詩百篇第9巻11番


原文

Le iuste à tort à mort1 lon2 viendra mettre
Publiquement & du3 millieu4 estaint:
Si grande peste5 en ce lieu viendra naistre,
Que les iugeans6 fouyr7 seront constraint8.

異文

(1) à tort à mort : à tort a mort 1568X 1590Ro, mort à tort à mort 1606PR 1607PR 1610Po 1716PR, à tort mort 1668P, a tort a mort 1672Ga
(2) lon 1568 1591BR 1597Br 1603Mo 1627Di : l'on T.A.Eds.
(3) & du : du 1606PR 1607PR 1610Po 1627Ma 1627Di 1644Hu 1650Ri 1716PR
(4) millieu : million 1572Cr, lieu 1606PR 1607PR 1610Po 1716PR, lieu sera 1627Ma 1627Di 1644Hu 1650Ri
(5) peste : Peste 1672Ga
(6) iugeans : Jugeans 1672Ga
(7) fouyr : fuyr 1572Cr 1591BR 1597Br 1603Mo 1606PR 1607PR 1610Po 1611 1644Hu 1650Le 1650Ri 1650Mo 1653AB 1665Ba 1667Wi 1668 1712Guy 1716PR 1840 1981EB, fuïr 1627Ma 1627Di 1720To
(8) constraint 1568 1590Ro 1653AB 1665Ba 1772Ri : contraints T.A.Eds.

校訂

 4行目 fouyr は fuyr / fuir となっているべき。また、最後は contraints の方が適切。

日本語訳

公正な者を人々は不当に死なせるだろう、
公開の場で。そしてその境遇から消去されるだろう。
その場所にあまりにも大規模な悪疫が生まれ来るので、
裁判官たちも逃げざるをえなくなるだろう。

訳について

 山根訳はおおむね問題はない。

 大乗訳1行目「まさしくあやまって死に」*1は誤訳。juste は冠詞が付いていることからして明らかに名詞として使われており、「まさしく」(justement)の意味に訳すのは不適切。
 同4行目「判断する間もなく」も誤訳。contraindre (強いる)や fuir (逃げる)が全く訳に反映されていない。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエールは「多くの人には、この詩は今はなき国王とこの前のペスト(the late King, and last Plague)のことだと分かる」とだけ注記していた*2

 バルタザール・ギノーは未来の情景とし、2行目の「その境遇から消去される」を「中年で消去される」と読み、35歳くらいから40歳くらいで不当に処刑される人物が現れた後、神が罰としてペストを流行らせる予言とした*3


 ジェイムズ・レイヴァーはフランス革命期に多くの人々が断頭台送りになった状況と解釈した。彼は2行目の estaint に「火が消える」という意味があることから、チュイルリー宮殿がタイル製造所(タイル焼き窯があった)の跡地に作られたことを指すとした*4
 セルジュ・ユタンもルイ16世の処刑と解釈し、ジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌもルイ16世処刑とその後の恐怖政治の描写とした*5

 エリカ・チータムは1649年のチャールズ1世の処刑と1655年から1656年にかけてのロンドンでのペスト流行と解釈した*6。これはガランシエールと同じだが、おそらくチータムはエドガー・レオニの指摘により知ったのだろう。なお、そのレオニは、ロンドンでのペストの流行を1665年から1666年のこととしている*7

同時代的な視点

 ルイ・シュロッセ(未作成)はフランソワ1世の長男であった王太子フランソワが死んだときに、毒殺した疑いをかけられてモンテククロが処刑されたことがモデルではないかとした*8

 ジャン=ポール・クレベールは、前半は不当に処刑される人物の描写ではなく、後半に描かれているペストに罹り、道端(公開の場)などで死んだ人々の可能性もあるとした(on を使った構文は「人々は~」とも、単なる受動態として「~される」とも訳せる)*9


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詩百篇第9巻
最終更新:2020年02月23日 06:51

*1 大乗 [1975] p.261

*2 Garencieres [1672] p.360

*3 Guynaud [1712] pp.319-320

*4 Laver [1952] p.162 / レイヴァー [1999] p.260

*5 Hutin [1978/2002], Fontbrune [1980/1982]

*6 Cheetham [1973/1990]

*7 Leoni [1961]

*8 Schlosser [1986] p.56

*9 Clébert [2003]