詩百篇第9巻80番

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[[百詩篇第9巻]]>80番 *原文 Le Duc&sup(){1} voudra&sup(){2} les siens exterminer, Enuoyera les plus forts&sup(){3} lieux estranges, Par tyrannie&sup(){4} Pize&sup(){5} & Luc ruiner, Puis&sup(){6} les Barbares&sup(){7} sans vin&sup(){8} feront vendanges&sup(){9}. **異文 (1) Duc : duc 1568A 1590Ro (2) voudra : vouda 1603Mo (3) forts : fort 1649Xa 1981EB (4) tyrannie : Tyrannie 1668 (5) Pize 1568A 1568B 1568I : Bize &italic(){T.A.Eds.} (6) Puis : Ruiy 1610, Puy 1627 1630Ma 1644 1650Ri 1653 1665 (7) Barbares : barbares 1590Ro 1627 (8) vin : vain 1644 1650Ri, Vin 1672 (9) vendanges : Vendanges 1672 **校訂  圧倒的に多くの版が3行目 Pize を Bize と綴っているが、[[ルッカ]]との地理的位置関係からしても Pize / Pise ([[ピサ]]) を採るのが自然であろう。上の異文の欄にもあるように、Bize は初出である1568年版のうちの一つ (1568C) に見られた誤植が後の版に引き継がれてしまっただけに過ぎないように思われる。  実際、17世紀の信奉者[[テオフィル・ド・ガランシエール]]は Bize を採用しつつも、Pise の誤植だろうという認識を示していた。 *日本語訳 公爵はその家臣たちを皆殺しにすることを望み、 その最強の者たちを異国の方々 〔ほうぼう〕 へと送るだろう。 暴政によって[[ピサ]]と[[ルッカ]]を廃墟にする。 そして[[バルバロイ]]たちがブドウ酒のないブドウ摘みをするだろう。 **訳について  1行目 les siens は 「彼のもの」 という意味だが、それが公爵の家臣の意味なのか、特定の別人の家臣なのかは今ひとつはっきりしない。これは定冠詞が付いている2行目の「最強の者たち」が同じ存在を指すのかどうかも同様である。  「その家臣たち」と「その最強の者たち」が同一の存在だとするならば、公爵が自分の立場を脅かしかねない強い家来をあえて流刑地もしくは激戦地にでも送って死なせようとしていると読めるし、別々の存在ならば、敵対する有力者の家来を殺すために、自分の家来の中でも特に強い者を送り込むというように読める。  3行目の動詞は不定形。ゆえに直説法単純未来の語尾音消失とも取れるし、2行目の目的を表しているとも取れる。[[ピーター・ラメジャラー]]や[[リチャード・シーバース]]は前者の意味に理解している。その場合、暴政を敷く人物は不明もしくは4行目の[[バルバロイ]]となるだろう。  4行目は直訳した。  葡萄の収穫を意味する vendange はそれが本来の意味ではあるのだが、「掠奪」 を意味する言葉でもある。「ブドウ酒のない」というのは、[[ジャン=ポール・クレベール]]によると、「ブドウ酒作りに回すことを気にせずにブドウを取りまくる」、つまり掠奪の意味の強化だという((Clebert [2003]))。  あるいは単に、「ブドウ収穫」と 「掠奪」 の意味を持つ vendange という語を、ブドウとは関係のない方の意味で使っていることを示す言葉遊びではないかとも思えるが、いずれにしても、4行目が「そしてバルバロイたちが掠奪をするだろう」という意味であることはほぼ疑いのないところである。  既存の訳についてコメントしておく。  [[大乗訳>ノストラダムス大予言原典・諸世紀]]について。  1行目 「公爵は自分で自分をほろぼし」((大乗 [1975] p.278。以下、この詩の引用は同じページから。))は誤訳。voudra (望むだろう)が訳に反映されていないし、les siens は「彼のもの」の意味なので、それが公爵の所有物を指すとしても「公爵は自分のものを滅ぼすことを望むだろう」としか訳せない。  2行目「最も強い人を奇妙な場所に送り」は誤訳ではないが、人も場所も複数形なので、せめて人のほうくらいは「人々」とするなど、複数と分かる表現にするほうが好ましいものと思われる。  4行目「異邦人は酒もないのにブドー酒がつくれるだろう」は誤訳。