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*原文
[[Euge]]&sup(){1}, [[Tamins]]&sup(){2}, Gironde & la Rochele,
O sang&sup(){3} Troien !&sup(){4} Mars&sup(){5} au port&sup(){6} de la flesche&sup(){7}
Derrier&sup(){8} le fleuue&sup(){9} au fort&sup(){10} mise l'eschele&sup(){11},
Pointes&sup(){12} a feu&sup(){13} gran&sup(){14} meurtre&sup(){15} sus la bresche.
**異文
(1) Euge : [[Enge>enger]] 1588-89 1600 1610 1716, Agen 1672
(2) Tamins : Tonneins 1672
(3) O sang : Osang 1649Ca
(4) Troien ! 1555 1627 1644 1650Ri 1653 1665 1840 : Troien &italic(){T.A.Eds.}
(5) Mars 1555 1627 1644 1650Ri 1653 1840 : Mort 1557U 1557B 1568 1589PV 1590Ro 1597 1605 1611 1628 1649Xa 1772Ri, mort 1588-89 1600 1610 1649Ca 1650Le 1668 1672 1716, Marts 1665
(6) port : Port 1672
(7) la flesche : le fleche 1589Rg, la Flesche 1644 1653, Flesche 1665
(8) Derrier : Dernier 1627 1665, Derriere 1589PV 1649Ca 1650Le 1668
(9) fleuue : Fleuve 1672
(10) fort : sort 1588Rf 1589Me, Fort 1672
(11) l'eschele : leschelle 1672
(12) Pointes : Portes 1588-89
(13) a feu 1555 1840 : à feu 1627 1644 1650Ri 1653 1665, feu &italic(){T.A.Eds.}
(14) gran 1555 1840 : grand &italic(){T.A.Eds.}
(15) meurtre : mettre 1588-89
**校訂
1行目 euge を[[ピエール・ブランダムール]]は、いくつかの異文に見られるように[[enge>enger]] と校訂している。文脈からはその方が好ましいと判断できる。
4行目 pointes à feu は「火縄銃」を意味する成句なので((Brind’Amour [1996]))、a は à となっているべきである。
*日本語訳
[[テムズ川]]が[[ジロンド川]]と[[ラ・ロッシェル]]を増長させる。
おお、[[トロイアの血]]よ! [[マルス]]は[[ラ・フレシュ]]の港に。
その川の裏手で砦に梯子が取りつけられ、
壁の裂け目では火縄銃で多くの死者が。
**訳について
山根訳1行目「でかした!テムズの人びと ジロンド ラ・ロシェルよ」((山根 [1988] p.100.以下この詩の引用は同じページ))は、euge を採用した訳としては正しい。2行目「おお!トロヤの血は湾で矢を受けて殺された」も、1568年版の原文である O sang Troyen mort au port de la flesche の訳としてなら許容されるものである。大乗訳の1、2行目も採用した原文の訳としては概ね許容される。
なお、2行目後半は La Flescheを地名と見ずに一般名詞の「矢」と捉えれば、星位を表している可能性もなくはない。その場合、[[ジャン=ポール・クレベール]]が指摘する様に port を bord と読み替えるなどする必要はあるが「火星が人馬宮の縁にある」などと訳すことになるだろう。
山根訳後半「川の向こう側で梯子が港に立てかけられ / 閃光 裂け目での大虐殺」は不適切。fort(砦)と port(港)を見間違えたか。また、pointes à feu(火縄銃)を「閃光」としているのも正しくない。
