アンリ2世への手紙 (1557年)

 ノストラダムスは『予言集』に収められた「アンリ2世への手紙」よりも前に、『1557年向けの予兆』でもアンリ2世にあてた献辞を公表していた。

 以下に対訳を掲げるが、要約すると以下のようになる。
 まず前年に国王に謁見したことの礼とともに『1557年向けの予兆』を捧げている。次に、いかに国王が由緒正しい系譜に位置付けられているかを述べ、さまざまな学問的知見によっても国王個人が(血筋以外に取り得のない暗愚な君主などではなく)非常に優れた存在だと証明できると請合っている。最後に占星術的算定の正確さを強調するとともに、国王に庇護を求めている。

原文と対訳

AV TRES INVINcible, & trespuissant Roy, Henry, second de ce nom,
Michel de Nostradame souhaite victoire & felicité.

(1) Estant retourné de vostre court ô Serenissime & inuictissime roy non sans ample remuneration de vostre maiesté, & puis retourné a[à] m[ma] solitaire estude, me confiant de vostre bonté immense, non moins Imperialle que Royalle : laquelle m'a faict prendre ceste licencieuse audace vous consacrer les presaiges de lan[l'an] mil cinq cens cinquante & sept, (2) & à cause que lannee[l'annee] passee l'air nestoit[n'estoit] en telle serenité ne les astres disposez, ne me feut possible si amplement specifier les faictz & predictions futures de lan[l'an] cinq cens cinquante & six, me sentant aussi presque du tout esblouy, comme du Ciel frappé dauoir[d'avoir] esté veu & touché, (3) & parle au premier monarche de ce monde, au premier Roy des Roys, au bras dextre de toute la chrestienté, & aparmoy considerant de quelle heureuse felicité de siecle sont constituez ceulx qui sont à l'entour d'un si souuerain Soleil, comme deuant la face de vostre immesurée maiesté que d'une opinion tresconstante & doctrine indubitable, (4) fault necessairement confesser que celluy qui est constitué Roy entre tant grand peuple infini & innumerable qui[que] c'est quelque chose supernaturelle composer le corps de la quinte essence des elementz, & l'urne estre immortelle & auoir prins son origine du grand Dieu eternel que vostre merueilleuse vertu inextimable, acompaignée dune[d'une] rare bonté que à peu de Roys aduient hormis diuinement, iustement se peult esgaller aux memorables faictz des antiquissimes Roys Aeneades voz predecesseurs, lesquelz n'ont moins acquera[acquis] immortalité de renommee par les escriptures des historiographes, que par leurs memorables faictz.
(5) Toutesfois nous voulons auecques les naturelles raisons, par lesquelles nous est monstré vne certaine guyde pour scavoir entendre & inuestiguer la droicte voye de toute[toutes] ses causes supernaturelles soubz la concauité contenues au dobe edin [au globe divin] & auecques auctorité de plusieurs gloctes[doctes] philosophes & theologiens trestous vnanimes, confesserons que vostre maiesté est quelquechose creé plus que humaine. (6) Et vrayment estre quelque don celeste venu du siege de la divine habitation & envoiee aux Francoys & entremy d'une infinie & innumerable trouppe de princes extraictz de diuerses nations, tant par les siecles passez & presens ne se trouue vng qui soit digne d'estre veneré de tel nom Royal.
(7) Eti[Et si] pour cause ô sire que les enuieux ne prenent en ce de obiect adulatif, feray fin & aussi que l'exiguite du liuret ne peult extendre plus ample signification, aiant declairé amplement par vng chascun moys selon que les ymages celestes m'ont demonstré. (8) Il est bien vray que seront quelques vngs emoncte naris[emus & maris] qui trouueront cecy estrange. Sed solet fieri ut quicquid pauci assequi possunt, id in multorum reprehensionem incurrat.
(9) La raison est par trop euidente si bien vous vient à contempler les causes merueilleuses de la vertu de ceste nature de Dieu qui faict mouuoir le Ciel que quand nous verrons à leuer la face sur les heures nocturnes de terre en hault se vient à presenter proche de noz yeulx les moeurs de ceste grand fabrique celeste composés de si riches aornementx & fabriquee de gemmes tant precieuses, que auecques pure & claire splendeur & continuel mouuement penetrant de toutes pars, moyennant les vertus accordées & années de reuolutions, & années de grandes conionctions le tout iustement acordé, le iugement ne peult estre que veritable, mais ie seray ô sire contre les calumniateurs defendu de vostre immesurée maiesté Tamquam sub clipeo Aiacis.
(10) Faisant derechef fin ô treschrestien Roy priant au grand Dieu immortel vous octroyer vie longue, santé, venir[veoir] des vostres ce que les vostres ont veu de vous.

