ヴォゼルによる百詩篇第3巻55番の解釈

 ノストラダムスの暦書には、多くの著名人たちへの献辞が収録されている。その中でも『1562年向けの新たなる占筮』(リヨン、1561年頃)に収録されたジャン・ド・ヴォゼル宛ての献辞は、ノストラダムス自身が予言解釈に触れている点で特徴的である。

全訳

大兄にしてこの世界における最良の友、「真の熱情の」騎士殿へ

 お互いに手紙のやり取りがあったとはいえ、お目にかかる機会は一度も持てておりませんが、そうであろうとも私たちの精神が強く重なり合っていることによって、以下のことを認識致しました。
 私の暦書や占筮は包み隠された曖昧な言葉で偽装されていますから、私が「フランスに片目が君臨するであろう時に、そしてその時にブロワの穀粒 (grain) が友を殺すであろう」云々と、そして他にも数えきれないほどの章句を執筆した時の狙い通りに包みを暴き、ただちに理解してもらえるかどうかは分かりませんでした。
 私は休みが取れないでしょうからお互いに顔を合わせることは出来ませんが、そのことは私と貴兄の間に非常に深い友情を呼び起こしました。
 さて、(翌年向けの)暦書の方はピウス4世聖下に捧げましたので、この占筮の方を聖職者である貴兄にぜひ捧げたいと思います。ブロトーを通じて心を込めて届けますので、御笑納いただければ幸いです。

小弟にして最良の友、プロヴァンス州サロン=ド=クローの医学博士ミシェル・ノストラダムス。1561年。神が貴兄に聖なる恩寵を授けてくださることを、そして貴兄の内に私がいることを祈りつつ。

コメント

 この献辞はダニエル・ルソの著書に写真が掲載されていたので従来から知られていたが、きちんとしたコメントはピエール・ブランダムールのものが最初だった。

 ブランダムールはノストラダムスが引用している詩句が百詩篇第3巻55番の1、3行目と同じであるものの、grand が grain になっていることに注目した。
 発音はカナで表記すればどちらも「グラン」でほぼ同じだが、前者は「偉人、大物」であるのに対し、後者は「穀粒」である。ブランダムールは、「穀粒」は「大麦」 (l'orge) を暗示しているはずで、それがアンリ2世に致命傷を与えたガブリエル・ロルジュ (Gabriel LORGES) との言葉遊びになっていることをヴォゼルが指摘し、ノストラダムスがそれを評価したのではないかと推測した *1

 献辞の文面は曖昧であり、本当に grain の解釈がキーポイントなのかは分からない。それが単なる誤植に過ぎず、全く別の解釈が展開されていた可能性も否定できない(文面をよく読めば分かるように、ノストラダムスはこの詩が何の事件を予言したものかについて一言も説明していない)。
 ただ、やり取りが1560年から1561年頃だったと考えられるため、その時期の重大事件というと選択肢は限られるので、相応に説得力のある推測であるとは言えるだろう。この推測は高田勇伊藤進ピーター・ラメジャラーらも支持している。

 なお、ノストラダムスは、暦書や占筮を曖昧に書いているとしてこの詩を持ち出したが、この詩は暦書ではなく『予言集』の方に収録されていた。その辺りは単なる記憶違いなどによるミスではないかと思われる。



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