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*原文
Plus XI. fois&sup(){1} ☽.☉. ne voudra&sup(){2},
Tous augmentés&sup(){3} & baissés&sup(){4} de degré&sup(){5}:
Et si bas mis que peu&sup(){6} or&sup(){7} lon&sup(){8} coudra:
Qu'apres faim, peste descouuert le secret&sup(){9}.
**異文
(1) XI. fois 1555 1840 : vnze fois 1557U 1557B 1568 1589PV 1597 1600 1605 1610 1611A 1627 1628 1644 1649Xa 1649Ca, onze fois 1588-89 1590Ro 1611B 1650Le 1650Ri 1653 1660 1665 1668 1716 1772Ri, d’unze fois 1672
(2) voudra : voudras 1627
(3) augmentés : augmenté 1568 1590Ro 1597 1600 1605 1610 1611A 1628 1649Xa 1716 1772Ri, augmentes 1672
(4) baissés : passez 1588-89
(5) degré : degrez 1597 1600 1610 1716, degre 1672
(6) peu : pur 1665
(7) or : d’Or 1672
(8) lon 1555 1840 : on &italic(){T.A.Eds.}(&italic(){sauf} ou 1588Rf 1589Me, l'on 1627 1644 1650Ri 1650Le 1653 1665 1668)
(9) secret : se cret 1653
(注記)1555の1行目は Luna Sol の部分が占星術の記号で書かれている(下の画像参照)。1557以降ではLuna Solとなる。
#image(430.PNG)
**校訂
[[ピエール・ブランダムール]]は、1行目の記号の部分は Luna Sol もしくは Lune Sol と読まれるべきとしている。これは韻律上の要請だろう。
3行目 lon は、当然 l'on となるべきである。
*日本語訳
十一回をこえて(人々は)望まないだろう、月と太陽が
両方とも増大し、その価値が下落するのを。
非常に(価値が)低くなるので、人々は黄金をほとんど縫えないだろう
飢餓と[[悪疫]]の後に、秘密が暴かれる。
**訳について
1行目は、一般的には山根訳「十一回を超えて 月は太陽を欲しないだろう」((山根 [1988] p.156))のように訳されてきたし、確かにそうとも読める。しかし、ここでは、ブランダムールらの読み方に従った。
山根訳は残りの行も含め、ひとつの訳し方としては許容できるものである。
大乗訳は3行目「ゆっくりと 少しの金はぬいあげられ」((大乗 [1975] p.130))を除けば、おおむね許容できる。
*信奉者側の見解
この詩は前の数篇の詩とともに錬金術的な詩と捉えられることが多かった。
賢者の石と関連付けた[[テオフィル・ド・ガランシエール]](1672年)もそうだったし、20世紀の[[ヘンリー・C・ロバーツ]]、[[エリカ・チータム]]、[[セルジュ・ユタン]]らもそういう見解だった((Roberts [1949], Cheetham [1990], Hutin [1978]))。
ただし、ロバーツの著書を補訂した[[ロバート・ローレンス]]らは、オゾン層破壊によって、太陽光線がより有害なものになることの予言とする解釈を追加した((Roberts [1994]))。また、ユタンの著書を補訂した[[ボードワン・ボンセルジャン]]は経済危機(時期の明示なし)とする解釈に差し替えている((Hutin [2002/2003]))。
日本では[[五島勉]]が「太陽」を日本、「月」を欧米として、欧米が日本のことをもうたくさんだと思う、つまり1980年代半ば以降激化しつつあったジャパン・バッシングの予言とし、2行目以降は、日本の株価や地価が極限まで値上がりした後に、「パチンとはじける」ことと解釈した((五島『ノストラダムスの大予言・日本編』pp.126-140))。解釈が発表された時期(1987年)を考慮に入れれば、バブル崩壊(1991年)を的中させたと見ることも可能だろう。なお、当時、バブル崩壊を警告した経済学者がいなかったわけではないが、そもそもバブルだと認識していなかった著名な経済学者や官庁エコノミストたちもいた((cf. 東谷暁『誰が日本経済を救えるのか!』pp.225-228 etc.))。
