]]が [[ビュザンティオン>イスタンブル]]に法制の変更をさせるだろう。 撤回されることを望む者がエジプトから出るだろう、 貨幣とその品位を変更する勅令について。 **訳について  後半を各行に対応させることにこだわらずに訳すと、「貨幣とその品位を変更する勅令が撤回されることを望む者がエジプトから出るだろう」となる。  既存の訳についてコメントしておく。  [[大乗訳>ノストラダムス大予言原典・諸世紀]]について。1行目「にせの一団がおのれの愚かさを隠しながら」((大乗 [1975] p.55。以下、この詩の引用は同じページから。))は、[[trombe]]が tourbe になっている底本の訳としては許容できるが、その異文に正当性は認められない。  2行目「コンスタンチノープルで法の交換をするだろう」は直訳としては不適切だが、前置詞を補った訳としては許容範囲内か。  3行目「人はエジプトを出て勅令を解くだろう」は、veut (~を望む)が訳に全く反映されていない。  4行目「旗と金貨をかえながら」は完全に誤訳。「旗」は、もとになったはずの[[ヘンリー・C・ロバーツ]]の英訳で standards となっていたので、転訳による誤訳と見るのが妥当だろう。本来の原語 aloi に「旗」の意味などない。    [[山根訳>ノストラダムス全予言 (二見書房)]]はおおむね問題ないが、4行目「彼は勅令の撤回 貨幣と金位の改正を要求するだろう」((山根 [1988] p.49))が微妙である。「変える」が現在分詞であることからすれば、「貨幣とその品位を変えること」は「勅令」に掛かっていると見るべきで、変えること(改正)と勅令の撤回を並列的に捉えるのは不適切。 *信奉者側の見解  [[テオフィル・ド・ガランシエール]]は前半と後半に分け、それぞれほとんどそのまま敷衍し、前半は狂気を装う騒々しい一団のせいでコンスタンティノープルで法が変更されることの予言で、後半はエジプトからきた数人のバサ (Bassa) が貨幣と金位を変更するために彼らを説き伏せることの予言とした((Garencieres [1672]))。  その後、20世紀半ばまでこの詩を解釈した者はいないようである。少なくとも、[[ジャック・ド・ジャン]]、[[バルタザール・ギノー]]、[[D.D.]]、[[テオドール・ブーイ]]、[[フランシス・ジロー]]、[[ウジェーヌ・バレスト]]、[[アナトール・ル・ペルチエ]]、[[チャールズ・ウォード]]、[[アンドレ・ラモン]]、[[ロルフ・ボズウェル]]、[[ジェイムズ・レイヴァー]]の著書には載っていない。  [[マックス・ド・フォンブリュヌ]]は、1999年を前に[[反キリスト]]が出現したころの出来事の一つと位置付けていた((Fontbrune (1938)[1939] p.269))。  [[ジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌ]]は1920年のセーヴル条約でオスマン帝国が解体され、エジプトも失ったこととした((Fontbrune (1980)[1982]p.221))。  [[エリカ・チータム]]は解釈が難しいとしていたが、[[その日本語版>ノストラダムス全予言 (二見書房)]]ではイラン革命の予言とされている。  2016年のアメリカ大統領選挙でドナルド・トランプが勝利すると、トランペットとトランプが符合するとして、移民の排斥などを大統領選で訴えたことと結びつける解釈が提示された。日本ではネットメディアのTOCANAがこれを紹介した(([[ノストラダムスが「トランプ大統領誕生」を完全予言していた! “恥知らずなトランペット”が核戦争勃発→世界滅亡は確定か!?>>http://tocana.jp/2016/11/post_11445.html]]))。 *同時代的な視点  [[ピエール・ブランダムール]]は前半と後半に分け、前半は狂気を装った不和が戦いのトランペットを鳴らし、政体と宗教が変わることを告げることの暗示とした。後半は、聖王ルイ9世の事績が投影されているとした((Brind’Amour [1996]))。  ルイ9世は十字軍遠征に参加してアイユーブ朝エジプトを攻めた際に、マンスーラの戦いで敗れて捕虜となり、多額の身代金を払って解放された。彼は解放されたあとも中東に残って防衛拠点の強化などを行い、帰国すると、遠征前にもまして清貧を志向した諸改革を行うことになる((佐藤賢一『カペー朝』講談社現代新書、pp.176-180))。  ルイ9世をモデルとする解釈は[[ピーター・ラメジャラー]]、[[ブリューノ・プテ=ジラール]]、[[リチャード・シーバース]]も支持した((Lemesurier [2003b/2010], Petey-Girard [2003], Sieburth [2012]))。 #amazon(4794805306) 【画像】ジャック・ル・ゴフ『聖王ルイ』  [[ロジェ・プレヴォ]]はミカエル8世パライオロゴスのときにコンスタンティノープルを奪還し、東ローマ帝国が再興したときに行われた諸改革がモデルと判断した((Prévost [1999] p.201))。 ---- ※記事へのお問い合わせ等がある場合、最上部のタブの「ツール」>「管理者に連絡」をご活用ください。

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