詩百篇第9巻84番

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[[百詩篇第9巻]]>84番 *原文 Roy exposé&sup(){1} parfaira&sup(){2} L'hecatombe&sup(){3}, Apres auoir trouué&sup(){4} son origine&sup(){5}, Torrent&sup(){6} ouurir&sup(){7} de marbre&sup(){8} & plomb&sup(){9} la tombe&sup(){10} D’vn&sup(){11} grand Romain d’enseigne&sup(){12} Medusine&sup(){13}. **異文 (1) exposé : expose 1590Ro (2) parfaira : parfera 1590Ro 1600 1610 1627 1630Ma 1644 1650Ri 1653 1665 1840 (3) L’hecatombe 1568B : l’hecatombe &italic(){T.A.Eds.} (&italic(){sauf} : Lhe catombe 1568A 1590Ro, l’Hecatombe 1672) (4) trouué : treuué 1627 1630Ma (5) origine : Origine 1672 (6) Torrent : Toran 1572Cr, Corrent 1653 1665 (7) ouurir : ouury 1572Cr (8) marbre : Marbre 1672 (9) plomb : Plomb 1672 (10) tombe : tumbe 1627 1630Ma, Tombe 1672 (11) D’vn : d’un [sic.] 1772Ri (12) d’enseigne : d’Enseigne 1672 (13) Medusine : mis en confusion 1572Cr #co(){1591BR比較済み} *日本語訳 さらされた王が[[ヘカトンベ]]を完成するだろう、 その原点を発見したあとで。 奔流が大理石と鉛の墓を開く、 [[メドゥーサ]]の印を持つ偉大なローマ人の(墓を)。 **訳について  2行目の origine は王の出自とも、ヘカトンベの起源とも解釈しうる。なお、origine は女性名詞だが母音で始まるので、所有形容詞に son を取ることは自然である。  4行目 Medusine はこの詩のみに登場する語。現代語にないのは勿論、古語辞典にも見当たらない。しかし、Méduse ([[メドゥーサ]]) の派生語であろうという点にはほとんど異論がない((Le Pelletier [1867b], Rose [2002c], Lemesurier [2010], Sieburth [2012]))。[[エドガー・レオニ]]は「メドゥーサの」を意味するラテン語 Medusaeus からではないかとした。なお、[[ジャン=ポール・クレベール]]によると、ノストラダムスと同時代の詩人ロンサールも Medusin という語を使っていたという((Clébert [2003]))。ノストラダムスが使った Medusine はその女性形と見なすことができるだろう。  既存の訳についてコメントしておく。  [[大乗訳>ノストラダムス大予言原典・諸世紀]]について。  1行目「あばかれた王は多くのいけにえに満たされ」((大乗 [1975] p.279。以下、この詩の引用は同じページから。))は、不適切。[[ヘカトンベ]]を「多くのいけにえ」と意訳することがまず微妙だし、[[ヘンリー・C・ロバーツ]]の英訳で fulfill が使われているのは、それで満たすということでないはずである。  2行目「彼の子孫をみつけた後に」は誤訳。上で述べたように、「先祖」の誤りだろう。これはロバーツも offsping と訳していたので、誤訳を引き継いでしまった形である。  3行目「急流は大理石と鉛でできた像を開き」は転訳による誤訳。ロバーツはきちんと sepulchre (墓所) を使っているが、sculpture (彫像) とでも見間違えたか。  4行目「ローマ人にメドジアのもくろみを」も転訳による誤訳だろう。「もくろみ」はロバーツの design を訳したものだが、原文の enseigne に「もくろみ」などという意味はない。なお、「メドジア」について、大乗訳ではきちんと見た者を石にするギリシア神話の姉妹と注記されているが、普通は「メドゥーサ」「メデューサ」などと表記するだろう。  [[山根訳>ノストラダムス全予言 (二見書房)]]は、2行目の扱いに若干の疑問もあるが、おおむね許容範囲内であろうと思われる。 *信奉者側の見解  [[テオフィル・ド・ガランシエール]]は前半と後半で別の事柄を描写しているとして、前半は何らかの葬礼を執り行う王について、後半は洪水によって出土する古代ローマ人の墓所についてと解釈した((Garencieres [1672]))。  その後、20世紀に入るまでこの詩を解釈した者はいないようである。少なくとも、[[ジャック・ド・ジャン]]、[[バルタザール・ギノー]]、[[D.D.]]