百詩篇第7巻3番

原文

Apres1 de France la victoire nauale2,
Les Barchinons, Saillinons3, les4 Phocens:
Lierre d'or, l'enclume5 serré6 dedans la basle7,
Ceulx de Ptolon8 au fraud9 seront consens10.

異文

(1) Apres : Aupres 1627 1644 1653 1840
(2) nauale : Navale 1672
(3) Saillinons : Saillimons 1597 1600 1610 1627 1644 1650Ri 1653 1665 1716 1840, Salinons 1605 1649Xa 1672, Sallinons 1628, Sallinons 1668
(4) les : la 1650Le
(5) l'enclume : l'Enclume 1672
(6) serré : serrez 1644 1653 1665 1840
(7) basle 1557U 1557B 1568 1590Ro : balle T.A.Eds.
(8) Ptolon : Prolon 1627 1649Ca, Toulon 1672
(9) fraud : frand 1557B
(10) consens : confens 1628, contens 1649Ca

日本語訳

フランスの海戦の勝利の後、
― バルキノ人、サラ人、フォカエア人
黄金の貨幣、鉄床は大包みに仕舞われ、
プトロンの人々がその欺瞞に加わるだろう。

訳について

 2行目の民族名の列挙は、1行目の勝利に貢献した者達と捉えられることもあるが、前置詞がなく文脈が不明瞭なため、とりあえず挿入的なものと見なした。なお、民族名のうち、2つ目の Saillinonsはいくつかの読みの可能性がある。
 3行目 lierre は直訳では植物の「キヅタ」(常春藤)のことだが、プロヴァンス語の lièuro に由来する貨幣の意味と理解したジャン=ポール・クレベールの読み方に従った。

 大乗訳は2行目「チュニス サール ポースンの人々の上に金の樽」*1が不適切。ヘンリー・C・ロバーツの英訳をほぼ忠実に訳したものではあるのだが、Barchinonsをチュニスとするなどは現代では支持できない。

 山根訳3行目「黄金泥棒 球に封入された金敷き」は、一応誤りではない。lierre を「泥棒」とするのは、古フランス語からそう読んだエリカ・チータムの読み(元祖はエドガー・レオニ)に従ったものである。basle(balle)は「球」の意味も「(行商などに使う)大包み」の意味もある。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエールは、フランスがトルコに海戦で勝つことと解釈し、3行目はそのときに使われる榴弾(Grenade)のこととした*2
 その後、20世紀半ばまでこの詩を解釈した者はいないようである。少なくとも、ジャック・ド・ジャンバルタザール・ギノーD.D.テオドール・ブーイフランシス・ジローウジェーヌ・バレストアナトール・ル・ペルチエチャールズ・ウォードロルフ・ボズウェルジェイムズ・レイヴァーの著書には載っていない。

 マックス・ド・フォンブリュヌ(未作成)は近未来のフランスの戦争の情景と解釈した*3。彼の解釈ではSaillionons(未作成)はジュラ県のサラン(Salins)、Ptolonはギリシャ語に由来する「好戦的な者」の意味とされている。こうした読み方をアンドレ・ラモンも引き継ぎ、第二次世界大戦中に起こるであろう情景と解釈した*4

 それ以降の信奉者達も、ほとんどは全訳本の中で簡略な解釈が付けられている程度である。

同時代的な視点

 ピーター・ラメジャラーは出典不明としている*5

 ジャン=ポール・クレベールは、フランスが海戦で勝利した後、貨幣の偽造をする者たちが現れ、そこに「プトロン」の人々も加わることの描写とし、鉄床(かなとこ)は偽造の道具を表現したものとした*6。説得的な読み方ではあるものの、モデルとなった事件の特定はしていない。


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最終更新:2011年01月11日 21:36

*1 大乗 [1975] p.203

*2 Garencieres [1672]

*3 Fontbrune [1939] pp.123-124

*4 Lamont (1941)[1943]p.283

*5 Lemesurier [2003b/2010]

*6 Clébert [2003]