De vostre ville de Sallon de craux en Prouuence ce xiij de Ianvier mil cinq cens cinquante & six pour lannee[l'année] mil cinq cens cinquante sept.
Par vostre treshumble, treobeissant[tresobeissant] seruiteur & subiect Michel de Nostradame.


極めて無敵にして非常に強大なる王アンリ2世へ
ミシェル・ド・ノートルダムが勝利と至福をお祈り致します。

(1)おお、そのご威光が多くの恩恵をもたらさないはずはない、麗らかにして不屈の国王よ。私は陛下の宮廷から帰還した後、その“王の”というよりも“皇帝の”というに相応しい尽き果てぬ御慈愛にわが身を委ねつつ、孤独な研究生活に戻ったところでございます。そして、陛下の御慈愛に甘えて、向こう見ずにも『1557年向けの予兆』を献上しようと決心した次第でございます。
(2)昨年は大気がこんなには清澄でなく、星々も並びませんでしたので、1556年の事件や未来に属していた予言をこれほど多く特定することは出来ませんでした。また、(陛下に)お会いし接して頂いたのは、あたかも空から撃たれたかのごとくで、私はほとんどすっかり目がくらんだ様にも感じておりました。
(3)その世界の第一の君主にして、王の中の王、そして全キリスト教国の右腕(である陛下)に奏上するのです。この時代にあってそれがどれほどの幸福なことかと正しく考慮しつつ、唯一至高の太陽(である陛下)に向けて、そして同じく陛下の尽きせぬ御威光の御前に向けて、これらは一切揺らぐことのない見解と疑う余地のない学説とによって組み上げられたのです。
(4)その組み上げられたことによって、国王陛下が果てしなく尽きせぬ余りにも偉大な人々に列せられること、それゆえに陛下は第五元素の本体を構成する超自然的な何者かであらせられること、その骨壷(に象徴される御先祖たち)は不朽で、永遠なる大神に起源を持つこと、陛下の驚嘆に値する御力は、神の御力を除けば諸王もほとんど持ちえなかった類稀な善良さを伴っていることなどを、どうしても表明せねばなりません。それはまさに、歴史家たちの著作によって不朽の名声を備えていた、陛下のご先祖たる由緒正しきアエネアデス 1 の王たちの、記憶されるべき事績にも比肩しうるものなのです。
(5)しかしながら、我々は陛下が非常に人間味溢れるお方として創造されたことを、天球に属する空の下での超自然的な物事全てに通じる正道を理解し、探求するためのある種の導きを我々に示してくれる自然な算定とともに望みますし、文句なしに万民一致している多くの哲学的・神学的学説の権威とともに表明いたします。
(6)そして(陛下は)神のおわします御座から下されフランス人に贈られた、真に天来の贈り物というべき存在であり、様々な国民から選り抜かれた君主たちの果てしない一群の中央に位置しておられるのです。これほどまでに尊崇されるに相応しい王の名は、過去から現在に至る諸世紀の間、ついぞ現れませんでした。
(7)おお陛下よ、このように語ってきたことは、嫉み深い人々からは阿諛追従の産物としか見てもらえないでしょうから、この辺にしておきます。また、本書では天空の表徴が私に示してくれたものに従って、月ごとに色々とお示し致しましたが、紙幅の都合でそれ以上多くの解釈を展開することはできませんでした。
(8)洟をかんだ幾人か 2 がこれを奇妙だと思うのは全く正しいことです。「しかしながら、ごく稀な人々のみが理解できることは、概して最大多数の批判にさらされるものです」。
(9)算定は実にもって明白です。ですから、それは我々が夜に地上から天を見上げているときに、天を動かす神の本質的な力の驚嘆すべき物事を熟慮させてくれたり、高価な宝石や純粋なきらめく輝きでできたこの天の偉大なる構築物の、非常に豊かな装飾物で構成された特性を示してくれたりするのです。全方向から貫かれている継続的な動きには、結び付けられた諸力、転回の年、大会合の年を通じて、まさに全てが結び付けられているのです。判断が真実でないはずがありません。おお、陛下、しかしながら陛下の尽きせぬ御威光によって、「アイアースの盾 3 のごとくに」私を中傷者たちからお守り下さい。
(10)おお敬虔なキリスト教徒たる王よ、不死なる大神が陛下に長く健やかな人生をお与えくださり、それを目にするお身内の方々も同じように長く健やかに過ごせますようにとお祈りしつつ、ここでようやく筆を擱かせていただきます。