大乗訳後半「川を越えて はしごはとりでからあげられ / 拠点 火 大いなる殺害が不法のもとに」((大乗 [1975] p.86))も不適切。「砦から上げられ」は単なる誤訳。もとになった[[ヘンリー・C・ロバーツ]]の英訳では Beyond the river, the ladder shall be raised against the fort((Roberts [1949] p.63))と正しく訳されている。「拠点 火」が「火縄銃」の誤訳というのは山根訳と同じ。「不法のもとに」はロバーツの英訳の upon the breach を訳し間違えたものだろう。
*信奉者側の見解
[[エリカ・チータム]]は上で見たように2行目を「おお!トロヤの血は湾で矢を受けて殺された」と訳している関係上、フランスの王族(「トロヤの血」)が湾で殺されたという史実がないことを述べている((Cheetham [1990]))。
[[セルジュ・ユタン]]は、リシュリューによる1627年のラ・ロッシェル攻囲の予言と解釈した((Hutin [1978] / Hutin [2002/2003]))。
*同時代的な視点
詩の情景は分かりやすい。イングランドが[[ボルドー]]やラ・ロッシェルに援軍を送り、その戦火はロワル川(la Loir / Loire の支流)沿いのラ・フレシュにも拡大する。そして、ロワル川沿いの砦にも敵兵が押し寄せて来る(城や砦に梯子を掛けるのは攻城の一手段)。その中で城壁の裂け目では火縄銃が使われ、狙撃された人々が多く死ぬ、ということだろう。なお、ラ・フレシュの砦は1537年に建造されたものだという((Clébert [1982]))。
ボルドーやラ・ロッシェルにイングランドの援軍が来るというモチーフは、[[百詩篇第2巻1番]]と似ている。[[ピーター・ラメジャラー]]は、これらの詩を1548年にボルドー周辺で起こった反塩税一揆と結び付けている。この一揆では、イングランドが反乱側を助けるのではないかと懸念された((Lemesurier [2003b]))。
結果的にそうならなかったが、ノストラダムスがこの詩を書いたのはその5年ほど後でしかなく、先行きの不透明さを感じていたのではないだろうか。
なお、「[[トロイアの血]]」(sang Troyen)がフランス人を指しているとするのは、実証的な側からも支持されている((Brind’Amour [1996]))。この場合は、フランス人に対し、イングランドの動きを警戒するように注意喚起したものか。
#image(la rochelle.PNG)
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*原文
[[Euge]]&sup(){1}, [[Tamins]]&sup(){2}, Gironde & la Rochele,
O sang&sup(){3} Troien !&sup(){4} Mars&sup(){5} au port&sup(){6} de la flesche&sup(){7}
Derrier&sup(){8} le fleuue&sup(){9} au fort&sup(){10} mise l'eschele&sup(){11},
Pointes&sup(){12} a feu&sup(){13} gran&sup(){14} meurtre&sup(){15} sus la bresche.
**異文
(1) Euge : [[Enge>enger]] 1588-89 1600 1610 1716, Agen 1672
(2) Tamins : Tonneins 1672
(3) O sang : Osang 1649Ca
(4) Troien ! 1555 1627 1644 1650Ri 1653 1665 1840 : Troien &italic(){T.A.Eds.}
(5) Mars 1555 1627 1644 1650Ri 1653 1840 : Mort 1557U 1557B 1568 1589PV 1590Ro 1597 1605 1611 1628 1649Xa 1772Ri, mort 1588-89 1600 1610 1649Ca 1650Le 1668 1672 1716, Marts 1665
(6) port : Port 1672
(7) la flesche : le fleche 1589Rg, la Flesche 1644 1653, Flesche 1665
(8) Derrier : Dernier 1627 1665, Derriere 1589PV 1649Ca 1650Le 1668
(9) fleuue : Fleuve 1672
(10) fort : sort 1588Rf 1589Me, Fort 1672
(11) l'eschele : leschelle 1672
(12) Pointes : Portes 1588-89
