百詩篇第4巻95番

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*原文 Le [[regne]]&sup(){1} à&sup(){2} deux laissé&sup(){3} bien&sup(){4} peu tiendront, Trois ans sept moys passés&sup(){5} feront la guerre&sup(){6} Les deux vestales&sup(){7} contre rebeleront&sup(){8}, Victor [[puis nay>puisnay]]&sup(){9} en [[Armonique]]&sup(){10} terre&sup(){11}. **異文 (1) regne : Regne 1672 (2) à : a 1588*-89* 1672 (3) laissé : laisse 1588R* 1589R*, laisé 1650 1668, l’aissé 1867LP (4) bien : par 1588*-89* (5) passés &italic(){ou} passez : posez 1627 1644 1650Ri 1653 1665 1840 (6) guerre : guere 1610 (7) vestales : Vestales 1597 1600 1610 1716, restales 1611B 1660, restables 1588-89 1627 1644 1650Ri 1653 1665 1840, vessales &italic(){conj.(PL)} (8) rebeleront : rebelliront 1644 1650Ri 1653 1665 1840 (9) puis nay : puisné 1590Ro, puisnay 1597 1600 1605 1610 1611 1628 1649Xa 1660 1672 1716 (10) Armonique : Armorique 1588-89 1644 1650Ri 1653 1665 1672 1840, Armenique 1597 1600 1610 1611A 1716, Armorrique 1611B 1660, Amorique 1589Me* 1627 (11) terre : Terre 1672 (注記1)1588Rf 1589Me 1589Rg では、3-4-1-2の順でVI-43としても採録。上記*はそちらの異文 (注記2)1627は、3行目のあとにXCVIとして百詩篇第4巻85番の1行目が続いている。そこでそのページ(f.36recto)が終わり、次のページにこの詩の4行目がつながるという非常に変則的な誤植がある(1627の第4巻85番は詩番号と1行目が欠けている)。 *日本語訳 二人に委ねられた王国を、彼らはほんのわずかしか保てないだろう。 三年と七ヶ月を過ぎると、彼らは戦争をするだろう。 二人の[[ウェスタリス]]は対抗して反乱するだろう。 [[アルモリカ]]の地で勝利はより若い者に。 **訳について  大乗訳1行目「支配権はながくつづかず 二つを残して」((大乗 [1975] p.147))は誤訳。元になったはずの[[ヘンリー・C・ロバーツ]]の英訳は正しく The reign left to two they shall not keep it long((Roberts [1949] p.142))となっている。同2行目「三年七ヵ月すぎ」は、後半が訳されていないが、これはロバーツの英訳も同じである。同3行目「二つのベスタ神は彼にさからい」は誤訳。[[ウェスタリス]]と[[ウェスタ]](ベスタ神)は同一視されるべきではない。  山根訳4行目「やがて勝利者がアメリカの地に誕生する」((山根 [1988] p.175))は誤訳。元になった[[エリカ・チータム]]の英訳で puis nay (puîné ; より若いもの、後に生まれた者)が、puis 「そして」 と né 「生まれた」 に分解して訳されていたことが原因である。なお、「アメリカ」という解釈交じりの訳もチータムが原因である。  大乗訳4行目「勝利はアルモリックの地に生まれるだろう」も似たようなものだが、こちらはロバーツが The youngest shall be the conqueror of the Armorick country. と、せっかく puîné を意識した訳をしていたのに活かせていない。 *信奉者側の見解  INF全廃条約締結(1987年12月)による米ソの歩み寄りと、それが長続きしないことの予言と解釈されることがしばしばあった((Cheetham [1990], 藤島啓章『ノストラダムスの大警告』1989年))。  