詩百篇第9巻3番


原文

La magna1 vaqua2 à Rauenne3 grand trouble4,
Conduictz par quinze enserrez5 à Fornase6
A Romme7 naistre8 deux monstres9 à10 teste11 double
Sang, feu, deluge, les plus12 grands13 à l'espase14.

異文

(1) La magna : Lemagna 1605sn 1649Xa, La magne 1667Wi 1668
(2) vaqua : Vaqua 1644Hu 1650Ri
(3) Rauenne : Reuenne 1627Ma 1627Di 1644Hu 1650Ri, Rovenne 1716PRb
(4) trouble : troubles 1605sn 1649Xa
(5) enserrez : enserres 1568X 1653AB 1665Ba 1720To
(6) Fornase : fournase 1611B
(7) Romme 1568X 1568A 1591BR 1603Mo 1650Mo : Rome T.A.Eds.
(8) naistre : naistra 1591BR 1597Br 1603Mo 1605sn 1606PR 1607PR 1611 1627Ma 1627Di 1628dR 1644Hu 1649Xa 1649Ca 1650Le 1650Ri 1650Mo 1667Wi 1668 1672Ga 1716PR 1772Ri 1840 1981EB
(9) deux monstres : 2 monstres 1627Ma, 2. monstres 1627Di, deux Monstres 1672Ga, deux. monstres 1720To
(10) à : a 1605sn
(11) teste : testes 1606PR 1607PR 1716PR
(12) plus : plux 1568X
(13) grands : grand 1611 1981EB, Grands 1772Ri
(14) l'espase : l’espa 1603Mo, l'espace 1627Di

日本語訳

マグナ・ウァクア、ラヴェンナにおける大きな騒擾。
フォルナーズに閉じ込められていた十五人によって導かれる。
ローマでは双頭の異形が二体生まれる。
血、火、洪水、最も偉大な者たちは空中に。

訳について

 1行目の magna vaqua はラテン語で「大きな雌牛」の意味だが、エドガー・レオニはイタリアの地名マニャヴァッカ(Magnavacca, 語源となる意味は同じ)と解釈しているので、地名でも一般名詞でも良いように、ラテン語をそのまま音写した。
 2行目はどこで区切るかや語順をどう捉えるか、またFornaseをどう解釈するかによって、多様な読み方がありうる。

 山根訳はおおむね許容範囲内だろう。
 大乗訳1行目「マグナ バクアはラベンナでふるえ」*1は不適切。trouble と tremblement を取り違えたか。
 同2行目「フォーナスを監禁し 十五人によりみちびかれ」の前半は、前置詞の位置からはそう読めない。
 同3行目「ローマは双頭の怪物を生み」は、ローマを主語に取ることができない上、双頭の怪物は2頭(deux)である。
 同4行目「血 火 洪水が多くの人々を驚かすだろう」も不適切。「驚かす」がどこから出てきたのか不明。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエールは、magna vaqua や Fornase を不明とし、前半は訳せないが後半は平易とだけ述べた*2
 その後、20世紀半ばまでこの詩を解釈した者はいないようである。少なくとも、ジャック・ド・ジャンバルタザール・ギノーD.D.テオドール・ブーイフランシス・ジローウジェーヌ・バレストアナトール・ル・ペルチエチャールズ・ウォードマックス・ド・フォンブリュヌ(未作成)アンドレ・ラモンロルフ・ボズウェルジェイムズ・レイヴァーの著書には載っていない。

 セルジュ・ユタンは、イタリアにおいてファシスト党が勝利し、ナチスと手を結ぶことを象徴的に表現したものと解釈した*3

同時代的な視点

 エドガー・レオニは、Magna vaqua をマニャヴァッカ(Magnavacca)とし、フェラーラとラヴェンナの間を流れる運河の名前もしくはポー川河口の南に位置する港の名前(現在はガリバルディ港と改称)とした。また、Fornase はヴェネツィア近郊の村フォルナーゼとし、それらを踏まえて、教皇領とヴェネツィア共和国が関わる何らかの出来事の描写だろうと推測した*4

 ピーター・ラメジャラーは、当時凶兆とされた様々な怪物の報告に触発された詩と解釈した*5

 怪物の誕生が4行目に表現されている諸事件(「空中に」は絞首刑の隠喩で、「アンリ2世への手紙」第62節にも登場する)を予告しているという見方は十分に説得的ではないかと思える。


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最終更新:2020年02月01日 16:04

*1 大乗 [1975] p.259

*2 Garencieres [1672]

*3 Hutin [1978]

*4 Leoni [1961]

*5 Lemesurier [2003b/2010]