百詩篇第2巻17番

原文

Le camp 1 du temple 2 de la vierge 3 vestale 4 ,
Non esloigné 5 d'Ethne 6 & monts 7 Pyrenées:
Le grand conduict est caché 8 dens 9 la male 10
North. 11 getés 12 fluues 13 & vignes 14 mastinées 15 .

異文

(1) camp : champ 1600 1610 1627 1644 1650Ri 1650Le 1653 1665 1668 1716, Camp 1672
(2) temple : Temple 1672
(3) vierge : Vierge 1672 1716
(4) vestale : Vestale 1672
(5) esloigné : eslongné 1588-89 1589PV, eslogné 1627
(6) d'Ethne : d'Ethene 1605 1611 1628 1649Xa 1649Ca 1650Le 1668A 1672, d'Etne 1653 1665, d'Athene 1668P
(7) monts : de monts 1590Ro, Monts 1672
(8) caché : chassé 1605 1628 1649Xa 1672
(9) dens 1555 1557U 1840 : dans T.A.Eds.
(10) male : Male 1672
(11) North. 1555 1589Me 1840 : North 1557U 1557B 1568 1588Rf 1589Rg 1590Ro 1597 1600 1605 1610 1611 1627 1628 1649Xa 1672 1716 1772Ri 1981EB, North, 1589PV 1649Ca 1650Le 1668, Noth 1644 1650Ri 1653 1665
(12) getés 1555 1557U 1568A 1568B 1840 : gettés 1557B 1590Ro, getez 1568C 1568I 1589PV 1605 1611 1628 1649Xa 1649Ca 1650Le 1668 1772Ri 1981EB, iettez 1588-89, gettez 1597 1600 1610 1627 1644 1650Ri 1653 1665 1672 1716
(13) fluues 1555 1557U : fleuues T.A.Eds. (sauf : Fleuves 1672)
(14) vignes : Vignes 1672
(15) mastinées : mastines 1568A 1590Ro, mistinees 1588-89

校訂


 4行目の gettés ないし jettés について、ブランダムールは gelés の誤植と見なしている。ピーター・ラメジャラージャン=ポール・クレベールブリューノ・プテ=ジラールらが支持している。
 なお、4行目冒頭の North は初版では直後にポワン(ピリオド)が付いているが、ブランダムールの校訂では削除されている。

日本語訳

ウェスタに仕える乙女の神殿がある平原は
エルヌからもピレネーの山々からも遠くない。
偉大な導き手は郵便馬車に隠される。
北では河川と交配種のブドウが凍る。

訳について

 1行目の vestale は名詞であって、それ自体がウェスタリス(ウェスタに仕える巫女) を指す。ただし、この場合は vierge (乙女) を形容していると見なし、「ウェスタリスの乙女」というような贅語法的な訳にはしなかった。
 2行目は前述の校訂の結果に従った。4行目も gettés については gelés とする校訂に従ったが、North を「北では」としたのはブランダムールによる前置詞の補い方に従ったものである。ラメジャラーは「北風によって」と読んでおり、これはこれで説得的ではある。

 既存の訳についてコメントしておく。
 大乗訳は、問題が多い。
 1行目「ベスタ神に仕えたおとめのいる寺の陣は」 *2 は直訳だとそうも訳せるが、意味不明である。camp は確かに「陣営」の意味だが、この場合はラテン語 campus から生まれた champ と同じ意味で使われているという点は、ブランダムールやラメジャラーが一致している。
 3行目「大きな路が壁に敷かれ」は、元になったヘンリー・C・ロバーツの直訳だが、これまた意味不明である。conduitを名詞に捉えるか形容詞に捉えるかは実証的な論者の間でも揺れがあるが、これを「導管」の意味に訳すあまり論者はいない。male (malle) を「壁」とする根拠も不明である。
 4行目「川は北に流れ ぶどうの木はだめになるだろう」も、前半は意訳の範囲として分からないこともないが、mastinées (交配の、交雑種の) が「だめになる」と訳される理由が不明である。

 山根訳について。
 3行目「導かれた大いなる人物は旅行鞄に身をかくす」 *3 は、conduitを形容詞的に捉えればそうも訳せる。malle は旅行カバンの意味にも郵便馬車の意味にも理解できるが、当「大事典」はブランダムールの釈義を踏まえて郵便馬車の意味を取った。
 4行目「北の方 川は氾濫しブドウ林は荒される」は、mastinées の処理のされ方が分かりづらい。

信奉者側の見解

 一部の例外を除けば基本的に全訳本の類でしか解釈されず、また全訳本の類でもろくに解釈されてこなかった詩である。

 テオフィル・ド・ガランシエールは詩句に誤りが多くあるようだとする一方で、その修正が困難なので「賢明な読者」に任せるとして、解釈を事実上放棄した。

 アンリ・トルネ=シャヴィニーは1846年にフランスのラ・サレットで聖母の幻像が現れて未来を告げたとされることを引き合いに出し、当時のフランスについてと解釈した *4

 ヘンリー・C・ロバーツは古代にウェスタ神殿があったティヴォリに大きな道が開通し、そこで洪水が起こることの予言とした *5

 セルジュ・ユタンエリカ・チータムは事実上解釈を放棄していた *6 。なお、チータムの日本語版では4行目の North が英語であることになにか意味があるかもしれないとしていたが、原書では英語の使用が珍しいとされているだけである。

同時代的な視点

 ピレネーは言うまでもなくスペインとフランスの国境に位置する山脈で、エルヌはピレネー=オリアンタルにある町で、12世紀に建てられた修道院とロマネスク様式の大聖堂が残っている。
 ピエール・ブランダムールは具体的なモデルを指摘していないが、1行目の「ウェスタに仕える乙女」は神にその身を捧げている敬虔な女性すなわち修道女の隠喩で、その「神殿」は修道院のことであろうとした。

 ピーター・ラメジャラーは、3行目の描写についてのみ、プルタルコスの『対比列伝』(英雄伝) で、マリウスの逃亡の際に豆の積まれた荷車に隠されたことがモデルになっているのではないかとした *7

 ジャン=ポール・クレベールは2行目の Ethne をシチリア島のエトナ山と解釈し、ある重要人物がシチリアとピレネーの間を箱に隠されて運ばれることを描いているとした。ただし、具体的なモデルは指摘していない *8


名前:
コメント: