SS 影の帝国

 『 SS 影の帝国 』は Tycoon SAITO の著書。全2巻で2011年に創樹社美術出版から刊行された。ノストラダムスの予言に触発されて書かれたという小説である。1巻のサブタイトルは PASSO ROMANO、2巻のサブタイトルはABALON である。
 カバーに「CANON (正典)」 「Japanese Edition (日本語版)」 と書かれているが、他言語から翻訳されたものではないだろう。


【画像】第1巻のカバー

内容

 アンティーク・ディーラーの林祥太郎は、骨董市で偶然知り合った男性からレンブラントの絵画の売却について相談を受ける。その絵画についての調査の中で大規模な贋作行為を知った祥太郎は、ナチスの残党、731部隊の流れを汲む製薬会社、マフィア、ユーロポール(欧州刑事警察機構)、香港の地下経済の大物などが複雑に入り乱れた国際的陰謀に関わっていくことになる。

著者

 著者 Tycoon SAITO については、著書の奥付などにも記載がなく、詳細は不明である。アンティーク関連で目利きになるためのアドバイス *1 、お宝鑑定番組の出演者への批判 *2 、現在のアンティーク業界への苦言 *3 などが半ば唐突に地の文に織り込まれており、ほかにもアンティーク関連の薀蓄が随所に散りばめられていることからすると、アンティーク業界の関係者の可能性が考えられる。

ノストラダムス関連

 1、2巻に共通する前書き「この作品を読む価値がある方」には、百詩篇第2巻78番をアメリカのオバマ政権と結びつける解釈が掲載され、それらの詩の解釈を土台に「フィクションを重ね」たものであると説明されている。

 作中では主人公の祥太郎はノストラダムス予言の解読を趣味で行っていることになっており、ところどころでその解釈結果が示される。登場人物の何人かもノストラダムスの予言については好意的で、未来の指針になるものとして議論されることがある。

コメント

 著者はおそらく本職の小説家ではないだろう。細かな誤字の多さなどに目をつぶるとしても、全体としてぎこちない印象をぬぐえない。例えば、多用されている会話文では口調が十分に統一されておらず、恋人同士が砕けた口調で話したかと思えば、次の場面では他人行儀な話し方をするなどの不自然さも見られる。
 なお、サービス精神が旺盛なのかもしれないが、アンティーク以外の薀蓄も地の文に多く挿入されている。著者と興味を共有できる読者にとってはありがたい配慮かもしれないが、場面によっては話の流れを中断させている感がある。

 アンティーク関連の薀蓄がどの程度正しいのかは当「大事典」の守備範囲外であり、適切な判断が難しいので保留とする。

 ただ、少なくともノストラダムス予言に関する設定については、客観的事実との不整合を指摘できる。
 その最たるものは、予言集の初版本がパリとロンドンに1部ずつしか残されていないという主張である。これは、とある歴史上の人物の行動と結びつける形で本編に登場し *4 、断片的に複数回語られているが *5 、もちろん事実ではない。明らかに五島勉が『ノストラダムスの大予言』で語った話を土台にしているが、虚偽と分からずに使ってしまったのか、それを百も承知の上でフィクションに取り込んだのかはよく分からない。

書誌

書名
SS 影の帝国
副題
(I)PASSO ROMANO, (II)ABALON
著者
Tycoon SAITO
版元
創樹社美術出版
出版日
(I) 2011年4月1日、(II) 2011年6月2日
注記

外国人研究者向けの暫定的な仏語訳書誌(Bibliographie provisoire)

Titre
SS Kage no Teikoku / SS SHADOW EMPIRE
Sous-titre
(I)PASSO ROMANO, (II)ABALON
Auteur
Tycoon SAITO
Publication
SOUJU-sha Art Publishing Ltd.
Lieu
Tokyo, Japon
Date
(I) le 1 er avril 2011 (II) le 2 juin 2011
Note
2 vols. roman.


【画像】第2巻のカバー



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