御身のしろしめす町プロヴァンス州サロン・ド・クローから
1557年向けに1556年1月13日

陛下のきわめて賤しくも従順な従僕にして臣下、ミシェル・ド・ノートルダムによって。

語注

(1)アエネアデスは「アエネイスの末裔」の意味。アエネイス(アイネイアス)はアプロディテの息子で、伝承上古代ローマ人の先祖とされていた *1 。ノストラダムスはフランス王家を古代ローマから連なる由緒正しい系譜と位置付けていたようである。トロイアの血も参照のこと。
(2)「洟をかんだ人々」は「引っ込んでいて欲しい知ったかぶりたち」といった意味らしい。この点、姉妹サイトのアンリ2世への手紙・全対訳第9節の注釈も参照のこと。
(3)アイアースはトロイア戦争に登場する英雄で、その牛革を七枚重ねた堅固な盾は、豪傑ヘクトルの槍でも六枚までしか貫けなかったと伝えられる *2

原文について

 原文は Halbronn [2002] を参照した。ただし、パトリス・ギナール(未作成)による校訂 *3 を受け入れて訳した箇所がある。ギナールの校訂は、原文の該当箇所の直後に [ ] で示してある。
 なお、意味内容を元に便宜的にいくつかの節に区切ったが、一般的なものではない。

訳について

 ラテン語部分は「 」に入れて訳した。また、一部に( )によって言葉を補った。
 2箇所登場する raison は中期フランス語でも多彩な意味があった。ここでは「算定」で統一した。

コメント

 以下でコメントするに当たり、上に訳した「アンリ2世への手紙」を「予兆版」、『予言集』に収録された「アンリ2世への手紙」を「予言集版」と呼ぶこととする。

 さて、「予兆版」を一読してみると、「予言集版」とよく似た表現がいくつも登場しているのが目を引く。しかし、その一方で「予言集版」には「予兆版」の存在をほのめかす箇所がない。ジャック・アルブロンは、この「予兆版」の存在が「予言集版」には反映されていないと主張しているが、確かに「予兆版」を換骨奪胎して「予言集版」の賛辞に組み立てなおしたと思われても仕方ない箇所があるようにも見える。アルブロンのようにそれをもって「予言集版」を偽書と判断できるかは微妙なところだろうが、検討の余地はあるだろう。

 また、「予兆版」の存在によって 「『予言集版』はあまりにも賛辞が過剰で、アンリ2世のような凡庸な君主にはふさわしくないから、これは未来の大君主にあてたものだ」といった類の、信奉者側によくある主張は崩れるだろう。
 アルブロンが2002年に復刻するまで(ピエール・ブランダムールのような例外を除き)誰にも注目されてこなかった「予兆版」でさえここまで過剰に賛辞を重ねているのだから、それよりも賛辞が控えめにすら見える「予言集版」が、アンリ2世以上の重要人物にあてられていたなどとは決め付けられないからである。

 この書簡にはもう一つ興味深い点がある。それは冒頭で「前に1556年のことを予言できなかったのは星空が見えづらかったせい」と述べたくだりである。
 1555年8月の謁見の内容は伝わっていないが、ことによると国王から「来年はどんな年になるのか」と尋ねられ、ノストラダムスはしどろもどろとまでいかずとも曖昧な答えしか返せずに、国王から満足のいく言葉を掛けてもらえなかったのではないだろうか。
 これは(謁見は成功したと伝えられていることと矛盾するので)全くの想像でしかないが、それに続いて国王がどれだけ神々しかったかを説明していることも、その推測の延長線で理解できるかもしれない。つまり、自分がきちんと受け答えできなかったのは、あまりにも素晴らしい国王の前で舞い上がってしまったからだと釈明しているようにも読めるのである。

 なお、言うまでもないことだが、ノストラダムスの祈りにもかかわらず、アンリ2世はこの書簡からわずか3年半後に没することになる。


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