詩百篇第9巻78番


原文

La1 dame2 Grecque3 de beauté4 laydique5,
Heureuse faicte de procs6 innumerable,
Hors translatee7 au regne8 Hispanique9,
Captiue prinse mourir mort miserable.

異文

(1) La : LA 1627Di
(2) dame : Dame 1649Xa 1665Ba 1672Ga 1712Guy 1720To 1772Ri 1840
(3) Grecque : grecque 1572Cr
(4) beauté : beaute 1568X 1572Cr, Beauté 1672Ga
(5) laydique : Laidique 1572Cr, aydigue 1653AB 1665Ba 1697Vi, laïdique 1716PR, ay digne 1720To
(6) procs : proces 1605sn 1611B 1627Di 1628dR 1649Xa 1649Ca 1650Le 1981EB 1672Ga, porcs 1644Hu 1653AB, ports 1665Ba 1720To, procés 1712Guy 1716PR(b c)
(7) translatee : translate' 1665Ba, translaté 1653AB 1720To 1840
(8) au regne : proche au regne 1568X 1590Ro, en regne 1606PR 1607PR 1610Po 1627Ma 1627Di 1644Hu 1650Ri 1653AB 1665Ba 1716PR 1720To, au Regne 1672Ga 1712Guy
(9) Hispanique : hispanique 1568X 1590Ro, H spanique 1607PR

校訂

 3行目は 1568X などの異文からすれば、proche au regne となっているべきなのかもしれない。

日本語訳

ラーイスの美しさを備えたギリシアの婦人は、
引きも切らない求婚者たちによって幸せに。
国外でイスパニアの王国近くに移され、
幽囚の身で死ぬ。惨めな死。

訳について

 3行目は1568Xの異文を尊重して訳している。
 ジャン=ポール・クレベールは3行目の hors (「外で」「~を除けば」)を mais (しかし)と同一視している。文脈からするとそのほうが分かりやすいかもしれない。

 山根訳は問題ない。
 大乗訳も大意としては誤っていないが、2行目の「数えきれない争いから幸せを得て」*1などは、procsがどうして「争い」になるのか不明である。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエールは、アンリ2世の娘エリザベートがスペインのフェリペ2世に嫁いだことと解釈した。

 バルタザール・ギノーは、未来の悲劇的な女性に関する詩と解釈した*2

 マックス・ド・フォンブリュヌ(未作成)アンドレ・ラモンエリカ・チータムセルジュ・ユタンらは細かな解釈に違いはあれど、フランコの独裁体制(1937年)と解釈した*3
 「ギリシアの女性」はギリシアに起源を持つ民主政治などと解釈され、フランコによって、スペインではそれが終焉を迎えたことなどと結び付けられる。

同時代的な視点

 ロジェ・プレヴォは13世紀にモデルがあると判断した。

 エピロス専制侯国の姫ヘレナは、多くの求婚者の中からシチリア王マンフレーディ(フリードリヒ2世の息子)と結婚した。
 ヘレナは、夫に先立たれた後に、生まれ故郷のギリシアに戻ろうとしたが、その航海の途上で捕われ、スペイン(アラゴン)領だったナポリで投獄され、そのまま獄死した。
 プレヴォは、以上のようなヘレナの生涯がモデルになっていると解釈した*4



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最終更新:2020年03月20日 01:17

*1 大乗 [1975] p.277

*2 Guynaud p.371-37

*3 Fontbrune (1938)[1939] p.166, Lamont [1943] pp.155-156, Cheetham [1973], Hutin [1978]

*4 Prévost [1999] p.83

*5 Lemesurier [2003b/2010], Sieburth [2012]