vendangeはあくまでもブドウ収穫を指す言葉で、ブドウ酒作りを表す言葉ではない。  [[山根訳>ノストラダムス全予言 (二見書房)]]について。  2行目 「最強の者を最も知られざる土地へ送る」((山根 [1988] p.308。以下、この詩の引用は同じページから。))は、最上級を示す les plus が forts (強者たち)にも lieux (場所)にも係ると理解したのだろう。しかし、クレベール、ラメジャラー、シーバースらは、誰一人そのようには訳していない。 *信奉者側の見解  [[テオフィル・ド・ガランシエール]]は、3行目のピサとルッカがイタリアの都市であることと、4行目が掠奪の描写であることを示すにとどまった((Garencieres [1672]))。  その後、20世紀に入るまでこの詩を解釈した者はいないようである。少なくとも、[[ジャック・ド・ジャン]]、[[バルタザール・ギノー]]、[[D.D.]]、[[テオドール・ブーイ]]、[[フランシス・ジロー]]、[[ウジェーヌ・バレスト]]、[[アナトール・ル・ペルチエ]]、[[チャールズ・ウォード]]、[[マックス・ド・フォンブリュヌ]]、[[ロルフ・ボズウェル]]の著書には載っていない。  [[ジェイムズ・レイヴァー]](1942年)、[[アンドレ・ラモン]](1943年)は、Ducをムッソリーニと解釈し (Ducはヴェネツィア共和国の首長ドージェの意味もある)、彼の圧政下で多くが国外追放されたことなど、ファシズムの暴虐ぶりと解釈した((Lamont [1943] pp.227-228, Laver (1942)[1952] p.228))。  [[エリカ・チータム]]は当初、一言もコメントしておらず、晩年にも「この四行詩は解読できない」と述べるにとどまった((Cheetham [1973], Cheetham (1989)[1990]))。  [[ヴライク・イオネスク]](1976年)は1930年代のスペイン内戦とイタリアによるエチオピア占領と解釈した。3行目のピサとルッカはイタリアそのものの代喩であるとともに、ピサをあえて Bize (イオネスクは底本の関係上、こちらの異文を採用している)と綴ったのは、PAR TYRANNIE BIZE を PENeTRER ABYSsINIA (アビシニアを貫く) という[[アナグラム]]のためだという (アビシニアはエチオピアの別名)((Ionescu [1976] pp.526-528))。  [[セルジュ・ユタン]](1978年)は 「ドイツ軍によるフランス占領」 とだけコメントしていたが、[[ボードワン・ボンセルジャン]]の補訂(2002年)では、未来の事件の解釈に差し替えられた((Hutin [1978], Hutin (2002)[2003]))。  フォンブリュヌ親子のうち、父マックスは何も触れていなかったし、息子[[ジャン=シャルル>ジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌ]]も当初は何も解釈していなかったが、晩年の著書では2025年前に起こる戦いについての予言と解釈していた((Fontbrune [2006] p.477, Fontbrune [2009] p.94))。 *同時代的な視点  [[ピーター・ラメジャラー]]は『[[ミラビリス・リベル]]』に描かれたイスラーム勢力によるヨーロッパ侵攻のモチーフが重ねあわされていると解釈した((Lemesurier [2003b], Lemesurier [2010]))。  [[バルバロイ]]が例によってイスラーム勢力を指すのであれば、確かにそのように解釈することが最も自然といえるだろう。 #googlemaps(){<iframe src="https://www.google.com/maps/embed?pb=!1m18!1m12!1m3!1d184146.8942665026!2d10.47233955000001!3d43.849709300000015!2m3!1f0!2f0!3f0!3m2!1i1024!2i768!4f13.1!3m3!1m2!1s0x12d5839a50ed08ef%3A0x792a2692654dd9e1!2z44Kk44K_44Oq44KiIOODq-ODg-OCqw!5e0!3m2!1sja!2sjp!4v1423393856773" width="600" height="450" frameborder="0" style="border:0"></iframe>} ---- &bold(){コメントらん} 以下のコメント欄は[[コメントの著作権および削除基準>著作権について]]を了解の上でご使用ください。なお、当「大事典」としては、以下に投稿されたコメントの信頼性などをなんら担保するものではありません (当「大事典」管理者である sumaru 自身によって投稿されたコメントを除く)。 #comment
