詩百篇第8巻15番

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[[百詩篇第8巻]]>15番 *原文 Vers Aquilon grands [[efforts>effort]] par hommasse Presque l'Europe & l'vniuers&sup(){1} vexer, Les deux eclypses&sup(){2} mettra en telle chasse&sup(){3}, Et aux [[Pannons>Pannon]]&sup(){4} vie & mort renforcer. **異文 (1) & l’vniuers : & l’Vniuers 1597 1603Mo 1610 1627 1630Ma 1644 1650Ri 1665 1716 1772Ri 1840, l’Univers 1672 (2) eclypses : eclyses 1611A, Eclipses 1672 (3) chasse : chassé 1672 (4) Pannons : Pannon 1597 1600 1603Mo 1610 1627 1630Ma 1650Ri 1716 **校訂  [[ジャン=ポール・クレベール]]は3行目の eclipses (蝕) は eclyses の誤記の可能性があると見た。ノストラダムスと同時代のフランソワ・ラブレーが教会 (église) を ecclise と綴っていたことを参考にしたもので、「教会」 の意味だという((Clébert [2003]))。  [[ピーター・ラメジャラー]]は2003年の時点では特にそのように校訂していなかったが、2010年には蝕を第一義としつつも、カッコ内に教会を併記した((Lemesurier [2003b], Lemesurier [2010]))。 *日本語訳 [[アクィロ]]周辺での男勝りな女性による大いなる努力が ヨーロッパと世界のほとんどを苦しめる。 二つの蝕(の時に)、(彼女は)そのように追い立てるだろう。 そして[[パンノニア]]人たちには生と死を強化する。 **訳について  1行目 hommasse の辞書どおりの訳は「男っぽい女」「男性的な女性」。[[effort]]は意味の幅が広い。ここではとりあえず 「努力」 と訳したが、ほかの訳もありうる。  3行目は 「二つの蝕の時に」 と解釈している[[ピエール・ブランダムール]]の読みを参考にしたが、二つの蝕を目的語と解釈することも可能である (主語と解することはできない。後述を参照)。実際、[[ピーター・ラメジャラー]]や[[リチャード・シーバース]]はそのように読んでいる。しかし、その場合は eclyses とする校訂を受け入れ、「(彼女は)二つの教会をそのように追い立てるだろう」 と読む方が、適しているようにも思われる。  なお、mettre en chasse は中期フランス語で poursuivre (追跡する) を意味する成句((DMF))。ただし、クレベールは16世紀には mettre en fuite (追い散らす、潰走させる) の意味だったとしている。  既存の訳についてコメントしておく。  [[大乗訳>ノストラダムス大予言原典・諸世紀]]について。  3行目 「二つの失墜が飛びだし」((大乗 [1975] p.234。以下、この詩の引用は同じページから。))は誤訳。eclipse (蝕) には確かに不振や失墜の意味もあるが、動詞の活用形 (三人称単数) からして deux eclipses を主語にとることはできない。  4行目「そして生と死がパノンで増大するだろう」は、4行目だけ切り離して意訳すれば成立する。renforcer は不定形なので、活用形から主語を判断することができない。当「大事典」は、[[ピーター・ラメジャラー]]、[[ジャン=ポール・クレベール]]、[[リチャード・シーバース]]らが、男勝りな女性を実質的な主語にとっていることを踏まえた。  [[山根訳>ノストラダムス全予言 (二見書房)]]について。  2行目 「ヨーロッパと宇宙全体を苦しめるための」((山根 [1988] p.257。以下、この詩の引用は同じページから。))は可能な訳だが、あえて l'univers を 「宇宙」 と訳す必然性があるのか疑問である。  4行目「彼らはハンガリア人のために 生か死を増強するだろう」の「彼ら」は補われたものだが、上述のように、現在通説化している読みに比べると、その妥当性には疑問がある。 *信奉者側の見解  [[テオフィル・ド・ガランシエール]]は、パノンがハンガリー人を指すと注記しただけで、「残りは平易」で片付けた((Garencieres [1672]))。  その後、20世紀に入るまで、この詩を解釈した者はいないようである。少なくとも、[[ジャック・ド・ジャン]]、[[バルタザール・ギノー]]、[[D.D.]]