百詩篇第4巻33番

原文

Iuppiter ioint plus Venus qu'à 1 la Lune 2
Apparoissant de plenitude blanche:
Venus 3 cachée 4 soubs la blancheur Neptune,
De Mars 5 frappé 6 par 7 la granée 8 branche 9 .

異文

(1) qu'à : qu'a 1649Ca 1650Le 1668A, quà 1650Ri
(2) Lune : lune 1665
(3) Venus : Venu 1597 1600 1610 1716
(4) cachée : caché 1588-89 1589PV
(5) Mars : mars 1627
(6) frappé : frappée 1557U 1557B 1568 1597 1600 1605 1610 1611 1628 1649Ca 1649Xa 1650Le 1660 1668 1672 1712Guy 1716 1772Ri
(7) par : & par 1600
(8) granée : grauée 1568B 1568C 1568I 1597 1600 1605 1610 1611 1627 1628 1649Xa 1660 1672 1716 1772Ri, grande 1588-89 1649Ca 1668
(9) branche : blanche 1611B 1627 1644 1653 1660 1665 1712Guy

校訂

 4行目 frappé は frappée とするかどうかで、どの語にかかるかが変わりうる。ピエール・ブランダムールは後者を採用し、3行目の Venus にかからせている。また、彼は granée を grauée (gravée)に校訂した。これらはいずれもブリューノ・プテ=ジラールピーター・ラメジャラーが支持している(厳密に言えば、ラメジャラーは前者の校訂に何も触れていないが、実質的にそういう読み方をしている)。

日本語訳

ユピテルはルナよりもウェヌスと結びつけられて、
白く満ちた姿で現われる。
ウェヌスネプトゥヌスの白さの下に隠されて、
マルスが重くした枝で打ち据えられるだろう。

訳について

 山根訳と大乗訳は依拠している底本に基づく訳としてならば、ほぼ問題がない。唯一の疑問点は神名をことごとく星の名前で訳す中で、ネプトゥヌスを海王星と訳した点だが、これは訳の問題というより解釈上の問題だろう。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエールは、ここで書かれていることを天文学的かつ占星術的な事柄だとしつつも、ノストラダムスが何を想定していたのか推し量ることは困難だとした *1

 バルタザール・ギノー百詩篇第4巻28番から始まる6篇の錬金術的な詩の最後と位置付けていたが、詳述はしていなかった *2


 エリカ・チータム百詩篇第4巻28番29番30番と連続する詩の可能性を示したが、詳述はしなかった。

 セルジュ・ユタンは錬金術的な詩とした。

 ヴライク・イオネスクは3行目のネプトゥヌスを海王星と解釈し、その発見(1846年)に関する詩とした。彼は2行目をウェヌスではなくルナの説明と捉え、この詩は海王星発見のときに満月であったことと、月と海王星が合にあったことなどを予言していたとした *3
 パトリス・ギナール(未作成)はこれを支持するだけでなく、この詩が百詩篇第8巻69番百詩篇第1巻84番とともに、土星以遠三惑星(当時。現在は冥王星が降格)発見に関するトリオになっているというイオネスクの見解自体を支持し、詩番号から補強を試みた。
 詩番号の4巻33番(第1巻1番からの通算で333番目の詩)は、天王星の公転周期(84年)と冥王星の公転周期(249年)の和であるとともに、天王星の公転周期を2倍したものと海王星の公転周期(165年)の和に等しく、なおかつ海王星の公転周期のほぼ2倍に当たっているとした *4

 モーリス・シャトラン(未作成)は海王星発見の日と同じ星位になる1997年1月23日前後に新惑星が発見されることになる詩としていた。シャトランの原稿を訳した南山宏は、新しい小惑星「1996TL 66 」が1996年10月に発見され、1997年6月に報道されたことによって的中したと述べた *5

同時代的な視点

 ピエール・ブランダムールは錬金術的な詩とし、銅(ウェヌス)を銀(ルナ)よりも錫(ユピテル)と結合させると、白さに輝くようになり、それを水(ネプトゥヌス)に浸して冷やしたあとに、鉄(マルス)を仕込んだ棒で叩いて粉にするという過程を描写したものとした *6ピーター・ラメジャラーはこれを支持し、伊藤進も一つの可能性としてこの読み方を紹介した *7
 なお、標準的な意味での銅と錫の合金は青銅であり、古来知られていた。

 ジャン=ポール・クレベールは前半を星位についての描写とし、後半はギリシア神話がモデルになっているとした。
 彼が引き合いに出したエピソードは以下のようなものである。アプロディテ(ウェヌス)はヘパイストス(ウォルカヌス)の妻だったが、アレス(マルス)と不倫関係にあった。妻の不義を知ったヘパイストスはベッドに極細の網を仕掛けたが、気付かぬアプロディテとアレスはそれにかかってしまった。
 ヘパイストスはその状態の二人を神々の前にさらし、妻の不義を告発したが、ポセイドン(ネプトゥヌス)がアプロディテたちをかばう形で仲裁に入り、彼女たちは逃げ出すことができた *8
 こうした読み方では、「マルスが重くした枝で打ち据えられるだろう」というブランダムールやラメジャラーによる4行目の校訂は受け入れられない。クレベールは granée をラテン語 granosus からとして「穀粒の持ち主」と読み、アレスがユノから生まれた際に、ユノが自然に身ごもったのではなく豊穣の女神フローラの種子に影響されたという伝説と関連付けた。つまり「マルスは穀粒の持ち主(フローラ)の枝に打たれる」ということのようだが、行の冒頭の De には触れていない。クレベールは granée branche を「穀粒の付いた枝」つまり「穂」のことと解釈して、別の豊穣の女神デメテル(ケレス)のシンボルと解釈することもできるとした。
 ウェヌスとユピテルの合については『1566年向けの暦』でも言及があり、さまざまな葬儀をもたらすものと位置付けられている。しかし、クレベールはその「葬儀」の説明中で、ノストラダムス自身の死(1566年7月)には触れていないことにも注意を喚起している *9

 クレベールの解釈はよくできているが、神話上のモチーフを具体的な星位に結び付けてどのような事件を表現しようとしたのかは、いまひとつはっきりとしない。


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