、[[テオドール・ブーイ]]、[[フランシス・ジロー]]、[[ウジェーヌ・バレスト]]、[[アナトール・ル・ペルチエ]]、[[チャールズ・ウォード]]、[[アンドレ・ラモン]]、[[ジェイムズ・レイヴァー]]の著書には載っていない。  [[マックス・ド・フォンブリュヌ]](1938年)は Medusine を DEUS IN ME (神は我の内に) の[[アナグラム]]とした上で、未来の教皇に関する予言と解釈した((Fontbrune (1938)[1939] p.200))。  [[ロルフ・ボズウェル]](1943年)は未来のフランス王の予言と解釈した。なお、彼はMedusine を Melusine (メリュジーヌ。中世の伝説に登場する半人半蛇の美女) と書き換えた((Boswell [1943] p.280))。  未来の大君主に関する予言とするのは[[セルジュ・ユタン]]も同じであった((Hutin [1978], Hutin (2002)[2003]))。  [[エリカ・チータム]]は DEUS IN ME とアナグラムする解釈を踏襲し、かつて発見された聖ペテロの墓は別の初期教皇の墓であって、将来に洪水によって真の墓が発見される予言と解釈した((Cheetham [1973], Cheetham (1989)[1990]))。 *同時代的な視点  [[エヴリット・ブライラー]]は Roy exposé を 「国王の花嫁」(Roy esposée/épousée)、medusine を Medici と読み替えることで、カトリーヌ・ド・メディシスをモデルにした詩で、彼女がローマにつながる由緒ある血統であると示すとともに、メドゥーサを連想させる綴りで皮肉を込めたと解釈した((LeVert [1979]))。  [[ピーター・ラメジャラー]]は大洪水によって出土する考古学的発見に関する詩とした((Lemesurier [2003b], Lemesurier [2010]))。  ノストラダムスは洪水による考古学的発見と思われる詩を他にも書いており([[百詩篇第8巻29番]]、[[百詩篇第9巻9番]]など)、可能性は認められるべきだろう。  なお、古代に魔除けと考えられていたメドゥーサの首が墓に描かれていたとしても、それ自体は特段おかしなことではないものと思われる。 ---- #comment
[[詩百篇第9巻]]>84番* *原文 Roy exposé&sup(){1} parfaira&sup(){2} L'hecatombe&sup(){3}, Apres auoir trouué&sup(){4} son origine&sup(){5}, Torrent&sup(){6} ouurir&sup(){7} de marbre&sup(){8} & plomb&sup(){9} la tombe&sup(){10} D’vn&sup(){11} grand Romain d’enseigne&sup(){12} Medusine&sup(){13}. **異文 (1) exposé : expose 1590Ro 1603Mo (2) parfaira : parfera 1590Ro 1606PR 1607PR 1610Po 1627Ma 1627Di 1644Hu 1650Ri 1653AB 1665Ba 1667Wi 1720To 1840 (3) L’hecatombe 1568A : l’hecatombe &italic(){T.A.Eds.} (&italic(){sauf} : Lhe catombe 1568X 1590Ro, l’Hecatombe 1672Ga) (4) trouué : treuué 1627Ma 1627Di (5) origine : Origine 1672Ga (6) Torrent : Toran 1572Cr, Corrent 1653AB 1665Ba (7) ouurir : ouury 1572Cr (8) marbre : Marbre 1672Ga (9) plomb : Plomb 1672Ga (10) tombe : tumbe 1627Ma 1627Di, Tombe 1672Ga (11) D’vn : d’un [sic.] 1772Ri (12) d’enseigne : d’Enseigne 1672Ga (13) Medusine : mis en confusion 1572Cr *日本語訳 さらされた王が[[ヘカトンベ]]を完成するだろう、 その原点を発見したあとで。 奔流が大理石と鉛の墓を開く、 [[メドゥーサ]]の印を持つ偉大なローマ人の(墓を)。 **訳について  2行目の origine は王の出自とも、ヘカトンベの起源とも解釈しうる。  なお、origine は女性名詞だが母音で始まるので、所有形容詞に son を取ることは自然である。  4行目 Medusine はこの詩のみに登場する語。現代語にないのは勿論、古語辞典にも見当たらない。  しかし、Méduse ([[メドゥーサ]]) の派生語であろうという点にはほとんど異論がない((Le Pelletier [1867b], Rose [2002c], Lemesurier [2010], Sieburth [2012]))。