百詩篇第4巻11番

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[[百詩篇第4巻]]>11番 *原文 Celui qu’aura&sup(){1} gouuert&sup(){2} de la grand cappe&sup(){3} Sera&sup(){4} induict a&sup(){5} quelque&sup(){6} [[cas]] patrer : Les XII.&sup(){7} rouges viendront souiller&sup(){8} la nappe&sup(){9} Sous meurtre, meutre&sup(){10} se viendra perpetrer . **異文 (1) qu’aura : quavra 1672 (2) gouuert : couuert 1588Rf 1589Me 1589PV 1605 1611 1628 1649Ca 1649Xa 1650Le 1668 1672 1981EB, gouuer 1653 1665 (3) grand cappe : grand’cappe 1600, grand Cappe 1672 (4) Sera : sera [&italic(){sic.}] 1653 (5) a 1555 1557U 1588Rf 1627 1672 : à &italic(){T.A.Eds.} (6) quelque : quelques 1600 1610 1627 1650Ri 1716 (7) XII. 1555 : douze &italic(){T.A.Eds.} (&italic(){sauf} : donze 1627, XII 1840) (8) souiller : soiller 1557B, soüller 1600, soüiller 1597 1610 1627 1644 1650Ri 1653 1672 1716 1772Ri (9) nappe : nappa 1867LP (10) meurtre, meutre 1555 1627 1840 : meurtre, meurtre 1557U 1568 1597 1600 1605 1610 1611 1628 1644 1649Ca 1649Xa 1650Le 1650Ri 1653 1665 1668 1672 1716 1772Ri 1981EB, murtre, murtre 1557B 1589PV, meurtre 1588Rf 1589Me, meurtre, meuttre 1590Ro 1589Rg は比較せず **校訂  4行目の meurtre, meutre は meurtre, meurtre の誤りだろう。[[ピエール・ブランダムール]]の校訂版ではこの異文が抜け落ちている (つまり1555の時点で後者の通り書かれているようになっている)。[[ピーター・ラメジャラー]]は2003年の版で、meutre を meurtre に直している。 *日本語訳 大いなる袖無し外套の統治権を持つであろう者が、 何らかの罪を犯すように誘導されるだろう。 十二人の赤い者たちが敷布を汚すことになるだろう。 殺人の下で殺人が行われることになるだろう。 **訳について  1行目 gouvert は古語で 「舵、舵取り」(gouvernail)、「統治、支配」(gouvernement, empire)などの意味である((LAF, p.261))。cappe は聖職者用の袖無し外套のことで、ケープ、カッパなどとカタカナで表記されることもある。  2行目 [[cas]] を「犯罪」(crime) と読むのは[[ピエール・ブランダムール]]の釈義を踏まえたものである。[[ピーター・ラメジャラー]]、[[リチャード・シーバース]]らも crime を英訳で使用している。  4行目はブランダムールの釈義やラメジャラーらの英訳では前置詞が sous (下に) ではなく、sur / on (上に) と意訳されている。要するに 「殺人に殺人が重ねられる」 ということである。  既存の訳についてコメントしておく。  [[大乗訳>ノストラダムス大予言原典・諸世紀]]について。  1行目 「彼は大きなマントをかぶせられ」((大乗 [1975] p.126。以下、この詩の引用は同じページから。))は、aura couvert になっている版に基づいているせいもあるのだろうが、これは直説法前未来の表現であって受動態ではないので、どちらにしても誤訳である。  2行目 「よい行為をさせるように説くだろう」は誤訳。もとになったはずの[[ヘンリー・C・ロバーツ]]の some great act という訳も明らかにおかしいが、大乗訳はそれよりもさらに乖離している。  4行目 「殺害して 罪を犯すだろう」は、原文であえて meurtre が重出しているニュアンスがまったく反映されていない。  [[山根訳>ノストラダムス全予言 (二見書房)]]について。  2行目 「いくつかの事件を処理するように導かれる」((山根 [1988] p.150。以下、この詩の引用は同じページから。))は、[[cas]]の示す範囲が広い分、成立する読み方である。  4行目 「謀殺が 殺人が犯されよう」は、前半が微妙。冒頭の sous meurtre を「殺人の下で(に)」と訳さず、「(何かの)下で(行われる)殺人」と意訳した結果、「謀殺」 という訳が導かれたのだと思うが、そういう訳をしている論者はほかに見当たらない。山根訳のもとになった[[エリカ・チータム]]にしても、普通に under murder と英訳している。 *信奉者側の見解  [[テオフィル・ド・ガランシエール]]は、「十二人の赤き者」 が枢機卿を指している可能性を示しただけだった((Garencieres [1672]))。  その後、20世紀半ばまでこの詩を解釈した者はいないようである。