百詩篇第6巻44番

原文

De nuict par Nantes Lyris1 apparoistra,
Des artz2 marins3 susciteront la4 pluye:
Arabiq5 goulfre6 grand7 classe parfondra8,
Vn monstre9 en Saxe10 naistra11 d'ours12 & truye13.

異文

(1) Lyris : l'Iris 1568I 1672
(2) artz : ars 1665 1840, arcs 1672
(3) marins : Marins 1627 1672
(4) la : le 1611B
(5) Arabiq : Vrabiq 1600 1610 1716, Vrabicq 1627 1644 1650Ri, Vrabic 1653 1665, Arabiq. 1660, Arabique 1672, Arabic 1840
(6) goulfre : gouffre 1557B 1589PV 1650Ri, goulphre 1590Ro 1644 1653 1665 1840, Goulfre 1672
(7) grand : grande 1600, grand' 1644 1650Ri
(8) parfondra : parfondera 1611B, profondra 1668P
(9) monstre : Monstre 1672
(10) Saxe : saxe 1653 1665
(11) naistra : naisrra 1660, naistre 1672, n'aîstra 1716
(12) ours : Ours 1672 1716
(13) truye : Truye 1672

(注意)1588-89では3-4-1-2の順でIV-64に差し替えられている。なお、1716の四行目の異文は原文ママ(n'aîtraではない)。

校訂

1行目 Lyris は l'Iris とすべき。この点は信奉者・実証側とも異論がない。

日本語訳

ナントのために、夜にイリスが現れるだろう。
(いくつかの)海の技術が雨を創り出すだろう。
アラブの湾は大艦隊を沈めるだろう。
ザクセンでは雄熊と雌豚から一匹の怪物が生まれるだろう。

訳について

 大乗訳2行目「海のアーチは雨となり」*1は採用した異文の違い。3行目「アラビア湾に大艦隊がしかれ」は不適切。山根訳も3行目「アラビア湾で大艦隊が右往左往しよう」*2も不適切。

信奉者側の見解

 エリカ・チータムは人工降雨の技術、イラン・イラク戦争、東ドイツとソ連の関係などが描かれているとしていた*3

 セルジュ・ユタンは3行目だけ解釈し、第三次中東戦争のこととした*4ボードワン・ボンセルジャンはそこに加筆し、4行目を反キリストの登場とした*5

 モーリス・ラカスは3行目を湾岸危機での米軍のペルシア湾への派遣、4行目を東ドイツ(雌豚)と西ドイツ(熊)の統一とした*6

同時代的な視点

 イリスは虹の神で、1行目は夜に虹が現れることを示している。当時、コンラドゥス・リュコステネス(未作成)の記録では、1520年のウィーンで夜に虹と3つの月が現れたとされている*7。こうした幻に関する噂が1行目に影響している可能性は当然あるだろう。4行目の怪物の誕生にしても、他の四行詩にも見られる当時の典型的な「驚異」である。

 2行目の海の技術に関連して、ジャン=ポール・クレベールフランソワ・ラブレー(未作成)の『パンタグリュエル物語』に登場する降雨の技術を引き合いに出している。「ガステル宗匠は、雨を中空に引き止めて動かぬようにし、海原に、これを降らせるという技術も考案した」*8


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百詩篇 第6巻
最終更新:2009年11月06日 11:46

*1 大乗 [1975]p.186

*2 山根 [1988] p.223

*3 Cheetham [1990]

*4 Hutin [1978]

*5 Hutin [2002]

*6 ラカス [1994] p.45

*7 Lemesurier [2003b]

*8 訳文は渡辺一夫訳『ラブレー第四之書パンタグリュエル物語』岩波文庫p.275による。なお渡辺は「大腹」という字に「ガステル」という読みをあてている。