、[[テオドール・ブーイ]]、[[フランシス・ジロー]]、[[ウジェーヌ・バレスト]]、[[アナトール・ル・ペルチエ]]、[[チャールズ・ウォード]]の著書には載っていない。  [[マックス・ド・フォンブリュヌ]](1938年)は、hommasse を masses d'homme (人のかたまり、大群衆)と読み替えて、未来の大戦に関する予言と解釈した((Fontbrune (1938)[1939] p.277))。  [[アンドレ・ラモン]](1943年)は描かれた蝕の時期を1999年8月とし、ロシアの女性指導者が世界大戦を引き起こす予言と解釈した((Lamont [1943] pp.350-351))。  [[ヘンリー・C・ロバーツ]](1947年)は、ロシアの女帝エカチェリーナ2世に関する予言とした((Roberts (1947)[1949]))。  [[エリカ・チータム]](1973年)は、ナチス・ドイツについてと解釈した((Cheetham [1973], Cheetham (1989)[1990]))。  [[ヴライク・イオネスク]](1976年)は、1968年のソ連によるチェコスロヴァキア弾圧の予言と解釈した((Ionescu [1976] pp.651-652, イオネスク [1991] pp.105-107))  [[セルジュ・ユタン]](1978年)は、1945年のヨーロッパ情勢と解釈していたが、[[ボードワン・ボンセルジャン]]の補訂では、エカチェリーナ2世とする解釈に差し替えられた((Hutin [1978], Hutin (2002)[2003]))。  [[ネッド・ハリー]](1999年)は、1989年の冷戦終結に関する予言と解釈し、1行目の男性的な女性は、当時の英国首相マーガレット・サッチャーとした((Halley [1999] p.193))。 *同時代的な視点  [[ルイ・シュロッセ]]は、1526年にハンガリー王ラヨシュ2世が戦死したモハーチの戦いのころのハンガリー周辺情勢をモデルと見なした((Schlosser [1985] p.70))。  [[ピエール・ブランダムール]]は[[百詩篇第3巻5番]]と同じく、1540年にモデルを求めた。その年の3月から4月にヨーロッパの東部で日食と月食が相次いで観測されたからである。その年の7月には、ハンガリー王を名乗っていたサポヤイ・ヤーノシュが没した。ブランダムールによれば、ノストラダムスも参考にしていた占星術師[[レオヴィッツ>キュプリアヌス・レオウィティウス]]の暦書にて、その年の蝕がヤーノシュの死に影響したとされていたらしい。  ヤーノシュの没後、未亡人となったイザベラは、ヤーノシュの死の直前に授かった息子ジギスモンドをハンガリー王に推して支配に当たったが、対立する枢機卿マルティヌッツィとの主導権争いが絶えることはなく、双方が神聖ローマ帝国、オスマン帝国を巻き込んで、一帯の情勢は混沌としていた。この対立は枢機卿が暗殺された1551年まで続いた((Brind’Amour [1993] pp.223-224))。  [[ピーター・ラメジャラー]]や[[リチャード・シーバース]]もブランダムールの読み方を元にして解釈している((Lemesurier [2003b], Lemesurier [2010], Sieburth [2012]))。  2行目に l'univers という若干スケールの大きな単語はあるものの、[[アクィロ]]と[[パンノニア]]への言及は、明らかにこの詩が東部ヨーロッパを対象としていることを示している。  たとえば [[Pannons>Pannon]]を Pampons と読み替えて [[Pampotans>Pampotan]] の語中音消失と見るなど、強引な読み替えを展開すれば、地球規模の事件へとこじつけることはできなくもないだろうが、やはりここは、l'univers を全地球上ということではなく、せいぜいがキリスト教世界全体という意味で用いられていると見るのが自然だろう。 #co(){こういう変則的解釈を掲げることは、鬼の首でもとったようにはしゃぐ御仁に餌を与える可能性を孕んでいてイヤなのですが、このサイトが自分の備忘録を兼ねている性質上、思い浮かんだ可能性については残しておきます} ---- &bold(){コメントらん} 以下のコメント欄は[[コメントの著作権および削除基準>著作権について]]を了解の上でご使用ください。なお、当「大事典」としては、以下に投稿されたコメントの信頼性などをなんら担保するものではありません (当「大事典」管理者である sumaru 自身によって投稿されたコメントを除く)。 - ロシアの女帝エカリテーナ2世のポーランド分割と、同時期の オーストリア継承戦争と七年戦争の二回の戦争に参戦したオーストリア-ハ プスブルグの神聖ローマ女帝のマリー・テレジアを予言している。 -- とある信奉者 (2020-05-03 09:59:18) #comment
