百詩篇第5巻99番

原文

Milan1, Ferrare, Turin, & Aquilleye2,
Capne3, Brundis4 vexés par5 gent6 Celtique7:
Par le8 Lyon & phalange9 aquilee10,
Quant11 Rome aura le chef vieulx Britannique12.

異文

(1) Milan : Malin 1716
(2) Aquilleye : Aquilloye 1557B 1627, Aquilee 1672, Afinilleye 1588Rf 1589Rg, Afinillee 1589Me
(3) Capne 1557U 1557B 1568 1589PV 1590Ro 1605 1611 1628 1649Ca 1649Xa 1660 1772Ri 1840 : Capue T.A.Eds.
(4) Brundis : Brandis 1588-89
(5) par : per 1665 1867LP
(6) gent : gens 1588-89, geut 1867LP
(7) Celtique: celtique 1653 1665
(8) Par le : Lar le 1653, Larde 1665
(9) phalange : phalangue 1588-89
(10) aquilee : Aquilee 1672
(11) Quant 1557U 1557B 1568A 1568B 1568C 1589PV 1597 1610 1611A 1627 1644 1649Ca 1650Ri 1650Le 1840 : Quand T.A.Eds.
(12) Britannique : britannique 1840

校訂

 2行目の Capne は明らかに Capue の誤植。

日本語訳

ミラノフェッラーラトリノ、アクイレイア、
カプア、ブリンディジは悩まされるだろう、ケルト人によって、
獅子によって、鷲の軍隊によって。
ローマがブリタニアの老人を指導者に戴くであろう時に。

訳について

 山根訳はおおむね問題はない。

 大乗訳の前半は固有名詞の表記とケルト人を「フランス」と訳すことの当否を除けば、構文理解上の問題はない。
 3行目「しし座と水瓶座の軍隊で」*1aquileeをどう訳すかの問題。水瓶座(Aquqlius)と結びつけるのは若干強引に思える。
 4行目「ローマが古いブリタニアの主たるとき」は誤訳。aura (will have)と sera (will be)は意味が異なる。ヘンリー・C・ロバーツの英訳では When Rome shall have as chief, old Britannia.*2となっており、別に問題はない。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエールは「ここで言及されている都市は全てイタリアにある」としか注記していなかった*3
 それ以降、20世紀に入るまで解釈する者はいなかったようである。少なくとも、バルタザール・ギノーテオドール・ブーイフランシス・ジローウジェーヌ・バレストアナトール・ル・ペルチエチャールズ・ウォードらの解釈書では触れられていない。

 アンドレ・ラモンは近い将来にイタリアが共産主義化し、それをイギリス軍、フランス軍、イリュリア人の軍隊が攻めることと解釈した*4

 エリカ・チータムは、ステュアート家の最後の生き残りであったヨーク枢機卿公(Cardinal-Duke of York)がローマで死んだのが1807年で、ちょうどナポレオンがイタリア全土を征服していた時期と重なっていたことと解釈した*5。チータムは明示していないが、これはエドガー・レオニの解釈を踏襲したものである。
 セルジュ・ユタンもナポレオンのイタリア征服と解釈した*6

同時代的な視点

 ロジェ・プレヴォは4行目をイギリス出身のローマ教皇が在位しているときと理解し、現在までで唯一のイギリス出身教皇ハドリアヌス4世(在位:1154年 - 1159年)の時期の出来事がモデルになっていると判断した。
 この時期はミラノの反乱、神聖ローマ皇帝フリードリヒ1世の軍勢(鷲の軍隊)の北イタリア侵攻、カプアの大火(1157年)、シチリア王国(ノルマン朝)の国王グリエルモ1世によるブリンディジ攻略が立て続けに起こっており、詩の情景と容易に結び付けられるという*7
 この解釈はブリューノ・プテ=ジラールピーター・ラメジャラーが支持している*8



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最終更新:2010年07月27日 21:57

*1 大乗 [1975] p.174

*2 Roberts [1949] p.178

*3 Garencieres [1672] p.231

*4 Lamont [1943] p.274

*5 Cheetham [1973]

*6 Hutin [1978/2002]

*7 Prévost [1999] p.53

*8 Petey-Girard [2003], Lemesurier [2003b]