百詩篇第6巻80番

「百詩篇第6巻80番」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

百詩篇第6巻80番」(2014/09/15 (月) 21:52:25) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

[[百詩篇第6巻]]>80番 *原文 De Fez&sup(){1} le [[regne]]&sup(){2} paruiendra&sup(){3} à ceulx d’Europe, Feu leur cité&sup(){4}, & lame&sup(){5} trenchera: Le grand d’Asie terre & mer&sup(){6} à grand troupe&sup(){7}, Que bleux&sup(){8}, pers&sup(){9}, croix&sup(){10}, à mort deschaslera&sup(){11}. **異文 (1) Fez : fez 1653 (2) regne : Regne 1672 (3) paruiendra : p_uiendra 1557B (4) Cité : citez 1653 1665, Cité 1672 (5) lame : l’ame 1557B 1589PV 1590Ro 1597 1981EB 1611B 1840, l’anne 1600 1610 1644 1650Ri 1716, l’annee 1627 1630Ma, lamc 1665, Lame 1672 (6) terre & mer : Terre & Mer 1672 (7) troupe : trope 1557B (8) Que bleux : Quebleux 1649Ca (9) pers : peres 1600 1610 1627 1630Ma 1644 1650Le 1650Ri 1668 1716 1840, pars 1672 (10) croix : Croix 1672 (11) deschaslera 1557U : deschassera 1557B 1589PV, de chassera 1611A, dechassera &italic(){T.A.Eds.} (注記)1557Bの一行目の異文p_uiendraの下線は、pの下部についている波線の代用 **校訂  4行目 deschaslera は明らかに [[deschassera>deschasser]] の誤植。 *日本語訳 [[フェズ]]の王国がヨーロッパの諸王国へと到達するだろう。 彼らの都市に火、そして刃が断ち切るだろう。 アジアの貴人が海と陸とで大軍を。 それで紺青の者たちが十字架を死へと追いやるだろう。 **訳について  とくに難しい表現はない。4行目 「紺青の者たち」の原語は bleux, pers で 「青の者たち、紺の者たち」と別々に解釈することは可能だが、[[ピーター・ラメジャラー]]がまとめて blue-green、[[リチャード・シーバース]]がやはりまとめて blue turbans と英訳しているため((Lemesurier [2010], Sieburth [2012]))、ここでもひとまとめにした。  なお、その場合、動詞 deschassera は deschasseront となっているべきだが、直前の目的語に引き摺られて変形することがありうる点は、(この詩に限らず)[[ピエール・ブランダムール]]や[[ブリューノ・プテ=ジラール]]も認めている。  動詞の活用に忠実であろうとすれば「十字架が紺青の者たちを死に追いやるだろう」とも訳せるが、ラメジャラー、シーバース、[[ジャン=ポール・クレベール]]らはいずれもそのようには訳していない。  既存の訳についてコメントしておく。  [[大乗訳>ノストラダムス大予言原典・諸世紀]]の3行目までについては、細かい点に疑問もあるが、そうも訳せるという範囲で許容されるだろう。  4行目 「青 みどり 死への十字架 彼は追われるだろう」((大乗 [1975] p.195))は、かなり疑問。文脈上、deschassera の主語が省略されていると見るのは可能で、彼女が元にした[[ヘンリー・C・ロバーツ]]の英訳 (さらに遡れば[[テオフィル・ド・ガランシエール]]の英訳) で he が補われているのは理解ができる((Garencieres [1672], Roberts (1947)[1949]))。しかし、彼らは he shall drive と普通に能動態で訳しており、大乗訳で受動態になってしまった理由が全く分からない。  [[山根訳>ノストラダムス全予言 (二見書房)]]についても、おおむね許容範囲内と思われる。 *信奉者側の見解  [[テオフィル・ド・ガランシエール]](1672年)は、アジアの貴人 (大物) をトルコ (オスマン帝国) と解釈した上で、ほとんどそのまま敷衍するような解釈をつけた((Garencieres [1672]))。  