アンリ2世への手紙

 「アンリ2世への手紙」は、『予言集』第二序文の通称。

 正式名は「最も無敵にして極めて強大、そして敬虔なキリスト教徒であらせられるフランス王アンリ2世へ。そのとても賤しく、とても従順な従僕にして臣下であるミシェル・ノストラダムス(が)、勝利と至福を(お祈り申し上げます)」(A L'INVICTISSIME,TRES-PVISSANT ET tres-chrestien Henry Roy de France second; Michel Nostradamus son tres humble, tres-obeissant seruiteur & subiect, victoire & felicité.)という。

 その題名の通り、国王アンリ2世に宛てた献呈文の体裁を取っている。

 五島勉は海外では「ノストラダムスの黙示録」とも呼ばれていると主張していたが、調査の範囲ではそのような論者は見当たらない。

分量と内容

 4500語余りからなり、第一序文(セザールへの手紙)の約2500語を大きく上回る。

 区切りが全く存在しないので、過去さまざまな論者たちが内容によって区切ってきた。
などがある。

 どの区切りにも一長一短があり、最新の知見に基づく新たな区切りが要請されるところである。
 しかし、ピエール・ブランダムールがバレスト版の区切りを採用していたことから、当「大事典」でも便宜上それを踏襲している。

 その内容は、国王への賛辞に挟まれるようにして、黙示文学の影響の強い未来観を語っている。

 信奉者側は断片的な未来図がランダムに散りばめられていると解釈しがちだが、エドガー・レオニのように統一的に解釈すべきとする立場もある。

 中世から近世にかけての各種予言文書の影響が断片的にうかがえるが、研究の蓄積に乏しく、確定的なことはいえない。いくつかの星位に関する言及の内容からして、キュプリアヌス・レオウィティウスの天文暦が参考文献のひとつであったことは確からしい。

 なお、ノストラダムスがここで過大な賛辞をささげた相手は、アンリ2世よりもはるかに偉大な未来の大君主であるとする解釈が、信奉者側にはしばしば見られる。
 こうした解釈は、18世紀のジャン・ル・ルー(未作成)以来の長い歴史を持っているが、実証的に見たときには疑問である。
 賛辞の過大さにしても、『1557年向けの予兆』に収録されたもうひとつのアンリ2世への手紙の方がはるかに過剰であり、決め手とはいえないだろう。

 全文はアンリ2世への手紙 全文を参照のこと。

偽作説

 この手紙の奥付は1558年6月27日で、アンリ2世が致命傷を負うほぼ1年前になっている。
 ただし、現存する最古の版は1568年版なので、ミシェル・ショマラブリューノ・プテ=ジラールジャック・アルブロンらのように真筆かどうかを疑う見解もある。


※記事へのお問い合わせ等がある場合、最上部のタブの「ツール」>「管理者に連絡」をご活用ください。
最終更新:2020年04月24日 16:01