(13) a feu 1555 1840 : à feu 1627 1644 1650Ri 1653 1665, feu &italic(){T.A.Eds.}
(14) gran 1555 1840 : grand &italic(){T.A.Eds.}
(15) meurtre : mettre 1588-89
**校訂
1行目 euge を[[ピエール・ブランダムール]]は、いくつかの異文に見られるように[[enge>enger]] と校訂している。文脈からはその方が好ましいと判断できる。
4行目 pointes à feu は「火縄銃」を意味する成句なので((Brind’Amour [1996]))、a は à となっているべきである。
*日本語訳
[[テムズ川]]が[[ジロンド川]]と[[ラ・ロッシェル]]を増長させる。
おお、[[トロイアの血]]よ! [[マルス]]は[[ラ・フレシュ]]の港に。
その川の裏手で砦に梯子が取りつけられ、
壁の裂け目では火縄銃で多くの死者が。
**訳について
山根訳1行目「でかした!テムズの人びと ジロンド ラ・ロシェルよ」((山根 [1988] p.100.以下この詩の引用は同じページ))は、euge を採用した訳としては正しい。2行目「おお!トロヤの血は湾で矢を受けて殺された」も、1568年版の原文である O sang Troyen mort au port de la flesche の訳としてなら許容されるものである。大乗訳の1、2行目も採用した原文の訳としては概ね許容される。
なお、2行目後半は La Flescheを地名と見ずに一般名詞の「矢」と捉えれば、星位を表している可能性もなくはない。その場合、[[ジャン=ポール・クレベール]]が指摘する様に port を bord と読み替えるなどする必要はあるが「火星が人馬宮の縁にある」などと訳すことになるだろう。
山根訳後半「川の向こう側で梯子が港に立てかけられ / 閃光 裂け目での大虐殺」は不適切。fort(砦)と port(港)を見間違えたか。また、pointes à feu(火縄銃)を「閃光」としているのも正しくない。
大乗訳後半「川を越えて はしごはとりでからあげられ / 拠点 火 大いなる殺害が不法のもとに」((大乗 [1975] p.86))も不適切。「砦から上げられ」は単なる誤訳。もとになった[[ヘンリー・C・ロバーツ]]の英訳では Beyond the river, the ladder shall be raised against the fort((Roberts [1949] p.63))と正しく訳されている。「拠点 火」が「火縄銃」の誤訳というのは山根訳と同じ。「不法のもとに」はロバーツの英訳の upon the breach を訳し間違えたものだろう。
*信奉者側の見解
[[エリカ・チータム]]は上で見たように2行目を「おお!トロヤの血は湾で矢を受けて殺された」と訳している関係上、フランスの王族(「トロヤの血」)が湾で殺されたという史実がないことを述べている((Cheetham [1990]))。
[[セルジュ・ユタン]]は、リシュリューによる1627年のラ・ロッシェル攻囲の予言と解釈した((Hutin [1978] / Hutin [2002/2003]))。
*同時代的な視点
詩の情景は分かりやすい。イングランドが[[ボルドー]]やラ・ロッシェルに援軍を送り、その戦火はロワル川(la Loir / Loire の支流)沿いのラ・フレシュにも拡大する。そして、ロワル川沿いの砦にも敵兵が押し寄せて来る(城や砦に梯子を掛けるのは攻城の一手段)。その中で城壁の裂け目では火縄銃が使われ、狙撃された人々が多く死ぬ、ということだろう。なお、ラ・フレシュの砦は1537年に建造されたものだという((Clébert [1982]))。
ボルドーやラ・ロッシェルにイングランドの援軍が来るというモチーフは、[[百詩篇第2巻1番]]と似ている。[[ピーター・ラメジャラー]]は、これらの詩を1548年にボルドー周辺で起こった反塩税一揆と結び付けている。この一揆では、イングランドが反乱側を助けるのではないかと懸念された((Lemesurier [2003b]))。
結果的にそうならなかったが、ノストラダムスがこの詩を書いたのはその5年ほど後でしかなく、先行きの不透明さを感じていたのではないだろうか。
なお、「[[トロイアの血]]」(sang Troyen)がフランス人を指しているとするのは、実証的な側からも支持されている((Brind’Amour [1996]))。この場合は、フランス人に対し、イングランドの動きを警戒するように注意喚起したものか。
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