polemars

 polemars はいくつかの意味が指摘されている語。
 詩百篇第2巻48番にのみ登場し、古語辞典などにぴったり一致する語は見当たらないものの、文脈からすると「紐」や「綱」の意味に理解するのが最も自然だと思われる。

「荷造り紐」

 ピエール・ブランダムールは中期フランス語の poulemart と同じと見なし、「荷造り用の紐」と解釈した。

 poulemart なら DLFSやDALF にも載っており、「太い糸、細い紐」(gros fil, petite ficelle)、「武器の一種」(sorte d'arme)とある*1

 高田勇伊藤進ロジェ・プレヴォピーター・ラメジャラーも荷造り紐とする読み方を支持している。

 なお、DLFSやDALFでは、poulemartがラブレーの『ガルガンチュア』第2章(有名な謎歌の章)と『パンタグリュエル』(第二之書)第7章(架空書目録を含む章)に登場していることが、紹介されている。
 日本語でどう訳されているのか、渡辺一夫訳と宮下志朗訳をそれぞれ掲げておく。
  • ガルガンチュア第2章の登場箇所
    • また、逞しき荷作縄をばしごき持ちて、/悪弊が庫〔くら〕をば固く警〔いまし〕むるを得む(渡辺一夫訳)*2
    • 誤謬のつまった袋も、細ひもで、/強くしばることができようものを(宮下志朗訳)*3

  • パンタグリュエル第7章の登場箇所
    • 商人用荷作紐渡辺一夫訳)*4
    • 商人の細ひも(宮下志朗訳)*5

【画像】宮下志朗訳『パンタグリュエル(ガルガンチュアとパンタグリュエル2)』

海事用語としての綱・紐

 poulemartに似た説ではあるが、ジャン=ポール・クレベールはプロヴァンス語の poulemar ないし pouloumar で、帆に使う綱(corde)を意味する海事用語とした*6

 LTDF にも確かに載っており、「太い紐」(grosse ficelle)、「帆の糸」(Fil de voile)、「マグロ用の網を作るのに使う糸」(fil servant à faire les filets pour le thon)といった語義が載っている*7


【画像】 WLIKN多目的ロープ

過去の異説

 以前には、語順を入れ替えることで chef (指導者)を形容する語と解釈されていた。

  • エドガー・レオニはギリシア語の polemarchos に由来する「軍事指導者」の意味とした*9マリニー・ローズはフランス語の polémarque (古代ギリシアの軍司令官*10)としており、実質的に同じである。


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最終更新:2022年04月03日 23:11

*1 DALF, T.06, p.348

*2 渡辺一夫訳『第一之書ガルガンチュワ物語』岩波文庫、1973年、p.34

*3 宮下志朗訳『ガルガンチュア』ちくま文庫、2005年、p.44

*4 渡辺一夫訳『第二之書パンタグリュエル物語』岩波文庫、1973年、p.60

*5 宮下志朗訳『パンタグリュエル』ちくま文庫、2006年、p.98

*6 Clébert [2003]

*7 LTDF, 2, p.615

*8 Le Pelletier [1867b]

*9 Leoni [1961/1982]

*10 『仏和中辞典』白水社