[[詩百篇第9巻]]>80番* *原文 Le Duc&sup(){1} voudra&sup(){2} les siens exterminer, Enuoyera les plus forts&sup(){3} lieux estranges, Par tyrannie&sup(){4} Pize&sup(){5} & Luc ruiner, Puis&sup(){6} les Barbares&sup(){7} sans vin&sup(){8} feront vendanges&sup(){9}. **異文 (1) Duc : duc 1568X 1590Ro (2) voudra : vouda 1603Mo (3) forts : fort 1649Xa 1981EB, fors 1650Mo (4) tyrannie : Tyrannie 1668 (5) Pize 1568X 1568A 1568C : Bize &italic(){T.A.Eds.} (6) Puis : Puiy 1606PR, Puy 1607PR 1610Po 1627Di 1627Ma 1644Hu 1650Ri 1653AB 1665Ba 1720To (7) Barbares : barbares 1590Ro 1627Di (8) vin : vain 1644Hu 1650Ri, Vin 1672Ga (9) vendanges : Vendanges 1672Ga **校訂  圧倒的に多くの版が3行目 Pize を Bize と綴っているが、[[ルッカ]]との地理的位置関係からしても Pize / Pise ([[ピサ]]) を採るのが自然であろう。  上の異文の欄にもあるように、Bize は初出である1568年版のうちの一つ (1568B) に見られた誤植が後の版に引き継がれてしまっただけに過ぎないように思われる。  実際、17世紀の信奉者[[テオフィル・ド・ガランシエール]]は Bize を採用しつつも、Pise の誤植だろうという認識を示していた。 *日本語訳 公爵はその家臣たちを皆殺しにすることを望み、 その最強の者たちを異国の方々〔ほうぼう〕へと送るだろう。 暴政によって[[ピサ]]と[[ルッカ]]を廃墟にする。 そして[[バルバロイ]]たちがブドウ酒のないブドウ摘みをするだろう。 **訳について  1行目 les siens は 「彼のもの」 という意味だが、それが公爵の家臣の意味なのか、特定の別人の家臣なのかは今ひとつはっきりしない。  これは定冠詞が付いている2行目の「最強の者たち」が同じ存在を指すのかどうかも同様である。  「その家臣たち」と「その最強の者たち」が同一の存在だとするならば、公爵が自分の立場を脅かしかねない強い家来をあえて流刑地もしくは激戦地にでも送って死なせようとしていると読める。  逆に、別々の存在ならば、敵対する有力者の家来を殺すために、自分の家来の中でも特に強い者を送り込むというように読める。  3行目の動詞は不定形。  ゆえに直説法単純未来の語尾音消失とも取れるし、2行目の目的を表しているとも取れる。  [[ピーター・ラメジャラー]]や[[リチャード・シーバース]]は前者の意味に理解している。  その場合、暴政を敷く人物は不明もしくは4行目の[[バルバロイ]]となるだろう。  4行目は直訳した。  葡萄の収穫を意味する vendange はそれが本来の意味ではあるのだが、「掠奪」 を意味する言葉でもある。  「ブドウ酒のない」というのは、[[ジャン=ポール・クレベール]]によると、「ブドウ酒作りに回すことを気にせずにブドウを取りまくる」、つまり掠奪の意味の強化だという((Clebert [2003]))。  あるいは単に、「ブドウ収穫」と 「掠奪」 の意味を持つ vendange という語を、ブドウとは関係のない方の意味で使っていることを示す言葉遊びではないかとも思える。  だが、いずれにしても、4行目が「そしてバルバロイたちが掠奪をするだろう」という意味であることはほぼ疑いのないところである。  既存の訳についてコメントしておく。  [[大乗訳>ノストラダムス大予言原典・諸世紀]]について。  1行目 「公爵は自分で自分をほろぼし」((大乗 [1975] p.278。以下、この詩の引用は同じページから。))は誤訳。voudra (望むだろう)が訳に反映されていないし、les siens は「彼のもの」の意味なので、それが公爵の所有物を指すとしても「公爵は自分のものを滅ぼすことを望むだろう」としか訳せない。  2行目「最も強い人を奇妙な場所に送り」は誤訳ではないが、人も場所も複数形なので、せめて人のほうくらいは「人々」とするなど、複数と分かる表現にするほうが好ましいものと思われる。  4行目「異邦人は酒もないのにブドー酒がつくれるだろう」は誤訳。