[[詩百篇第8巻]]>15番* *原文 Vers Aquilon grands [[efforts>effort]] par hommasse Presque l'Europe&sup(){1} & l'vniuers&sup(){2} vexer, Les deux eclypses&sup(){3} mettra en telle chasse&sup(){4}, Et aux [[Pannons>Pannon]]&sup(){5} vie & mort renforcer. **異文 (1) l’Europe : l’Furope 1667Wi (2) & l’vniuers : & l’Vniuers 1597Br 1603Mo 1606PR 1607PR 1627Di 1627Ma 1644Hu 1650Ri 1650Mo 1665Ba 1716PR 1720To 1772Ri 1840, l’Univers 1672Ga (3) eclypses : eclyses 1591BR 1611A, Eclipses 1672Ga (4) chasse : ch sse 1627Ma, chassé 1672Ga (5) Pannons : Pannon 1597Br 1603Mo 1606PR 1607PR 1610Po 1627Di 1627Ma 1650Ri 1650Mo 1716PR(a c), pannon 1716PRb **校訂  [[ジャン=ポール・クレベール]]は3行目の eclipses (蝕) は eclyses の誤記の可能性があると見た。ノストラダムスと同時代のフランソワ・ラブレーが教会 (église) を ecclise と綴っていたことを参考にしたもので、「教会」 の意味だという((Clébert [2003]))。  [[ピーター・ラメジャラー]]は2003年の時点では特にそのように校訂していなかったが、2010年には蝕を第一義としつつも、カッコ内に教会を併記した((Lemesurier [2003b], Lemesurier [2010]))。 *日本語訳 [[アクィロ]]周辺での男勝りな女性による大いなる努力が ヨーロッパと世界のほとんどを苦しめる。 二つの蝕(の時に)、(彼女は)そのように追い立てるだろう。 そして[[パンノニア]]人たちには生と死を強化する。 **訳について  1行目 hommasse の辞書どおりの訳は「男っぽい女」「男性的な女性」。[[effort]]は意味の幅が広い。ここではとりあえず 「努力」 と訳したが、ほかの訳もありうる。  3行目は 「二つの蝕の時に」 と解釈している[[ピエール・ブランダムール]]の読みを参考にしたが、二つの蝕を目的語と解釈することも可能である (主語と解することはできない。後述を参照)。  実際、[[ピーター・ラメジャラー]]や[[リチャード・シーバース]]はそのように読んでいる。  しかし、その場合は eclyses とする校訂を受け入れ、「(彼女は)二つの教会をそのように追い立てるだろう」 と読む方が、適しているようにも思われる。  なお、mettre en chasse は中期フランス語で poursuivre (追跡する) を意味する成句((DMF))。ただし、クレベールは16世紀には mettre en fuite (追い散らす、潰走させる) の意味だったとしている。  既存の訳についてコメントしておく。  [[大乗訳>ノストラダムス大予言原典・諸世紀]]について。  3行目 「二つの失墜が飛びだし」((大乗 [1975] p.234。以下、この詩の引用は同じページから。))は誤訳。eclipse (蝕) には確かに不振や失墜の意味もあるが、動詞の活用形 (三人称単数) からして deux eclipses を主語にとることはできない。  4行目「そして生と死がパノンで増大するだろう」は、4行目だけ切り離して意訳すれば成立する。renforcer は不定形なので、活用形から主語を判断することができない。当「大事典」は、[[ピーター・ラメジャラー]]、[[ジャン=ポール・クレベール]]、[[リチャード・シーバース]]らが、男勝りな女性を実質的な主語にとっていることを踏まえた。  [[山根訳>ノストラダムス全予言 (二見書房)]]について。  2行目 「ヨーロッパと宇宙全体を苦しめるための」((山根 [1988] p.257。以下、この詩の引用は同じページから。))は可能な訳だが、あえて l'univers を 「宇宙」 と訳す必然性があるのか疑問である。  4行目「彼らはハンガリア人のために 生か死を増強するだろう」の「彼ら」は補われたものだが、上述のように、現在通説化している読みに比べると、その妥当性には疑問がある。 *信奉者側の見解  [[テオフィル・ド・ガランシエール]]は、パノンがハンガリー人を指すと注記しただけで、「残りは平易」で片付けた((Garencieres [1672]))。  その後、20世紀に入るまで、この詩を解釈した者はいないようである。少なくとも、[[ジャック・ド・ジャン]]、[[バルタザール・ギノー]]、[[D.D.]]