第三次世界大戦の予言とする解釈もあった((Fontbrune [1980/1982], Hutin [2002]))。 *同時代的な視点  [[ジャン=ポール・クレベール]]は、ウェスタリスはカトリック勢力の比喩であると捉えている。ただし、彼の場合、断片的なイメージの提示にとどまり、具体的な史実との関連は不明だとしている。  [[エドガー・レオニ]]や[[ピーター・ラメジャラー]]は、1556年に[[カール5世]]が神聖ローマ皇帝の座を退き、ハプスブルク帝国を弟フェルディナント(ドイツ、オーストリア)と息子フェリペ(スペイン、ネーデルラント)に分割譲与したことと結び付けている。ノストラダムスがこの詩を書いたのは1555年か1556年頃と推測されており、いくつかの見通しをこの詩にこめたと推測出来るわけだ((Leoni [1982], Lemesurier [2003b]))。3行目のウェスタリス(vestales)は関連性が不明であり、ラメジャラーは vassales(家臣たち)の誤記ではないかと推測している(この推測はチータムなども示していた)。  当「大事典」としてひとつ解釈を加えておくと、仮に Armonique terre を「ハルモニアの地」と訳してテーバイと解釈することができるのなら([[Armonique]]参照)、テーバイ王オイディプスの2人の息子ポリュネイケスとエテオクレスが1年交替で王位につく約束をしたものの、すぐにエテオクレスが約束を破り、アルゴス人を率いてテーバイに攻め入ったポリュネイケスとの間で争いになったというギリシャ神話のエピソードと少々似ているようにも思える(1、2行目)。その戦いでは両者討ち死にとなり、オイディプスの義理の兄弟にあたるクレオンがテーバイ王の座についた(4行目)。クレオンはアルゴス人犠牲者を弔うなという布告を出したが、これに抗議する形でオイディプスの娘アンティゴネとクレオンの妻エウリュディケが自殺した(3行目)((神話の概要については呉茂一『ギリシア神話』下巻、新潮文庫、1979年、pp.33-37 を参照した))。いずれも正確な一致というよりも近似しているというレベルにすぎないが、参考として掲載しておく。 ---- #comment
*原文 Le [[regne]]&sup(){1} à&sup(){2} deux laissé&sup(){3} bien&sup(){4} peu tiendront, Trois ans sept moys passés&sup(){5} feront la guerre&sup(){6} Les deux vestales&sup(){7} contre rebeleront&sup(){8}, Victor [[puis nay>puisnay]]&sup(){9} en [[Armonique]]&sup(){10} terre&sup(){11}. **異文 (1) regne : Regne 1672 (2) à : a 1588*-89* 1672 (3) laissé : laisse 1588R* 1589R*, laisé 1650 1668, l’aissé 1867LP (4) bien : par 1588*-89* (5) passés &italic(){ou} passez : posez 1627 1644 1650Ri 1653 1665 1840 (6) guerre : guere 1610 (7) vestales : Vestales 1597 1600 1610 1716, restales 1611B 1660, restables 1588-89 1627 1644 1650Ri 1653 1665 1840, vessales &italic(){conj.(PL)} (8) rebeleront : rebelliront 1644 1650Ri 1653 1665 1840 (9) puis nay : puisné 1590Ro, puisnay 1597 1600 1605 1610 1611 1628 1649Xa 1660 1672 1716 (10) Armonique : Armorique 1588-89 1644 1650Ri 1653 1665 1672 1840, Armenique 1597 1600 1610 1611A 1716, Armorrique 1611B 1660, Amorique 1589Me* 1627 (11) terre : Terre 1672 (注記1)1588Rf 1589Me 1589Rg では、3-4-1-2の順でVI-43としても採録。