少なくとも、[[ジャック・ド・ジャン]]、[[バルタザール・ギノー]]、[[D.D.]]、[[テオドール・ブーイ]]、[[フランシス・ジロー]]、[[ウジェーヌ・バレスト]]、[[アナトール・ル・ペルチエ]]、[[チャールズ・ウォード]]、[[アンドレ・ラモン]]、[[ロルフ・ボズウェル]]、[[ジェイムズ・レイヴァー]]の著書には載っていない。[[マックス・ド・フォンブリュヌ]]は一応未来の予言として解釈していたが、漠然としている((Fontbrune [1939] p.194))。  [[スチュワート・ロッブ]]はフランス革命に関する予言と解釈し、1行目の cappe はルイ16世が革命中に名乗らされた姓カペー (Capet) に通じ、「十二人の赤き者」 は12名から成った公安委員会の存在に対応するとした((Robb [1961] p.114))。この解釈は[[竹本忠雄]]らが踏襲した((竹本 [2011] p.434))。  [[ジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌ]]もほぼ同じ時期についてと解釈し、1793年5月にジロンド派が結成した十二人委員会が翌月に廃止されたことについてと解釈した((Fontbrune (1980)[1982]))。  [[セルジュ・ユタン]]もルイ16世の処刑と解釈した((Hutin [1978]))。  [[エリカ・チータム]]は1973年の時点ではローマ教皇の暗殺を予言したものではないかとするにとどまったが、のちには、1978年に即位し、まもなく急死したローマ教皇ヨハネ・パウロ1世の死についてと解釈した((Cheetham [1973], Cheetham [1990]))。 *同時代的な視点  [[ピエール・ブランダムール]]は、1行目の人物がローマ教皇を、「十二人の赤き者」が枢機卿であろうことは指摘したが、それ以上の対応についてはコメントしなかった (同様の指摘は[[エドガー・レオニ]]の著書にも見られた)。  [[ピーター・ラメジャラー]]は、1493年にローマ教皇アレクサンデル6世が、自らの私生児の一人チェーザレ・ボルジアを枢機卿に取り立て、重用したことがモデルとした((Lemesurier [2010]))。チェーザレはその後、弟フアンの死への関与を疑われるなど、血塗られた権謀術数を繰り広げた。 ---- &bold(){コメントらん} 以下のコメント欄は[[コメントの著作権および削除基準>著作権について]]を了解の上でご使用ください。なお、当「大事典」としては、以下に投稿されたコメントの信頼性などをなんら担保するものではありません (当「大事典」管理者である sumaru 自身によって投稿されたコメントを除く)。 - “十二人の赤い者たち”は12月の巨人(オリオン座)のベテルギウス。超新星爆発が混沌の始まりになるという意味。 -- れもん (2015-12-25 03:21:58) #comment
[[百詩篇第4巻]]>11番 *原文 Celui qu’aura&sup(){1} gouuert&sup(){2} de la grand cappe&sup(){3} Sera&sup(){4} induict a&sup(){5} quelque&sup(){6} [[cas]] patrer : Les XII.&sup(){7} rouges viendront souiller&sup(){8} la nappe&sup(){9} Sous meurtre, meutre&sup(){10} se viendra perpetrer . **異文 (1) qu’aura : quavra 1672 (2) gouuert : couuert 1588Rf 1589Me 1589PV 1605 1611 1628 1649Ca 1649Xa 1650Le 1668 1672 1981EB, gouuer 1653 1665 (3) grand cappe : grand’cappe 1600, grand Cappe 1672 (4) Sera : sera [&italic(){sic.}] 1653 (5) a 1555 1557U 1588Rf 1627 1672 : à &italic(){T.A.Eds.} (6) quelque : quelques 1600 1610 1627 1650Ri 1716 (7) XII. 1555 : douze &italic(){T.A.Eds.} (&italic(){sauf} : donze 1627, XII 1840) (8) souiller : soiller 1557B, soüller 1600, soüiller 1597 1610 1627 1644 1650Ri 1653 1672 1716 1772Ri (9) nappe : nappa 1867LP (10) meurtre, meutre 1555 1627 1840 : meurtre, meurtre 1557U 1568 1597 1600 1605 1610 1611 1628 1644 1649Ca 1649Xa 1650Le 1650Ri 1653 1665 1668 1672 1716 1772Ri 1981EB, murtre, murtre 1557B 1589PV, meurtre 1588Rf 1589Me, meurtre, meuttre 1590Ro 1589Rg は比較せず **校訂  4行目の meurtre, meutre は meurtre, meurtre の誤りだろう。[[ピエール・ブランダムール]]の校訂版ではこの異文が抜け落ちている (つまり1555の時点で後者の通り書かれているようになっている)。[[ピーター・ラメジャラー]]は2003年の版で、meutre を meurtre に直している。 *日本語訳 大いなる袖無し外套の統治権を持つであろう者が、 何らかの罪を犯すように誘導されるだろう。 