詩百篇第1巻49番


原文

Beaucoup beaucoup1 auant telles2 menées3
Ceux4 d'Orient5 par la vertu lunaire6
Lan7 mil sept cens feront grand8 emmenées9
Subiugant10 presques11 le coing Aquilonaire12.

異文

(1) Beaucoup beaucoup : Beaucoup 1557B 1568 1590Ro 1591BR 1597Br 1605sn 1606PR 1610Po 1611A 1611B 1628dR 1649Xa 1716PR(a c) 1772Ri 1981EB, Baucoup 1607PR, Beau’coup 1716PRb
(2) telles : telle 1605sn 1611A 1628dR 1649Xa
(3) menées : menaces 1627Ma 1644Hu 1653AB 1665Ba
(4) Ceux : ceux 1649Xa
(5) d'Orient : d'orient 1557U 1557B 1568A 1590Ro, diOrient 1716PRb
(6) la vertu lunaire : la vertu Lunaire 1589PV 1590SJ 1605sn 1628dR 1649Ca 1650Le 1667Wi 1668 1672Ga, vertu lunaire 1612Me
(7) Lan mil 1555 1557U 1568A 1840 : L'an mil T.A.Eds. (sauf : l'an mil 1649Xa, L'An mil 1672Ga, L’an mal 1716PRb)
(8) grand : grands 1568 1590Ro 1590SJ 1591BR 1597Br 1606PR 1607PR 1610Po 1627Ma 1649Ca 1650Ri 1650Le 1667Wi 1668 1672Ga 1716PR 1772Ri, grandes 1589Me 1612Me
(9) emmenées : emmenée 1653AB 1665Ba
(10) Subiugant/Suiuguant : Subiungant 1607PR 1610Po, Subjugent 1716PRb
(11) presques 1555 1840 : presque T.A.Eds.
(12) Aquilonaire : Aquilonairé 1716PR(a c)

日本語訳

そうした策謀のずっとずっと前に、
東方の人々は月の力によって、
一千七百年に大遠征を行うだろう、
アクィロの片隅をほとんど屈服させつつ。

訳について

 emmenees を「遠征」としたのは、ピエール・ブランダムールジャン=ポール・クレベールの釈義で expédition があてられていることを踏まえた。高田・伊藤訳では「掠奪」が採用されている。

 大乗訳1行目「これらのことがなされる ずっとまえに」*1は、menees (策謀、策略)が「こと」としか訳されていない点が問題だろう。
 同2行目「月の力で 東で何かが起こるだろう」は ceux (人々)が訳されていない上、「何かが起こるだろう」は原文にない。元になったはずのヘンリー・C・ロバーツの英訳は Those of the East by virtue of the Moon,*2で特に問題はない。
 同4行目「全北半球のほとんどを征服するだろう」は誤訳。coin (片隅)がなぜ「北半球」になるのか分からない。ロバーツの英訳は And subdue almost the whole northern section. となっていた。

 山根訳1行目「それら突発事件が起きるずっと前に」、同4行目「北の地方をほぼ征服するだろう」*3も(上と重複するので理由説明は省くが)不適切。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエール(1672年)は後世の人々がこの詩に注目することを望むと述べ、1700年にトルコ軍がロシア、ポーランド、ハンガリー、スウェーデン、デンマークなどの地域を征服することになると解釈した*4

 しかし、トルコと結びつける解釈は史実と整合しない(下の「懐疑的な見解」の節を参照)。
 そのためか、20世紀半ばまでこの詩はほとんど省みられず、バルタザール・ギノーテオドール・ブーイフランシス・ジローウジェーヌ・バレストアナトール・ル・ペルチエチャールズ・ウォードマックス・ド・フォンブリュヌ(未作成)アンドレ・ラモンロルフ・ボズウェルの著書には載っていない。
 唯一の例外は匿名の『暴かれた未来(未作成)』(1800年)で、「アクィロの片隅」はオランダのことで、ルイ14世が攻め込んだことと解釈した*5

 20世紀後半には、年代をそのまま捉える論者と何らかの読み替えをほどこす論者に分かれた。
 前者の解釈としては次のものが挙げられる。
 エリカ・チータムは北方戦争(1700年 - 1721年)と解釈し、この詩には当たった部分と外れた部分があるとした*6
 ジョン・ホーグも北方戦争と解釈し、2行目はスウェーデン王カール12世がトルコを巻き込んだことと解釈し、4行目はこの戦争の結果、ロシアが領土を大きく増やしたこととした*7

 後者の解釈としては次のものが挙げられる。
 ヘンリー・C・ロバーツは、325年を加える計算(第6巻54番参照)をこの詩にも当てはめ、2025年に経済的・工業的な伸張を完成させた中国が、ロシア北部やスカンジナビア半島を併合する予言と解釈した*8。のちの改訂版では、1989年のチベット独立要求も予言していたという解釈が追加されている*9
 セルジュ・ユタンは、1700年をイスラーム勢力が地中海東部から撤退したときとした上で、1970年代を指しているとし、大戦につながっていくおそれがあることを指摘していた。ただし、その一方で、ピョートル大帝(在位:1682年 - 1725年)のときにロシアが強国になった予言ともしていた。のちの改訂版では前者の解釈は削られている*10

 五島勉は、この場合の1700年は聖書で特別な意味を持つ「17」と「千年」の組み合わせたもので3797年と同様に1999年を示す暗号で、西暦1999年頃に中国とソ連が戦い、それが世界大戦に結びつくことを予言しているとした*11

懐疑的な視点

 エドガー・レオニは第二次ウィーン包囲(1683年)の失敗と、続く戦争の結果、オスマン帝国はカルロヴィッツ条約を結んで、ヨーロッパの領土の多くを手放す羽目になったことや、1700年にアゾフをロシアに割譲したことを挙げ、詩の情景が示しているオスマン帝国(月)による大遠征の予言は見事に外れたとした*12
 高田勇伊藤進もカルロヴィッツ条約などを挙げ、詩の情景と史実が一致していないことを指摘した*13

同時代的な視点

 ピエール・ブランダムールは、リシャール・ルーサの影響を指摘した。ルーサは1703年に白羊宮で木星と土星の合が起こるときに、非常に大きな動乱があると述べていたが、その1703年から端数を切り捨てたものがこの詩の「1700年」ではないかとした。高田勇伊藤進もその見解を支持した*14
 なお、ブランダムールは、1行目について、これよりも前の詩篇で描かれた出来事よりも前と理解した。確かに、直前の詩では予言の終わりについて述べているので、それに比べれば西暦1700年は「ずっとずっと前」となるだろう。

 ピーター・ラメジャラーは『ミラビリス・リベル』に収録されていた偽メトディウス、リヒテンベルガーらの予言が投影されているとした*15

 ロジェ・プレヴォは指定されている年から2世紀を引いた1499年から1501年に、オスマン帝国のバヤズィト2世が、(トルコから見て北方にある)ヴェネツィアを攻略し、一部領土の割譲を受けたことと解釈した*16


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  • 3章77とツインの詩篇(最初の2行で文章が終わってると読む) 北方戦争(1700-21)、とイラン革命(1979)の影響でロシアのアフガン侵攻を予言。 -- とある信奉者 (2010-09-18 12:38:14)

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詩百篇第1巻
最終更新:2018年08月12日 18:20

*1 大乗 [1975] p.57

*2 Roberts [1949] p.25

*3 山根 [1988] p.52

*4 Garencieres [1672]

*5 L'Avenir dévoilé..., p.114

*6 Cheetham [1990]

*7 Hogue [1997]

*8 Roberts [1949]

*9 Roberts [1994]

*10 Hutin [1978] pp.57, 89 ; Hutin [2002]

*11 五島『ノストラダムスの大予言II』pp.229-230

*12 Leoni [1961]

*13 高田・伊藤 [1999]

*14 Brind’Amour [1993] p.213 ; 高田・伊藤 [1999] pp.60-61

*15 Lemesurier [2003b/2010]

*16 Prévost [1999] pp.98-99