、[[テオドール・ブーイ]]、[[フランシス・ジロー]]、[[ウジェーヌ・バレスト]]、[[アナトール・ル・ペルチエ]]、[[チャールズ・ウォード]]の著書には載っていない。  [[マックス・ド・フォンブリュヌ]](1938年)は、hommasse を masses d'homme (人のかたまり、大群衆)と読み替えて、未来の大戦に関する予言と解釈した((Fontbrune (1938)[1939] p.277))。  [[アンドレ・ラモン]](1943年)は描かれた蝕の時期を1999年8月とし、ロシアの女性指導者が世界大戦を引き起こす予言と解釈した((Lamont [1943] pp.350-351))。  [[ヘンリー・C・ロバーツ]](1947年)は、ロシアの女帝エカチェリーナ2世に関する予言とした((Roberts (1947)[1949]))。  [[エリカ・チータム]](1973年)は、ナチス・ドイツについてと解釈した((Cheetham [1973], Cheetham (1989)[1990]))。  [[ヴライク・イオネスク]](1976年)は、1968年のソ連によるチェコスロヴァキア弾圧の予言と解釈した((Ionescu [1976] pp.651-652, イオネスク [1991] pp.105-107))  [[セルジュ・ユタン]](1978年)は、1945年のヨーロッパ情勢と解釈していたが、[[ボードワン・ボンセルジャン]]の補訂では、エカチェリーナ2世とする解釈に差し替えられた((Hutin [1978], Hutin (2002)[2003]))。  [[ネッド・ハリー]](1999年)は、1989年の冷戦終結に関する予言と解釈し、1行目の男性的な女性は、当時の英国首相マーガレット・サッチャーとした((Halley [1999] p.193))。 *同時代的な視点  [[ルイ・シュロッセ]]は、1526年にハンガリー王ラヨシュ2世が戦死したモハーチの戦いのころのハンガリー周辺情勢をモデルと見なした((Schlosser [1985] p.70))。  [[ピエール・ブランダムール]]は[[第3巻5番>百詩篇第3巻5番]]と同じく、1540年にモデルを求めた。  その年の3月から4月にヨーロッパの東部で日食と月食が相次いで観測されたからである。その年の7月には、ハンガリー王を名乗っていたサポヤイ・ヤーノシュが没した。  ブランダムールによれば、ノストラダムスも参考にしていた占星術師[[レオヴィッツ>キュプリアヌス・レオウィティウス]]の暦書にて、その年の蝕がヤーノシュの死に影響したとされていたらしい。  ヤーノシュの没後、未亡人となったイザベラは、ヤーノシュの死の直前に授かった息子ジギスモンドをハンガリー王に推して支配に当たったが、対立する枢機卿マルティヌッツィとの主導権争いが絶えることはなく、双方が神聖ローマ帝国、オスマン帝国を巻き込んで、一帯の情勢は混沌としていた。この対立は枢機卿が暗殺された1551年まで続いた((Brind’Amour [1993] pp.223-224))。  [[ピーター・ラメジャラー]]や[[リチャード・シーバース]]もブランダムールの読み方を元にして解釈している((Lemesurier [2003b], Lemesurier [2010], Sieburth [2012]))。  2行目に l'univers という若干スケールの大きな単語はあるものの、[[アクィロ]]と[[パンノニア]]への言及は、明らかにこの詩が東部ヨーロッパを対象としていることを示している。  たとえば [[Pannons>Pannon]]を Pampons と読み替えて [[Pampotans>Pampotan]] の語中音消失と見るなど、強引な読み替えを展開すれば、地球規模の事件へとこじつけることはできなくもないだろうが、やはりここは、l'univers を全地球上ということではなく、せいぜいがキリスト教世界全体という意味で用いられていると見るのが自然だろう。 #co(){こういう変則的解釈を掲げることは、鬼の首でもとったようにはしゃぐ御仁に餌を与える可能性を孕んでいてイヤなのですが、このサイトが自分の備忘録を兼ねている性質上、思い浮かんだ可能性については残しておきます} ---- ※記事へのお問い合わせ等がある場合、最上部のタブの「ツール」>「管理者に連絡」をご活用ください。 ---- &bold(){コメントらん} 以下に投稿されたコメントは&u(){書き込んだ方々の個人的見解であり}、当「大事典」としては、その信頼性などをなんら担保するものではありません。  なお、現在、コメント書き込みフォームは撤去していますので、新規の書き込みはできません。 - ロシアの女帝エカリテーナ2世のポーランド分割と、同時期の オーストリア継承戦争と七年戦争の二回の戦争に参戦したオーストリア-ハ プスブルグの神聖ローマ女帝のマリー・テレジアを予言している。 -- とある信奉者 (2020-05-03 09:59:18)

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