詩百篇第8巻23番


原文

Lettres trouuees1 de la royne2 les coffres3,
Point de subscrit sans aucun4 nom5 d'hauteur6
Par la police7 seront cachez8 les offres9,
Qu'on ne10 scaura qui sera l'amateur11.

異文

(1) trouuees : treuuees 1627Ma 1627Di
(2) royne 1568 1590Ro 1840 : Royne T.A.Eds. (sauf : Reyne 1649Xa 1653AB 1665Ba, Reine 1720To)
(3) coffres : Coffres 1672Ga
(4) aucun : aucuns 1610Po
(5) nom : non 1607PR 1610Po 1611B 1627Ma
(6) d'hauteur 1568X 1568A 1568B 1590Ro 1591BR 1597Br 1603Mo 1650Mo 1716PRb 1772Ri : d'autheur T.A.Eds. (sauf : d'auteur 1611 1627Ma 1720To 1981EB, d'Autheur 1672Ga)
(7) la police : lapolice 1650Mo
(8) cachez : cache 1568X, chachez 1650Mo
(9) offres : offre 1607PR 1610Po
(10) Qu'on ne : Qu'onne 1627Di, Qu’on 1650Mo
(11) l'amateur : lamateur 1672Ga

日本語訳

女王の箱から手紙が発見される。
表書きはなく、書き手の名前も一切ない。
提案は行政当局によって封をされるので、
その愛人が誰なのかは分からないだろう。

訳について

 1行目 royne は「女王」と訳したが「王妃」とも訳せる。

 大乗訳1行目「手は女王の箱の中にみつかり」*1の「手」は「手紙」の単純な誤植だろう。
 同3行目「政治により提出者はかくされ」は誤訳。police は中期フランス語では公的な行政機関(gouvernement, administration publique)などを指すが、「政治」そのものという語義はDMFには見当たらない。また、offres は複数形なので、提出した愛人(amateur, 単数)と同一視することはできない。さらに、cachés は直訳は確かに「隠される」だが、ノストラダムスはしばしば cachetés (封をされる)の語中音消失として使っており、この場合もその意味だろうということは、ジャン=ポール・クレベールが指摘している。ただし、この点は「隠される」の可能性もあることをクレベールも認めている。
 同4行目「だれも愛する人を知らない」は疑問代名詞の処理の仕方が不適切。

 山根訳は3行目「策略が申し出をかくすだろうから」*2が不適切だが、その根拠は上と重なるので省く。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエールは、そのまま敷衍したような解説しか付けておらず、特定の事件とは結び付けなかった*3


 ヘンリー・C・ロバーツは、カリオストロやマリー・アントワネットが巻き込まれた「首飾り事件」と解釈した*4

 エリカ・チータムは、メアリ・スチュアートの二番目の夫が爆殺された事件に関連し、メアリやその新たな愛人ボズウェル伯の関与が疑われたが、その証拠となる可能性があった手紙が1584年以降失われたことかもしれないと解釈した*5
 メアリー・スチュアートに関する詩の可能性は、パトリス・ギナール(未作成)も支持していた*6

 日本では安田一悟當間健一が、ノストラダムスの「失われた予言詩」と関連付けた*7
 彼らの主張の根拠となっているのは、「失われた百詩篇第12巻の入っている箱は、トランプの12(クイーン)になぞらえて、『白い箱の女王』と呼ばれてきた」という五島勉の紹介である*8

懐疑的な視点

 五島の紹介は事実に反しており、発見された年すら矛盾している(クロケットの四行詩参照)。
 そして、海外の実証的な研究書はもとより通俗的な解釈書にすら、「白い箱の女王」などという通称は登場しない。つまり、五島の創作の疑いが強く、そのような創作を土台とした解釈には何の説得力もない。

同時代的な視点

 ルイ・シュロッセ(未作成)は、ユグノー戦争初期(1562年)に、王太后カトリーヌ・ド・メディシスがプロテスタント指導者のコンデ親王に、虚言家等と述べた書簡を送ったところ、それを公刊されてしまったことと関連付けた*9
 なお、シュロッセの原文では、3行目の cachez が cadrez (当てはめられる)となっている。
 「女王」「手紙」などのキーワードに多少の共通性はあるが、あまりモチーフが一致しているとは思えない。

 ピーター・ラメジャラーは、同時代の王室のスキャンダルと推測したが、特定の事件とは結び付けていない*10


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詩百篇第8巻
最終更新:2020年05月24日 01:27

*1 大乗 [1975] p.236

*2 山根 [1988] p.259

*3 Garencieres [1672]

*4 Roberts [1949]

*5 Cheetham [1973]

*6 Guinard [2011]

*7 安田『白い女王の箱』、當間『エゼキエル預言書の解読

*8 五島『ノストラダムスの大予言・中東編』pp.170-184

*9 Schlosser [1986] p.241

*10 Lemesurier [2003b/2010]