詩百篇第1巻23番


原文

Au mois1 troisiesme se leuant le2 soleil3,
Sanglier4, liepard5 au champ6 mars7 pour combatre:
Liepard8 laisse9 au ciel10 extend11 son oeil,
Vn aigle12 autour13 du soleil14 voyt15 s'esbatre16.

異文

(1) mois : moins 1716PRb
(2) se leuant le : leuant le 1588Rf 1589Me 1612Me, le 1589Rg, se levant du 1649Ca 1650Le 1667Wi 1668, se levant se 1716PR
(3) soleil (vers1) 1555 1588Rf 1840 : Soleil T.A.Eds.
(4) Sanglier : Sangliert 1653AB 1665Ba
(5) liepard 1555 1589PV 1590SJ 1840 : Leopar 1597Br, Leopart 1606PR 1607PR 1610Po 1627Di 1627Ma 1644Hu 1650Ri 1653AB 1665Ba 1716PR, Liopard 1650Le 1668A, liopard 1667Wi 1668P, Leopard 1672Ga, leopard 1981EB, Liepard T.A.Eds.
(6) au champ : au cham 1589Me, aux champs 1672Ga
(7) mars 1555 1840 : Mars T.A.Eds.
(8) Liepard : Leopar 1597Br, Leopart 1606PR 1607PR 1610Po 1627Di 1627Ma 1644Hu 1650Ri 1653AB 1665Ba 1716PR, Liopard 1650Le 1667Wi 1668, Leopard 1672Ga
(9) laisse 1555 1840 : lassé 1591BR 1597Br 1605sn 1606PR 1607PR 1610Po 1611A 1611B 1628dR 1627Ma 1644Hu 1649Xa 1650Ri 1653AB 1665Ba 1667Wi 1672Ga 1716PR 1981EB, laisé 1627Di, laissé T.A.Eds.
(10) ciel : Ciel 1605sn 1611A 1611B 1628dR 1649Xa 1981EB 1716PR
(11) extend : estend 1589Rg 1591BR 1597Br 1605sn 1606PR 1607PR 1610Po 1611A 1611B 1628dR 1644Hu 1649Xa 1650Ri 1653AB 1665Ba 1667Wi 1716PR 1981EB, estendre 1589Me 1612Me, étent 1627Di 1627Ma, esttend [sic.] 1672Ga
(12) aigle 1555 1605sn 1612Me 1628dR 1649Xa 1650Ri 1840 : Aigle T.A.Eds. (sauf : Angle 1653AB 1665Ba)
(13) autour : au tour 1588-89 1590SJ
(14) soleil(vers4) 1555 1588Rf 1589Me 1612Me 1627Di 1649Ca 1650Le 1668 1840 : Soleil T.A.Eds.
(15) voyt : veoir 1589PV, voir 1590SJ 1627Di 1649Ca 1650Le 1653AB 1665Ba 1667Wi 1668
(16) s'esbatre : sesbatre 1672Ga

校訂

 異文は多いが、瑣末なものが多い。意味のある異文は3行目の laisse をどう読むかだが、ピエール・ブランダムールは lassé としており、ピーター・ラメジャラージャン=ポール・クレベールらも支持している。

日本語訳

第三の月に日が昇ると、
猪と豹は戦うためにマルスの野に。
疲れた豹は天へと視野を広げ、
一羽の鷲が太陽の周りを飛び廻るのを見る。

訳について

 2行目「マルスの野」は、古代ローマのカンプス・マルティウス(マルスの野)を翻訳したものだろう。この語は本来は軍事教練場を指し、パリのシャン=ド=マルスも同様だが、この詩においては戦場の喩えであろうと考えられる。

