百詩篇第2巻10番

原文

Auant long temps1 le tout sera range2,
Nous esperons vn siecle bien senestre3:
L'estat des4 masques & des seulz5 bien changé,
Peu troueront qu'a6 son rang7 veuille8 estre.

異文

(1) long temps : longtemps 1611B 1628 1660, long-temps 1644 1653 1665 1716 1772Ri
(2) range 1555 : rangé T.A.Eds.
(3) senestre : changé 1589Rg
(4) L'estat des : L'astat des 1590Ro, L'estatides 1627, L'Estat des 1672
(5) des seulz : des feux 1588-89, de seuls 1627
(6) qu'a 1555A 1555V 1557U 1557B 1568A 1589PV 1590Ro 1597 1605 1628 1668 1840 : qu'à T.A.Eds. (sauf : qui a 1672)
(7) rang : sang 1840
(8) veuille 1555 1650Ri 1840 : vueille T.A.Eds.(sauf : veüille 1644, vueillent 1649Ca 1650Le 1668)

校訂

 1行目の range は構文上からも3行目との押韻上からも、当然 rangé となっていなければならない。この校訂に異論はない。
 3行目の des masques & des seulz をピエール・ブランダムールは des marques & des scelz と校訂している。ブリューノ・プテ=ジラールは支持しているが、ロジェ・プレヴォジャン=ポール・クレベールピーター・ラメジャラーは支持していない。

日本語訳

遠からずして全てが抑えつけられるだろう。
我々には非常に不吉な世紀が待ち受けるだろう。
顔を隠した者たちと独身者たちの地位はひどく変えられて、
その地位に留まりたい者はほとんどいないだろう。

訳について

 3行目については、とりあえずそのまま訳した。ブランダムールの校訂を受け入れるなら「印璽と玉璽の国家はひどく変えられて」となる。

 山根訳は細かなニュアンスの問題を除けば、3行目までは問題はない。4行目「おのれの階級にしがみついて離れたから彼らの気持ちはほとんど理解されまい」は、元になったはずのエリカ・チータムの英訳 few will find that they wish to retain their rank. *1と見比べてもおかしい。

 大乗訳1行目「ずっと以前にすべてがととのえられ」*2は誤訳。 avant longtemps (遠からずに、まもなく)は現代フランス語にも残っている成句である。
3行目「覆面されたままで かれらだけ変えられ」は、seuls (独身者たち)を形容詞として「唯一の~」と理解したものだろうが、構文上は無理のある訳。

信奉者側の見解

 19世紀末までにこの詩を解釈したのは、テオフィル・ド・ガランシエールとフランシス・ジローくらいだった。ガランシエールは聖職者の受難に関する予言として漠然と解釈していたが、ジローはルイ・フィリップの七月王政の予言としていた*3

 20世紀以降にもあまり解釈はされていないが、エリカ・チータムセルジュ・ユタンクルト・アルガイヤーはフランス革命になって旧制度が一掃されたことと解釈した*4
 アンドレ・ラモンはスペイン内乱(1936年)、ジョン・ホーグは20世紀になってそれ以前の時代とは大きく様変わりしたことと解釈した*5

 MMRでは「2000年問題」(Y2K)に関連し、人工衛星内のコンピュータが誤作動することを予言していたとされた*6

同時代的な視点

 ロジェ・プレヴォは「顔を隠した者」(masques)を魔術師(sorcier)のこととした。ジャン=ポール・クレベールは、プロヴァンス語の masco からきた魔術師を意味する語だが、異端のヴァルド派信徒の意味にもなったとし、この場合はプロテスタントの隠喩と推測している。
 「独身者」がカトリックの聖職者を指している点は、信奉者側にもほとんど異論はないといえる。
 クレベールは、近未来においてカトリックの聖職者にもプロテスタントの側にも大きな変化があることを予言したものとした*7

 ピーター・ラメジャラーは『ミラビリス・リベル』に予言された近未来の危機が部分的に投影されたものとした*8

 独特の校訂を行ったピエール・ブランダムールは、17世紀が不吉な時代になることを予言したもので、不動産や特権に関する証書類が、それを受け継ぐに相応しくない者の手に渡ることが描かれているとした*9


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コメントらん
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  • 例の (son) 階級 (rang)  …で銃殺刑に処する (fussile)  …すること (qui)  …を ほとんど…ない (peu) 考えるだろう (trouveront<trouver)   人類救済する場合、中途半端な救済でもよろしい -- 名無しさん (2014-05-13 23:40:48)
最終更新:2014年05月13日 23:40

*1 Cheetham [1973] p.75

*2 大乗 [1975] p.73

*3 Girault [1839] p.41

*4 Cheetham [1973], Hutin [1978], Allgeier [1989]

*5 Lamont [1943] p.154, Hogue [1997/1999]

*6 石垣ゆうき『MMR(12) 1999七の月』

*7 Prevost [1999] p.215, Clebert [2003]

*8 Lemesurier [2003b]

*9 Brind’Amour [1996]