百詩篇第3巻82番

原文

Freins 1 , Antibol 2 , villes 3 autour 4 de Nice,
Seront vastées 5 fer 6 , par mer 7 & par terre 8 :
Les sauterelles 9 terre & mer vent 10 propice,
Prins, morts 11 , troussés 12 , pilles 13 sans loy 14 de 15 guerre 16 .

異文

(1) Freins : Ereins 1597 1600 1610 1716, Erins 1605 1611 1628 1649Xa 1660 1672, Freius 1793Bo 1800Sa
(2) Antibol : Antibor 1568C 1568I 1597 1600 1605 1610 1611 1628 1649Xa 1660 1716 1772Ri 1791Ga 1793Bo 1800Sa, Antibe 1672
(3) villes : ville 1668P, Villes 1589PV 1716
(4) autour : au tour 1590Ro 1627 1840, auteur 1672, ourour 1772Ri
(5) vastées : gastees 1600 1610 1716, vestees 1627
(6) fer 1555 1589PV 1627 1644 1650Ri 1653 1665 1840 : fort T.A.Eds.
(7) par mer : par Mer 1672
(8) par terre : terre 1981EB, par Terre 1672
(9) sauterelles : saturelles 1568C 1605 1611 1628 1649Xa 1660 1772Ri 1791Ga 1793Bo 1800Sa, Sauterelles 1672
(10) terre & mer vent : terre & me vent 1588Rf, terre & vent 1589Me, Terre & Mer vent 1672
(11) morts : mort 1644 1653 1665
(12) troussés : trossés 1557U 1557B, troussees 1588-89, trassés 1590Ro
(13) pilles 1555 1557U 1568A 1590Ro 1600 1610 1840 : pillés 1557B 1568B 1568C 1568I 1772Ri 1791Ga 1793Bo 1800Sa, pillez 1588-89 1589PV 1597 1605 1611 1628 1644 1649Ca 1649Xa 1650Ri 1650Le 1653 1665 1668 1672 1981EB, pillées 1627
(14) loy : loz 1557B
(15) de : ne 1589PV
(16) guerre : heurre 1557B

校訂

 Freins は Fréjus のことで、Antibolは Antibes と同じだが、ピエール・ブランダムールらは特に綴りを直したりはしていない。
 4行目 pilles は pillés ないし pillez となっているべきで、ブランダムールやジャン=ポール・クレベールはそう直している。

日本語訳

フレジュス、アンチーブといったニース周辺の諸都市は、
海と陸から鉄器によって荒廃させられる。
イナゴたちが海と陸とで順風に乗る。
戦争の掟なしに囚われ、死なされ、縛られ、掠奪される。

訳について

 1行目の「フレジュス、アンチーブ」と「ニース周辺の諸都市」は並列的な関係と見るジャン=ポール・クレベールのような読み方と、別々の地名を並べたと見るピーター・ラメジャラーのような読み方がある。ここでは前者と理解し、言葉を補った。
 3行目の直訳は「イナゴたち、海と陸、順風」。ここでは高田勇伊藤進訳などを踏まえて言葉を補った。

 大乗訳2行目「海と陸から強力に破壊され」 *1 、山根訳2行目「海と陸から大いに荒らされよう」 *2 は fer でなく fort という異文を採用した結果で、その訳としては誤りではない。
 大乗訳3行目「イギリスは海と陸と順風とを得て」は、イナゴ(sauterelles)が「イギリス」になる理由が不明。ヘンリー・C・ロバーツの英訳ではそのまま grasshoppers となっている。

信奉者側の解釈

 テオフィル・ド・ガランシエールは、3行目のイナゴをトルコの隠喩と解釈し、アンリ2世がカール5世に対抗するためにオスマン帝国と同盟を結び、ニース攻略を行ったことと解釈した *3
 その後、20世紀に入るまでこの詩を解釈した者はいないようである。少なくとも、ジャック・ド・ジャンバルタザール・ギノーD.D.テオドール・ブーイフランシス・ジローウジェーヌ・バレストアナトール・ル・ペルチエチャールズ・ウォードの著書には載っていない。

 マックス・ド・フォンブリュヌ(未作成)はイナゴを空飛ぶ兵器と解釈し、近未来におけるイスラーム勢力のヨーロッパ侵攻と解釈した *4
 アンドレ・ラモンもイナゴを飛行機と解釈したのは同じだが、第二次世界大戦中に起こるであろう光景としていた *5
 「イナゴ」が飛行機の比喩である可能性についてはジェイムズ・レイヴァーも指摘していた *6

 藤島啓章は、3行目のイナゴ(バッタ)を重視し、1987年から1988年にアフリカで大発生して作物を食い荒らしたバッタ禍が再び起こり、順風に乗ってヨーロッパにまで波及すると解釈した *7

同時代的な視点

 ルイ・シュロッセ(未作成)は、フランソワ1世がオスマン帝国のバルバロス・ハイレッティン率いる艦隊の支援を受け、1543年にニースを陥落させたことがモデルとした *8

 ピエール・ブランダムールは武力による侵略とイナゴの来襲が重ねあわされていることを指摘したが、高田勇伊藤進はさらに一歩進め、イナゴが飢饉をもたらす害虫として古来認識されてきたことや、とりわけイタリアやスペインでは中世以来たびたびイナゴによる飢饉が引き起こされていたことを指摘した。また、「戦争の掟」というのは16世紀になって都市の略奪の仕方に一定の規範が設定され、自発的に降伏した都市には掠奪が認められなくなったことなどを指すのではないかとした *9

 ピーター・ラメジャラーは『ミラビリス・リベル』の中に、ローマが脅かされるときにシチリアやカッパドキアではイナゴの大群が発生するという予言があることから、そのモチーフを下敷きにしたのではないかとした *10

その他

 1672では80番とされている。1685はページを変えずに詩番号だけ書きかえて82番に直している(異文などに変更はない)。
 ヘンリー・C・ロバーツは1672を主たる底本にしたため、80番と位置付けており、その日本語版『ノストラダムス大予言原典・諸世紀』でも踏襲された。



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