 既存の訳についてコメントしておく。
 大乗訳はおおむね問題はないが、2行目「猪と豹は火星で戦い」*1がおかしい。文脈からいって、この場合の Mars は火星の方ではなく戦いの隠喩だろう。
 山根訳は特に問題はない。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエールは、3月の日の出の時刻に「猪」と「豹」に喩えられている人物が戦うというような、具体性に欠ける解釈しかしていなかった*2
 その後、20世紀半ばまでこの詩を解釈した者はいないようである。少なくとも、ジャック・ド・ジャンバルタザール・ギノーD.D.テオドール・ブーイフランシス・ジローウジェーヌ・バレストアナトール・ル・ペルチエチャールズ・ウォードマックス・ド・フォンブリュヌ(未作成)アンドレ・ラモンロルフ・ボズウェルの著書には載っていない。

 しかし、ジェイムズ・レイヴァーが「第三の月」を「三か月目」や「三月」の意味でなく、三か月間=約100日と読み替えてナポレオンの百日天下の予言と解釈すると、エリカ・チータムジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌジョン・ホーグなどが同様の解釈を採った*3

 他方、ヘンリー・C・ロバーツは第二次世界大戦時の情勢とし、豹はイギリス、猪はドイツ、鷲はアメリカとした。高木彬光はノストラダムス予言に懐疑寄りではあったが、この詩についてはロバーツの解釈を引き継いで、太平洋戦争開戦から3ヶ月目の時点ではイギリス(豹)はドイツ(猪)に大打撃を与えられているところで、アメリカ(鷲)に助けを求めたいところであったが、アメリカは日本(太陽)と激しく交戦していたので、欧州戦線に手が回らなかった状況を描いた「最高に的中した予言の一つ」としていた*4

 加治木義博は1991年から1995年に起こると想定していた第三次欧州大戦で、日本が何らかの形で関わることの予言とした*5

同時代的な視点

 ルイ・シュロッセ(未作成)は、1520年代の西欧情勢と解釈した。「豹」はバラ戦争時代の紋章を維持していたヘンリー8世、「猪」はルイ12世の紋章なので、その王位を継いだフランソワ1世、「鷲」は神聖ローマ皇帝カール5世だという*6

 ピエール・ブランダムールは空中に浮かんだ幻像と解釈した*7。当時はありえない光景が空で目撃される類の「驚異(未作成)」は珍しいものではなかった(それが客観的事実かはともかく、当時の人々にとって、そういうモチーフがごく自然に受け止められうる素地があったということである)。高田勇伊藤進も当時の言説における幻像の重要性を指摘し、ノストラダムス予言を同時代的文脈で捉えることの重要性を強調した*8
 ピーター・ラメジャラーもそのように解釈したが、特にこの場合は1534年にスイスのシュヴィーツで目撃された幻像に触発されたのではないかとした。その年の6月3日、晴天のシュヴィーツ市上空には、戦おうと集まってくるライオンの幻像が現れ、一連の光景のなかに猪、鷲、鶏、竜なども登場したとされている*9


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  • 1945年3月10日の米軍(鷲)の東京大空襲と連合軍のイタリア侵攻を予言。猪は米国の猪突猛進のパットン将軍、 豹はムッソリーニと同時に英国軍も暗示。 -- とある信奉者 (2012-02-27 09:40:23)
  • 私のブログhttp://minmokkos.blog.fc2.com/blog-entry-145.htmlから、このページにリンクを貼らせて頂きました。また、それをツイート https://twitter.com/minmokkos/status/622033556672372736もしております。ご了承下さい。 -- みんもっこす (2015-07-17 22:48:55)

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詩百篇第1巻
最終更新:2018年06月26日 10:52

*1 大乗 [1975] p.51

*2 Garencieres [1672]

*3 Laver [1952] p.188, Cheetham [1973], Fontbrune {1980}[1982], Hogue (1997)[1999]

*4 高木『ノストラダムス大予言の秘密』角川文庫版、pp.126-127

*5 加治木『人類最終戦争・第三次欧州大戦』p.222

*6 Schlosser p.46

*7 Brind’Amour [1996]

*8 高田・伊藤 [1999]

*9 Lemesurier [2003b], Lemesurier [2010]