六行詩30番

六行詩集>30番*

原文

Dans peu de temps1 Medecin2 du grand mal,
Et la sangsuë3 d'ordre & rang inegal,
Mettront4 le feu à la branche d'Oliue5,
Poste6 courir, d'vn & d'autre costé,
Et par tel feu leur Empire accosté7,
Se r'alumant8 du franc finy saliue9.

異文

(1) Dans peu de temps : Dans peu de jours 1600Au, Dame peu de temps 1600Mo
(2) Medecin : medecin 1600Mo
(3) sangsuë : censue 1600Au 1600Mo, Sangsue 1672Ga
(4) Mettront : Mettant 1600Mo
(5) d'Oliue : d'oliue 1600Mo
(6) Poste : Post 1611B
(7) accosté : augmenté 1600Au
(8) r'alumant : rallumant 1672Ga
(9) saliue : la vie 1600Au

(注記)1600Au の1行目の異文は六行詩18番の綴りと対照すれば、jours 以外には読めない。

日本語訳

間もなく大病を治す医師と、
序列も地位も不釣合いな蛭が、
オリーヴの枝に火をつけるだろう。
伝書使はどちらの側も巡り、
そして、そんな火が彼らの帝国に近づく、
自由な者の終わった議論を再燃させつつ。

訳について

 六行詩集には le franc pays (フランク族の国、自由な国)という語が何度も出てくるので、6行目の du franc は du franc pays を省略した可能性もあるだろう。
 同じ行の salive の直訳は「唾」だが、日本語でも「口角泡を飛ばす」が唾で以って議論の激しさを表すように、フランス語でもしゃべる様子に使う。現代の俗語でも dépenser beaucoup de salive (大いによくしゃべる)という表現があり*1マリニー・ローズもこの場合はその意味としているので*2、ここでは「議論」とした。

信奉者側の見解

 ノエル=レオン・モルガールの用語解説では、「大病を治す医師」はフランス王、「蛭」はスペイン王となっている*3

 テオフィル・ド・ガランシエールは、「大病を治す医師」はフランス王、「蛭」はスペイン王で、彼らが(平和のシンボルである)「オリーヴの枝に火をつける」とは、交戦状態になることを示すとした。ガランシエールは1636年(1635年の誤り)にフランスがスペインに宣戦布告し、三十年戦争に参戦したことと解釈した*4

 エミール・リュイール(未作成)は、「蛭」をスペインとし、スペイン内乱(1936年 - 1939年)が他のヨーロッパ諸国に影響を及ぼしたこととした*5

 ジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌは、未来の欧州で起こる大戦の戦火がイスラエルにも飛び火する予言と解釈した*6

 五島勉は、「オリーヴ」は旧約聖書に登場するオリーブ山の暗示で、未来にイスラエルが関わる戦争を予言したものとした*7

同時代的な視点

 モルガールやガランシエールが当然のように一致して「大病を治す医師」をフランス王、「蛭」をスペイン王とした根拠は不鮮明だが、ヨーロッパの2国間の戦争が拡大するさまを表しているらしいことは確かだろう。

 確かに、多少強引に読めば三十年戦争を的中させたと見えなくもないが、当時のフランスやスペインは頻繁に戦争をしていた。
 この詩が偽作された1600年前後の時期に限っても、ユグノー戦争末期( - 1598年)のフランスには、スペインが介入して単なる内戦にとどまらなくなっていたし、1600年から1601年にはサルッツォ侯国を巡ってフランスとサヴォワが争った。
 スペインも、フランスへの干渉だけでなく、オランダ独立に対する干渉をまだ続けていた(1609年に休戦条約が成立)。
 三十年戦争と安易に結びつける前に、以上のような背景を元に偽作された可能性を考慮する必要はあるだろう。

その他

 1600Au では27番になっている。なお、その1600Auでは直前の詩は25番扱いで、26番は欠番になっている。


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最終更新:2019年12月30日 01:41

*1 『仏和大辞典』; 田辺 [1980]

*2 Rose [2002c]

*3 1600Mo

*4 Garencieres [1672]

*5 Ruir [1939] pp.61-62

*6 Fontbrune [1980/1982]

*7 五島『ノストラダムスの大予言・中東編』p.160