十二人の赤い者たちが敷布を汚すことになるだろう。 殺人の下で殺人が行われることになるだろう。 **訳について  1行目 gouvert は古語で 「舵、舵取り」(gouvernail)、「統治、支配」(gouvernement, empire)などの意味である((LAF, p.261))。cappe は聖職者用の袖無し外套のことで、ケープ、カッパなどとカタカナで表記されることもある。  2行目 [[cas]] を「犯罪」(crime) と読むのは[[ピエール・ブランダムール]]の釈義を踏まえたものである。[[ピーター・ラメジャラー]]、[[リチャード・シーバース]]らも crime を英訳で使用している。  4行目はブランダムールの釈義やラメジャラーらの英訳では前置詞が sous (下に) ではなく、sur / on (上に) と意訳されている。要するに 「殺人に殺人が重ねられる」 ということである。  既存の訳についてコメントしておく。  [[大乗訳>ノストラダムス大予言原典・諸世紀]]について。  1行目 「彼は大きなマントをかぶせられ」((大乗 [1975] p.126。以下、この詩の引用は同じページから。))は、aura couvert になっている版に基づいているせいもあるのだろうが、これは直説法前未来の表現であって受動態ではないので、どちらにしても誤訳である。  2行目 「よい行為をさせるように説くだろう」は誤訳。もとになったはずの[[ヘンリー・C・ロバーツ]]の some great act という訳も明らかにおかしいが、大乗訳はそれよりもさらに乖離している。  4行目 「殺害して 罪を犯すだろう」は、原文であえて meurtre が重出しているニュアンスがまったく反映されていない。  [[山根訳>ノストラダムス全予言 (二見書房)]]について。  2行目 「いくつかの事件を処理するように導かれる」((山根 [1988] p.150。以下、この詩の引用は同じページから。))は、[[cas]]の示す範囲が広い分、成立する読み方である。  4行目 「謀殺が 殺人が犯されよう」は、前半が微妙。冒頭の sous meurtre を「殺人の下で(に)」と訳さず、「(何かの)下で(行われる)殺人」と意訳した結果、「謀殺」 という訳が導かれたのだと思うが、そういう訳をしている論者はほかに見当たらない。山根訳のもとになった[[エリカ・チータム]]にしても、普通に under murder と英訳している。 *信奉者側の見解  [[テオフィル・ド・ガランシエール]]は、「十二人の赤き者」 が枢機卿を指している可能性を示しただけだった((Garencieres [1672]))。  その後、20世紀半ばまでこの詩を解釈した者はいないようである。少なくとも、[[ジャック・ド・ジャン]]、[[バルタザール・ギノー]]、[[D.D.]]、[[テオドール・ブーイ]]、[[フランシス・ジロー]]、[[ウジェーヌ・バレスト]]、[[アナトール・ル・ペルチエ]]、[[チャールズ・ウォード]]、[[アンドレ・ラモン]]、[[ロルフ・ボズウェル]]、[[ジェイムズ・レイヴァー]]の著書には載っていない。[[マックス・ド・フォンブリュヌ]]は一応未来の予言として解釈していたが、漠然としている((Fontbrune [1939] p.194))。  [[スチュワート・ロッブ]]はフランス革命に関する予言と解釈し、1行目の cappe はルイ16世が革命中に名乗らされた姓カペー (Capet) に通じ、「十二人の赤き者」 は12名から成った公安委員会の存在に対応するとした((Robb [1961] p.114))。この解釈は[[竹本忠雄]]らが踏襲した((竹本 [2011] p.434))。  [[ジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌ]]もほぼ同じ時期についてと解釈し、1793年5月にジロンド派が結成した十二人委員会が翌月に廃止されたことについてと解釈した((Fontbrune (1980)[1982]))。  [[セルジュ・ユタン]]もルイ16世の処刑と解釈した((Hutin [1978]))。  [[エリカ・チータム]]は1973年の時点ではローマ教皇の暗殺を予言したものではないかとするにとどまったが、のちには、1978年に即位し、まもなく急死したローマ教皇ヨハネ・パウロ1世の死についてと解釈した((Cheetham [1973], Cheetham [1990]))。 *同時代的な視点  [[ピエール・ブランダムール]]は、1行目の人物がローマ教皇を、「十二人の赤き者」が枢機卿であろうことは指摘したが、それ以上の対応についてはコメントしなかった (同様の指摘は[[エドガー・レオニ]]の著書にも見られた)。  [[ピーター・ラメジャラー]]は、1493年にローマ教皇アレクサンデル6世が、自らの私生児の一人チェーザレ・ボルジアを枢機卿に取り立て、重用したことがモデルとした((Lemesurier [2010]))。チェーザレはその後、弟フアンの死への関与を疑われるなど、血塗られた権謀術数を繰り広げた。 ---- ※記事へのお問い合わせ等がある場合、最上部のタブの「ツール」>「管理者に連絡」をご活用ください。 ---- &bold(){コメントらん} 以下に投稿されたコメントは&u(){書き込んだ方々の個人的見解であり}、当「大事典」としては、その信頼性などをなんら担保するものではありません。  なお、現在、コメント書き込みフォームは撤去していますので、新規の書き込みはできません。 - “十二人の赤い者たち”は12月の巨人(オリオン座)のベテルギウス。超新星爆発が混沌の始まりになるという意味。 -- れもん (2015-12-25 03:21:58)

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