その後、20世紀に入るまでこの詩を解釈した者はいないようである。少なくとも、[[ジャック・ド・ジャン]]、[[バルタザール・ギノー]]、[[D.D.]]、[[テオドール・ブーイ]]、[[フランシス・ジロー]]、[[ウジェーヌ・バレスト]]、[[アナトール・ル・ペルチエ]]、[[チャールズ・ウォード]]の著書には載っていない。  [[ヘンリー・C・ロバーツ]](1947年)はスペイン内戦の予言と解釈した((Roberts (1947)[1949]))。  [[セルジュ・ユタン]]は、イスラーム勢力に対する毛沢東の支援と解釈していたが、後に補訂した[[ボードワン・ボンセルジャン]]は、それに加えてモロッコ独立(1956年)も織り込まれているとした((Hutin [1978], Hutin (2002)[2003]))。  [[マックス・ド・フォンブリュヌ]](1938年)、[[ロルフ・ボズウェル]](1943年)、[[アンドレ・ラモン]](1943年)、[[ジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌ]](1980年)、[[流智明]](1988年)らは、未来に起こるイスラーム勢力のヨーロッパ侵攻と解釈した((Fontbrune (1938)[1939] p.272, Boswell [1943] p.324, Lamont [1943] p.340, Fontbrune (1980)[1982], チータム [1988]))。[[ジョン・ホーグ]]は中国とイスラーム勢力の連合軍が欧米と対峙する戦争が、1999年から2020年まで繰り広げられると解釈していた((Hogue (1997)[1999]))。 *同時代的な視点  [[ピーター・ラメジャラー]]は『[[ミラビリス・リベル]]』に描かれたイスラーム勢力によるヨーロッパ侵攻の予言がモデルになっていると判断した((Lemesurier [2003b], Lemesurier [2010]))。  『ミラビリス・リベル』の第1章をなす[[偽メトディウス]]が最初にヨーロッパで流行したのは7世紀末から8世紀初頭であり、トゥール・ポワチエ間の戦い (732年) で食い止めるまで、イスラーム勢力のヨーロッパ侵攻が現実的脅威として存在していた時期であった。また、ラメジャラーも指摘するように、16世紀にはオスマン帝国が勢力を伸ばし、西欧諸国を脅かしていた。  こうした歴史的文脈を踏まえて読む限りでは、やはり未来よりも過去に重点を置いて読む方が妥当であるように思われる。 ---- #comment
[[百詩篇第6巻]]>80番 *原文 De Fez&sup(){1} le [[regne]]&sup(){2} paruiendra&sup(){3} à ceulx d’Europe, Feu leur cité&sup(){4}, & lame&sup(){5} trenchera: Le grand d’Asie terre & mer&sup(){6} à grand troupe&sup(){7}, Que bleux&sup(){8}, pers&sup(){9}, croix&sup(){10}, à mort deschaslera&sup(){11}. **異文 (1) Fez : fez 1653 (2) regne : Regne 1672 (3) paruiendra : p_uiendra 1557B (4) Cité : citez 1653 1665, Cité 1672 (5) lame : l’ame 1557B 1589PV 1590Ro 1597 1981EB 1611B 1840, l’anne 1600 1610 1644 1650Ri 1716, l’annee 1627 1630Ma, lamc 1665, Lame 1672 (6) terre & mer : Terre & Mer 1672 (7) troupe : trope 1557B (8) Que bleux : Quebleux 1649Ca (9) pers : peres 1600 1610 1627 1630Ma 1644 1650Le 1650Ri 1668 1716 1840, pars 1672 (10) croix : Croix 1672 (11) deschaslera 1557U : deschassera 1557B 1589PV, de chassera 1611A, dechassera &italic(){T.A.Eds.} (注記)1557Bの一行目の異文p_uiendraの下線は、pの下部についている波線の代用 **校訂  4行目 deschaslera は明らかに [[deschassera>deschasser]] の誤植。 *日本語訳 [[フェズ]]の王国がヨーロッパの諸王国へと到達するだろう。 彼らの都市に火、そして刃が断ち切るだろう。 アジアの貴人が海と陸とで大軍を。 それで紺青の者たちが十字架を死へと追いやるだろう。 **訳について  とくに難しい表現はない。4行目 「紺青の者たち」の原語は bleux, pers で 「青の者たち、紺の者たち」と別々に解釈することは可能だが、[[ピーター・ラメジャラー]]がまとめて blue-green、[[リチャード・シーバース]]がやはりまとめて blue turbans と英訳しているため((Lemesurier [2010], Sieburth [2012]))、ここでもひとまとめにした。  なお、その場合、動詞 deschassera は deschasseront となっているべきだが、直前の目的語に引き摺られて変形することがありうる点は、(この詩に限らず)[[ピエール・ブランダムール]]や[[ブリューノ・プテ=ジラール]]も認めている。  動詞の活用に忠実であろうとすれば「十字架が紺青の者たちを死に追いやるだろう」とも訳せるが、ラメジャラー、シーバース、[[ジャン=ポール・クレベール]]らはいずれもそのようには訳していない。  既存の訳についてコメントしておく。  [[大乗訳>ノストラダムス大予言原典・諸世紀]]の3行目までについては、細かい点に疑問もあるが、そうも訳せるという範囲で許容されるだろう。  4行目 「青 みどり 死への十字架 彼は追われるだろう」((大乗 [1975] p.195))は、かなり疑問。文脈上、deschassera の主語が省略されていると見るのは可能で、彼女が元にした[[ヘンリー・C・ロバーツ]]の英訳 (さらに遡れば[[テオフィル・ド・ガランシエール]]の英訳) で he が補われているのは理解ができる((Garencieres [1672], Roberts (1947)[1949]))。しかし、彼らは he shall drive と普通に能動態で訳しており、大乗訳で受動態になってしまった理由が全く分からない。  [[山根訳>ノストラダムス全予言 (二見書房)]]についても、おおむね許容範囲内と思われる。 *信奉者側の見解  [[テオフィル・ド・ガランシエール]](1672年)は、アジアの貴人 (大物) をトルコ (オスマン帝国) と解釈した上で、ほとんどそのまま敷衍するような解釈をつけた((Garencieres [1672]))。  その後、20世紀に入るまでこの詩を解釈した者はいないようである。少なくとも、[[ジャック・ド・ジャン]]、[[バルタザール・ギノー]]、[[D.D.]]、[[テオドール・ブーイ]]、[[フランシス・ジロー]]、[[ウジェーヌ・バレスト]]、[[アナトール・ル・ペルチエ]]、[[チャールズ・ウォード]]の著書には載っていない。  [[ヘンリー・C・ロバーツ]](1947年)はスペイン内戦の予言と解釈した((Roberts (1947)[1949]))。  [[セルジュ・ユタン]]は、イスラーム勢力に対する毛沢東の支援と解釈していたが、後に補訂した[[ボードワン・ボンセルジャン]]は、それに加えてモロッコ独立(1956年)も織り込まれているとした((Hutin [1978], Hutin (2002)[2003]))。  [[マックス・ド・フォンブリュヌ]](1938年)、[[ロルフ・ボズウェル]](1943年)、[[アンドレ・ラモン]](1943年)、[[ジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌ]](1980年)、[[流智明]](1988年)らは、未来に起こるイスラーム勢力のヨーロッパ侵攻と解釈した((Fontbrune (1938)[1939] p.272, Boswell [1943] p.324, Lamont [1943] p.340, Fontbrune (1980)[1982], チータム [1988]))。[[ジョン・ホーグ]]は中国とイスラーム勢力の連合軍が欧米と対峙する戦争が、1999年から2020年まで繰り広げられると解釈していた((Hogue (1997)[1999]))。 *同時代的な視点  [[ピーター・ラメジャラー]]は『[[ミラビリス・リベル]]』に描かれたイスラーム勢力によるヨーロッパ侵攻の予言がモデルになっていると判断した((Lemesurier [2003b], Lemesurier [2010]))。  『ミラビリス・リベル』の第1章をなす[[偽メトディウス]]が最初にヨーロッパで流行したのは7世紀末から8世紀初頭であり、トゥール・ポワチエ間の戦い (732年) で食い止めるまで、イスラーム勢力のヨーロッパ侵攻が現実的脅威として存在していた時期であった。また、ラメジャラーも指摘するように、16世紀にはオスマン帝国が勢力を伸ばし、西欧諸国を脅かしていた。  こうした歴史的文脈を踏まえて読む限りでは、やはり未来よりも過去に重点を置いて読む方が妥当であるように思われる。 ---- ※記事へのお問い合わせ等がある場合、最上部のタブの「ツール」>「管理者に連絡」をご活用ください。

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: