詩百篇第10巻86番


原文

Comme vn1 gryphon2 viendra le roy3 d'Europe
Accompaigné4 de ceux d'Aquilon5,
De6 rouges & blancz7 conduira grand8 troppe9
Et yront10 contre le roy11 de Babilon12.

異文

(1) Comme vn : Comm'vn 1627Ma 1627Di
(2) gryphon : Gryphon 1611B 1627Ma 1627Di 1981EB 1672Ga
(3) roy 1568X 1568A 1568B 1590Ro 1605sn 1628dR 1649Xa 1772Ri : Roy T.A.Eds.
(4) Accompaigné : Accompagne 1672Ga
(5) d'Aquilon : de l'Aquilon 1568X, de l'aquilon 1590Ro, d'aquilon 1627Di
(6) De : Ce 1650Mo
(7) blancz : blanc 1650Ri, olancs 1650Mo
(8) grand : grane 1649Ca, grande 1667Wi 1668 1672Ga 1981EB
(9) troppe 1568X 1568A 1568B 1605sn 1649Xa 1649Ca 1840 : trouppee 1568C, troupe 1591BR 1597Br 1603Mo 1606PR 1607PR 1610Po 1611 1627Ma 1627Di 1644Hu 1650Ri 1650Mo 1653AB 1665Ba 1716PR 1720To 1772Ri 1981EB, trouppe 1590Ro 1650Le 1667Wi 1668, Troupe 1672Ga
(10) yront : Iront 1672Ga
(11) roy 1568X 1568A 1568B 1590Ro 1605sn 1628dR 1649Xa 1772Ri : Roy T.A.Eds.
(12) de Babilon : Babylon 1650Mo, de babylon 1665Ba 1720To

(注記)1716PRbはページ欠落のため比較できず。

日本語訳

グリフィンのようにヨーロッパの王が来るだろう、
アクィロの人々に随行されて。
彼は赤と白の者たちの大軍隊を導くだろう。
そして彼らはバビロンの王に対抗するだろう。

訳について

 4行目 aller contre は「対抗する、反逆する」を意味する成句(iront は aller の活用形)。

 山根訳は全く問題ない。
 大乗訳は3行目「赤と白は軍を指揮し」*1が誤訳。変則的なケースを想定しても、前置詞 De の役割や動詞の活用形との不整合の説明がつかず、rouges や blancs を主語にとることはできない。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエールは三十年戦争と解釈した。「ヨーロッパの王」は、ヨーロッパの一角を占めるスウェーデンの王グスタフ・アドルフで、「バビロンの王」は神聖ローマ皇帝を指すという。後者の根拠として、ローマカトリックと親和的であることや、バベルの塔にて多くの言語によって混乱したことが、神聖ローマ帝国内に多くの領邦国家が分立していたことの比喩になっていることを挙げた*2

 アナトール・ル・ペルチエは、ルイ18世が最初に王政復古を果たしたとき(1814年5月3日)と解釈した。「ヨーロッパの王」は、ヨーロッパ諸王の中で第一位のフランス王を指し、ルイ18世がロシア(アクィロ)、イギリス(赤の者たち)、オーストリア(白の者たち)の協力を取り付けつつ、ナポレオン(バビロニアの王、ル・ペルチエはバビロニアをパリの隠喩とし、そこにいる王と解釈した)と対立したことと解釈した*3
 この解釈はチャールズ・ウォードジェイムズ・レイヴァーエリカ・チータムらが踏襲した*4

 アンドレ・ラモン(1943年)は近未来の情景として、グリフィンを翼を持つ戦力、つまり空軍と解釈し、強大な空軍力を持つアメリカがソ連や連合軍と結託し、ナチスに爆撃を行う予言と解釈した*5

 ジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌ(1980年)は、近未来の戦争の情景として、ワルシャワ条約機構の加盟国が、ロシアやイスラーム勢力とともにパリに侵攻する予言としていた*6

 セルジュ・ユタン(1978年)はヨーロッパの王をナポレオンとし、バビロニアの王をイギリスもしくは未来の大君主としたが、時間軸が不明瞭でどのような事件を想定していたのか、よく分からない*7
 ボードワン・ボンセルジャン(2002年)による改訂版では、ヨーロッパの王はNATOで、それとロシアの混成部隊が、近未来にイラクの指導者(バビロニアの王)を攻めることになると解釈していた*8

 加治木義博(1990年、1991年)は近未来に起こる第三次欧州大戦の情景と解釈した。グリフィンはアメリカ(鷲)とイギリス(獅子)を指し、それにロシアなども加わった白(西欧)と赤(東欧)の混成部隊が、イランやイラクの軍勢と対決すると解釈していた*9

同時代的な視点

 ルイ・シュロッセ(未作成)は、神聖ローマ帝国とフランスの間でカンブレーの和約(1529年8月)が結ばれた頃の情勢がモデルと解釈した*10

 ジャン=ポール・クレベールは、グリフィンを2つの王位を継承する君主の比喩ではないかとしたほか、赤をカトリック、白をプロテスタントと解釈するなどした*11

 ピーター・ラメジャラーは第三次十字軍(1189年 - 1192年)と解釈した。
 このときの十字軍では、フランス王フィリップ2世(尊厳王)、神聖ローマ皇帝フリードリヒ1世(バルバロッサ)、北方の雄であるイングランド王リチャード1世(獅子心王)という名だたる君主が出征した。十字軍兵士の標準的な服装は白い衣に赤い十字で、リチャード1世の盾にはグリフィンの図像が刻まれていた。
 対するイスラーム勢力の雄はアイユーブ朝のサラディンで、彼が数多く所有していた肩書きの一つには「バビロニアの王」があった。
 ラメジャラーはこうした史実が詩の情景と重なることを指摘しつつ、それが『ミラビリス・リベル』が描いていた将来のアラブ勢力の侵攻と、それへのヨーロッパ勢の反攻というモチーフにも投影されていると述べた*12


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  • バビロニア(現イラク)を拠点として隆盛したISISを倒すためにシリアを爆撃しているロシアや英米が予言されている。 2015年10月初旬の今、木星と土星が《合》の位置に近づきつつあるから、それは苛烈な戦闘になるだろう。 統一武力として来るなら、火星(赤)と海王星(白)が《合》に近づく2016年12月下旬から2017年初旬かな? -- とある信奉者 (2015-10-07 19:03:40)
  • 訂正: 木星と土星が《合》 → 木星と火星が《合》 -- とある信奉者 (2015-10-07 19:15:09)

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詩百篇第10巻
最終更新:2019年11月20日 01:53

*1 大乗 [1975] p.306

*2 Garencieres [1672]

*3 Le Pelletier [1867a] p.221

*4 Ward [1891] pp.305-306, Laver [1952] pp.184-185, Cheetham [1973]

*5 Lamont [1943] pp.312-313

*6 Fontbrune [1980/1982]

*7 Hutin [1978]

*8 Hutin [2002]

*9 加治木『真説ノストラダムスの大予言』p.237, 同『人類最終戦争・第三次欧州大戦』p.208

*10 Schlosser [1986] p.70

*11 Clébert [2003]

*12 Lemesurier [2003b/2010]