*同時代的な視点
月と太陽はそれぞれ錬金術のシンボルで銀と金である。3行目の「金を縫う」はブランダムールによれば「富を求める」を表す言い回しだといい、[[ピーター・ラメジャラー]]もそう読んでいる。ただし、[[マリニー・ローズ]]は「金貨を鋳造する」の意味としている((Brind’Amour [1996], Lemesurier [2003b], Rose[2002c]))。
ブランダムールによれば、これは当時のいわゆる価格革命を表した詩だという。
16世紀のヨーロッパは、新大陸から流入した大量の金銀(特に銀)によって継続的に物価が高騰しつづけ、庶民の暮らしを圧迫した。まさにこの詩で述べられているのは貨幣供給量の増大とそれにともなう貨幣価値の低下である。
なお、五島の解釈は一応的中といえるかもしれないが、世界恐慌を想定しているらしい文脈で語られていることを考えれば、不適切だろう。また、バブル崩壊に直結する解釈だったとしても、2行目の読み方が文脈を無視したものであり、ノストラダムスの真意ではないはずである。2行目で言われているのは数量の増大と価値の下落であり、あるものの価値が急上昇した後に暴落するといったものではない(フランス語でも「下落」の反対語は「上昇」であって「増大」ではない)。
蛇足ながら、現代の専門家によれば、16世紀当時の物価高騰は金銀の流入よりも人口の自然増に負うところが大きかったらしく、凶作や生活苦による産児制限などによって人口が減少に転じ始めた17世紀初頭以降は、物価は安定ないし下落に転じたという((楠井敏郎ほか『エレメンタル西洋経済史』英創社、pp.45-46))。4行目がそうしたメカニズムを見通したものだと考えるのはいくらなんでも穿ち過ぎであろうし、ブランダムールも四行目は謎としているが、ともあれ「飢餓」「ペスト」もまた当時のモチーフとして自然なものであることに異論はないだろう。
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- 教皇ピオ11世の在任中に起こったラテラノ条約(1929年2月11日)とドイツでのハイパーインフレ(1923年)などを予言 -- とある信奉者 (2012-02-25 13:21:45)
*原文
Plus XI. fois&sup(){1} ☽.☉. ne voudra&sup(){2},
Tous augmentés&sup(){3} & baissés&sup(){4} de degré&sup(){5}:
Et si bas mis que peu&sup(){6} or&sup(){7} lon&sup(){8} coudra:
Qu'apres faim, peste descouuert le secret&sup(){9}.
**異文
(1) XI. fois 1555 1840 : vnze fois 1557U 1557B 1568 1589PV 1597 1600 1605 1610 1611A 1627 1628 1644 1649Xa 1649Ca, onze fois 1588-89 1590Ro 1611B 1650Le 1650Ri 1653 1660 1665 1668 1716 1772Ri, d’unze fois 1672
(2) voudra : voudras 1627
(3) augmentés : augmenté 1568 1590Ro 1597 1600 1605 1610 1611A 1628 1649Xa 1716 1772Ri, augmentes 1672
(4) baissés : passez 1588-89
(5) degré : degrez 1597 1600 1610 1716, degre 1672
(6) peu : pur 1665
(7) or : d’Or 1672
(8) lon 1555 1840 : on &italic(){T.A.Eds.}(&italic(){sauf} ou 1588Rf 1589Me, l'on 1627 1644 1650Ri 1650Le 1653 1665 1668)
(9) secret : se cret 1653
(注記)1555の1行目は Luna Sol の部分が占星術の記号で書かれている(下の画像参照)。1557以降ではLuna Solとなる。
#image(430.PNG)
**校訂
[[ピエール・ブランダムール]]は、1行目の記号の部分は Luna Sol もしくは Lune Sol と読まれるべきとしている。これは韻律上の要請だろう。
3行目 lon は、当然 l'on となるべきである。
*日本語訳
十一回をこえて(人々は)望まないだろう、月と太陽が
両方とも増大し、その価値が下落するのを。
非常に(価値が)低くなるので、人々は黄金をほとんど縫えないだろう。
飢餓と[[悪疫]]の後に、秘密が暴かれる。
**訳について
1行目は、一般的には山根訳「十一回を超えて 月は太陽を欲しないだろう」((山根 [1988] p.156))のように訳されてきたし、確かにそうとも読める。しかし、ここでは、ブランダムールらの読み方に従った。
山根訳は残りの行も含め、ひとつの訳し方としては許容できるものである。
大乗訳は3行目「ゆっくりと 少しの金はぬいあげられ」((大乗 [1975] p.130))を除けば、おおむね許容できる。
*信奉者側の見解
この詩は前の数篇の詩とともに錬金術的な詩と捉えられることが多かった。
賢者の石と関連付けた[[テオフィル・ド・ガランシエール]](1672年)もそうだったし、20世紀の[[ヘンリー・C・ロバーツ]]、[[エリカ・チータム]]、[[セルジュ・ユタン]]らもそういう見解だった((Roberts [1949], Cheetham [1990], Hutin [1978]))。
ただし、ロバーツの著書を補訂した[[ロバート・ローレンス]]らは、オゾン層破壊によって、太陽光線がより有害なものになることの予言とする解釈を追加した((Roberts [1994]))。
また、ユタンの著書を補訂した[[ボードワン・ボンセルジャン]]は経済危機(時期の明示なし)とする解釈に差し替えている((Hutin [2002/2003]))。
日本では[[五島勉]]が「太陽」を日本、「月」を欧米として、欧米が日本のことをもうたくさんだと思う、つまり1980年代半ば以降激化しつつあったジャパン・バッシングの予言とし、2行目以降は、日本の株価や地価が極限まで値上がりした後に、「パチンとはじける」ことと解釈した((五島『ノストラダムスの大予言・日本編』pp.126-140))。
解釈が発表された時期(1987年)を考慮に入れれば、バブル崩壊(1991年)を的中させたと見ることも可能だろう。
なお、当時、バブル崩壊を警告した経済学者がいなかったわけではないが、そもそもバブルだと認識していなかった著名な経済学者や官庁エコノミストたちもいた((cf. 東谷暁『誰が日本経済を救えるのか!』pp.225-228 etc.))。
**懐疑的な見解
五島の解釈は一応的中といえるかもしれないが、五島が世界恐慌を想定しているらしい文脈で語っていたことを考えれば、不適切だろう。
また、バブル崩壊に直結する解釈だったとしても、2行目の読み方が文脈を無視したものであり、ノストラダムスの真意ではないはずである。
2行目で言われているのは、数量が増えることと対になる価値の下落であり、あるものの価値が急上昇した後に暴落するといったものではない(フランス語でも「下落」の反対語は「上昇」であって「増大」ではない)。
*同時代的な視点
月と太陽はそれぞれ錬金術のシンボルで銀と金である。
3行目の「金を縫う」はブランダムールによれば「富を求める」を表す言い回しだといい、[[ピーター・ラメジャラー]]もそう読んでいる。
ただし、[[マリニー・ローズ]]は「金貨を鋳造する」の意味としている((Brind’Amour [1996], Lemesurier [2003b], Rose[2002c]))。
ブランダムールによれば、これは当時のいわゆる価格革命を表した詩だという。
16世紀のヨーロッパは、新大陸から流入した大量の金銀(特に銀)によって継続的に物価が高騰しつづけ、庶民の暮らしを圧迫した。
まさにこの詩で述べられているのは、貨幣供給量の増大と、それにともなう貨幣価値の下落である。
蛇足ながら、現代の経済史学者によれば、16世紀当時の物価高騰は金銀の流入だけでなく、人口の自然増に負うところが大きかったらしく、凶作や生活苦による産児制限などによって人口が減少に転じ始めた17世紀初頭以降は、物価は安定ないし下落に転じたという((楠井敏郎ほか『エレメンタル西洋経済史』英創社、pp.45-46、馬場哲・廣田功ほか『エレメンタル欧米経済史』晃洋書房、pp.69-70))。
#amazon(4771023409)
4行目が(災厄による人口減が物価に影響するという形で)そうしたメカニズムを描写したものだと考えるのは、いささか穿ち過ぎであろうし、ブランダムールも四行目は謎としている。
ただ、いずれにしても、「飢餓」や「悪疫」もまた、当時のモチーフとして自然なものであることに異論はないだろう。
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- 教皇ピオ11世の在任中に起こったラテラノ条約(1929年2月11日)とドイツでのハイパーインフレ(1923年)などを予言 -- とある信奉者 (2012-02-25 13:21:45)