百詩篇第3巻31番

原文

Aux champs1 de Mede, d'Arabe & d'Armenie2,
Deux grands3 copies4 trois foys s'assembleront5:
Pres du riuage6 d'Araxes7 la mesnie8,
Du grand Solman9 en terre tomberont.

異文

(1) champs : chands 1605
(2) d'Armenie : d'armenie 1649Ca 1650Le
(3) grands : gréds 1588Rf
(4) copies : copie 1590Ro, Copies 1672
(5) s'assembleront : sassembleront 1672
(6) riuage : riuages 1611, Rivage 1672
(7) d'Araxes : d'Arazes 1588-89, d'araxes 1653 1665
(8) mesnie : mesgnie 1557U 1557B 1568 1588-89 1590Ro 1597 1600 1605 1610 1611 1628 1649Xa 1660 1672 1716
(9) Solman 1555 1627 1644 1650Ri 1653 1665 1840 : Soliman T.A.Eds.

校訂

 4行目 Solman は Soliman の方が正しく、ピエール・ブランダムールの釈義でもそうなっているが、彼は原文については校訂せずそのまま Solman としている。韻律などを勘案して語中音省略と捉えたのかもしれない。

日本語訳

メディア、アラブ、アルメニアの野で、
二つの大軍が三度会戦するだろう。
アラクスの河岸近くで
大スレイマンの軍団が地に堕ちるだろう。

訳について

 訳の都合上、3行目の la mesnie は次の行に回す形で訳出している。

 大乗訳3行目「アラクスの海岸近く」*1は、アラクスは川の名前なので「海岸」が不適切。ただし、山根訳「アラクスムの海岸近くで」*2は解釈(後述)の都合上、意図的に「海岸」と訳されているので、大乗訳も類似の例と見ることは可能かもしれない。
 大乗訳4行目「ソリーマンの中にたおれるだろう」も不適切。grand も en terre も訳に反映されていない上、3行目の la mesnie が3行目にも4行目にも反映されていない。
 山根訳4行目「大いなるソリマンの家が 地に崩れ落ちるだろう」は、mesnieの受け取り方によっては可能な訳。

信奉者側の見解

 19世紀末までではテオフィル・ド・ガランシエールしか解釈していなかった。彼は、トルコとペルシアの3つの大戦を予言した詩で、一つ目はセリム2世の子ムラト3世の時に起こった Battle of Sancazan 、あと2つは未成就とした。
 アンドレ・ラモンは近未来にドイツ軍がトルコを攻めることの予言とした*3

 ジェイムズ・レイヴァーはレパントの海戦の予言とし、アラクスは川ではなく、ドン・フアン・デ・アウストリアがトルコ軍を破ったパパ岬(Cape Papa)の古称アラクスム(Cape Araxum)のこととした。この解釈はエリカ・チータムも踏襲した*4
 ジョン・ホーグは、レイヴァーの解釈を紹介する一方、スレイマン1世がペルシャ軍を破ったアラクスの戦い(1514年)を回顧的に描いたものではないかとした*5

 セルジュ・ユタンはオスマン帝国崩壊(1918年)とした*6

 五島勉は、アラクスを北アフリカの海岸と解釈した上で、アラブからアフリカにかけて、近未来に「大きなソリマン」が落ちる予言とし、Soliman はアナグラムして「OIL・AMN=オイル・精密核ミサイル」や「LSI・AM・NO=電子素子・精密ミサイル・核部隊」などではないかとした*7

 加治木義博は1991年にアルジェリアでイスラーム教の6カ国が集まる会議が開かれ、その頃にトルコの海岸近くにミサイルが落ちることになる予言と解釈していた。なお、加治木は3行目の mesnie を messie と改変し、「救世主」と訳している*8

懐疑的な見解

 ソリマン(Soliman)は現代フランス語にも残っているスレイマンに対応するフランス語表記である。「大スレイマン」がオスマン帝国のスレイマン大帝(在位 1520年 - 1566年)であることはほぼ疑いないところであろう。
 また、五島勉は「アラックス」を「北西部アフリカ海岸」と解釈しているが、アラクスはイランやアルメニア国内を流れる小アジアの川の名前である。

同時代的な視点

 詩の情景は平易である。メディア、アラビア、アルメニアの平原で二つの軍隊が一度ずつ(計三度)戦うことと、スレイマンの軍は(三度目にあたるアルメニアでの戦いの際に)アラクス河畔で撃破されることが表現されているのだろう*9
 エドガー・レオニが指摘するように「これは確かに詳細がはっきりしている詩だが、不運にも決して成就しなかった」*10


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  • 2020年1月3日に米軍によって暗殺されたイランの司令官の名前は、Soleimani だった。彼の名前にトルコ皇帝スレイマンが含まれていることを踏まえたうえで、第三次大戦でイランを中心としたイスラム国軍が結局アラクスの河岸近くで敗北するが、イランと軍事同盟を締結した中国軍はフランスに進行し、血まみれの鞭を残すだろう。 -- とある信奉者 (2020-01-05 17:09:36)
最終更新:2020年01月05日 17:09

*1 大乗 [1975] p.105

*2 山根 [1988] p.125

*3 Lamont [1943] p.312

*4 レイヴァー [1999] p.99, Cheetham [1973]

*5 Hogue [1997/19999]

*6 Hutin [1978]

*7 五島『ノストラダムスの大予言II』p.135

*8 加治木『人類最終戦争・第三次欧州大戦』1991年、p.113

*9 cf. Brind’Amour [1996]

*10 Leoni [1961/1982] p.606