上記*はそちらの異文 (注記2)1627は、3行目のあとにXCVIとして百詩篇第4巻85番の1行目が続いている。そこでそのページ(f.36recto)が終わり、次のページにこの詩の4行目がつながるという非常に変則的な誤植がある(1627の第4巻85番は詩番号と1行目が欠けている)。 *日本語訳 二人に委ねられた王国を、彼らはほんのわずかしか保てないだろう。 三年と七ヶ月を過ぎると、彼らは戦争をするだろう。 二人の[[ウェスタリス]]は対抗して反乱するだろう。 [[アルモリカ]]の地で勝利はより若い者に。 **訳について  大乗訳1行目「支配権はながくつづかず 二つを残して」((大乗 [1975] p.147))は誤訳。元になったはずの[[ヘンリー・C・ロバーツ]]の英訳は正しく The reign left to two they shall not keep it long((Roberts [1949] p.142))となっている。同2行目「三年七ヵ月すぎ」は、後半が訳されていないが、これはロバーツの英訳も同じである。同3行目「二つのベスタ神は彼にさからい」は誤訳。[[ウェスタリス]]と[[ウェスタ]](ベスタ神)は同一視されるべきではない。  山根訳4行目「やがて勝利者がアメリカの地に誕生する」((山根 [1988] p.175))は誤訳。元になった[[エリカ・チータム]]の英訳で puis nay (puîné ; より若いもの、後に生まれた者)が、puis 「そして」 と né 「生まれた」 に分解して訳されていたことが原因である。なお、「アメリカ」という解釈交じりの訳もチータムが原因である。  大乗訳4行目「勝利はアルモリックの地に生まれるだろう」も似たようなものだが、こちらはロバーツが The youngest shall be the conqueror of the Armorick country. と、せっかく puîné を意識した訳をしていたのに活かせていない。 *信奉者側の見解  INF全廃条約締結(1987年12月)による米ソの歩み寄りと、それが長続きしないことの予言と解釈されることがしばしばあった((Cheetham [1990], 藤島啓章『ノストラダムスの大警告』1989年))。  第三次世界大戦の予言とする解釈もあった((Fontbrune [1980/1982], Hutin [2002]))。 *同時代的な視点  [[ジャン=ポール・クレベール]]は、ウェスタリスはカトリック勢力の比喩であると捉えている。ただし、彼の場合、断片的なイメージの提示にとどまり、具体的な史実との関連は不明だとしている。  [[エドガー・レオニ]]や[[ピーター・ラメジャラー]]は、1556年に[[カール5世]]が神聖ローマ皇帝の座を退き、ハプスブルク帝国を弟フェルディナント(ドイツ、オーストリア)と息子フェリペ(スペイン、ネーデルラント)に分割譲与したことと結び付けている。  ノストラダムスがこの詩を書いたのは1555年か1556年頃と推測されており、いくつかの見通しをこの詩にこめたと推測出来るわけだ((Leoni [1982], Lemesurier [2003b]))。3行目のウェスタリス(vestales)は関連性が不明であり、ラメジャラーは vassales(家臣たち)の誤記ではないかと推測している(この推測はチータムなども示していた)。  当「大事典」としてひとつ解釈を加えておく。  仮に Armonique terre を「ハルモニアの地」と訳してテーバイと解釈することができるのなら([[Armonique]]参照)、テーバイ王オイディプスの2人の息子ポリュネイケスとエテオクレスが1年交替で王位につく約束をしたものの、すぐにエテオクレスが約束を破り、アルゴス人を率いてテーバイに攻め入ったポリュネイケスとの間で争いになったというギリシャ神話のエピソードと少々似ているようにも思える(1、2行目)。その戦いでは両者討ち死にとなり、オイディプスの義理の兄弟にあたるクレオンがテーバイ王の座についた(4行目)。クレオンはアルゴス人犠牲者を弔うなという布告を出したが、これに抗議する形でオイディプスの娘アンティゴネとクレオンの妻エウリュディケが自殺した(3行目)((神話の概要については呉茂一『ギリシア神話』下巻、新潮文庫、1979年、pp.33-37 を参照した))。  いずれも正確な一致というよりも近似しているというレベルにすぎないが、参考として掲載しておく。 ---- ※記事へのお問い合わせ等がある場合、最上部のタブの「ツール」>「管理者に連絡」をご活用ください。

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