詩百篇第9巻52番


原文

La paix1 s'approche2 d' vn costé3, & la guerre
Oncques4 ne feut5 la poursuitte6 si grande,
Plaindre7 homme, femme8, sang innocent9 par terre10
Et ce11 sera de12 France à13 toute bande.

異文

(1) paix : pais 1606PR 1716PR(a c)
(2) s'approche : sapproche 1568X 1672Ga
(3) d' vn costé, & la guerre : & guerre, d' vn costé & d'autre 1572Cr
(4) Oncques : Oncque 1653AB 1720To, Onc 1665Ba 1840
(5) feut 1568X 1568A : fut T.A.Eds.
(6) poursuitte : porsuite 1720To
(7) Plaindre : Plain le 1628dR
(8) homme, femme : homme & femmene 1672Ga
(9) innocent : innoeent 1668P, Innocent 1672Ga
(10) terre : tërre 1650Le, Terre 1672Ga
(11) ce : se 1590Ro
(12) de : la 1650Mo
(13) à : a 1607PR

日本語訳

平和が一方から近づくが、(もう一方から)戦争が。
これほどまでに付きまとわれたことはかつてなかった。
男性も女性も嘆き、無垢なる血が大地に。
それはフランスのどんな集団にも。

訳について

 既存の訳についてコメントしておく。
 大乗訳について。
 1行目「平和が近づくが 戦いのある場所では」*1は d' vn costé (一方からは) が訳に反映されていない。ピーター・ラメジャラージャン=ポール・クレベールが「他方で、もう一方で」を補って読んでいるように、平和と戦争がそれぞれ近づいていることが示されている。
 2行目「けっして遂行されず」は誤訳。poursuitte には「遂行される」という意味もあるが、la も si grande も訳に反映されていない。
 3行目「人と婦人は悲しみ 不浄な血が流され」も誤訳。homme は英語の man と同じく「人」の意味と「男性」の意味がある。クレベールらが指摘するようにここでは後者の意味で使われており、女性と対比されている。また、innocent は「汚れのない」の意味なので「不浄」では意味が反対である。
 4行目「フランスのどこもかしこも」は意訳としては許容範囲かもしれないが、bande は場所ではなく集団を示している。

 山根訳について。
 2行目「かつてこれほどまで熱心に それを追い求めたことはない」*2は誤訳。2行目は受動態であり、人々がそれ (la) を追い求めるとは訳せない。
 4行目「これがフランス全土におよぶだろう」の問題点は大乗訳の指摘と同じ。

信奉者側の見解

 1656年の解釈書では、1559年のカトー=カンブレジの講和条約などによって平和が近づいた一方で、その時点で1562年に始まる凄惨なユグノー戦争が近づいていたことと解釈された*3。この解釈はテオフィル・ド・ガランシエールバルタザール・ギノーアナトール・ル・ペルチエチャールズ・ウォードエリカ・チータムも踏襲した*4

 アンドレ・ラモンセルジュ・ユタンは第二次世界大戦中のフランスと解釈した*5

同時代的な視点

 ピーター・ラメジャラーは当時の宗教戦争の情景と解釈している*6
 実際のところ、1656年の解釈書で展開されていた解釈は詩の情景に十分適合している。1558年版『予言集』が実在したとすればこの解釈は採れないが、実在しなかったとすれば1560年前後の情勢をもとに書かれたと理解するのが自然ではないだろうか。


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詩百篇第9巻
最終更新:2020年03月06日 11:31

*1 大乗 [1975] p.271。以下、この詩の引用は同じページから。

*2 山根 [1988] p.300。以下、この詩の引用は同じページから。

*3 Eclaircissement..., pp.140-141, 378-380

*4 Garencieres [1672], Guynaud [1712] pp.103-105, Le Pelletier [1867a] p.71, Ward [1891] pp.90-91, Cheetham [1973]

*5 Lamont [1943] p.220, Hutin [1978/2002]

*6 Lemesurier [2003b], Lemesurier [2010]