百詩篇第3巻92番

原文

Le monde proche du dernier periode,
Saturne 1 encor 2 tard sera 3 de retour:
Translat 4 empire 5 deuers nation Brodde 6 :
L'oeil arraché 7 à Narbon par Autour 8 .

異文

(1) Saturne : Saturn 1672
(2) encor : encore 1588-89 1660
(3) tard sera : sera tard 1672
(4) Translat : Traslat 1588Rf 1589Me, Treslat 1589Rg, Transslat 1840
(5) empire : Empire 1672 1716
(6) deuers nation Brodde : deuers nations Brode 1605 1628 1649Xa, deuers nations Brodde 1611A, nation Brodde 1649Ca 1650Le 1668, devers Nations brode 1672, deuers nationBrodde[sic.] 1840
(7) arraché : l'arrache 1588-89, arraché arrachá 1627
(8) Autour : autour 1589PV 1611 1649Ca 1650Le 1660 1668

日本語訳

世界は最後の時期に近い。
サトゥルヌスが今一度ゆっくりと戻ってくるだろう。
帝国はブロドの国の方に移し変えられ、
目はナルボンヌでオオタカに刳り貫かれる。

訳について

 現代フランス語の période は男性名詞か女性名詞かで意味が変わるが、中期フランス語ではその区分はルーズだった。なお、dernier periode は「衰退、滅亡」(ruine, déchéance)を意味する成句でもあったようだが *1ピエール・ブランダムールをはじめとする実証的な論者たちで特にそのように注記している者がいないので、ここでは直訳にとどめた。
 3行目「ブロドの国」は現在有力視されている見解からするなら「エブロドゥム(アンブラン)の地方」と訳してもよいのかもしれない(nation は中期フランス語では都市、地方を指すこともありえた)。しかし、とりあえずは直訳した。
 4行目 par Autour (オオタカによって)は、ジャン=ポール・クレベールによって par autour という副詞句の可能性も指摘されている。par autour とする場合、中期フランス語では「辺り一帯」(tout autour)の意味になる *2 。なお、Autour を鳥と捉える場合でも、中期フランス語では「猛禽」一般も意味した *3

 大乗訳、山根訳、そして『ノストラダムスの大予言』所収の五島勉訳についても触れておく。
 どの訳も1行目は特に問題はない。
 2行目について。大乗訳「サタンはなかなかあともどりせず」 *4 、山根訳「土星はまたも帰りが遅れるだろう」 *5 、五島訳「サチュルヌはいまだなお後退に遠く」 *6 は、いずれも不適切。この場合の tard はサトゥルヌスを形容しており、占星術上動きが遅い天体であることを表現しているに過ぎない *7 。大乗訳はそういう意味に解釈できる余地はあるが、「サタン」という表記に問題がある。

 3行目について。大乗訳「帝国は黒い国民に変わり」、山根訳「帝国は黒い国民の方に移行しよう」、五島訳「帝国は黒い民族のほうに傾き」は、Brodeの訳し方によっては許容されうるが、現在有力視されている読み方ではない。

 4行目について。大乗訳「ナルボンヌは彼の目をえぐりとるだろう」、五島訳「ナルボンヌの目はえぐりとられてしまうのだ」は、いずれも par Autour が訳に反映されていない。山根訳は当「大事典」の訳ともほとんど変わらない。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエールは、土星がその軌道を巡り終える前に世界が終わるが、それに先立ち、帝国が黒い民族の手に落ちることと解釈した *8
 その後、20世紀半ばまでこの詩を解釈した者はいないようである。少なくとも、ジャック・ド・ジャンバルタザール・ギノーD.D.テオドール・ブーイフランシス・ジローウジェーヌ・バレストアナトール・ル・ペルチエチャールズ・ウォードロルフ・ボズウェルジェイムズ・レイヴァースチュワート・ロッブの著書には載っていない。

 アンドレ・ラモンは empire を政治の中心と解釈し、フランスの首都がパリからヴィシーに変わった第二次世界大戦の状況に符合しているとした *9

 五島勉は世界が終末に近づくとき、鉛汚染が広がり、超大国アメリカでは黒人の影響力が強まることと解釈した *10 。なお、「ナルボンヌの目」は南仏の大学に刻まれていた言葉で、良識を意味する語だったと主張した。

 「ナルボンヌの目」を「良識」の意味とする解釈は加治木義博も踏襲し、1991年6月に出版した2冊の解釈書の中で、ソ連の改革が難航する予言とし、当てはまる時期の候補として1992年、93年、95年、96年を挙げていた *11

懐疑的な見解

 「ナルボンヌの目」が「良識」を意味する成句だという説は、五島勉とその解釈を鵜呑みにした日本人解釈者の著書にしか見られない。

同時代的な視点

 ピエール・ブランダムールは、リシャール・ルーサらの算定での7千年紀が過ぎて8千年紀に入る頃(西暦1800年頃)、サトゥルヌスの治世(黄金時代)が戻り来ることと解釈した。後半は断片的にしか解釈していないが、「目」は君主の比喩、「オオタカ」はミラノかもしれないとしていた(ミラノのフランス語名 Milan は、鳶を意味する milan との言葉遊びになる) *12

 ロジェ・プレヴォは前半の未来と後半の過去が重ねあわされているとし、後半は西ローマ帝国の滅亡、およびその時のナルボンヌへのアラブ人の到達などが描かれているとした *13 。2003年の段階ではピーター・ラメジャラーはこの読み方を支持していたが、2010年になると、この詩の前半がルーサからの影響だと指摘するにとどまった。

 ジャン=ポール・クレベールは第一序文(セザールへの手紙)との類似性を指摘した。
 「そして現在、我々は永遠なる神の全き御力によって、月に支配されている。その全周期が完成する前に太陽が来るであろうし、その次には土星が来るであろう。というのは、天の徴に従えば、土星の支配は戻り来るからだ。そして、あらゆる算定で、世界は断交の変革に近づいている。」(第43節、第44節)

 なお、「帝国が移される」というモチーフは百詩篇第1巻32番百詩篇第3巻49番百詩篇第5巻45番(未作成)にも登場する。



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