vendangeはあくまでもブドウ収穫を指す言葉で、ブドウ酒作りを表す言葉ではない。  [[山根訳>ノストラダムス全予言 (二見書房)]]について。  2行目 「最強の者を最も知られざる土地へ送る」((山根 [1988] p.308。以下、この詩の引用は同じページから。))は、最上級を示す les plus が forts (強者たち)にも lieux (場所)にも係ると理解したのだろう。しかし、クレベール、ラメジャラー、シーバースらは、誰一人そのようには訳していない。 *信奉者側の見解  [[テオフィル・ド・ガランシエール]](1672年)は、3行目のピサとルッカがイタリアの都市であることと、4行目が掠奪の描写であることを示すにとどまった((Garencieres [1672]))。  その後、20世紀に入るまでこの詩を解釈した者はいないようである。少なくとも、[[ジャック・ド・ジャン]]、[[バルタザール・ギノー]]、[[D.D.]]、[[テオドール・ブーイ]]、[[フランシス・ジロー]]、[[ウジェーヌ・バレスト]]、[[アナトール・ル・ペルチエ]]、[[チャールズ・ウォード]]、[[マックス・ド・フォンブリュヌ]]、[[ロルフ・ボズウェル]]の著書には載っていない。  [[ジェイムズ・レイヴァー]](1942年)、[[アンドレ・ラモン]](1943年)は、Ducをムッソリーニと解釈し (Ducはヴェネツィア共和国の首長ドージェの意味もある)、彼の圧政下で多くが国外追放されたことなど、ファシズムの暴虐ぶりと解釈した((Lamont [1943] pp.227-228, Laver (1942)[1952] p.228))。  [[エリカ・チータム]]は当初、一言もコメントしておらず、晩年にも「この四行詩は解読できない」と述べるにとどまった((Cheetham [1973], Cheetham (1989)[1990]))。  [[ヴライク・イオネスク]](1976年)は1930年代のスペイン内戦とイタリアによるエチオピア占領と解釈した。  3行目のピサとルッカはイタリアそのものの代喩であるとともに、ピサをあえて Bize(イオネスクは底本の関係上、こちらの異文を採用している)と綴ったのは、PAR TYRANNIE BIZE を PENeTRER ABYSsINIA (アビシニアを貫く)という[[アナグラム]]のためだという (アビシニアはエチオピアの別名)((Ionescu [1976] pp.526-528))。  [[セルジュ・ユタン]](1978年)は 「ドイツ軍によるフランス占領」 とだけコメントしていたが、[[ボードワン・ボンセルジャン]]の補訂(2002年)では、未来の事件の解釈に差し替えられた((Hutin [1978], Hutin (2002)[2003]))。  フォンブリュヌ親子のうち、父マックスは何も触れていなかったし、息子[[ジャン=シャルル>ジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌ]]も当初は何も解釈していなかったが、晩年の著書では2025年前に起こる戦いについての予言と解釈していた((Fontbrune [2006] p.477, Fontbrune [2009] p.94))。 *同時代的な視点  [[ピーター・ラメジャラー]]は『[[ミラビリス・リベル]]』に描かれたイスラーム勢力によるヨーロッパ侵攻のモチーフが重ねあわされていると解釈した((Lemesurier [2003b], Lemesurier [2010]))。  [[バルバロイ]]が例によってイスラーム勢力を指すのであれば、確かにそのように解釈することが最も自然といえるだろう。 #googlemaps(){<iframe src="https://www.google.com/maps/embed?pb=!1m18!1m12!1m3!1d184146.8942665026!2d10.47233955000001!3d43.849709300000015!2m3!1f0!2f0!3f0!3m2!1i1024!2i768!4f13.1!3m3!1m2!1s0x12d5839a50ed08ef%3A0x792a2692654dd9e1!2z44Kk44K_44Oq44KiIOODq-ODg-OCqw!5e0!3m2!1sja!2sjp!4v1423393856773" width="600" height="450" frameborder="0" style="border:0"></iframe>} ---- ※記事へのお問い合わせ等がある場合、最上部のタブの「ツール」>「管理者に連絡」をご活用ください。

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