百詩篇第6巻88番

原文

Vn regne grand dcmourra1 desolé,
Aupres2 del Hebro3 se feront4 assemblées:
Monts5 Pyrenees6 le7 rendront consolé,
Lors que dans May seront terres8 tremblees9.

異文

(1) dcmourra 1557U : demourra T.A.Eds. (sauf : demoura 1557B 1611A, demeurra 1627, demeurera 1840)
(2) Aupres : Au pres 1590Ro
(3) del Hebro 1557U 1568 1590Ro 1605 1628 1772Ri : de l'Hebro T.A.Eds.
(4) feront : seront 1611A, fercnt 1628
(5) Monts : Mont 1611B 1650Le 1668
(6) Pyrenees : pyrenées 1716
(7) le : les 1653 1665
(8) terres : Terres 1672
(9) trembler : rrembler 1627

校訂

 1行目の dcmourra は当然 demourra の誤植。
 2行目 del Hebro はフランス語ではなく、スペイン語やプロヴァンス語での綴りである。

 なお、1557Uでは4行目の terres の前半が潰れていて判読しづらいが、後の初版でもほとんど異文がないといってよい箇所なので、問題とはならないだろう。

日本語訳

ある大王国が荒廃したままになるだろう。
エブロ川の近くで会合が持たれるだろう。
ピレネー山脈が彼を慰めるだろう、
五月に大地が震えるであろう時に。

訳について

 山根訳は問題ない。
 大乗訳は1行目「王は孤独にとりのこされ」*1が明らかにおかしい。regne に「王」の意味はないし grand の意味も反映されていない。

信奉者側の見解

 19世紀末までに解釈をしたのは、ガランシエールとジローだけだったようである。
 テオフィル・ド・ガランシエールは「解釈の必要なし」とする一方、ヘブルス川(river Hebrus)がどこか分からないとした*2
 フランシス・ジローは、1830年代にスペインで王位を請求していた王弟ドン・カルロスや、彼を支持して叛乱を起こしていた勢力と解釈した*3

 エミール・リュイール(未作成)百詩篇第10巻67番などと関連付けつつ、それらの詩に出てくる星位をもとに、1941年5月に西洋で大地震が起こると解釈していた*4

 ロルフ・ボズウェルは、ルイ14世の孫フィリップがスペイン王フェリペ5世として即位したことと解釈した*5

 アンドレ・ラモンは、1930年代のスペイン内乱と解釈した*6

 エリカ・チータムは1973年の時点では一言も解釈を付けていなかった。しかし、その日本語版では、反キリストの台頭によってスペイン方面に亡命するローマ教皇と、2000年5月に起こる大地震のこととする流智明(未作成)の解釈に差し替えられた。なお、チータム本人の最終的な解釈では、西暦2000年までの10年間にアメリカ西海岸で起こる地震のことかもしれないとしていた*7

同時代的な視点

 ピエール・ブランダムール百詩篇第10巻67番などとともに、1549年5月の大地震がモデルになっている可能性を指摘していた*8。ノストラダムスは1563年5月向けの予兆詩でも地震に触れており、同じ月に再び大地震が来ることを想定していたようである。

 ピーター・ラメジャラーは、フロワサールの年代記をモデルとみなし、エドワード黒太子によってカスティーリャ王ペドロ1世が支援されたことと解釈した*9


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最終更新:2011年06月17日 22:55

*1 大乗 [1975] p.197

*2 Garencieres [1672]

*3 Girault [1839] p.38

*4 Ruir [1939] p.105

*5 Boswell [1943] p.312

*6 Lamont [1943] pp.166-167

*7 Cheetham [1990]

*8 Brind’Amour [1993] p.231

*9 Lemesurier [2003b/2010]