[[エドガー・レオニ]]は「メドゥーサの」を意味するラテン語 Medusaeus からではないかとした。  なお、[[ジャン=ポール・クレベール]]によると、ノストラダムスと同時代の詩人ロンサールも Medusin という語を使っていたという((Clébert [2003]))。ノストラダムスが使った Medusine はその女性形と見なすことができるだろう。  既存の訳についてコメントしておく。  [[大乗訳>ノストラダムス大予言原典・諸世紀]]について。  1行目「あばかれた王は多くのいけにえに満たされ」((大乗 [1975] p.279。以下、この詩の引用は同じページから。))は、不適切。[[ヘカトンベ]]を「多くのいけにえ」と意訳することがまず微妙だし、[[ヘンリー・C・ロバーツ]]の英訳で fulfill が使われているのは、それで満たすということでないはずである。  2行目「彼の子孫をみつけた後に」は誤訳。上で述べたように、「先祖」の誤りだろう。これはロバーツも offsping と訳していたので、誤訳を引き継いでしまった形である。  3行目「急流は大理石と鉛でできた像を開き」は転訳による誤訳。ロバーツはきちんと sepulchre (墓所) を使っているが、sculpture (彫像) とでも見間違えたか。  4行目「ローマ人にメドジアのもくろみを」も転訳による誤訳だろう。「もくろみ」はロバーツの design を訳したものだが、原文の enseigne に「もくろみ」などという意味はない。  なお、「メドジア」について、大乗訳ではきちんと見た者を石にするギリシア神話の姉妹と注記されている。しかし、それなら、普通は「メドゥーサ」「メデューサ」などと表記するだろう。  [[山根訳>ノストラダムス全予言 (二見書房)]]は、2行目の扱いに若干の疑問もあるが、おおむね許容範囲内であろうと思われる。 *信奉者側の見解  [[テオフィル・ド・ガランシエール]](1672年)は前半と後半で別の事柄を描写しているとして、前半は何らかの葬礼を執り行う王について、後半は洪水によって出土する古代ローマ人の墓所についてと解釈した((Garencieres [1672]))。  その後、20世紀に入るまでこの詩を解釈した者はいないようである。少なくとも、[[ジャック・ド・ジャン]]、[[バルタザール・ギノー]]、[[D.D.]]、[[テオドール・ブーイ]]、[[フランシス・ジロー]]、[[ウジェーヌ・バレスト]]、[[アナトール・ル・ペルチエ]]、[[チャールズ・ウォード]]、[[アンドレ・ラモン]]、[[ジェイムズ・レイヴァー]]の著書には載っていない。  [[マックス・ド・フォンブリュヌ]](1938年)は Medusine を DEUS IN ME (神は我の内に) の[[アナグラム]]とした上で、未来の教皇に関する予言と解釈した((Fontbrune (1938)[1939] p.200))。  [[ロルフ・ボズウェル]](1943年)は未来のフランス王の予言と解釈した。なお、彼はMedusine を Melusine (メリュジーヌ。中世の伝説に登場する半人半蛇の美女)と書き換えた((Boswell [1943] p.280))。  未来の大君主に関する予言とするのは[[セルジュ・ユタン]]も同じであった((Hutin [1978], Hutin (2002)[2003]))。  [[エリカ・チータム]]は DEUS IN ME とアナグラムする解釈を踏襲し、かつて発見された聖ペテロの墓は別の初期教皇の墓であって、将来に洪水によって真の墓が発見される予言と解釈した((Cheetham [1973], Cheetham (1989)[1990]))。 #amazon(4062920298) 【画像】 『西洋中世奇譚集成 妖精メリュジーヌ物語』(講談社学術文庫) *同時代的な視点  [[エヴリット・ブライラー]]は Roy exposé を 「国王の花嫁」(Roy esposée/épousée)、medusine を Medici と読み替えることで、カトリーヌ・ド・メディシスをモデルにした詩と見なした。  彼女がローマにつながる由緒ある血統であると示すとともに、メドゥーサを連想させる綴りで皮肉を込めたと解釈したのである((LeVert [1979]))。  [[ピーター・ラメジャラー]]は大洪水によって出土する考古学的発見に関する詩とした((Lemesurier [2003b], Lemesurier [2010]))。  ノストラダムスは洪水による考古学的発見と思われる詩を他にも書いており([[第8巻29番>百詩篇第8巻29番]]、[[第9巻9番>詩百篇第9巻9番]]など)、可能性は認められるべきだろう。  なお、メドゥーサの首は、古代に魔除けと考えられていた(現在でも市章などに使い続けている事例がある)。  だから、それが古代の墓に描かれていたとしても、それ自体は特段おかしなことではないだろう。 ---- ※記事へのお問い合わせ等がある場合、最上部のタブの「ツール」>「管理者に連絡」をご活用ください。

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